Apocrypha01(外典01)「ミーミル・G・ツヴァイロートの日記」
【NC701・11・Nov】
おじい様がすごくうれしそうなお顔で私のところへ
"お忍び"で遊びに来て「明日はワシと温泉の都…
エテルマの所に行こうではないか!」と、古の聖人のようなお顔で
微笑んで私を温泉に誘ってくれました。
お父様とお母様も一緒に行くのかしらと思っていたのですが……
やっぱり、おじいさまは私一人だけを連れて行くようです。
どうしておじい様の息子である騎士のお父様はダメで、孫娘の私は良いのか…
貴族のルールはよくわかりません。
「ゲシュミン様が大公閣下だからです」とメイドのオルガは答えます。
「序列は基本的に無視できません。親子でも例外にはなりえません」
と執事のエベルバッヒは答えます。やっぱり貴族のルールはよくわかりません。
【NC701・12・Nov】
スタキトゥ第四侯爵様が治める州都エテルマにやってきました。
馬車の窓越しで、しかも相変わらず兵士さんたちに囲まれているから
街の様子はほとんどわかりません。大声で叫ぶ人たちがいるようですが
何を叫んでいるのかもあまり聞こえません。
だから私はつまらなくて眠くなりそうでした。
すると、他の人の前だとすごく怖く見えるおじい様が、
全然怖くない悲しそうな顔でそう言ってきましたので
本当に温泉のあるエテルマなのですか? とムスッとした顔で答えてみました。
「勿論だとも! ワシがお前に嘘を吐いたことがあったか?!」
こういう時のおじい様はとても可愛らしいのですが、
今の言葉にも嘘があるので、素直におじい様を好きとは言えないです。
「いいえ。(少なくとも表面上は)ついていないのです」
この言葉に私自身の胸のあたりがチクチクします。
わたしもやっぱりおじい様の孫娘なのだと感じるひと時でした。
領主館についてすぐにスタキトゥ様のご挨拶をいただきました。
スタキトゥ様は私のお父様こと、ツヴァイロート騎士爵にとっては
上司の上司の上司とかいう方だそうです。
であれば私がご挨拶するにもおじい様以外の高爵位の方々への
ご挨拶をと思ったのですが、
「ああ、ミーミルさまは良いのです。どうぞ楽にしていてください」
と、汗をかきながら笑って私にそう仰るスタキトゥ様。
何気なく視線をおじい様に移すと…怖い時のおじい様の顔でした。
おじい様はスタキトゥ様を見つめています。
スタキトゥ様の上に立つのは公爵の大伯父様、大公のおじい様、
ヴェッテンダス帝王陛下、ゼクスローティア聖王猊下、
そして最大侯爵様の五人だけだとか。
陛下と猊下は何回かお会いしたことがありますが…
…最大侯爵様はどういうお方なのでしょうか。
おじい様は大変嫌っていらっしゃる方みたいですが…
おじい様の近衛ですがこっそり私とよくお話ししてくれる
メッサーシルト子爵様が言うには
「色々と大きい…いや大いなる人らしいよ。
だから大公派に続いて最大侯派なんてのが出来るくらい人気もある人…
まぁ直接会って話したわけではないからこれ以上はうまく言えないけど」
とのことです。
その時は最大侯爵様のことはほとんど気にかけていませんでした。
【NC701・13・Nov】
目に見える格の違い…普段からおじい様と接する機会が多かったのが災いしました。
私は年齢にしては高い格を得ているとおじい様は仰いましたが、
今日初めて出ることとなった社交会がまさか外国の貴族の方々との
社交会などとは思っていませんでした。これならちゃんとオルガと一緒に
温泉に入っておけば良かったと後悔しました。
同時に怖い魔物達と帝国兵の皆さんが戦う様子も
見学しなければよかったとも思いました。
あんな恐ろしい魔物たちを平気な顔して屠られる方々が目まぐるしく行きかうのです。
おじい様もいつもの怖い顔でよくわからないけどとても凄そうな人たちと
お話をしながら何処かへ行ってしまったのに気付いたのはその時でした。
うぅ…いろいろなものが見えないです…
こんな時だからこそおじい様のそばを離れたくなかったのですが…
歩くときに私はおじい様並に怖い方々と目を合わせたくなくて、
足元だけ見て不思議と人気の少ない壁際に寄りかかり、思わず言葉が漏れました。
立食パーティですから椅子がほとんどありません。
給仕の方に頼めば良かったのかもしれませんが、このときは
色々な気持ちがまぜこぜになってわけがわかりませんでした。
だからこそ、私のすぐそばに物凄く目立つ真紫に輝く鎧や防具に身を包み、
奇妙な輝きを放つ単眼鏡にやはり真紫の髪と目をした方が
立っていたことにもまるで気づかなかったのです。
その方の名前は見えませんでしたが、不思議と怖くなかったのです。
何と言いますか…紫色の大きな山のように見えたのです。
その方は偶然ですけど私の好きな苺牛乳の入ったグラスを手渡してくれました。
今度はちゃんとお礼を言おうと思ったとき、
「改まらなくていい…というか素のままで良い。
緊張すると返ってケガをするだけだ…色々な意味でな」
私の言葉に上記のように返したその方…紫のお兄様ことサドラスお兄様が後々、
「帝国最強戦力の最大侯爵」のサドラス様だと知るのは大分経ってからのことです。
あの時の私はいろいろと疲れててサドラスお兄様もちゃんと
「帝国で最大侯爵なんてものをやっている」と仰ってたのですが…
「鎮まれ…我が内なる不浄王ども…………!」
「サドラスお兄様…? どこか具合でも悪いですか…?」
「……自分を律するのは大変なんだ」
「ふえぇ………?」
といった風にサドラスお兄様は突拍子もない言動をなさるので
余計に頭の中で現状を整理することができなかったのです。
お兄様曰く「他愛のない話」だそうですが、この後に聞いた話からして
ふつうは海で巨大な海の魔物相手にたった一人で挑んだりはしないと思うです。
そのうち私が法衣貴族区画から出たことがないと言った時、
「縁があったら俺が平民区画や商店街なんかを案内してやろう」
と、素敵なお誘いを受けたのです。おじい様とも外にお出かけしたりはしますが、
ほとんど馬車の中からしか物を見れないので、私はすごくうれしかったです。
私が喜んではしたなく跳ねていたら、お兄様は私のおじい様を見つけてもくれました。
最初はおじい様が見つかったことに安心しておじい様のもとへ走ろうと思ったのですが、
さすがにこれ以上のみっともない行為はダメだと思ってちゃんとお兄様に
お礼も言いました。お兄様の微笑みはすごく格好良かったです。
本当に帝国最強戦力の方なのかどうか信じられないくらい
優しい笑顔で私を見送ってくれました。なのにおじい様ときたら…
「み…みみみミーミル?! だ、だだだ大丈夫だったか?!」
「何がです? おじい様」
「何がっておま…彼奴が何者なのか知っておるのか?!」
「サドラスお兄様ですよね、おじい様? それがどうかしましたのです?」
「なん、だと…?!」
といったやり取りの最中のおじい様の顔は、なんと言いますか…すごい顔です。
とにかくすごい顔としか言いようのない顔です。
その顔のままでいつものしゃべり方をするので、正直…不気味です。
【NC701・19・Nov】
それは突然のことでした。何の連絡もなくお兄様が私の家にお一人で訪ねてきたのです。
「何だかんだで大所帯になったので、今日あたり親睦会でもやろうかと思ってな」
と仰ったお兄様が主催するパーティにお誘いがあったのです!
縁があったらまた会おうとか仰ってたのに一週間後にもう来たのです!
縁があったら~…と答えた方は大体翌年以降連絡をする程度だというのに…
そういった意味でもお兄様は面白い方だなぁと思いました。
さすがにお兄様の親睦会開催は突拍子がなさすぎるとのことで
後日となりましたが、一つの楽しみができたのです。
パーティはほぼ一日かけてやるとのことなので、私は早めにお兄様とお会いして
平民区画や商店街といった場所を一緒に回ったり教えてもらったりしようと思ってるです。
【新暦七百壱年拾壱月弐拾日】
せっかくなのでお兄様たちに教わった日乃本神語で
日記を書くことに挑戦してみるのです。
内容はレベルLX以上「日乃本神語・ネラー/シブヤ」くらいの
読解スキルを持っていないと読めないらしいので、
これからは秘密の日記とかにできたりするのです。
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※序文にもあるように、記述の解読は全て終了しておりません。
続きの文章は読解が完了次第更新いたします。
NC724・22・Jan
帝国枢密院・先史文明研究科・暴虐廃人調査委員会一同
………続きは今しばらくお待ちを。




