第17A話「月に居るのはウサギ…ではなくケモ耳の変態?」
遅くなりました! 年明け更新でっす!
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・法衣貴族区画>>
ヴァナヘイム地方の実質的な覇者であるルーンテールの帝城に勝るとも劣らない
サドラスの豪邸(まぁ元々は帝国の二王の一人である聖王の別荘だし)は相変わらず
特に代わり映えの無い様相でそこに聳え立っていた。
「えーと…じゃあ改めて私から自己紹介で良かった?」
「ああ、俺も結局お前たちどころかカナンの近況もサッパリだからな」
ちなみに疾風怒濤魔女団や魔改造鎧騎兵部隊「六道士団」などの
私兵団抜きでも大所帯となってしまったサドラス一行が集まると
如何に豪邸のダイニングルームでも多少狭く感じるほどの人口密度となる。
それ故か己を遥かに超えた高レベル集団の衆目に晒されることへの緊張感なのか、
椅子から立ち上がって咳払いする魔法使いの少女シルビィ。
「生まれはミズガルズ都市国家群のリングヴィ公国で、
上級炎術師に成りたてのシルビィ・ロックゲインです!
この面子では最弱っぽいっすけど宜しくお願いしまっす!」
「あぁ、改めて宜しく頼む」
「シルビィったら緊張しすぎだよ」
「カナちゃん無茶言わないで欲しいってば!」
シルビィが座ると同時に「さあ、私の番だ!」と立ち上がったのは女剣士サリナ。
「剣に生き、剣に死ぬが人生! 姓はスクァダス! 名はサリナ!
アロフネスの国津或船刀剣術道場より武者修行の旅の途中だ!!
そして! 今日この場でこれほどの達人たちと会い見えられた事に感謝する!!
未だ廃人の領域には至れぬLv784の未熟者であるが!
そう! 厭くまで未だなのだ!」
「戦う前の名乗りみたいだな」
「っつうか何気に俺らよりレベル高ぇな…?!」
「うぬぅ…? まさか、これでは拙かったのか?!」
「サリナ、ダメって事は無いけど、アリかナシかで言えばナシの方向」
「ぐぬぅ…! やはり、修行不足かッ!!」
サリナは「うさぎ跳び500段を10000段くらいにしなければ…!」などと
呟きながら席に座った。
「さぁて…! ワタクシの出番がやってきたようですなっ!!
そう! ワタクシこそ――「アズヴェルはボクが簡単に紹介するよ。この人は
生まれはニザヴェッリル地方らしいんだけど詳細な出自が怪しすぎて信用できない
ド変態覗き魔の生臭二級神術師のアズヴェルね。女の子は必要以上に近寄らないように、
この人の音速のセクハラ術はサリナ級の実力でも時々本当にシャレにならないから」
「ぷぎゃーっ!? ワタクシの第一印象がぁっ…!!」
「レベル200以下で良く今迄このパーティ内で生きながらえているのが謎な男だな」
「ふっふっふ…ワタクシ何気にLUCだけは誰にも負けない自信がありますぞっ!!」
ステータスを見れば確かにLUC112089(限界突破UL)は恐るべきものだが、
続けて何かを言おうとしてまたしても「氷界地獄」で
氷漬けにされたリアルラックは激低なアズヴェルを軽く放置したサドラスは
彼を氷漬けにした張本人であるカナンに向き直る。
目が合ったら括目してガン見された。
「じゃ…じゃあボクの番かな…えと…もう周知なのは承知だけどボクの名前はカナン。
本名は香奈美・ハユハ・神田で…芬蘭と日本のハーフです。
種族は最近、光翼超人に存在進化しました。
職業は超鬼龍召喚師がメインで、ほかには光之中忍聖、
冥界送神卿をやってます…で、その…レベルなんですが…
よ…4999です!!」
カナンの最後の言葉に動揺しないのはサドラスだけだ。
「ぶッ?! サドラスなら兎も角、
一体どうやったらそこまで上げられるのか不思議だろうが!?」
「うへ~…流石に私も引くわ~マジ引くわ~
この間レベル600越えたのがアホみたいだわ~」
「俺ぁ分かってたわ、昔サドラスに手解き受けてる嬢ちゃんだって聞いてたし。
そりゃそんだけのステータスがあればデスゲーム生存も楽勝だろうよ」
「あの…カナンさんはもしかして僕たちみたいに『天元至高時空間』とかに…?」
「同い年なんだから、ボクの事はカナンで良いよスイちゃん――
――「す、スイちゃん…! いや僕はおとk――
――ちなみに天元至高時空間は782334Fで心が折れたょ…
軒並みレベル一桁とか神様マジ死ねばいいって思ったょ…」
「惜しいな、1019038Fからモンスターのレベルは1ずつ上昇していくのだが」
「もぅ! サドラスくんの感覚オカシイよ!!」
「まぁレベル6535で打ち止めだがな」
「それを分かってて何回も1Fから
踏破しまくるサドラスくんはホントに変なんだからね?!」
カナンのそのセリフにはサドラス以外の全員が「おまゆう」だと思うが
あの二人の間に妙な雰囲気と空間が出来上がってきていたので誰も突っ込まない。
数多くの女性陣の表情が消えていってるのは数少ない男子勢にとって拷問だろうか。
「経験値はともかく、最深部付近のモンスターのレア素材は捨て置けんのだ。
最低でも魔導文明級だ。13万回に一回くらいは究極級、119万回に一回くらいは無限級も手に入るんだ。
普通に得ようとすれば一体どれだけの天文学的単位確率分の一となるだろうか…」
「サドラスくん……それは確かに魅力的な気がするけど!!
結局単純に考えても満足いく結果になるのはそれこそ何千万分の一でしょ!!」
「一階からクリアすれば必ず創世級素材が256個貰えるのだが?」
「えっ…その話詳しく」
「シュウ!!」
「ぬをっ!?」
サドラスの片側に百が何気に全身を絡みつかせた。
しえりゃんはニヤニヤしながら、厳蔵はヒヤヒヤしながら、
そしてスイゲツはソワソワしながら、こっそりその様子をREC開始。
「何ッかムカつくのじゃっ!」
「ぬあっ?!」
サドラスの開いていた側にユスタリシアが堂々と全身を絡みつかせる。
流石にカナンの表情も妙な曇りを見せはじめた。
「ふむ、あの二人が正妻候補なのだな?」(グウェンダ)
「我が君のそういう話は…私に聞かれてもわかりませぬぅ…」(ララリリル)
「最近タイドがナンカしているけど、具合でもワルいのかよ?」(ジル=ルミル)
「良いのでス。マスターと一緒に居られるだけで幸せなのでス」(メドラ)
「同格以上の相手に正面から挑む勇気を私は持ち合わせていないし、
そもそも魔王さまは過剰なスキンシップを嫌う傾向にある。だからやらない」(スピナ)
「最近サドラス殿の周りに隙が無いですからね…」(キュクル)
人外っ娘勢は大概が存外冷静に談笑していたが、
「………(^^#)」
「………不純、粛清…」
ロティやクリシュネーアの表情はもう何と言っていいか分からない。
強いて言えば笑顔のはずなのに能面のように見えるのだ。
「………ッつぇい!」
「…あ」
「なんじゃとっ?!」
抜け方がまるでウナギみたく見えて存外気持ち悪かったが、
サドラスは左右美少女絡付After最終地獄という構図から抜け出すことにとりあえず成功した。
「で、カナン…確かお前は俺が異世界に来てから大体一ヶ月の
ズレがあったんだよな?」
「そうだよサドラスくん! しかもサドラスくんが来たっていうトライブ島で!
おまけにミズガルズ都市国家郡!」
「何気に一週間しないで出会ったのが私だったりするってば、運命の悪戯ってやつ?」
「かもね。そういえばあの時のシルビィって」
「こらー! 黒歴史にするってば何回言わせるんだってば!?」
うまい事、論点という名の論争ヘイト(笑)がカナンに移ったところで
サドラスは更なる注目ヘイト(笑)を逸らすべく、何となくうやむやに
なりかけている現実世界への帰還の話題を持ち出すことにした。
「KATUMI。運営本拠地への到達計画の
進捗を聞いてみたいんだが」
「以前お前が試してくれた生身での直テレポートは未だ実験段階から
移れんのだ…何しろ送った無人鎧機兵からの応答が一切帰ってこない…
畜生あの一機に何TYD掛かってると思ってんだ…!」
「そうか、それなら10EYDを百日一割で貸してやろうか?」
「年利30%越えはトイチ並に質が悪いのだ! っていうか普通メガ…
百万単位以上の貸付の年利は9%以下と相場が決まっているだろうに!」
「KATUMIww俺が善人に見えるのか?」
「畜生めぇえええッ!! 絶対に見えて堪るものかあっ!」
こうやってKATUMIのヘイトを受けて十数分経過すれば、
女性陣の万能属性雨霰攻撃フラグから逃れられることを最近学習したサドラスは
調子に乗りすぎてKATUMIのケモ耳メイドたちが
間に割って入らない程度のギリギリのさじ加減を見定めつつ、
KATUMIを精神的に痛めつけて遊ぼうと思ったところで
「そういえばさ、あんたの飛行戦艦って宇宙船仕様とかにはしないのか?」
「えっ…?」
「…あぁ?」
何気にPCメンバー最年長なスピリバの一言で場の雰囲気が一変した。
「おいサドラス!」
「何だ」
「この際百一で構わないから5000PYDを融資して欲しいのだ!」
「…ほぉう?」
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・北方開拓地>>
北方開拓地と銘打たれていはいるが、実際は帝国十四伯爵の一人にして
最近は『天の御遣い』と呼ばれなくなったKATUMIの直轄領だったりする。
今この地は大掛かりな開発が急ピッチで進められていた。
「急げー! 我等の伯爵様がまたスイッチ切り替わったぞー!」
「ここで踏ん張りゃ礼金は軽く三十倍!
倍々チャンスだ! 死ぬ気で働けぇ!!」
「しっかし相変わらずわけわからん機材だなー…これ一体何に使うんだ?」
「落とすんじゃないぞ! それは創世級の素材だからな!!」
「げっマジかうをっまぶし…!」
「わああああ危なーい!!」
喧騒は凄まじく、そしてその中には「C†B†E」を初めとしたPCメンバー達が
忙しなく動き回る様子も見て取れた。
「暇じゃのぅ…」
「暇なら引っ付くのやめてくれませんかねえ」
「嫌じゃ」
「せめて密着だけは勘弁してもらえませんかねえ」
「ん。無理、不可能。シュウ成分の充填が必要」
「サドラスくん…随分と好かれてるね? ロティさんに言いつけちゃお~かな~?」
「お願いですから見逃してくれませんかねえ!」
状況が状況なだけにサドラスは記憶喪失時代の律儀モードになっていた。
この四名は存外専門外であり、付随して生産・開発特化関連のスキルが碌に無い
戦闘(狂)特化ステータスなため、「超邪魔だから近くで見てろ」と釘を刺されたのだ。
それゆえに近くとか言いながら遠くに追いやられて黙って見ていたのだが、
「のぅ、シュウよ。汗でも流さぬか? 話によればKATUMIの奴め
囲っておるメイドたちと一緒に入れるお風呂を何箇所も造っておるそうじゃぞ?」
「それは後で奴を半殺しにして問い詰めるが、実は俺シャワー派なんだ」
「ん。ということで一緒に洗いっこでもしよう?」
「あれ? っていうか今朝私モモちゃんたちとお風呂入ったよ?」
「……ちぃっ…!」
「カナン…余計なことを言いおって…!」
抱きつかれるって言うか可愛い子に密着されるのが嫌いとか言う
ミラクルホモみたいな存在じゃないサドラスは、すばらしい感触とか匂いをさり気なく
だがしかしゲスに堪能してはいたが、この状況はいろいろとまずいなと思うも
何も対策が浮かばず困り果てていた。そして左右を向くことができない
目のやり場に困る状況でもあったため、ふと空を見上げる。
「GrTrAdの二つの月…紅星と銀星が両方とも満月なのか」
「ってことは今お月見シーズン?」
「む。月見団子とか…む…持って来てない」
「月餅ならあるが…聊か”ぼりゅーみぃ”じゃしのぅ」
「それわかる…しかもそれが何段にも積まれてるのを見るのはちょっと…」
「「「………」」」
「胃、ムカムカしてきた」
無性に煙草が吸いたくなったが未成年女子に囲まれているので
良心的喫煙者の呵責と(変態)紳士のプライドによって吸うに吸えない。
それゆえにサドラスの退屈からくる苛立ちは高まるばかり。
「埒が明かんな、ダンジョンでも潜りに行こうか」
「天元至高時空間以外でねサドラスくん」
「……ぬぅッ…!」
「シュウ。あそこは笑えない」
「わらわも嫌じゃ百万階層越えだけでも十分イカれておるが、
あそこは狂気の沙汰じゃ。人間業じゃないぞぇ」
サドラスは月を見つめながら考えた。
さりげなく百とユスタリシアが再び密着して来ようとするのを
ぬるぬる躱しながら。
「月面にも…あるじゃないか…深層ダンジョン!」
「そこってピンク系カラーの色違いモンスターとか出るの?」
「低確ではあるが」
「おっけ! ボク付き合うよ!」
「む…! 二人だけでは絶対にイかせない」
「おぬし一人にシュウはヤらせはせんぞぉ!」
聞く人が聞けば如何様にも解釈できる会話を弾ませながら、
サドラス、カナン、百、ユスタリシアの四人はいまだ大規模な土地開発かと
言いたくなるような空中戦艦「大空悪竜」の
宇宙戦艦仕様への魔改造魔改修工事の様子を尻目にそこを後にした。
<<フィールド:ムスペルヘイム地方 現在地:スヴァルトスルト霊山>>
竜帝国のあるニヴルヘイム地方を囲む南海を少し東に進むと
ニヴルヘイム地方の気候はやはり異世界ならではのモノなのだと痛感する
灼熱の火山諸島がある。そこがムスペルヘイム地方と呼ばれる場所だ。
基本的にすべての火山が活火山で、大体三割が大小さまざまな噴火活動をしている
ゲーム時代から超が付く危険地帯だ。ゆえにデスゲーム時代は
サドラス並のどうかしてるレベルの境地に至った廃人でもなければ
有名レッドプレイヤーさえも潜伏先に躊躇う酷さである。
というか噴火に巻き込まれたりすれば大ダメージとかいう問題では済まない。
火山噴火のエネルギーは地上最強だったはずの某究極生命体さえも
凍える宇宙に放逐するほどの威力を有しているのだ。
「ふむ…やはり素だと炎属性で千単位のダメージを受けるんだな」
「それはシュウが溶岩の上を普通に歩いている時限定の話じゃっ!」
「ここは流石に空飛ぼうよサドラスくん」
「シュウ。塵も積もれば何とやら」
「あぁ。じゃあ俺も遊ぶのはやめよう」
とか和やかに会話するこいつらは降り注ぐ火山岩とか軽~くバリアで防御したり
爽やかに弾きまくっているということも忘れないでもらいたい。
ちなみにモンスターも出合い頭に弾き殺しているのはご愛嬌だろうが
流石にそれは素直には受け止められない。
見ろ、平均レベル400のモンスターがゴミのようだ。
「ムスペルテイン塔はもう少しで見えてくるのだが」
「MAPを開くと、火山岩が破壊可能オブジェクト扱いの点で映るから鬱陶しい」
「しかしダンジョン経由なら月にも行けるのは初耳じゃ」
「ユウちゃんデスゲ時代は8歳だったから仕方ないんじゃない?」
「そういえばそうじゃったのぅ…はて? 仮に現実世界に戻れたとしたら
向こうのわらわはどういった状況になってしまうのかぇ?」
「そういう想像はやめておけ。不安材料にしかならんぞ」
サドラスは何となくデスゲーム時代と状態は変わらないのではないかと推測していた。
なんだかんだで最後の最後は現実主義者になりがちなサドラスは、
異世界生活も1年以上続いてしまったデスゲームの延長線上と捉えている。
「む…仮にデスゲ状態のままだったら…ふ…勝った」
「なんじゃと?」
「あー…だよねーユウちゃん体が8歳のままって可能性も大だろうし」
「ぐぬぬ…ここでの10年間の身体的成長を持ち越せぬじゃとぅ…!?」
ニヤリと笑う百をぐぬぬと睨むユスタリシア。
それを見て苦笑しつつも微笑ましく見守るカナン。
そんな三人をチラ見しているサドラスは顔面に火山弾が命中して、
ちょっとイラッとしたのか次に飛んできた火山弾を鷲掴みにして全力でぶん投げた。
アイス棒ドミノ倒しの如く美しく連鎖的に弾け飛びまくっていく火山弾を眺めていたら
霊山の頂上付近に最後の一個が激突した。
「どうやら目視で塔が見れそうだ」
「えっ? どこどこ? どこなのサドラスくん?」
「右、60度手前」
「ほぉ…名の通り火炎の杖みたいな形をしておるのぅ」
サドラスたちが注目する先に、確かに炎の杖のような形をした建造物が見える。
ここが『ムスペルテイン塔』である。霊山の平均レベルを倍以上に上回る怪物たちが
運営死ねばいいのにと思うレベルで跋扈している炎獄の塔だ。
<<フィールド:ムスペルヘイム地方 現在地:ムスペルテイン塔・第一階層>>
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塔の全階層は3610階。その全階層からもわかることなのだが
やはりデスゲーム以前から悪寄り開発スタッフの人間性に問題を感じる。
敵は状況からして炎属性にバカみたいな耐性を持っている。
さらにふざけているのはここのモンスターは時間経過でHPが徐々に回復するのだ。
そして平均レベルは800越え。火炎特化だからってレベル高すぎじゃね?
マジでどうかしていると思うが、とりあえず水、土、氷系統の大ダメージ攻撃手段と
炎属性防御、火傷・麻痺などのバステを確実に防御できる装備なしで挑むのは
デスゲーム時代以前から自殺行為モノだ。
もしも塔内で紫色のモンスターを見かけたら逃げろ。
あれは波動属性「も」持ってる超厄介なモンスターだ。
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「以上。攻略組のウィキより抜粋」
「紫色ってサドラスくんのことじゃないよね?」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれない…何しろ此処は一年ぶりだ」
「しかし見た目からして超熱いと思っておったが…ものすご~く熱いのぅ!」
「ふぅ…汗、ひどい…」
百は少し上着の首元をずらして団扇のようなものでパタパタ扇いだ。
ユスタリシアもカナンも見かねて同様の行為に及んだ。
サドラスの目線はそれを見逃さない。だが、気取られてはダメなのだ!
気取られればただの爆発しやがれリア充展開にしかならんのだから!
「ここだ。ここの壁の向こう側に隠し通路がある」
「え? でもここ普通に叩けるよサドラスくん?」
壁をコンコンと叩くカナンの言に反応したユスタリシアは
壁ドンならぬ壁ドゴンするつもりで壁に思い切り正拳突きを放つ。
「……固っ…素手ではちぃと無茶じゃったか」
「ちょっと、離れて」
今度は百は他のメンバーが全員離れきる前に
神術MM(Lv2000)「バニシングホールキャノン」を壁にブチかました。
壁は木っ端微塵に砕け散り、その向こう側には確かに隠し通路があった。
「こら! わらわ達諸共に吹き飛ばすつもりかぇ!?」
「…ちっ…そういう手もあったか」
「何気にモモちゃん怖いこと考えてるねwまぁボクそれくらいじゃ死なないけどw」
「む…」
「ちなみにこの壁は時間経過で元通りに復元してしまうので、
ブチ抜き次第さっさと通り抜けないと壁と一体化して面倒くさいことになるぞ」
サドラスが言う通り、ぶち抜かれたはずの壁が見る見る元通りに戻り始めている。
「シュウよ。ちなみに一体化してしまった場合どうなったのじゃ?」
「ゲーム時代は大体最大HP13%程度が一秒で削られたな」
「10カウントすらいかないとか、それアウトだね。早く通り抜けようよ」
「ん…シュウでそれなら私たちは即死しかねないかも」
「じゃあ行くか……あぁ? もう半分以上復元したのか………ふんッ!!」
百が神術MMの魔法スキルで壊してほぼ元通りになったはずの壁を
サドラスはちょっと強めのワンパンで粉砕した。
壁が文字通り粉状に砕け散るのは何かが間違っている気がする。
「これが、STR280000越えの世界か…
そういえば最近わらわ修行をサボり気味だったかもしれんのぅ」
「すごいねぇサドラスくん…ボクも召喚師としての弱点をちゃんと補わなくちゃ」
「物理究極のシュウと魔法究極の私がいれば天下無双…」
いろいろと深く突っ込みたいが残念ながら、今ここには突っ込み役が一人もいない。
ゆえにそのまま談笑しながらサドラスたちは隠し通路の向こう側へ消えていった。
<<フィールド:ムスペルヘイム地方 現在地:ムスペルテイン塔・第2987階層>>
サドラスたちが一階の隠し通路の奥にあったワープポイントを抜けてきた先は
本当にここが塔なのかどうかを疑ってしまうほどの灼熱溶岩地獄だった。
「ぬわ?! 熱いと思っておったらわらわのHPが削れてきておるぞ?!」
「つまりユウは炎耐性が256以下なのか…仕方ない」
サドラスはユスタリシアに障壁+99「ソーラーウィンドバニッシュ」を付与した。
「今更ながらシュウの大量保持スキルには驚かされるのぅ」
「自分の身を守るために臆病者を極めた結果だ」
「ん。死んだらおしまいだからそんな言い方はおかしい」
「そうだよサドラスくん。ところでサドラスくんはどれくらいスキル持ってるの?」
カナンの質問に顎に手をやって考えるサドラス。
「…スキル表示は一ページ256項目……78ページ以降はちゃんと数えてないな」
「シュウよ。もはや廃人の域さえも超過しておるな」
「ん。伝承スクロールを足元価格でなくても売れば荒稼ぎボロ儲けできる」
「ほえぇ…私なんかまだ40ページすら達成してないよ」
彼らの会話はすでに常識を一々吹き飛ばしているが、如何せんこのパーティには
深く突っ込んでくれる者がいないので誰も突っ込んでくれない。
今しばらくボケ(?)倒しは続く。
……。
…。
「…なんだか炎属性ばかりで飽きてくるね」
「まぁ炎の塔じゃし、仕方なかろう」
「ん。攻略組のウィキに出てた紫色の敵が出てこない」
「出会えれば波動属性の素材を剥ぎとれそうなのだが…まぁ見つからんなら仕方ない」
などと言いながら火炎の化け物たちの死骸とかをパキポキとか音を立てつつ
見ているこちら側がモンスター達に憐憫の情が移りそうになるほど
小気味よく軽やかに踏み拉いて進んでいくサドラス一行。
おそらく紫色のモンスターは賢いのだろう。まともに戦っては
こいつら相手では命が幾つあっても足りないだろうから。
「うん? そういえばカナンよ。おぬしは召喚師がメイン職業ではなかったのかぇ?」
「そうだけど?」
「その割には、全然召喚してない。大概シュウみたいに一撃瞬殺で終わる」
「えー…だってここの敵ってレベル1000すら超えてないじゃん…」
「だが俺も気になる。お前のサモンモンスターを見てみたいのだが」
「サドラスくんも気になるの? うーん…MP結構食うんだけど…」
「ならば俺も時空神機人に絶空覇邪竜皇と爆撃翼魔神機を
お披露目してやる。それでどうだ」
言いつつすでに近場で三柱の異界王たちを呼んだサドラス。
しょーもないことで呼ばれるレベル6500越えの彼らの立場って…。
「サドラスくんがそこまでしてくれるなら…まぁいっか。
おいで! 『にゃるそん』! 『はやと』くん! 『ぴか虫』ちゃん!」
サドラスの行動に答えるようにカナンも高速詠唱の後に、
三体のサモンモンスターを自分の近場に呼び出した。
三体中一番小さいのはサイズこそ普通だが全身の毛色が
ショッキングピンクの虎縞で背中に体長の三倍はある
天使のような翼を生やした猫。
三体中中くらい(といっても全長40mは楽勝で超えてる)のサイズの巨大隼。
体色こそ普通だが、首にはショッキングピンクカラーのマフラーが巻かれている。
そして三体中最も大きなサイズだったのが、
「ぬぉぅわ?! なんという馬鹿でかい蜘蛛ぉ?!」
「んむ…怖気が走る毛むくじゃら加減…でも眼だけは可愛い」
「ふむ、こいつも全身ショッキングピンクカラーか」
三者三様の反応だが、超巨大(推定全長60m)なネコハエトリグモである。
ツッコミ所がありすぎると思っていたらこの蜘蛛の頭にも
ショッキングピンクカラーのネコ耳カチューシャが…?!
「一番呼ぶことが多いのがこの猫…智天使猫王の『にゃるそん』だよ。
雑魚を蹴散らすときはこの子の四大属性広域殲滅魔法にお世話になってるね」
「ねぅ~」
『にゃるそん』はカナンの足元にじゃれ付いている。
「サイズ的にあんまり呼ぶことがないけど、サモンモンスターの中では
数少ない話し相手にもなってくれる龍喰空王隼の『はやと』くん」
「御嬢様共々、コンゴトモヨロシク」
『はやと』は礼儀正しいお辞儀をした。お辞儀しながらサドラスにガン飛ばしをするが
サドラスがニヤリと邪神級の微笑みを返したらサッと眼を逸らした。
「で、最近お気に入りなこの子が『ぴか虫』ちゃんだね」
「ふしゅるるるるるるるるる…」
「さ、参考までにこの者のレベルを知りたいのじゃが…?」
「にゃるそんから順番にレベル4997、4996、4995だったかな」
「プレッシャーは…尋常じゃないレベル差が原因…?!」
「召喚モンスターの利便性はやはり召喚者とほぼ同等のレベルを持つことだ。
ロマン職だと馬鹿にした連中はみんなデスゲーム時代に世を去っている」
「……サブ職も真面目に検討するべきじゃったかのぅ」
「一応私は機械系限定だけど喚べる…でもレベルなし…要改造…
ふっ…千里の道…………………………うぅ~…! 課金さえ…課金さえできれば…!」
「モモ。月の深層ダンジョンに行けば素材が剥ぎ放題だ。頑張れ」
「ん! 頑張る!」
景気づけに近くを通りがかった運の悪い(?)レイドPTのモンスターを
【極大魔法】永遠にして大いなる冬で行動不能にした挙句、
神術+2258「オメガ・ライフエクソダス・ウェーブ」で蹴散らす百。
「わらわもウカウカしてはおれぬ…!」
運よく生き残った堅そうなモンスターを戦槍術X「竜嵐滅陣槍+267」で
ハチの巣にするユスタリシア。
「さて、ただ呼び出してすぐ返すのもアレだ。お前らも一暴れするか?」
サドラスの問いかけに三柱の異界王たちは無言で頷いて戦線に加わった。
ということであの様子を見てくれ、平均レベル800越えの
レイドパーティを組んだモンスター達が蹂躙される様をどう思う?
「にゃるそん達も行ってきていいよ? せっかくだから遊んできなよ」
「ねぅ~」
「ワカッタ」
「ふしゅるるっるるるっ」
ああ、わかってはいるんだ。誰も深く突っ込む者などいないことを。
<<フィールド:ムスペルヘイム地方 現在地:ムスペルテイン塔・頂上部>>
味気なさそうな顔をしたサドラスの足元には、多くの巨人型モンスターの首とかが
所狭しくゴロゴロと転がっている。もう酷いってレベルじゃない光景だ。
「一体一体のレベルが2000到達してないのは残念だな」
「そうだねぇ。分配経験値3億2200万じゃレベル0.1すら上がらないよ」
「それシュウとカナンだけじゃと思う。わらわはレベル14ほど上がったぞ」
「私はレベル8つ上がった」
サドラスは頂上の中央に立つ。すると地面に転移魔方陣が浮かび上がる。
「どうやらちゃんと作動するようだ」
「ん、メッセージウィンドウも確認した」
「さて…いよいよ月面か…ドキドキするのぅ」
「そうだね…リアルじゃ望遠カメラでしか見たことなかったし」
四人が全員中央に集まったことを確認したサドラスは
展開されたメッセージウィンドウの説明を一応読んだ。
==============================
【銀星・静の海】へ、転移しますか?
==============================
サドラスがYesのボタンを押す少し前に百が一言こぼす。
「シュウ…月面って極低温真空空間じゃないの…?」
「いや、極低温は否定できないが流石に真空ではない…はずだったな」
「ちょ!? シュウ待っ――
「バリアバリア…! っていうか氷と風の複合属性で間に合うのかな…?!」
四人の姿は粒子状になって遥か彼方の天空の月『銀星』へ転移していった。
<<フィールド:第二の月『銀星』 現在地:静の海>>
海とは銘打たれているが、実際は水が存在していたであろう名残だ。
そこにサドラスを除いて三者三様に慌てふためく女性陣。
「落ち着け。リアルと違って空気はある」
「く、くくくく空気だけじゃあああああ!」
「さ、む、い…」
「うわ…! スリップダメージが存外無視できないよサドラスくん?!」
サドラスは黙って三人に障壁スキルMMM(Lv3000)の『干渉不可世界』を付与した。
「おぉぅ? 急に寒さが…」
「HP、減らなくなった」
「やっぱりサドラスくんすごいねぇ…ってあれ? このバリアの境界部分…
触れている地面がジリジリ削れてる気がするんだけど…?」
「攻防一体の仕様だからだ。同じ場所に突っ立ったままだとそのまま地中に沈むぞ」
「そういうことは先に言ってほしいのう…爪先はもう沈んでおったわ」
「うろうろするのは好きじゃないけど、シュウに従う」
サドラスは一応MAPを展開する。目的地である月の深層ダンジョンの場所を
手打ちでマーカーを記していた記憶はなかったが、
もしかしてという思いでMAPを舐めるように見つめた。
「………とりあえず北に行くか」
「結局は適当じゃな。まぁ嫌いじゃないがのぅ」
「ん、シュウは存外適当。けどそこが私に丁度良い」
「リアルの月を再現したって聞いてたけど…ホントに単色な風景だね、サドラスくん」
月の砂をいじりながらサドラスに話しかけるカナンだったが、
サドラスがMAPを見たまま訝しげに考え込んでいるのを見て、
続けざまに言おうとした言葉を飲み込んだ。
「……妙だ、月面でも地中龍系のモンスターに
会えるはずなのだが…一匹も反応がない」
「高レベル高耐性超鉄壁が基本なワーム系が普通におるのか…」
「運営の半分は今すぐ死ぬべき」
訝しげに考え込みつつも愛用の銃剣と大斧を装備するサドラスを見て、
三人娘たちも自分の得物をちゃんと装備して周りの様子を伺った。
「……チィッ!!」
サドラスは舌打ちをしつつ三人娘たちの前に立ち、
どこからともなく飛んできた"何か"を連続で弾き飛ばした。
「視界外?! というか音も聞こえんかったぞ?!」
「とにかくユウちゃんも全方位のバリアがあったら早く出さないと!」
「今のところ、シュウが立ってる方向からしか飛んで――」
百の頬を何かが掠め、うっすらと血が滲んだ。
「モモ。方向は確かに合っているが、
どうやら敵は高レベルバリア貫通+不規則型オートエイミング攻撃が可能なヤツだ」
「ん…今、理解した」
「モモちゃん大丈夫?」
「掠っただけ、でも結構痛い…」
「状態異常とかも確認しておくのじゃぞ…
それにしてもなんて卑らしい攻撃じゃ」
カナンと百は思いつく限りのシールドやバリアを展開し、ユスタリシアはサドラスが
捉えきれなかった弾道から飛んでくる弾らしきものを半分当てずっぽうだが予測して
どうにかパリング回避を続けている。
「俺のMMM障壁をも貫通するとは………楽しくなってきたじゃあないか…!」
「わらわ達的には全然楽しくないがのぅ!」
「地味に痛みが蓄積するのは…むかつく」
「方向はわかってても視界外だから場所が見当つかないってのも尚更だね…!」
…。
普通なら疲労の色を見せ始めるものだが、サドラスのパリング回避は最初より
キレが良くなっている気がする。何しろ三人娘たちが回復を余裕で行えるからだ。
「敵も敵じゃが…シュウもシュウじゃ…」
「流石にボクもあの動きには着いて行けないよw」
「シュウ。すごく笑ってる」
「グハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
良いぞ! 好いぞぉ! 善いぞぉぉおおぉぉおぉおッ!」
守られる側としては良いかもしれないが、サドラスの動きが段々おかしくなっている。
敵の弾丸をパリングすると同時に撃ってきたと思われる方向に、
地面を物凄く削りながら進む当たったら間違いなくヤバそうなドス黒い衝撃波を放つ
闇魔剣奥義X『ディバイドラインブレイカー+379』を放っているのだ。
放たれてから数分は敵の超遠距離攻撃が緩むので、
サドラスは続けざまに黒魔法+3999「グラビトロンミキサーキャノン」も
撃ちつつ三人娘たちの周囲をぐるぐる回って砂煙を起こし、敵側諸共に視界を悪くする。
しかしながら敵も敵で視界の悪さをものともしない精密な射撃をサドラスに集中する。
たまに命中しても急所じゃないので意に返さず反撃を行うサドラス。
「………動けぬ」
「動いたら、死ぬかも」
「なんかもう流れ弾の威力も最初よりおかしくなってるしぃ…」
そうこぼすカナンの足元にはどう見ても隕石衝突級のクレーターができていた。
というか三人娘たちの周囲にはそれまで其処に存在しなかったはずの
夥しい数のクレーターが点在しているのだ。
<ようやく分かったぜ。このオレ様の連射地獄に耐えまくる紫野郎は
どう考えても手前しかいねぇわな☆彡 っていうか手前は
あの時からチャットメールのアドを変更してなかったのかよ?>
攻撃が止んだかと思えばサドラスの眼前にチャットメール用のウィンドウが展開される。
「……あぁ?」
サドラスは <誰だ貴様> と一言返す。
<寂しいこと言うなよ☆彡 かつて手前の所属したギルドマスターである
このオレ様を忘れたとは言わせねぇよ?>
<いや普通にご存じないな。超遠距離を望遠できるスキルを持っていながら
旧い知り合いに遠慮も糞もない視界外からの殺す気満々☆連射天国を
ブチかますやつなど、俺の知っている男がするとは思えんなぁ?>
<紫の人型が手前じゃなかったら色々ヤベーだろw察しろカスwww>
サドラスは愛用の武器をストレージに収納し、三人娘に安全を確保したことを告げた。
「どういうことじゃ?」
「むぅ…?」
「っていうかさっきから誰とチャットメールしてるのサドラスくん?」
「オレオレっ! オレ様だよぉ!!」
「「「?!」」」
「……あぁ、そんな所にいたのか…時穏」
サドラスが目をやった方向…と言っても数千メートル近く離れた地面から
人型の戦車かと言いたくなるような武装をしたケモ耳の機甲人の青年が
猛スピードで砂煙を巻き起こしながらダッシュして現れた。
「元気だったかぁサドラスぅ!! っつーかやっぱり手前もこっちに来てたんだなっ!」
「シュウ…誰、これ?」
「こらこらそこの同族ロリっ娘! オレ様をコレ呼ばわりとは…!
ケモ耳prprの刑に処するぞっ☆彡」
「ひ…!」
「今目の色がおかしかった気がするのぅ…」
「サドラスくん…この…人? …は誰?」
「ああもう面倒くせえからそこの女の子三人全員ケモ耳prpr刑にしぶっ?!」
「いい加減にしろ時穏…そんなだから貴様はGrTrAd攻略組ギルマスとして
何度も何度も不信任決議案を提出されるんだぞ?」
サドラスがしれっと言い放った言葉に三人娘たちは各々驚愕の表情を見せた。
第17B話へ続く。
年明け一発更新がまた前編的な話でm(__)m




