104.召喚士、アーティファクトを預かる
ルムデスといい雰囲気になりそうになったところで、大きな声が唐突に聞こえて来た。
これに動揺したのか、ルムデスは一瞬で俺から離れ、声の主を迎えている。
「サーシャこそ、どこで何をしていたのですか? あなたが追っていた男はたった今、ライゼルさまが退治を果たしましたよ」
「ええー!? あれ、ルムデス耳が赤いぞー?」
「そ、そんなことありませんよ。それより、キアはどうしたのですか?」
「キア~? どっか行った~!」
「もう、しょうがない子たちですね!」
声を張り上げて来たのはリヴェルナ・サーシャこと、ルナだった。
しかし俺と話をする時とまるで違うように感じるが、これはルムデスに甘えているということなのだろうか。
「えっと、ルナ……だよね?」
「……わ、我に何か用なのか?」
「ここに来たってことは、ずっと敵を探して追いかけ回していたってことかな?」
「そ、そうだぞ! 我はライゼルの龍なのだからな!」
トルエノに似た話し方をするルナだが、素はそうじゃなさそうなことが分かっただけで安堵してしまう。
今の時点ではキアはもちろんのこと、イビルとノワの行方は分かっていない。
それくらいの空間がリエンガンには広がっているし、イビルはともかくノワの行方を追う術が無いだけに、待つしかないのか。
「ライゼルさま! あの方の戦いが気になります。参りませんか?」
「……あ! そ、そうだった。クラヴォスは俺と違って、多勢に対しているし急がないと!」
「んん? 誰のことなのだ? 我の知る奴か?」
「どうだろうね。とにかく向こう側で戦ってるはずだから、急ごう」
俺にベリルとの戦いを任せたクラヴォスは、魔剣士の”懲罰部隊”と呼ばれる連中と戦う為に、ここから離れた所に連中を引き連れて行った。
本気では無かったにせよ、魔剣士同士の戦いではどんな強さを発揮するのだろうか。
「ライゼルさま! 向こう側から、剣同士の弾かれる音が聞こえてきます! あの岩の先なのでは?」
「よ、よし、急ごう!」
リエンガンは街区ごとに空間が広がっているが、ひとたび街を離れると、すぐに洞窟の様相を呈している。
クラヴォスの言うように、魔剣士によって街を無造作に広げているからなのだろうか。
翼を広げて空に浮くルナを先頭に、俺の傍を離れないルムデスとで岩の向こう側にたどり着くと、意外な光景が待ち構えていた。
『こ、これは――!?』
数人ほど見えていた魔剣士の女たちは床に倒れていて、残りの女との一騎打ちを残すのみとなっている。
「おっ! 来たか、ライゼル。その様子を見る限り、やはりあっさりとつけたようだな」
「助太刀は必要ですか?」
「ふ、まぁ見てろ。それと、エルフの彼女と龍の娘を押さえておいてくれ!」
「へ?」
「……頼んだぞ」
見た感じでは傷を負っているようには見えず、苦戦をしているわけでもない。
しかしどういうわけか、相手の剣をわざと受け続けている様にも見える。
彼の言う通り、ルムデスとルナを自分の後ろに下がらせて様子を窺おうとしていると、クラヴォスと相手の剣から何らかの属性魔法同士が激しくぶつかって、火花を散らしているように見えている。
俺には見えないが、魔剣士特有のエンチャント攻撃というやつだろうか。
単なる剣同士の打ち合いではなく、最後の一騎打ちとなるまでにその攻撃を凌いできたとすれば、クラヴォスの剣も体力も限界を迎えているということになる。
『ライゼルに預ける前に見せてやろう。俺の魔法をな』
「えっ……?」
相手の剣に押され、クラヴォスは相手の傍で片膝を付いている。
剣の強さとエンチャントにどれほど耐えて来たのかは分からないが、クラヴォスには限界が来ているような感じがする。
『ふ。恨むなら俺に恨め! 貴様はここで失せろ、ラディーレン!!』
クラヴォスを追い詰める魔剣士に何かを呟いたのかと思っていたら、クラヴォスの義肢である両腕の金属部が急に光り出し、視界が光で遮られたかと思えば、目の前が真っ暗闇になった。
そこから耳を劈かれるほどの音が響いたと思ったら、沈黙の時間が流れた。
「……う。一体何が……」
「ライゼルさま、ご無事ですか?」
「うん、俺は大丈夫。二人は?」
「平気です。サーシャが守ってくれました」
「そっか」
ルムデスは氷姫のルナの翼で守られていて、すぐに身動きを取れない。
彼女のことはそのままルナに任せ、俺は彼の元に駆け寄ることにした。
クラヴォスの元に着くと、剣で押していた魔剣士の姿は無く、義腕を押さえながら両膝を付いている彼の姿があった。
「……ライゼルか? すまんな。魔法の暴走は何十年経っても、変わらず抑えられないものなのだな……」
「い、今のが魔法……ですか? その義腕から発動されたように見えましたが、それは?」
「アーティファクトだ。俺の国は小国ではあったが、魔法を高められる防具作りに長けていた。それを盗んで、追放されたというわけだ! はっはっは!」
「国の宝……そういうことですか?」
「ライゼルは冒険者だろう? マーロスにもいつか行くことになるはずだ。リエンガンでのことが片付いたら、こっそり返して来てくれないか?」
「お、俺ですか!? そんな宝みたいな……それも魔法防具をなんて――」
「すまんが俺は限界だ。エンチャントを受け続けて疲れちまった。ここで眠る……ライゼルは召喚士だろう? もしかすればその義腕を暴走させずに使えるかもしれん。預かってくれ」
「えええっ!?」
魔剣士連中との戦いでどれほどのダメージを負ったのか、見た目では計り知れない。
それにしたって国のアーティファクト防具を預かることになるなんて、どうすればいいんだ――




