第16話 KATUMI「嗚呼、温泉に…! 温泉に…ッ!!」
年末前に一話置いていきます!
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国第四侯爵領エテルマ州都ネポリス>>
ルーンテールとアロフネスの国境線沿いにある山岳都市ネポリス。
ここはルーンテール七侯爵の一人である第四侯爵スタキトゥ・エテルマが治める帝国有数の温泉街だ。
今現在は二大国がサドラスの存在だの大活躍云々を切っ掛けに益々交流が盛んなため、
スタキトゥ侯爵的にはウハウハな毎日だろう。それ故に今ネポリスでは
余程の賞金首といったふうな要注意人物でもない限り、魔族も異民族も
千客万来おいでませ帝国大温泉~♪ 的な連日連夜お祭り騒ぎである。
「やっとヴァナヘイム地方入りできた…! 流石にもうボクの足も棒みたいだよぉ…!」
だがこの街に現れた、髪の色もそうだが、全身を衝撃桃色で統一された防具を身に纏う
術師らしきボクっ娘の存在は、あまりにも衝撃的過ぎてネポリスでも少しばかり喧騒が薄まっている。
喧騒が薄まる理由としてはこのボクっ娘、誰の眼にも頭上の名前が???と表記されているからである。
付け加えるとここには平均150を超える名うての高レベル冒険者やチームがいるが、その誰もが
その衝撃桃色のボクっ娘の名前を「レイド・アナライズ」を以ってしても看破できないことも理由の一つだ。
「フェンリル地方の怪物共は心に得るモノあれど身に得るモノは不毛であった…!
だが、そこが良い!」
全身衝撃桃色のボクっ娘を護衛するかのような位置で喋る長耳が特徴的な
兎人族のアロフネス皇国防人風女剣士もまた、
頭上の名前が?表記だ。流石にこの女剣士は「レイド・アナライズ」が使える連中に
ある程度看破されているようだが、それでも看破した連中が「ま、廃人級…?!」
「これがオンリーインアロフネスか?!」「相変わらず皇国の連中はイカれてやがる…!」
とか言っているのでこの女剣士のレベルも中々に常軌を逸しているのだろう。
「待ってカナちゃんってば!! 歩くの早いってば!」
「いやはや…あらふぉーなワタクシとしてはもう少しゆっくり歩いてもらいたいものですなっ…
そうすればジックリとお二人の水蜜桃のようなおしr…」
「あんたは自重しろってば」
「ぬ熱ぅあっ!?」
ボクっ娘と女剣士の後を追う生臭さ漂う神官らしき男が、
近い距離に居た全体的に平坦だが頭の左巻きの角が特徴的な山羊人族の魔法使いの少女に
火炎術Ⅳの火炎弾をブチ込まれる。
レベル差があるせいか男はそこまで大きなダメージは受けていないようだ。
「あ、ごめんシルビィ。ボクもう何か一刻も早く温泉行きたくて…」
「不毛と言えばフェンリル地方では碌に湯浴みも出来なんだ…そう、それは良くない!」
「温泉ですとッ!? 何という行幸! 神よ! このめぐり合わせ感謝いたしますっ!」
「マジでいい加減にしろってば」
「どぅを熱ぅあちゃいっ!?」
「アズヴェルホントにいい加減にしてね?」
ボクっ娘にシルビィと呼ばれた魔法使いは、アズヴェルと呼ばれた神官に
今度は火炎術Ⅶの火炎竜巻をブチかました。
レベル差が大きくなかったら120%くらいの確率で火だるまになって焼け焦げていただろう。
「色事に関しては時折我が目を疑うほど強くあるが…
貴様はもう少しその情熱を多方面に向けるべきだ…おっと、それ以上は寄らば斬る!
何時如何なる時も剣に生き、剣に死ぬ! ああ、これが良い!」
「サリナさんってば、つくづく剣士バカだね」
「ぬぅぅ…っ! 強大過ぎるレベル差さえ無ければぁ…っ!」
「アズヴェル。そろそろ本気でパーティ登録解除を検討するよ?」
「申し訳ありませんでしたっ!」
ボクっ娘の一言に電光石火でスライディング土下座をし、
あわよくば少女たちのスカートの下を覗こうとして女剣士ことサリナに踏まれるアズヴェル。
「修行が足りないな。出直してこい…だが、修行は色事意外でだ!」
「ふぁい」
「んでさぁカナちゃんってば? 漸くヴァナヘイム地方にたどり着けたけど、
温泉入った後はどんな予定を立ててるの?」
シルビィに話しかけられたボクっ娘こと『カナちゃん』は顎に手を当てて軽く考える。
「ん~~~~~…いっつもニアミスだったし…変に焦るのやめようかな」
「然り、時には静観するも好いこと。立ち止まり周りを見渡せば、
自ずと道は開ける…そう、それも良い!」
「まぁここは温泉街…フフフ…ついに私のターンが来ましたよっ!」
「マジで自重しろってば」
「熱…くない!? 何だこれは体が痺れて…!?」
「だから私最近束縛系スキルも覚えたってば、この間言ったじゃん」
「シルビィがどんどん頼もしくなっていくね」
「何言ってんのさ…カナちゃんに比べたら私なんてヒヨッコも良い所だってばw
カナちゃんの召喚術のあの恐ろしさはねえwww」
「やめてよシルビィ…まぁそこだけは否定しないけどw」
「自らの鍛錬を欠かさぬこと…そう、それこそが何よりも良いことだ!」
きゃいきゃいと姦しく(内容が若干物騒だが)談笑しながら
アズヴェルを引きずりながら街中を歩いて行く『カナちゃん』たち。
「…今度こそ、会えればいいな…………ド…スくん…」
雑踏の中に消えていく前に発せられた『カナちゃん』の一言は
後半が喧騒にかき消されて良く聞こえなかった。
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール帝国・法衣貴族区画>>
相当に色々な事があったはずだが、サドラス邸は不気味なくらい平穏な午後を迎えていた。
「ふはぁ……」
サドラスはある日なんとなく作成した畳張りの和室で喫茶しながら爺臭く物思いに耽っていた。
昨日は昨日で神聖教会連盟からルーンテール帝国に新しい神官たちを迎えるという公務に
暇だから参加してみればつい最近会ったばかりのエリニュスと再会したり
議会では客将扱いで帝国に滞在するクリシュネーアが神国と帝国の貿易に自分を引き合いに出して暴走したり
相変わらず何かを勘違いしたまま巨鎧竜のグウェンダが至極普通当たり前に
サドラスの家で暮らすことになってもう一回キッツイ万能属性攻撃スキルの雨霰に苛まれたりと、
存外心休まることが無かったせいか、珍しくサドラスの瞳の輝きが悲しみの色で濁っていた。
「よう、邪魔するぜ」
暖簾も無いのに暖簾に腕を押すかのような格好で何やら菓子折りを持ってきた厳蔵がやってきた。
「あぁ」
「………おい、お前さん本当に記憶が戻ったのか? …なんからしくねえじゃねえか」
「お前が俺の何を知って…いや、そういう問題じゃないな」
「ああ、そういう問題じゃねえな…俺が今回お前さんの部屋までわざわざ訪ねてきたのはな…
お前さんが帝国貴族としての公務であるネタを掴んだからなんだよ」
厳蔵は菓子折りを広げるとガトー・バスクやらフランボワーズといった
最近サドラスが食べてなかった現実世界のお菓子が出てくる。
手を伸ばそうとしたサドラスだったが、厳蔵は見事にそれを遮る。
「ぬぅ…!」
「焦るなよ、この間の海水浴。マジで楽しかった礼も兼ねてるが、それだけじゃねえんだ」
「貴族の公務など神経に障るものばかりだぞ」
「だろうな。聞いたぜ? お前さん前回の帝国議会で一応爵位だけは上なゲスなんちゃら大公に
大喜利ぶちかまして論破して二王の前で大恥かかせたって話じゃねえか」
「帝王陛下も聖王猊下も大爆笑してたからな。あれは流石に少し調子に乗ってしまった…
ちなみにゲシュミン大公だ。奴はああ見えて全属性の高レベルスキルを持っているからな
お前でも不意打ちを受けたら無事では済まんぞ?」
「いや俺大公さんの顔知らんがな」
「不敬罪は普通に帝国で存在するから、外での言動には気をつけろと言っている」
とか言っているがサドラスは前回大いにその大公相手に不敬をブチかましまくっている。
なんてゲスな「おまゆう」だ。「つ鏡」モノだ。
「少し話が反れたな…で、俺の公務がどうしたんだ?」
「前回の海水浴は最後こそボッコボコにされちまったが、実に眼福だった…それでだな…
今度の公務でお前さんが温泉があると噂される地域に行くとか聞いた訳よ?
これは便乗は勿論、何とかして女性陣を上手いことお誘いしてだな…」
「そういうゲスの極みが望みならば帝国の娼館にでも行け。口添えはしてやる」
「芸が無い! これでも俺は紳士ッ! NOZOKIはしてもSEKUHARAはしないんだよッ!」
「そんなことを言っていると魔法使いになってしまうぞ」
「舐めんな! 彼女いない歴=年齢÷2じゃボケェ! お前さんこそどうなんだよ!」
「あと9年で魔法使いだが何か?」
「ぐぬぬ…! 何故敗北感を感じるんだ俺ぇ…!」
「…何をバカなことをしているのだお前らは」
色々と不毛な言い争いを始めそうだったサドラスと厳蔵のもとに、
半ば呆れ顔のKATUMIが現れる。その手には一通の書状のようなものを持っていた。
「お前から進んでくるのは珍しいな。ユニークレイドモンスターの討伐依頼でもしに来たのか?」
「如何にお前が最大侯爵とて帝国十四伯爵の一人が
その程度でホイホイ来るのだと思ったら大間違いなのだ!」
続けて捲し立てようとしたら眼鏡がずり落ちそうになったのでそれを直すKATUMI。
「いや、士爵<子爵<伯爵<侯爵<公爵と来るわけだから悲しき中間管理職的な伯爵ならむしろ…」
「黙れ似非ザムライ! お前に中間管理職の地獄を味あわせてやろうか!
貴様に分かるか?! その気になれば即座に千人単位でレイドPTを即座に組める二王が
超良い笑顔でプレッシャーを掛けてくる状況に貴様は耐えられるのか?!
ああこんなことならちゃんとレベル四ケタ目指しておけばよかったとか後悔に塗れる日常に貴様は…!」
顔を真っ赤にしながら男泣きをし始めるKATUMI。
KATUMIの肩を叩きながら「なんか…ごめんな」と罰が悪そうな厳蔵。
「で、どうでもい…計り知れない重圧を背負って俺に何をしろと言いに来たんだ?」
「…どうでもい…?! …いや…もう突っ込まんのだ…余計惨めなのだ…
ルーンテールとアロフネスと旧魔領盟主による首脳会談だ。
場所はスタキトゥ殿が治める通称"温泉首都ネポリス"…三勢力の有力諸侯も続々集まる予定なのだ。
今回ばかりは伯爵以上の有力貴族は全員参加が原則となる…まぁ首脳会談にかこつけてお互いの国力を
見せびらかす多分よくある社交界イベントでもあるのだが…」
「あ、それだわ。俺が掴んだネタの全貌的なのは」
「ほおう、温泉か…」
「興味持つのはやっぱりそこだけなのだな…」
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:エテルマ州都ネポリス・迎賓館>>
今まさにエテルマは超お祭り騒ぎだ。何しろルーンテール、アロフネス、ダエモンシュタットの各首脳が
有力諸侯を軒並み引き連れて首脳会談をここで行うのだから。
スタキトゥ侯爵はウハウハ半分ハラハラ半分だろう。
「………チッ」
連日連夜催されるお披露目会や社交目的も多分に含まれた立食パーティの会場の壁にもたれ掛って
オーラが見えるレベルで不機嫌そうな顔をしているのはサドラス。
理由はパーティに出ている料理や酒類を粗方味見し終えて飽きただけではなさそうだ。
ちなみに初日はサドラスが巷で噂の「帝国最強戦力最大侯爵」と知るや否や
(まあ社交会でも正体を隠す気が一切感じられない真紫一色な兵装してれば当然だ)
様々な思惑でサドラスに接触を図ろうとしてきたので前にも使った
『絶対捕食者の覇気』で軒並み追い返してやった。
しかし貴族と言う生き物は如何にも度し難い権力闘争中毒者が多いらしく、
搦め手を使って接触を図ろうとしてくるので
終始サドラスは「オレ オマエラ マルカジリ」的な不機嫌オーラをガン出ししていた。
流石にここまでやれば帝国の最大侯爵の不況を買うだけだと判断したのか、
ギリギリまで近づきつつも一定の距離を取るようになった。
まあそれでも隙あらば接触からの既成事実などを狙おうとする輩はいるようだが。
ちなみにKATUMIはケモ耳武装メイドたちに囲まれているしサドラスがいるから今は影が薄い、
そのまま爆発してしまえばいいのに。
「そういう意味では厳蔵たちを連れてこなくてよかったな…」
厳蔵の「Project-Nozoki」に加担するのは悪くないと思ってはいたが、
そんな思惑を元に自らの衝動に乗せられるがまま動いていれば
悪知恵が常識と思われるテンプレ貴族たちの思う壺だ。
ぶっちゃけロティたちなんか一緒に連れて行ったら
彼女たちが貴族の策略に嵌る→薄い本的な展開寸前→助ける
→完全にブチ切れてジェノサイドタイム突入…それは笑えない。
流石に拠点を提供してくれた二王の顔に砂埃は飛ばしても泥を塗るような真似は避けたかった。
「はうぅ………おじい様……はぐれちゃったです…」
「?!」
サドラスは自分の直ぐ傍から人の声がしたので思わず構えそうになったが、
そこに居たのは幼女寄りな幼い貴族の木霊人族の少女だった。
おそらく社交界デビュー的なものにやはり目を回しているのだろう。
現実世界での社交界は見ただけではどいつもこいつも似たり寄ったりなセレブ集団だが
ここでは名前が見えるうえに自分とのレベル差がある相手は?表記となる…
すなわち「格の違い」が目に見えるのだ…これに目を回さないでいられるのは
そもそもがこの世界の住人ではないサドラスを始めとしたPC勢のような超常識外れな連中だけだろう。
サドラスは丁度通りがかった給仕に飲み物を二人分貰った。
「おい、そこの…ミーミルとかいうお前」
「ふぇ…? え? わ、私ですか?!」
サドラスは持っていた飲み物を少女ことミーミルに手渡す。
恐縮しながら受け取るミーミル。
「あ、あの…お飲み物をありがとうございます」
「改まらなくていい…というか素のままで良い。緊張すると返ってケガをするだけだ…色々な意味でな」
「色々な意味でですか?」
「あぁ、色々な意味でだ」
「ふえぇ…そうなんですかぁ…」
「お披露目は今日が初めてか」
「はい…おじい様たちと一緒に来たんですけど…おじい様はいつもたくさんの人とお話するのが
お仕事ですから…でも、こんなに人がいっぱいなんて思わなかったのです…」
「偉い人間なんてのは大体誰かしらと話をするものだからな。アレは本当に面倒だ」
「えと…紫色のお兄様もです?」
「ふ…本当に俺の事も知らんのだな。まあ、そのほうが面倒が無くていい……
とはいえ何時までも紫色のお兄様呼ばわりもアレだから、俺の名前を教えておこう」
お互い簡単に自己紹介をしたサドラスとミーミル。
一応自分が最大侯爵なんてものをやっていることも話したが、
ミーミルはそういったことに疎いらしく、可愛く首を傾げるだけだった。
その様子にサドラスは自分の内なる嫌悪的な感情が湧いてくるのを感じた。
「鎮まれ…我が内なる不浄王ども…………!」
「サドラスお兄様…? どこか具合でも悪いですか…?」
「……自分を律するのは大変なんだ」
「ふえぇ………?」
”ヲレハロ☆コンジャナイーバンノウゾクセイハジミニイタイー”などという呪文を脳内で唱えながら
サドラスは他に話し相手も居なかったので、ミーミルとお互いの身の回りで起こった
他愛もない話をすることにした。
「ふぇぇ…海で西瓜を割って遊ぶのが最近の流行なのですか」
「そもそもは夏場に体の具合を悪くしないように西瓜を食べることから始まったらしいのだが…」
サドラスは内なる不浄王たちを黙らせることに成功したので、ミーミルと話しながら
社交会の様子を見ていた…何気に自分に近づきたがっている貴族がミーミルと話しているサドラスを見て
何となく自分たちの娘たちを近づかせてやろうと画策しているような様子が見えるが
不思議とミーミルをダシに近づいてやろうと言う連中の動きが見られない。
だがこれでサドラスにはロ★コン疑惑が貴族間で広まることは間違いないだろう、サドラスざまあw
「そういえば私、法衣貴族区画から出たことが無いです」
「縁があったら俺が平民区画や商店街なんかを案内してやろう」
「本当ですか?!」
「勿論ご両親にも許可は取らねばならんから時間はかかってしまうだろうが」
「いいえ! お待ちしてるです!」
疑惑云々はともかくミーミルが帝国には二王から爵位を正式に下賜されたとはいえ、
彼女は帝国内だけでも八百以上も居るただの正騎士爵の娘でしかないはずだ。
実際自分の娘たちを何人も周りに集めつつ様子を見ている貴族には普通に子爵や伯爵もいるのに。
一体どうしてなのだろうかと、ふとサドラスはミーミルの頭上の名前を見る。
【ミーミル・G・ツヴァイロート】
「(ほぉぅ…)」
サドラスの眼が微妙に澱んだ。不浄王とは違う悪魔王の眼だ…!
サドラスは周りもゆっくり見た。自分の周りに何気に人垣があり、その少し後方に
顎が外れそうな顔をしてこちらを驚愕の表情で見つめる老獪そうな貴人が居るのを確認した。
「ミーミル」
「はい、何ですかサドラスお兄様?」
「もしかしてあそこでお前を見ているご老公はお前のおじい様とやらじゃないのか?」
「ふぇ…? あ、おじい様っ!」
ミーミルはスカートを持ちあげて小走りで老獪そうな貴人こと
サドラスを敵視するゲシュミン大公の元へ掛けていこうとして、
もう一度こちらに戻ってきた。
「あ、あの…本日はありがとうございましたです! ご縁があったらまた会いたいです!」
「あぁ…縁があったらまた会おう」
そう交わして大公の元へ向かうミーミルの背中へ向けていた視線を、
何だか凄い顔をしてこちらを見ているゲシュミン大公の目線とガッチリ合わせた。
遠巻きでも分かるほど顔がさらに凄い事になったのを確認して邪神級の笑みを浮かべるサドラス。
必死に青ざめそうになるのをどうにか堪えて平静を保とうとするゲシュミン大公の様を見て、
サドラスは通りがかった給仕にボトルごとワインを貰って美味しく殆ど一気飲みに近い状態で頂いた。
「ふぅ…この一杯はやはり旨いな」
「………お前、今度は何をやらかしたのだ?」
サドラスの前にはいつの間にかちょっとばかし服装が乱れたKATUMIがいた。
「お前こそ何をやらかしたんだ?」
「た…たいしたことでは無いのだ!」
「ふ…ならば俺も大したことじゃないなw」
「そういうことに…しておくのである」
「で、どうしたんだ?」
「お前が目当てにしていた温泉の都合がついたので呼びに来てやったのだ」
「よし、今すぐ行こうさあ行こう。まだ見ぬ秘湯が俺を呼ぶっ!」
「お前は酔うが速いのだな…溺れるなよ?」
「潜水術Lv1000超えの海邪級な俺を見くびるな」
「男湯と女湯を間違えたとかベタなボケもいらんのだからな」
「そういうのは俺の役目じゃない、どちらかといえばスイゲツに回ってきそうな役目だな」
どこかでスイゲツが「ぶえっくしょい!」と顔に似合わない
盛大なクシャミをしたような気がしたが酒のせいだということにして
サドラスはKATUMIから聞いた温泉のある場所に軽快なステップで向かっていった。
軽快とはいっても軽く残像が残るレベル…どうやらサドラスは存外に酔っぱらっているようだ。
<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:エテルマ州都ネポリス・国営大温泉庭園>>
どこからともなく「かぽーん」とかいう音が聞こえてくる中、体を洗ったサドラスは
オッサンみたいな声を出しながら、肩まで温泉(乳白色の濁り湯)に浸かっていた。
「………家にも大浴場を作れれば良いのだが…」
そんなことをすればサドラスが油断したその瞬間に百とユスタリシアが
「今度こそローラクしてくれるっ」と特攻してくるのは目に見えている。
なので今後も一人で風呂入るためだけにわざわざ通うことになりそうだな…とサドラスはしみじみ思っていた。
「………」
「…あと…あと4メートル先に桃源郷があるのですともっ…!」
せめて股間にタオルくらい装備しろと言いたいガタイの良い全裸のオッサンがサドラスの目の前にある
男湯と女湯の境界線といえるバカ高い仕切り壁を、いったいどんなスキルを駆使してるのか
素手で上っている様がみえる。直視しては目が腐ると思ったサドラスは、
水鉄砲と見せかけて水魔術XX「水龍艦砲」をオッサンの横っ腹にぶち当てた。
「どぉうはっ?!」
全裸のオッサンは温泉に沈んだ。HPゲージが半分以上削れていたので
水面上に浮かんできたオッサンに完全生命薬を投げつけた。
「…はっ?! 今私はエデンで女天使たちに囲まれていたはずなのにっ?!?!」
「望みならば黄泉路の片道切符をくれてやろうか?」
「やややっ?! いやぁ私としたことがっ…!!
壁の向こうの遥かなる桃源郷に気を取られていましたなっ!!!」
見たところ厳蔵よりは間違いなく老けて見えるオッサンの頭上の名前はアズヴェルと出ていた。
レベルは今の世界では大ベテランと言われても差支えのないLv164と表示されている。
「自分のレベルを過信すると死ぬぞ……特にこの場合は1000以上あってもな」
「なんと…! おお貴方は相当な高次元修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者と見うけられますなっ!!」
「お前の想像しているのとは違う次元の高次元修羅場だが…何にせよ命を粗末にするな。
死んだら見たいものは永遠に見れないし触りたいものは永遠に触れなくなるんだ」
「実に深いですなっ…! しかしながらワタクシ…目の前にぶら下がった好機を
罠と知っても食いつかずにはおれんのですっ!!」
「罠を食い破るなら、まず今のレベルを十四、五倍くらいにしてからだろうな」
「せ、千里の道も一歩からですなっ…!」
「もぉー! さっきからアズヴェルうるさいよ!」
高い仕切り壁の向こうから少女と思われる声の叱責が飛んできた。
「ややっ!? これではもう覗くことが不可能になってしまいましたぞっ!!」
「まだ諦めてなかったのか…」
「あれ…? ねぇーアズヴェルー! ところでさっきから誰と話してるのーッ?」
「おやや…? 基本ワタクシ含む有象無象を大概無視するカナ様らしくないですなっ??」
「いいから! あのー! ボクの一応仲間をしてる実はお荷物で生臭な回復と
ヘイト受け肉壁以外取り柄のない中年神官がさっきからご迷惑をおかけしててごめんなさーい!」
「ぬっほぉうッ?! ワタクシの精神的HPがメキョメキョ削られている気がしますぞっ!?!?」
「いや、俺はそこは別に気にしていない…ただこの男の無謀さがな…」
「あー…それはもうその人の病気みたいなものなので諦めてください…」
「やはりそうか…お前も相当苦労しているようだな。毎日危機を感じているのだろう?」
「いえー! そこは別にー! 殺ろうと思えばいつでも殺れるのでー! 大丈夫ですー!」
「………ふっ…考えてみればワタクシとカナ様の前には圧倒的にもほどがあるレベル差がありましたなっ…」
「ほう…? それほどのレベル差があるのか…」
「あっ…と…それはー…そのー…」
「大丈夫だ、そういう詮索はしない。俺もそこまで無礼者じゃない、
これでも最近帝国貴族になってしまったからな」
「ひょわー?! カナちゃんカナちゃん! これは中々に好展開かもしれないってば!」
「え?」
「カナどの…そなたの探し人は帝国に拠点を構えていると聞いたはずだが…? そう、今まさに好機!」
「え?! あっ!? そっか!! あのー! すみませーん!
ちょっとボク貴方にお聞きしたいのですけどー!?」
ばちゃばちゃと水音がする。どうやら『カナちゃん』とその仲間たちは壁際まで寄ってきたらしい。
「何でも答えられるわけではないが…一応帝国の二王から五十三子爵や
ギルドのAAAランク以上のランカー連中までなら顔と名前を網羅しているぞ」
「ふわ…何気に凄っ! あの! そちらの帝国に…! 【サドラス】若しくは
ザドゥルオウスって名前の方はいらっしゃいませんか?!」
「………あぁ?」
サドラスの顔が一気に怪訝な表情に切り替わった。
「……あれ?」
『カナちゃん』と呼ばれた少女も何か気付いたような声音を上げる。
何か妙な感覚がしたのでとりあえず風呂から上がってしまおうかと思ったサドラスだったが、
――ズゴドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!――
「ぐおぉ?!」
「どをるわぁがっ!?!?」
仕切り壁の中央辺りが盛大に吹き飛ばされ、サドラスとアズヴェルは湯の津波に呑まれる。
流石にサドラスはすぐに浮上したが、アズヴェルは出てくる気配が無い。
やがて吹っ飛ばされた仕切り壁の向こう…そう女湯と言う名の
俺達の桃源郷が広がるであろう大穴を覆う期待と絶望の湯煙が晴れる。
「なんという好機っ! ここはたった一つの命を捨ててでもっ!!
広がる神の世界を視界に入れ――「凍れ」――るうわらばっ!?!?!?」
これ幸いと俺達の桃源郷に突入しようとしたアズヴェルは瞬時に氷漬けになる。
確かこれはスリップダメージこそ極小だがほぼ確実に自分より弱い相手を動けなくするスキル
神術ⅩⅢの「氷界地獄」だったなと懐かしんだのだが、今一度冷静になってみれば
己もアズヴェルの二の舞になりかねないと気付いたサドラスは、爪弾刹那を抜いてでも
ここから脱走せねばと立ち上がった時、まさかの女湯からの来訪者の呼び声に止められる。
「紫色の髪と瞳…! そしてその専用装備の刀…!! やった!! やったよシルビィ!! サリナ!!
ボクやっと巡り会えたよ!!」
「それ本当?! それってば超ラッキーだねカナン!!」
「カナン…? まさか、まさかおま―
―「運命の歯車がついに動き出したか…そう! 今まさに感動の再会!!」」
信じられないモノを見るような目でカナンと呼ばれた少女たちを見たサドラス。
ん? 全員ちゃんとタオル着用ですが何か?
「久しぶりだね!! サドラスくん!! ボクだよ! カナンだよっ!!
神田・ハユハ・香奈美ことカナンだよ! ついに出会えたっ!! ボクのニアミス呪縛は終わったんだっ!!」
「オイ待テソレ以上跳ネルナッ…!! あっ」
「ありゃっ」
嬉しそうにピョンピョン跳ねたカナンの体に巻かれたタオルが綺麗に落ちて
サドラスは「我、今日に見し光景を永遠に忘れる事無し!!!」と思いつつも
この後待っているであろうラッキースケベからの壮絶なる結末に対して
一体どのように釈明をし、どのように覚悟を決めた紳士の言動をすれば良いか爪弾刹那を抜いて考えた。
ああ、彼は逃げたりなどしない。何故なら彼はゲスな紳士にして、一人の漢だからだ。
ちなみにグッチャグチャのボッコボコにされた後、KATUMIの服装が乱れていた件で
理由が「連れてきていたケモ耳メイド達にハニトラされていた」ことだと知った時、
彼の中に眠るリア充殺しの修羅が覚醒し、KATUMIをメテオラッシュ刑にしたのは言うまでもない。
自分のラッキースケベは棚に上げて何というゲスの極みだろうか…。
KATUMIよ、安らかに。アーメン。南ー無ー…。
「勝、手に殺、すな…のだ」
第17話に続く。
それではみなさん良いお年を!!




