一騎当千
ミーティアラ王国兵全員が固まっている。
銀色の全身鎧を見て、恐怖や畏怖と言った感情が最初に湧き上がる。
現に地面に転がる魔導銃を拾い上げて、銀色の全身鎧に向ける者もいた。だが、ガタガタと体が震えていて、照準は定まらない。
「皆の者、彼は味方です!」
リリーア・ニルス・ミーティアラの声が響く。
その声に驚き、一人の兵士が引き金を引いた。だが、弾丸は銀色の全身鎧に当たりはしなかった。
タクローが次の標的の元へ急行する為、エアロダッシュを行う。
刹那、ミーティアラ王国兵が撃った銃弾が自分の居た所へと放たれたが、タクローは気にも止める事は無かった。
シンジはタクローの名を呼んだ後、多くのアレクシア帝国兵に囲まれる形になる。
ミーナもまた、同様であった。
身の危険をヒリヒリと感じて、腹の底から恐怖心が湧き上がり、全身を支配していく。
シンジの周りには、倒れた数体の亜人達。
シンジを助ける為に、体を張ったにも関わらず、当の本人は恐怖から身動きが取れずに居た。
それは正に『犬死に』だ。
その事は、アレクシア帝国兵にも見て取れて、シンジに対して「腰抜け」や「腑抜け」と言い放つ。
頭脳派であるシンジは、ロジカルに物事を考える傾向にある。その為、とっさのトラブルに対応する事に遅れが生じてしまうのだ。
おまけに、それがこれまで体験した事の無い状況であれば、事尚更である。
自分の身に命の危険があった際は、必ず誰かが側でフォローしてくれた。
内戦やテロに巻き込まれた際も、必ず安全圏を渡り歩く程度でしか無かったのだ。「自分は修羅場を潜ってきた」と言うが、ソレはあくまでも、『日本人として』、である。
おかげで、絶対的なピンチの状況に陥った現状に、対応する為の知識を持たなかった。それ故に、思考がパニック状態に陥っていたのだ。
ドオォンと大きな音と共に一台の戦車が、まるで風に舞う紙細工の如く吹き飛んだ。
シンジの待ち人が、遂にその姿を現したのだった。
アレクシア帝国軍第二機甲師団、師団長ハービル・オレイン大佐が懐中時計を見つめる。
「後、少しか……」
報告を聞くのにウンザリしていたハービルは、作戦終了時間を王都ウンディエネ東門に停車させた指揮専用魔導車で、退屈そうに待っていた。
「大佐! 戦車が数台沈黙したとの報告が!」
副官の言葉に、ハービルは目が飛び出そうに成る程の驚きを見せる。
「どういう事だ!?」
「詳しい事は解りません。ただ、戦車が数台行動を停止『させられた』との報告と――――」
副官が装着している、魔導通信用ヘッドセットに新たな情報がもたらされる。
「歩兵隊、二千近くが行動不能になってます!!」
ハービルは「はぁ!?」と大きな声を上げた。
タクローは広い王都東地区を飛び回る。
MPは、フェアリーストーンを手に入れた事により、湯水の如く湧き上がる様に感じられた。
これ幸いと、縦横無尽に動き回る。
『一騎当千』とは正にこの事と言わんばかりに、一方的な戦闘をアチコチで展開させた。
これまでアレクシア帝国が一万近くの兵で行って来た事が、逆転する形になった。
アレクシア帝国軍第二機甲師団は、たった一人に翻弄されるのだ。
「くそぅ! 指定時刻より、やや早いが、奥まで行った連中を戻せ! 撤退だ!」
ハービルの大きな声が、指揮車内に響く。
魔導戦車は、特殊な機構が盛り沢山な為に、一台だけでも大変高価な代物であった。それは、一般高級魔導車よりも数倍もするのだ。
それを失うまいと、撤退の指示を出す。
おまけに、これからウラジスへ攻撃を仕掛けねばならないのだ。歩兵もまた、いたずらに失う事に対しても危機感を感じていたのだ。
だが、彼は知らない。状況を完璧にひっくり返したのが、たった一人の存在であることは。
それを知ることに成ったのは、ウラジス攻略に向かう道中であった。




