第18話「空、再び。落下、再び。白亜神族の園より」
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・法衣貴族区画>>
月でのやりとりから数日のこと。サドラス邸の会議室にて、
とりあえず攻略組に預けたままだと
後味がクソ悪そうな展開になりそうだったし本人の無言の懇願もあってか、
仕方なく月から連れ帰ってきたシドナイの立ち位置が決まる。
『彼女』は様々な意見が交わされた結果、スイゲツの部屋に
部屋主の意見さえ無視した軟禁っぽい処遇である。
「ど、どどどどうして僕の部屋なんですかッ?! レベル的には僕は彼女以下ですよ?!」
「素のSTR的にシドナイを万が一の状況で押さえられるのは
俺、カナン、お前しかいないせいだろう。
実際俺がパーティ登録をしたので本来は俺が預かるべきなのだろうが、
この黒天使が性別:女と出てしまってはな…」
「わ、悪かったな…オレが女で」
申し訳なさそうにサドラスを見つめてくるシドナイ。
だが、見つめられたサドラスは先日シドナイを連れ帰った時に
色々あって大連続集団殴打された後頭部を無意識にさすった。
流石にシドナイへの直揉み確認は冗談では済まないので当然の結果だ。
「先輩最近僕のこと男だと思って無い節がありませんか?!」
「まぁスイちゃんとボクの純粋な近接戦闘能力を鑑みての結果だからね…
っていうか本当にスイちゃん男なの…? ボクいまだに信じられないんだけど」
「な…! そ、ソコまで言うんだったら今ココでヲトコの証明を…!」
真っ赤な顔になってズボンのベルトに手をかけようとするスイゲツに
残像を出しながら急接近して目つぶしチョップをブチ込んだサドラス。
「あ゛っーーーーーー! 目がー!? 目がぁーーー?!」
「安易なフラグを立てるな」
「安易って…ちょ、スイゲツさんの生命力が普通に4割くらい
サクッと削れちゃってますよサドラスさん?!」
「おおう。普通に出血しておるのぅ…地味にすんごく痛いと思うぞ」
「ん…ゲツくん。実は素のDEFが私と大差ないからしょうがないと思う」
目を押えながら地面を転げ回るスイゲツに一言だけ声を掛けて、
ロティ達の突っ込み含め何事もなかったかのように席に戻ったサドラス。
「本当にお前は自分のやらんとしていることの斜め上先に行くのだな…」
何気に目から出血が止まらなかったスイゲツに完全生命薬を渡すのは
PCメンバーの(一応)頭脳派KATUMIだ。
「で、大空悪竜の宇宙船仕様はどうにかなったのか?」
「他のメンツが居ないことで察してほしいのだ…珍しく厳蔵も
遊ばずにやる気出してるのだが…最後の打ち上げ費用がリアル世界のロケット発射以上に
ウルトラコスト高なのはどうにもならんのだ! ヨタ単位とか常軌を逸しているのだ!
ゆえに誰も融資なんてありえない! なのにお前の借金の利子は
地味に嵩むしもうどうしていいのかゴホっゴフッ…!」
「あ、お茶のお代わりどうぞ」
「Danke…忝いのだ」
何気に空になっていたKATUMIのティーカップにお茶を注ぐロティ。
落胆の色が多少和らいだ表情でありがたくお代わりを頂戴するKATUMI。
「で、大きな成果も無ければ、つまらない愚痴話をしに来たわけでもないんだろう?」
アツアツのお茶を一気飲みしたかと思うと
ティーカップを強くテーブルに置いたKATUMI。
「話というのは他でもない。
お前の力で天空要塞アールヴヘイムヘ飛んでほしいのだ!」
「………あぁ?」
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:帝国・旧魔領境>>
KATUMIの話によれば、この辺りがルーンテール帝国領内で
上空にアールヴヘイムが通過する地帯なのだとか。
「あの時は…レベル5000突破記念だったな」
瞼を閉じてサドラスは思い出す…。
デスゲームを勃発させたサイバーテロリスト【電界皇】に占拠された
グランドクエスト専用空中要塞ダンジョン『天空要塞アールヴヘイム』に
自分自身のステータスとスキルで到達できるのかを
レベル5000突破記念にやってみたときは、正直生きた心がしなかった。
レベル1000を超えた飛行術スキルとバーニアと同じような扱いができる
戦闘スキルも駆使して、おそらくGrTrAdにおける成層圏と思われるところに浮遊する
巨大な空中要塞の外壁あと数百メートル手前で…全エネルギーのガス欠を引き起こし
それに伴うVRならではのリアルな超ハイスピード自由落下で
地面に激突しほぼ四肢断絶に陥って死に掛けたあの日を…
「…………あれは、圧倒的にエリクシルの質が低かったのが原因だな」
そう言いながらギラギラ輝く極彩色の液体が入った
『奇跡のエリクシル』(グレード評価:究極級)を握りしめるサドラス。
「それだけじゃないような気がするのだが…まぁいいのだ」
前回のタイムスリップ事件みたいなことにならないよう、
今回は全身を覆うようなバリアタイプの障壁スキルは極力使わないプランで
今度は真横ではなくGrTrAd惑星の自転に従って理論上は斜め上だが
人間からしてみればほぼ真上に飛ぶという正直サドラス級のバケモノでもなければ
無理そうな計画を行うことになったのは理由だけならば大した理由じゃない。
「とにかくアールヴヘイム内のできるだけ広い空間を占領し、
そこに転移用ポータルをセットする…それだけでいいんだな?」
「今やあそこには電界皇もいないのだ。転移阻害はデスゲーム時代ラスバト中に
なんだかんだで解除しているから、お前さえアールヴヘイムに到達して
ポータルをセットできれば後は自分達でどうにかするだけなのである。
聞けば結果は散々だったがレベル5000で外壁数百メートル手前まで到達したとか…
ならば自分らのサポートがあれば今度こそ成せる筈なのだが…」
そこでやはり心配そうな表情を見せるKATUMI。
そんなKATUMIの様子なんて知ったこっちゃねぇとばかりに
首をコキコキ鳴らすサドラス。
「とにかくお前にとってぶっつけ本番なのはこの際気にするな。
俺にとってはナイスリターンマッチなんだからな」
「前回失敗して死に掛けたデータだけでは間違いなく不安が残るのだが…」
と、KATUMIが心配そうにサドラスを見ようと思ったとき、
KATUMIは砂塵と爆風と衝撃波に吹っ飛ばされる。
前回のありえない水平飛行を凌駕するありえない急上昇を
サドラスは前回とほぼ同じ但し全身バリアではないスキルとのコンボでやってのけた。
サドラスの立っていた所は地殻変動が起きたとしか言いようのない跡が残る。
「もし、また同じことが起きたら…タイムパラドックスとか起こるのだろうか?」
KATUMIは空中に消えていく紫の光を見ながら、そんなことを口にした。
<<フィールド:大雲海 現在地:帝国/旧魔領境・超高々度上空>>
自分一人で行った急上昇スキルコンボに加え、KATUMIのセットした
超高速移動スキル重ね掛けでバリアスキルは正面のみの展開なので、
肉体が相当に恐ろしい状態に晒されている筈だが、
サドラスには少し顔を顰める程度のようだ。
「やはりゲームタイトルに反した単独で挑むべきではないようだな」
サドラスはしみじみ感心していたら、あの時の屈辱を思い出させてくれる
『天空機動要塞アールヴヘイム』の外壁が目視できる距離まで近づいてきた。
「………しかし、電界皇とやらは結局戦えず仕舞いだったな…
奴のチートと俺のヤリコミ…デスゲーム中に雌雄を決してみたかったものだ…
どうせなら多少PK特化モンスター軍団を無視してヴィフレストから
普通に殴り込みでもしておけば良かったか…?」
このままだとバリア展開しているとはいえ顔面から外壁に突っ込むのだが
サドラスはそんなことはどこ吹く風といった風にあーでもないこーでもないと
終わったことに対するIFをぶつぶつ言っていたが、外壁数メートル手前で
まるで急停止したかのごとくサドラスの動きが停止した。
「……?!」
サドラスは凍りついたが如く固まった体を半ば無理矢理に動かし、
口を痙攣させながら詳細ステータスを展開し確認する。
「(束縛9990『絶対神如封印』…?! 何だこの異常なレベルは…!!?)」
異常なレベルに関してはお互い様だろうが、とにかくサドラスは
前回のガス欠墜落よりもヤバい状態で仰向けに落下を始めた
自身の状態をどうにかすべく思いつく限りの解除スキルを行使した。
…。
そろそろ自分の体が大気との摩擦で燃え始めそうなころに
ようやくサドラスは体の自由を取り戻す。
とりあえず背中がチリチリし始めてきたので、サドラスは浮上のために
飛行術を発動させようとしたのだが。
「……ッ!?
グ…ッ?!
ガッ…!?
オウフッ!?」
まさに無防備なサドラスは背面部に連続で何かがぶつかる衝撃を感じ、
脊髄にまで衝撃が伝わったかと思いきや水中と思われるところに仰向けのまま突っ込み、
叩きつけられた際の超絶大ダメージでそのまま意識を手放した。
<<フィールド:白亜神天上宮 現在地:左天セクト・神左席白亜院・大講堂>>
そこは地上に住む者は誰一人として存在を知らぬであろう、
白き亜神族達の楽園。空中浮遊する巨大なドーム四基から構成される
白亜神天上宮。外界を知らない亜神族の中でも
更に飛び抜けて外を知らない白亜神族達の居住区。
目視すら適わぬ地上の出来事など、彼らは知る由もなく彼らは彼らの独自の文化圏で
数百年間大きな変化もなく平和な営みを謳歌していた。
今日も左天セクト内では唯一の小中高大一気通貫制学校「神左席白亜院」では、
ぶっちゃけ髭とか体の凹凸の差がなかったら男女の区別が人間には困難であろう、
誰もかれもが見目麗しい中性的な印象のエルフの中で教師と思われる人物が、
やはり誰もかれも見目麗しい中性的な印象のエルフの生徒たちに教鞭を執っていた。
「かつて地上には天上の神々の世界より人の身を超えた者たちが現れ、
やがて『天地聖魔大戦』と言伝された大いなる大戦が起こる―――」
エルフでも歴史の授業は地上の学校のように未知なる催眠術にかかるのか、
見目麗しき生徒たちの数人は船を漕いでいた。しかし教師はそのまま熱く
歴史を語る。何せ収容人数が一般的な学院の比ではないレベルだ。
いちいち船を漕いでいる連中に関わっていては授業にならないのだろう。
「……はぁ」
見目麗しきエルフたちの体格は基本的に男性はしなやかだが刃のような
ああもう面倒くせぇ細マッチョな体型で、女性はさながら日本人がイメージする
典型的スラブ系の美人のいいところをこれでもかとミックスしまくった
程よい身長だが出るところは慎みを以て出ているモデル体型だ。
そんなエルフの基本身体情報に全面戦争を仕掛けているんじゃないかと言いたくなる
ロケットおppゲフンゲフン…はち切れんばかりの大いなる双丘をその胸に携え
物憂げにため息をつきながら教師の話に耳を傾けるエルフの女がいた。
言うに及ばずエルフは長寿種なので外見年齢では判断できない。
ゆえに女と表したのは悪しからず。
「どうしたの? ルコ? あ…もしかしてやっぱりあの”天上人”が気になるの?」
「え…!? いいぇ…! そ、そんなこと…!」
「ルコ・アドミニスト君。”天上人”が気になるのは貴女だけではないのです。
私だって早く授業を終わらせて見に行きたいのですからね?」
………ルコと呼ばれた爆nyゲフンゲフン…大双丘を胸に携えし女に
注意した歴史の教師も、どうやら女性のようだ。
そう簡単に見分けつかねーんだよエルフの性別なんて…!
<<フィールド:白亜神天上宮 現在地:左天セクト・神左席白亜院・保養室>>
窓から夕陽らしき陽光が差し込んでいる。
格好つけて表示されているが此処は所謂保健室だ。
しかしベッドと言い室内の様相と言い、ここはどこのオサレカフェですかと
言いたくなるような豪奢な意匠だ。
「………ここは…どこだ? 俺は………いや、知ってる」
天蓋つきの超フッカフカなベッドで目を覚ましたのは
全身紫づくめの兵装の我らがサドラス。しかしサドラスはMAPを展開しつつも
先ほどから周りを見回し、MAPを交互に見やっては首をかしげるばかりだ。
とりあえずベッドに寝かされているので投獄云々ではないと判断して
まったりふかふか布団に埋まりながら周囲を索敵だけはしていた。
「……白亜神天上宮…か。フィールドそのものに名を冠しているということは…」
ほかにも何やらぶつぶつ呟いては首を横に振ったり縦に振ったりと
どうやらサドラスも多少は混乱をしているようだが、
前回のような記憶喪失ではないらしい。
「………失礼しまーす…」
「…………あぁ…? ……………なぬッ?!」
そっと引き戸を開けて(サドラスにはバレバレだが)保健室に入ってきた
見目麗しいエルフの女のある一点にサドラスは視線が釘付けになる。
一目見ただけでエルフだとわかるのは長耳やサドラスの鑑定スキルをはじめとした
スキャン能力云々だがそれゆえにそのエルフの女の
ものすごい自己主張激しい大双丘いや霊峰たる胸が
サドラスの脳内エルフ知識に尋常ではないエラーを引き起こす。
「その胸は…ホンモノ…なのか…?」
「ひゅひゃひっ?!」
サドラスに不意に声を掛けられて驚く
そりゃもう半端じゃねえ二大霊峰を胸に携えたエルフ女の頭上の名前を
サドラスは一瞥したかと思ったらあらまあ二度見三度見。
「ルコ……アド…ミニスト…だと?! お前…リコの関係者か?!」
「え…? あの…私の大姉上をご存じなのですか?」
「な、に…バカな?! 遺伝子が反乱を起こしたとでもいうのか?!」
なんとなく何処かでリコがくしゃみと同時にサドラスにセンセーショナルすぎる暴言を
吐いたような気がするが、とりあえずさっきから目線がルコの一点を
ロックオンしっぱなしのサドラスは、恐るべきゲス野郎の本能を
冷徹なる理性でフルボッコして視線をルコの目線に合わせた。
「なあ、ルコ・アドミニスト…で、本当に良いんだよな?」
「あ、はい。間違いなく私はルコ・アドミニストです…。
ところであなたのお名前は?」
「俺は…ああ、俺はサドラス。いろいろあってお前の姉リコとは
天地聖魔大戦時代以前から殺し合いをしたことがある仲だ」
「はぁ殺し合い…ふぇえぇ?! 殺し合い!?」
「すまんすまん。今のは言葉のアヤだ。
正しくはスポーツチャンバラ友達みたいな関係だ」
実は本気で殺し合っていることが圧倒的に多いのだが、
過剰にゲスの輪を広げるのは本意ではないので自重して言い直すサドラス。
「そ、そうですか…びっくりしました」
「立て続けに驚かして悪かったな」
「いえ…それはいいんですけど」
ルコは先ほどからサドラスの視線が自分の目線と
胸元を半端じゃないレベルで往来する状況に苦笑している。
「あの…私の胸…そんなに変ですか?」
ルコは胸元への視線には慣れているが、
流石に連続でチラ見ガン見どっちなのかはっきりしろよ見への耐性は無い。
ゆえにサドラスにそう切り出したが、
「バカな…!? 何故そう思う?! お前は神々に感謝するべきだろう?!」
「えぇぇ?!」
超真剣な顔で返されて困惑の色を隠すことができなくなった。
「「「「「失礼します」」」」」
「!?」
「あら、みなさんもですか?」
そのまま微妙な雰囲気になるのかと思われたが、扉を開けてやってきた者たちの存在に
サドラスがギョッとしたのも無理はない。よく見れば細かいところが違うが
パッと見はほぼ同じ顔に見える白いエルフたちがわらわらと保健室に入ってきたのだ。
「この紫の方が"天上人"ですか!?」
「髪や目まで紫なのですね!」
「あの、もしかしてあなたは人族の男の方だったりします?!」
「ふわ…! "ハイランダー"の方たちよりも太い腕ですね…
…触ってもよろしいですか?」
「あっずるいですよ! 私にも触らせてくださいな!」
「ぬをぉ?!」
全く以て悪意も殺意もない純粋な好奇心からの接触には
デスゲーム時代から悪意と殺意に塗れて生きてきたゲス野郎にとって
あまりに脳内処理が追いつかない状況だった。しかしそこはゲス野郎。
戸惑いつつも内側ではゲスの本能や不浄王たちが
「うッひょお最高だぜヒャッハーァ!」と
見目麗しきエルフたちに触られまくることに色々と最低極まりない
スタンディングオベーションをしている。
「おぉぉおぉぉおぉお…?!」
エルフたちは手足を撫でまわしたりじっと観察してみたり耳を当ててみたりと
ここは何処のアキバ系ソ★プですかと言いたくなることをサドラスにしてくる。
ただ向けられる意識がエロ0%好奇心100%なので
あれこれもしかして「学校に迷い犬が来た」イベント的な感じじゃね?
とサドラスは必死に精神内のゲス王連合たちに言い聞かせる。
「はい、みなさん。そこまでにしてください」
パァンと大きな拍手一回でエルフたちはハッとする。
彼女? …彼ら? ともかくエルフたちが全員向いた方向には、
これまたサドラスをお触りしまくったエルフたちと大差のない見た目の
美人としか言いようがない眼鏡っ娘なエルフが立っていた。
周囲にはこれは流石に男だとわかる精悍な顔つきの
白銀の鎧を身にまとうエルフの美男子な兵士が数人いる。
「あら、先生コンタクトやめたんですか?」
「違うわよ。どう考えてもこちらの"紫衣の天上人"をしっかり見たいが為よ」
「先生ドライアイでしたものねえ」
等と口々に話すエルフたちに眼鏡エルフさんは張り付いた笑顔でピシャリと一言。
「お静かに。さもなくば明日の歴史の宿題は三倍ですよ?」
「「「ひいっ」」」
喋ってないけどサドラスも何となく黙ってみた。
「よろしい。ではお退きなさい」
サドラスをお触りしまくってたエルフたちの人垣を開け、
エルフの兵士たちを引き連れて眼鏡エルフさんはサドラスの前に歩いてくる。
「本来でしたら個人的に少しお話をしたかったのですが、
このような状況ですので、差し支えなければこのまま我々とご同行を願いたいのです」
サドラスは眼鏡エルフやエルフ兵のステータスをさりげなく見て答えた。
「あぁ、構わない。俺も闖入者の自覚はあるからな」
「ありがとうございます」
もうちょっとふかふかを楽しみたかったサドラスだったが、
丁寧に任意同行を求められたので今更日本人らしく応じたのである。
<<フィールド:白亜神天上宮 現在地:上天セクト・長老院>>
白亜神天上宮に住まうエルフはそのほとんどがLv300を超える超人級だ。
その中でも高ステータスを認められたものだけが立ち入ることを許されるという
上天セクトでもさらなる審査や試験を突破した"ハイランダー"と呼ばれる
平均1500レベルの猛者だけが出入りすることを許されているのが
神々の化身マネジアズたちに運営を任された「長老」たちの本拠地である
『長老院』なのだが、サドラスは本人のみ実はよく分かってない状況のまま
眼鏡エルフたちとここの門をくぐった。門番と思われる見た目だけではムカつくレベルで
超格好いい武装をしたエルフたちが、サドラスを見てはギョッとしている。
多分サドラスのステータスを看破できないのが理由だろう。
「妙な既視感を覚える…」
「面白いことを仰いますね、サドラス殿」
実際は妙どころか既視感バリバリだ。どう見ても長老院は日本の国会議事堂を
どこぞのカリスマデザイナー的な存在がスーパーオシャレ装飾したような作りなのだ。
ちなみに何故かサドラスに同行することになったリコはリコでド緊張している。
「落ち着いて私…大丈夫…アドミニスト家の娘は動じない…」
「………リコさん。そのまま歩いていると白磁の壺にぶつかりますよ」
「ひぃひゃっ?!」
リコは正面から転びそうになったが、サドラスが素早く支える。
ドサクサに紛れてソフトタッチしたが、本人さえ気づいていない。
これもまたゲスの極みの一つである。
「…世界は広いな」
「どうしたんですか急に」
「気にするな前をちゃんと見ろ今度は黄金の甲冑だぞ」
「ひゃあっ!?」
<<フィールド:白亜神天上宮 現在地:上天セクト・長老院・本堂>>
特にアレが何でドコが如何とかそういった話はなく、
眼鏡エルフさん一行はまっすぐ着いてくるようサドラスとリコを促すのみ。
サドラスはまぁ既視感ありまくりな内装なのでどうということはないかもしれないが、
さっきから隣でガッチガチな動きをするリコが少しウザく感じ始めていた。
まぁガッチガチな動きに相反する大双丘の揺れが楽しめてるので
色々とゲスなサドラスは文句一つ言わずに粛々と歩を進めるばかりだ。
やがて一番大きいと思われる扉を潜ったとき、サドラスはその奥の大部屋に
31人ほどの老獪そうなエルフたちが宙に浮く椅子…いやこの場合座った椅子ごと
浮いているのかもしれないが…とにかく座ったまま宙に浮いて
こちらを見下ろしているのを確認した。
「あちらにいらっしゃるのが我々の長老様たちです」
眼鏡エルフはそう一言喋って長老たちの方へ歩み寄り、こちらを向く。
一応エルフ兵たちはサドラスの周りを固め、リコは違う意味で固まっている。
「お前はあの眼鏡さんのところに行かなくていいのか」とサドラスは言いたかったのだが。
長老エルフたちの中で一番偉そうな爺さん…? いや婆さん…?
とにかく最長老っぽいエルフがサドラスの近くまで下りてくる。
「最長老! 危険ですぞ!」
「本当に危険ならとうの昔に彼奴は
儂らなんぞ肉塊に変えておるじゃろう……違うか?」
一番若そう(?)な長老エルフの一声を受け流すように最長老はサドラスに話を振る。
「違わないな。貴方でさえ俺の半分程度のレベルしかないのだから」
その場のほぼ一同が狼狽。
―レイド・アナライズですら何一つ分からぬ…?!―
―馬鹿な!? ただの偽装スキルだろう?!―
―その反応が、無いのだ…―
「うぬらは目の前の現実を受け入れよ」
「しかし最長老!」
「お望みならお前たちの召喚獣とでも戦ってやろうか?」
「おぬしはおぬしでいらぬ火種を撒くのは勘弁してほしいのだが……
…………いや、それでこそおぬしなのだろうな………久しぶりじゃのぅサドラス。
いや、今はもう暴虐廃人ザドゥルオウスとでも呼んでやった方が良いのか?」
「サドラスでいい。しかしリードムーンだけじゃなく
お前さえも老け込むんだな。ライン・アドミニスト」
「「「!?」」」
その場のほぼ一同が沈黙。
<<フィールド・白亜神天上宮 現在地・中天セクト・ワーキヴァルハラ区>>
何かを叫びたそうなサドラスだが、口にクレープっぽいお菓子をぶち込んで
叫びたいのを堪えながら、ルコと共に区内の商店街らしき場所を練り歩く。
「あの…」
ルコの呼びかけにサドラスは応じない。いや応じられない。
今口を開いたらサドラスは叫びながら笑うだろう。
口を開いたと同時に商店街で買い込んだ中華まんやら唐揚げやら
マカロンやらをブチ込んで叫びだそうとする顎を落ち着かせているのだ。
ちなみにサドラスの処遇はサドラスが最長老とまさかの知り合いだったということで、
大事にはならずにすみそうだった。ただ最長老曰く
「納得するまで連中と喧々諤々してくるからちょっとその辺ウロウロしててね」
的なことを言われたのでサドラスはとりあえず目についたルコを連れて
右天セクト、左天セクト、中天セクトと練り歩いてみたのだ。
「右天はまだいい」
サドラスは野菜ジュースっぽい紙パックにストローをブッ刺して中身を吸った。
その一言にあるように右天セクトはセクト全体が巨大な温室をそのまま
町にしたような、まぁ自然に囲まれてるのでエルフの住まいっちゃ住まいらしい。
だが次に左天セクトへ行ったとき、サドラスの脳内エルフ像に色々とエラーが発生する。
何がエラーかというと左天セクト内はどう見てもパリっぽいのだ。
ただそれだけならそこそこ雰囲気があるので良いのだが、セクト全体が
万年ジャ★ンエキスポ開催中みたいな状態なのはどうなのだろうか。
「をいスタッフゥ…!」
言いかけてサドラスは口にお★ん缶をブチ込んで中身を食らった。
むせないのは器用さだろうか。ともかく極め付きは中天セクトだ。
道を行き交う人々が外見こそエルフだが、格好もさることながら
看板だの売り子だのそういった類のものがどう見ても
ハイパーオシャレ化した秋葉原にしか見えないのは色々とどうなのだろうか。
「あの…大丈夫ですか?」
ルコは話しかけるが、表現に苦しむレベルのすごい顔をしたサドラスは
もう色々と限界だった。出したいものを出せない時の人の顔はもしかしたら
万国共通なのかと思ってしまうくらいのすごい顔だった。
「!」
もしもあと数秒KATUMIからのチャットメールが来なかったら、
サドラスは流石にアウトなゲス笑いとゲス嘲笑をするところだったろう。
<おのれ…カサモトめ…!>
ヴァイスアールヴヘイムの存在はKATUMIさえも
ほとんど知らなかったらしく、文面でさえそう愚痴った。
しかしその後普通に観光する気満々で「C✝B✝E」含めPCメンバー勢を
普通に連れてくるのもどうなのだろうか。
そして男はサドラスも微妙にそうだったように一人除いて珍獣扱いされたのは、
もうサドラスもどうしようもなかったらしく、ゲス笑いが止まらなかったそうだ。
…と思ったら一人除かれた男ことスイゲツが、なんかすごくモテ期到来。
何故かゲス笑いは20秒程度で治まったそうです。
第19話に続く
後半が想定していたのと違う勢いになりました。




