降り立つ銀鎧
エルフの集落を後にしたタクロー達は、ウッドランドで二泊して、王都への帰路につく。
晴天の下、心地よい風を感じながら、二台の魔導車が進む。
王都付近に近づくに連れ、空の雲行きが怪しくなって行くのを見ながら、王都を目指した。
セルヴィナの言葉で、一行は王都を見渡せる場所へ寄り道する事になる。あいにくの曇り空ではあったが、『水の都』と呼ばれる王都の美しさをタクローやヒカルに見てもらおうと考えた為だ。
王都から北西に位置する、山に登る。
標高はさほど高くはない。だが、王都を見下ろすには適した高さを有している。
魔導車が通れる道が、キチンと整備されている。これはちゃんとした観光の為の道だとタクローは悟った。
頂上付近に有る見晴台まで来ると、タクロー達は王都から上がる煙を見た。
「なんだ? 火事か?」
魔導車から降りたタクロー達。
タクローは目を細めて、王都を見つめる。そこには、もはや絶景を楽しむ気持ちはない。
「トリス?」
アリーシャは、トリスに何らかの『ニオイ』を嗅ぎ取っていないかと、トリスを見る。
「よく解からん……」
遠く離れた場所の事は、トリスの鼻では嗅ぎ取れなかった。
「東地区の方からか……」
セルヴィナもまた、目を細めて遠くを見つめた。
「気になるな……。トリス、鎧を出してくれ」
タクローの指示に、「あいよ」と応えると、トリスはもはや慣れた手付きでミスティック・アーマー・ナイトの収められた棺を魔導車から取り出す。
全身鎧を装着したタクローは、兜に内蔵されている機能から、分析の魔法を起動する。次いで『ズーム』の特性付与魔法を使って、見る位置を限定的に映し出す。
「よく見れば、煙が何本も……。ああ!!?」
タクローが大きな声を上げると、その場に居る全員が驚いて、タクローを見る。
「主様、どうされましたか?」
皆を代表して、セルヴィナが声を掛ける。
「なんだ……ありゃ……。せ、戦車!?」
『戦車』と言う言葉を、この世界の住人達は理解出来ない。しかし、ヒカルだけはソレを理解した。
「戦車? どういう事?」
「わかんねぇよ……。でも、戦車が……ええと……」
タクローは視線を巡らせ、王都東地区を重点的に見る。確認できるだけで、戦車は十台以上。
都市の被害状況も、見て取れた。
「なんだよ……、これ? 軍隊が攻めてきた?」
タクローの言葉に、セルヴィナは背中に冷たいモノを感じた。
「主様、どういう事ですか!?」
詰め寄ろうしたセルヴィナに対して、ソレを悟っていたかの様にタクローは手を出して制する。
「ヤバイだろ、アレ……」
タクローが見た光景は、都市の住民や王都の兵士達が殺される姿だ。
正確には、殺されているかは定かではない。だが、迫る者と倒れる者の光景を見れば、そう感じずにはいられない。
ファストの町での光景が、タクローの脳裏をよぎる。
「行って確かめる。皆は、後から来い。俺は先に行く!」
そう言ってタクローは、ミスティック・アーマー・ナイトに最大限のマナをチャージする。
チャージが完了すると、エアロダッシュを最大限の出力で使用した。
ミスティック・アーマー・ナイトが宙を舞う。
それはまるで砲弾の如く。
王都上空近くまで来た時、タクローの体は放物線の頂点を迎える。後はゆっくりと降下していくだけだ。
降下地点は都市の最東端を予定していた。
何気に眼下の都市を見た時、驚く光景を見る。
魔法だろうか?
いくつもの光と爆発が見える。
王都中央である王城付近では、いくつもの人が倒れているのも見えた。
分析の機能を使って、その光景を注視した時、タクローは降下ポイントを変えるべく、エアロダッシュを使う。
なだらかな降下体勢から、垂直降下へと変更した。
かなり高い位置となる場所からの降下では、それなりに時間を要する。
眼下の光景は、刻一刻と様変わりしている。
魔法で攻撃するのは、ミーティアラ王国の兵だとわかる。
相対する存在は、長い杖状の物を構えて光と煙を発している。
(銃か! ?まさか……!?)
タクローは、ファストの町の光景が鮮明に思い出された。
(アレクシア帝国が攻めてきたとか、言うんじゃないだろうな!!?)
『NITブースト』のおかげからか、見える光景から一気に事態を推理していく。
地面との距離が近づくに連れ、タクローは銃らしき……いや、銃その物で攻撃する者達が何者であるか、把握できた。
ファストの町の事は、今でも夢に見る。
ソレほどまでに、タクローには衝撃的な事件だったのだ。
そして、ソコで何度も思い起こされる、一つのエンブレム。それこそが、『アレクシア帝国』を表すエンブレムであったのだ。
(くそぅ、最悪だ……、最悪過ぎる。おまけに、戦車かよ……。皆、無事でいろよ!)
仲間や、知り合った者達の安否を気遣い、タクローが空から地上に降り立つ。
着地の寸前に、エアロブラストを使い、着地の衝撃を殺す。
しかし、そのおかげで土煙が舞い上がる。
だがタクローには関係無い。ミスティック・アーマー・ナイトには、土煙などでは視界を遮る事が出来ないのだ。
分析の魔法が、目と成る魔導水晶に展開し続けている。
HUDに表示される情報から、誰が敵であるか、楽に認識出来た。
体力が十分であるミーティアラ兵の数は、圧倒的に少ない。
絶望的とも言える状況だ。
瞬時に、そして的確に、今必要な魔法を選択すると、タクローはそれを展開する。
「アイスランス、マルチ、ホーミング」
それは、かつてファストの町で最後に使った魔法だ。
だが、今回のターゲットはあの時の比ではない。圧倒的な数を、ターゲッティングするが、今のミスティック・アーマー・ナイトにとっては、全くもって苦にはならず、タクローのMPは依然として高い状態をキープしていた。
発動の命令を下すと、無数に展開される魔法陣から、氷の槍が縦横無尽に飛び出して、アレクシア帝国兵達を襲う。
次々と倒れるアレクシア帝国兵であったが、戦車には一切のダメージは無かった。
タクローは、顔を覆う兜の下で一息吐いて、次の魔法を発動する。
「ライトニング、追加、バースト、ヒュージ」
中位魔法で、ミスティック・アーマー・ナイトが使える魔法の一つである『ライトニング』。
これは、精霊石がフェアリーストーンに変化した際に、使用できるようになった、火と風の合成魔法。
四大属性である、火、水、土、風の魔石を2つまで同時起動することで、新たに4つの魔法が使えるようになったのだ。
その一つが、『電撃』である。そして、その魔法こそが『ライトニング』なのだ。
だが、これはゲーム時代では、敵単体を攻撃するものだ。現在でもそうだった。
タクローは一台の戦車を狙う。
そして、発動させた。
先に行使した魔法、『アイスランス』の氷が砕け戦車の周りに散らばり、氷が解ける。
マルチ(複数)で攻撃している為、氷の破片はおびただしい量になる。また、攻撃を受けた歩兵集団が、血を流して倒れている為、更に大量の『水分』が地面に流れている。
電撃は、水や血の上を走り、戦車3台を一気に襲う。
こうして、戦車が一気に沈黙したのだった。




