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異見聞録Ⅲ「返し忘れたアイリスクウォーツ」

――サドラスの視点――


<205X年11月20日>


かなり賑やかになってきたということで、

厳蔵の奴が俺を主軸に知り合ったメンバー全員を呼び寄せて

パーティ的なことでもしようぜと言いだしてきたので

暇だからそうすることにした。

俺としてはそろそろ何か古代の魔王だの化け物とかが大量復活とか

数多の別世界からの侵略者大軍団とかに期待してたのだが、

いくらなんでもそこまでの規模のイベントはまずない。

それっぽいのがあったとしても大概全部昔やったことのあるクエストだった。

ゆえにどうしようもない退屈に苛まれるよりはマシだと思い、

仕方がないから費用も開催場所も全て俺もちでパーッとやってやろうか。

…たしか最近旨かった酒が一升23000YDくらいで売られてたな。

食い物は…そこは厳蔵のフランス人の舌に期待してみるか。


「で、この樽の山は何だ」

「何ってスピリッツにビールにワインにシェリーと日本酒それから…」


厳蔵のケツに気持ち強めのミドルキック。吹っ飛んで壁にぶつかって

ものすごい勢いでHPが減ったのですかさず全身にエリクシルをぶちまけて

口にも何本か突っ込む。これで死ぬことはなかろう。


「酒の肴はどうした」

「厳蔵さんが暴走したのでアリカ達が買いに行ってますよ」

「お前は一緒に行ってやらないのか?」


なぜ俯く。


「今宵は素晴らしき闇だね、水月(みなつき)の姫よ」

「………」


あぁ、ソルベウル・フォン・ヘァツォーク・ライヒデルナハトⅡ世…

お前が居たな。まだスイゲツを女だと思ってるのか倒錯吸血鬼。

いや、それとも女だと思いたいのか? まぁどうでもいい。


「あの…サドラスお兄様…今日はお招きいただきありがとうです!」

「気にするな、というか例を言うなら

そこでノビてる厳蔵(のんべえ)に言ってやれ」


ミーミルはまだ緊張しているのか。さっき平民区画を案内してやった時は

あんなにはしゃいでいたのに…ん?


「ねーねーミーミル! ミーミルのおウチのおハナシとかキかせてー!」

「ミーミルはナニをタべるのー?」

「アタマのおハナってワタシのショッカクとオナじなのー?」

「ねぇねぇミーミルはサドラスさまのコトすきー?」

「ふぇえぇ…! え…?! ど、どうしてみんな下着穿いてないですか…?!」

「こらこらイモウトたち。年が近いからってブエンリョだよ。

…っていうかお前たちまた下着穿いてないのかよ?!

風邪ひくから今すぐ穿くんだよ!!」

「「「「いーやーだー!」」」……ワタシ、ちゃんとハいてるのに…

サドラスさまがスきそうなのハいてるのに…」


………これは動揺しないほうがおかしいな。そして最後は何も聞こえんな。

やめろ、俺の前だぞ! ローブの裾をたくし上げて見せるな!

おいジル=ルミル! 魔幼女たちを説教する前に周囲を確かめろ!


「こういう時ほどストレージの便利さが身に染みるよね~♪」(しえりゃん)

「状態維持は神掛ってると言っても過言じゃないだろうが」(アリカ)

「ん。素材も鮮度が命」(百(ハンドレッド))

「材料そのものばっかりだけど大丈夫なの? 自慢じゃないけど

ボク料理系スキル以前に料理のセンスが酷いよ?」(カナン)

「それはわらわも同じ…?! しまった…! 数少ないアドバンテージを

何故わらわは今まで得ようとせなんだか…!!」(ユスタリシア)

「…私の料理鉄人(アイアンシェフ)力と女子力で圧倒してやるから安心するし」(天花(てんか))

「……材料を刻むくらいなら俺でもできるなぁ」(エッジブレイダス)


…あと五秒遅かったら俺は死ぬところだったな。

こんなことにリアルラックを使いたくないというのに…!


「サドラスさ~ん! お菓子とかも買ってきましたよぉ~!」(ロティ)

「これは出来立てが美味しいので前菜になりそうですねロティ殿」(キュクル)

「サドラス様! 神国より腕利きの料理人たちを呼び寄せましたので

お代わりは遠慮なく言ってくださいな!」(クリシュネーア)

「手ぶらで来たと見せかけてとっておきの大吟醸持って来たぜェ!

あ、あとコレ兎餅ね。旨い食い方をレクチャーしてやるからよォ」(時穏(じおん))

「それ少しチョイス和風すぎじゃないか時穏」(アジャラ)

「普通に酒盛りをするっぽいな…焼酎だけで良かったか?」(スピリバ)

「どうせチャンポン大会になるのだろうが仕方ないのだな」(KATUMI)

「この光景ってば、なかなか見れなさそうだね?」(シルビィ)

「生きた心地がしないのはー…気のせいですかねー…?」(エリニュス)

「こんなに多くの白亜神族(ヴァイスアールヴ)以外の人たちに会えるなんて、

夢にも思わなかったですよ」(ルコ)

「強者が集いし酒宴…一度やってみたいと思っていたが。

ああ、これは良い!」(サリナ)

「素晴らしき水蜜桃源郷を今この手にあべし?!」(アズヴェル)

「……なぁ、オレが出ても大丈夫なのお前ら…?」(シドナイ)


PCメンバーも良し、主だった異世界メンバーも出ているな。


「あの、マスター…」

「どうしたメドラ」

「おんしの私兵団はまぁ警備があるから全員は出れぬとして…

仲間が一人足りない気がするのだが?」

「何を言っているんだグウェンダ。主だったメンバーは全員いるだろう?」

「ええと…1、2、3、4、5…………先輩、ララリリルさんがいませんよ?」


ソルベウルを棺に厳重封印したようで、歩み寄ってきたスイゲツは

総勢で29人いる今現在の俺のPT+同盟メンバーの数をカウントしたようだ。


「言われてみれば…変ですねぇ…

こういう時こそサドラスさんに侍ってそうなのに」

「だからなのでス…一応、

人外(モンスター)娘仲間として心配してやってるのですガ…」

「何を言っているのだお前たちは…俺の椅子(ララリリル)ならここにいるだろう」


今もプルプルして腰が曲がってきているので軽く尻を叩いてやる。


「んほぉぉぉぉぉう?!」


ほう、まだ真っ直ぐになれるじゃないか。


「「「「「?!」」」」」


どうしたお前ら。ララリリルといえば人間椅子(コレ)だろうが?


「うわぁ…久しぶりに色々と酷いですねぇ…」

「そりゃあ姿も見えないわけだ…シーツかぶせてるから変だと思ったが…」

「先輩ホントに鬼畜ですね…」

「主人が主人なら、僕(しもべ)も僕なのだな…」

「え、なに、ちょ意味ワカンネ…」


反応は様々だが、まぁ細かいことは気にするな。

飲んで忘れてしまえば皆同じだ。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:法衣貴族区画・サドラス邸>>


夕暮れになるかならないかの時間から

BBQとかでお馴染みの野外セットを広げ、

存外行き当たりばったりで親睦会を始めたサドラスたち。

案の定食事もそこそこに無礼講すぎる酒盛りが始まり、

案の定男たちをメインにした酔っ払いどもが馬鹿をやらかし、

案の定下戸から順に夢の中へと突入していった。

大半が寝落ちしある意味で大人の時間に突入すると「我が黒歴史大暴露」だの

「デス(含めた)ゲーム時代の思い出語り」が誰からともなく始まった。


「らから僕はー! 僕のヲトコの尊厳を奪った連中をー!

根こそぎ引きちぎっらり八つ裂きにしえブチkrsてやっらのでしゅにゃー!」

「八つ裂きは良いよなぁ…切り刻んだあの感触って…

生きてることを一番実感できるよなぁ…あぁ…斬り合いたいなぁ」


エッジブレイダスのチラ見は華麗にスルーしたサドラス。


「…誰だ、スイゲツに浴びるほど飲ませたバカは」

「俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ俺だあべし?!」


喜び勇んで出てくるや否やサドラスの延髄切りで厳蔵は沈む。

ただし手加減はしているので厳蔵のHPは三割程度減っただけだ。


「む…ビールはもうないのだろうか…仕方ない…火酒(ヴァサー)で良いのだ」

「ちなみにですね~お姉さんはまだ前も後ろもしょj」

「少しは自重しろって言ってるだろうが?! 素面の後輩たちの前だぞ!?」


珍しくしえりゃんがアリカの当身を食らう。

これはレアだRecRec…と思ったら男メンツはもうダメっぽかった。


「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! さァさァさァさァさァ!

おまいら全員にオレ様のスペシャルウサ耳ちゃんをプレゼントするぜェ!

……ん? んん?! お、お前…何時ぞやのPrecious rabbit?!」

「ひぃ!?」


うまいことサドラスの陰に隠れながらチビチビお酒を飲んでたシドナイだったが

どうやらついに時穏に見敵(ロックオン)されてしまったようだ。


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! さァさァさァさァさァ!

今すぐ何処かにシケ込んでジッポリとグヒャヒャヒャヒャヒャ

――「そろそろお休みの時間だし」――うわらばっ?!」

「これはひどいな…すまんサドラス。ちょっと時穏(こいつ)を部屋に詰めてくる」


シドナイを発見してゲスい意味で襲い掛かろうとした時穏は天花の

<追加効果:睡眠>付と思われる毒ナイフで沈んだ。

何気にHPゲージがジワジワ減っている気がするが、サドラス含め

誰も気にしない…おやすみ、ケモ耳prprマイスター&お疲れアジャラ。


「まったく…何が楽しくて昔語りなど…」

「あれぇ? そういえばぁサドラスさんからは何もお話がありませんねぇ?」


もう真っ赤な顔のロティがサドラスに腕を絡めてくる。

負けじと百やユスタリシアもひっついて来る。しかし流石のサドラスも

酔いが回ったのか、引っ付かれてもほとんど気にしていないようだ。


「シュウの昔ばなし。超気になる」

「そういえばシュウの昔話はほとんど聞いたことが無いのぅ」

「ほほう…それはわっちも是非聞きたいな未来のつmゲフンゲフン…友として」

「あー! ボクもボクもー!」

「あの…差し支えなければ私も」

「サドラス兄様のお話なら何でも聞きたいです!」

「ふふ…マスターの過去の栄光いや伝説を知ることは信徒として大事なことでス♪」

「これはまたとない逆襲チャンスかもだな。俺も聞いておく」

「ギヒヒ…! さぁ飲んで飲んで飲みまくってもらおうかぁサドラスぅ!」

「オレは別にどうでもいい…と、思ったけど…何か気になるから聞かせろ」


「…チッ」


サドラスは小さく舌打ちしてグラスを空にした。



――サドラスの視点――


デスゲーム勃発から約四年ほど前のことだ。「GrTrAd」直系の前作ともいえる

VRMMORPG「アウグスト・ロマンシア(AuRoma)」にて、当時はまだ

前シリーズ作品からのコンバートも間もなかったのでメドラがLv208で

俺がLv729程度の時期だった。


「オメデトウゴザイマス、討伐成功デス。ますたー」

「さて、今日の素材は…チッ…特上(スーパー)級…ゴミか」


____________________________________

「ちょっとちょっとサドラスくん! 特上級はゴミじゃないよ!」

「割り込むなカナン。回想がおかしくなる」

____________________________________


いつものように敵を斬って殴って嬲って仕留めて

楽しい剥ぎ取りに精を出していたある日のことだ。

「GrTrAd」でも”相変わらず使いにくい”と定評のある

騎乗双剣(メーネ)を操る真蒼(アースブルー)兵装の変な女に出会った。


____________________________________

「…シュウ。女って誰?」

「落ち着くのじゃ。その女はここにはおらぬぞ」

____________________________________


……。


「やぁやぁ高校生っ! 精が出るねっ!

というわけで私とPvP…戦(や)らないかっ?」

「俺も随分と舐められたものだな…」


アイリスと名乗ったそのメーネ女は出合い頭に身の程を知らないのか、

俺に一対一のPvPを挑んできた。


「まぁいい…ほら、さっさと合意承認しろ」

「おっ? 話が早いねー君っ!」


「STR上げて物理で撲殺抹殺滅殺」がジャスティスだった当時の俺は

偶に出会うPvP厨だとタカをくくっていた。

開始と同時に俺は先手必勝の一撃を叩き込んだ。

しかしアイリスは沈むこともなく、流れるように

俺にメーネの連撃を叩き込んできたのだ。


「こ…の…鬱陶しい!!」

「おっとっ! それは当たってあげられないねっ!」


先手必勝の一撃をガードされたのはムカついたが、その一撃で

アイリスのHPゲージを半減させれたので、

あと一撃さえ当てられれば間違いなく俺の勝利だった。


「?!」

「残念っ! それはデコイっ!」


アイリスの一撃そのものはゴミみたいな威力だったが、

チリも積もれば何とやら…今思えば急所攻撃等は何があっても

回避やパリングする…ということの重要性を学ばされたのがこのPvPだったな。

あぁ、結果か? 時間切れで俺の現在HPがアイリスの現在HPを

僅かに下回って負けたさ。


「…チッ」

「いやー…先手の一撃食らったときは焦ったねっ。

ガードしててふつーにHP半分持ってかれるとか、

どんなSTRビルドしてんの君っ?」


俺は反省点云々について議論とかをする方じゃないので

「じゃ、そういうことで」と踵(きびす)を返して立ち去ろうとしたんだが。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってお兄さんっ?!

いやいやいや?! ここはフツー食い下がるモンでしょっ?!」


当時の俺が尋常じゃないと思う速度で回り込まれた時は焦った。


「どうでもいいし俺のLv不足という事実は消えん」


再び俺は立ち去ろうとした、全力ダッシュで。

だが目の前にアイリスがいた。数年ぶりに冷や汗を掻いた。


「という事で今日から私はキミの師匠(マスター)ね!」

「意味が分からん」


無視し続ければそのうち諦めると思ってた俺が甘かった。

アイリスはガチで24時間以上俺に着いてきたのだ。

まぁ当時はそんな気骨のあるPCの仲間が居たほうが良いかと思ったので

不本意だが仕方なくアイリスをパーティ登録した。


「な、なんて出鱈目なステータスなのっ?!

キミ…コンバートとは名ばかりのチートしてるでしょっ?!」

「AGLはお前のほうが出鱈目だろうに…

…あと次チーター呼ばわりしたら思いつく限りの手段で

お前を必ずPKしてやるからな」

「あ、それはそれで楽しそうかもしれない…やーいチート野r」

「闇に還れ!」

「ふっふっふっふー! 当たらなければどうということはないっ♪

…あれ、え…? これ毒状態…いつの間にっ?」


一緒に行動しててわかったことだったが、

アイリスは俺たち廃人とは違う達人と呼ばれる領域の住人だった。

どうしようもなく戦闘センスが良いものだから、

俺たちのようなニ、三徹プレイをしなくても俺たち同様かそれ以上に

ステータスやスキルアップの伸びが高かった。


___________________________________

「達人か…いわゆる天然チートと揶揄される連中とかだっけ?」

「んで僕を見るんれすか」

___________________________________


アイリスには振り回されっぱなしだった。

ある日いきなり「ギルド作ったなう。名前はレイドバスターⅢっ!」

とか言って頼んでもいないのに勝手に俺たちをギルメンにしたりな。


___________________________________

「なん…レイドバスターⅢ…だと…?!」

「おんや~? アッちゃんすごい顔ですね~? んでそれがどしたの~?」

「どうしたもこうしたもAuRomaで伝説扱いされてた

"レイド狩り専門"のガチ狂ギルドだろうが?!」

「ふ~ん~…あ、カシオレお代わりなう♪」

「自分はバーテンではないのである…が、まぁ作ってやるのだ」

「ん~カッつんはだから好きですよ~♪」

「……振っといて無視するのやめろって何回言わせるんだろうか」

___________________________________


少しばかり腹立たしかったのはアイリスは

剥ぎ取りにあまり興味を示さなかったことだ。

その癖にあの戦闘スキル…何回後ろから刺そうとして失敗したか。


「だからさっ、シュウくんは効率性をもう少し重要視したほうがいいよ。

ほらっ? そこで腰を入れないから楽勝で躱せるよっ?」

「…お前の言い分にも一理はありそうだな」

「Naturalmente!(もちろんさっ!)

テクニックを極めれば確実に強くなれるのは世の常だよっ!」


俺がテクニック関連に興味を示すとアイリスは頼んでもいないのに

ベラベラやかましく囀りながら多くの相伝スキルやキャンセル技、

VRでも効果的に使える呼吸法等を教えてくれた。


「しかしアイリス。お前PvPならともかくゲスな消耗戦を得意とする

PK狂レイドPTと出くわしたらどうするんだ?」

「んー…逃げるかなっ? だって私にマトモについてこれるのって

今のところシュウくんだけっぽいしっ」


何の前触れもなく土壇場で「あ、ごめんKillされちったっ♪」とか

言われても 非 常 に 迷 惑 なのでアイリスには俺が今まで

やってきた ち ょ っ と 痛 い ビルド方法を仕方なく教えてやった。


____________________________________

「いやお前さんのちょっと痛いは間違いなく信用できねぇから」

「あ、厳蔵さんお帰りなさい」

「お前もな」

____________________________________


痛みに悶絶するアイリスを見てると今までの溜飲が色々と下がったが、

今考えてみれば達人に余計なコトを教えるべきじゃなかったと後悔した。

あの女も俺と同じ領域の剥ぎ取り厨として目覚めたからだ。


「…! 貴様それは俺の魔導文明(マギテック)級…!」

「早い者勝ちだよーんっ♪ ふっふっふ…これで私の紙防御が神防御なうっ!」

「おのぉれぇぇえ! このビ★チがぁ!!」


………。


……。


…。


そんな感じで早一年と十数か月、現実は厳しいもので

AuRomaのサービス終了が迫ってきたある日のことだ…

別会社の大人気VRMMORPS「アブソルト・ユーゲント」もサービス終了する

ニュースに割と衝撃を受けていた俺に、アイリスがふと


「色々付き合ってくれてアリガトね」


何て言い出す。悪いモノでも食ったか★ッチがと一瞬思ったが、

どうにも雰囲気がいつものビッ★っぽくなかった。


「どういうことだ」

「………」


何も答えなかった。

ただ俺にアイテム譲渡画面を出してきた。


――<アイテム譲与申請>――

Name:破軍騎乗双剣「アイリス・フェイルース」

Grade:固有(ユニーク)

Memo:パワーストーン「アイリスクウォーツ」使用

――<受け取りますか? ▶Yes No >――


「Yesを押さなきゃ連続でウィンドウ出すからねっ…」


意地を張ったアイリスは24時間余裕で張りっぱなしだ。

付き合うのも面倒なのでその時は仕方なくYesを押してやったが…


「…ありがと」


そう言ってアイリスは俺とのフレンド登録も解除し、そのまま消えた。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:法衣貴族区画・サドラス邸>>


宴会中のはずのサドラス邸は静かだ。


「………」

「え~とですね~サドラスさ~ん…オチh」

「自重しろって何回言えば良いのかわからなくなるだろうが!?」


しえりゃんがアリカの当て身で二度目の気絶。


「あの時まで俺は他人のことなど殆ど感知しなかった」


サドラスはグラスを空けては次を注ぐ。


「何の理由もなく人の目の前から消えるような奴はそれこそ無視して

さっさと次回作へのコンバートを進めればよかったのに、

俺は奴を如何にか問い詰めてやろうと思い立ってしまった」


段々語調が酔っ払い宜しく呂律が回らなくなってきたので、

サドラスの話を要約すると、黒よりなグレーな方法で

アイリスの本名が日伊ハーフの愛梨・志野原=ルーティーノである

とまでは分かったのだが多少珍しい名前であるからと言って

そう簡単に彼女の身元が割れるはずもない。

なんとも言えない気持ちのまま数か月過ごし、ある日のWebニュースで

それらしき人物が、これまでに成功例の少ない大手術を

受けると知り、居ても立ってもいられなかったので、何とかして彼女らしき

人物の元へ行こうとするが、そううまくいくわけもない。


「煩くて、しつこくて、寒い時以外はテンションが無駄に高くて…

何であんな女とパーティ組んだんだろうって思ってたはずなんだが…」


グラスで飲むのを止めてボトルで直飲みを始めたサドラス。


「そういう別れ方をする女だとは思わなかった…

どうせならいつもみたいに喧しく別れの挨拶でもしてくれれば…

肝心な時に日本人じみた行動なんぞしては欲しくなかった…

…今となっては…もう、生死も確かめられん」


新しいボトルを空けようとしたサドラスの手を厳蔵は止めた。

もう誰も何も言わなかった。


「………」


サドラスはアイテムストレージから青く輝く騎乗双剣を取り出した。

何気なくステータス画面も開く。


――<詳細ステータス>――

名前:破軍騎乗双剣「アイリス・フェイルース」+3997

攻撃力【STR】:103258(限界突破EX)

精神力【MAG】:98165(限界突破EX)

敏捷性【AGL】:265539(限界突破UL)

属性:物理125 水150 風120 波50 万10

特性:STR+30% AGL+30% HP/MP/SP 10分毎に1%回復

追加効果:限界突破S前クラスの全ステータス異常防止

――<閉じる>――


「………ただ預かったままってのは俺の矜持が許さなかったからな…

どうせなら+何千とパワーアップしてから………………………あぁ?」


自分が泣いていることに今更気づくサドラス。


「人の死なんぞ…デスゲーム時代に…腐るほど…」


厳蔵は何も言わず新しいボトルをサドラスにくれてやろうとしたその時、


「ごべんね゛ぇえ゛ええ゛えジュウぐ~~~~ん゛ッ!!!」

「「「!?」」」


何時から居たのか、サドラス以外には頭上の名前が????表記の

真蒼カラーで統一された兵装を身に纏う女が

話を聞いていた連中の端っこで涙と鼻水で色々と台無しな顔で泣き喚いていた。


「ズビバゼンでしたぁあぁぁぁぁっ!

私ふつーに手術上手くいってましたぁああああああああああ!

ふつーにデスゲも生き残ってふつーにシュウくんを後ろから脅かすつもりで

ふつーにこっち来て二、三か月漫遊してましたぁああああああああああああ!

そんなに気にしてるなんて思ってませんでしたごめんなさいいいいいいいっ!」


サドラスはかつてのロティよろしくウォッカかテキーラかとりあえず

それ味付けたアルコールだよね的なキツそうなボトルを一気飲みして、


「おのぉれぇ…アイリスッ! 俺の哀しみを返せこのクソビ★チがぁ!!」


と久しぶりに平謝りする真蒼兵装の女こと、”アイリス”にキレた。


「本゛当にずみまぜんでじだぁああああああああああああああ!!」


アイリスはサドラスの元までスライディング土下座した。


「なぁサドラス…まさかとは思うんだがよ…」

「今更聞く必要があるか?」


とりあえずサドラスは横で寝てたララリリルを椅子から引きずり落として

すごい顔なアイリスを座らせ、未使用のおしぼりをくれてやる。


「アドレスはレイドバスター時代から変えてないんだ。

ダメもとでもいいからメールの一つくらい寄越せこのビ★チが」

「サプライズ…」

「いらん。お前の登場は最初から心臓によろしくない」

「泣いてる女の子にフルボッコとか…シュウくんサイテーだよっ」


「今回はお前に非がある……………………………………………………………

……………………………………………………………………………………………

………………だが、まぁ……何だ…よく…生きて戻ってこれたな」


サドラスが笑っ…!? …バカな!? ゲス笑いじゃない!?


「ふぁ…?!」

「ん…!」

「ありゃ…?!」

「ふぇぇ…」

「せ、先輩…?」

「シュ…シュウよ! もう一回! もう一回笑ってくれぬか?!」


「…断る。顔の筋肉が疲れる」


「ぐぬぬ~! あと数刹那…! 伝説のベストショットが…ぐぬぬ~…!」

「たまには脳内保存だけで我慢してみるのはどうだろうか」


きゃあきゃあうるさい女子メンツと、彼女たちに

きゃあきゃあ絡みつかれる無表情のサドラス。


「えー只今よりー第二次スーパードランク大戦をー

問答無用緊急勃発してぇーとー思いますー!」(注:厳蔵)

「Kein Einwand!(異議無し!)」(KATUMI)

「おkwいいよwww」(スピリバ)

「ということでオラァ飲めやスイゲツぅ!!」

「え、うわちょ折角酔い覚めてゴボボボォ!?」


大人げない(?)バカ野郎たちが再びヒートアップして

酒宴がまた再開された。


「やれやれ…」


いつの間にか六道士団(ゴットハイテン)の乗り手たち(元アぺリウス人)も加わり。

見たくもないだんじり祭りが始まってたので、

そこから目をそらしてゆっくり酒でも飲もうかと思ったら

裾を遠慮がちに引っ張られるので見てみると、

まだ目じりに涙が残るアイリスが上目遣いにこちらを見ていた。


「何か用か泣き上戸ビ★チ」

「…あのさ…シュウくん…今更だけど、まだ謝れなかったこと…謝らせてっ…」

「ならさっさと言え日伊混血★ッチ」

「……流石にこれは人前でやると大問題だから耳を貸して」


言われるがままに耳を貸すサドラス。


「ぬをぐむっ!?」


顔を両手で鷲掴みにされて、嗚呼デジャヴなズッキュウウウウウン。

イタリア仕込みの熱すぎる接吻(ベーゼ)を貰ったようだ。

離れた二人の口からモザイク掛けるべきかもしれない唾液のアーチ。


「ぶはッ!?」

「シュウくん。女の子をビ★チ呼びすぎっ! これでもシュウくんより

年下なんだからねっ!」

「何を…! 貴様当時のプロフで二十歳だと…!?」

「6つ逆サバ読んでましたっ…thpr☆彡」

「なん…だと…!? ……あぁッ!? ……ぬをッ?!」


ふと、首筋がチリチリするので振り返ってみたサドラス。


もれなく女子メンツ全員に見られていた。


背中の羽を全開にして浮き上がるロティさん。

色からしてヤバいオーラも全開だった。


機甲人(メタノイド)らしく全身に戦艦や戦闘機の武器パーツを

余すことなく装備した百。双眸の焦点など合っているはずもなかった。


全容は知っていたはずなのだが、じっと大人しく話を聞いていたはずの

グウェンダは、サドラスが出会った当時とは比べ物にならない覇気を

身に纏う巨鎧竜(ギガントドラゴン)としての真の姿を見せていた。


メドラも普通に変身していた。いつもの変身より六倍くらい巨大だ。


ユスタリシアなんて、サドラスにとっては未知なる

全身が太陽の輝きを放つ兵装だ。無論目がヤバいのは言うまでもない。


寝落ちしてたはずのクリシュネーアは…張り付いた笑顔で此方(サドラス)を見ている。


傍ではガタガタ震えるララリリルが「お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君お許しください我が君」…見なかったことにしてあげよう。


極めつけは智天使猫王(ケルビムロードキャット)の『にゃるそん』、

龍喰空王隼(ワームイーターロードホーク)の『はやと』、虎王蟲捕蜘蛛(タイラントオームイーター)『ぴか虫(むし)』を筆頭に

確か名前の由来がソロモン七十二柱の悪魔とか七大悪魔とか

見た目からして分かりやすい怪物たちを召喚していたカナンだ。

ただ彼女は他の女子と違ってやれやれと肩を竦めているだけで表情は穏やかだ。

全然安心感は無いけどネッ♪


「は…ははは…ハハハハハハハッ…フハハハハハハハハッ…!」


嗚呼、そうだろう…最早お前には、笑うしか、無いのだ…。


「あ゛ ァ゛ ア゛ ぁ゛ あ゛ ァ゛ ア゛ ― ― ― ―ッ!!!」


この叫び声はサドラスのものなのか、ヤバすぎるだんじり祭りに

巻き込まれてしまった可愛そうな男たちのものなのか、

真相を知る者は……誰ひとり…いない…。


第19話に続く

そろそろシリアスなストーリーが思いつければ良いのですが…

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