43章 黄金と叡智の父母
対峙したリグルは自身が時間枢軸を司るトフェニである為、背後に幾つもの次元の扉を開く。
その姿は紫が自身の能力で"スキマ"を作っているのと同じ光景が、何個も存在していたのだ。
別次元へと繋がる隙間を後ろに、彼女は両手を大きく広げて2人と戦う意思を示した。
そして右手で拳銃を構え、銃口を2人に向けた。
「…輪廻転生が私の役目。…この世界を永遠のものにする。邪魔をしないで下さい!」
銃弾の雨あられは2人に向けて放たれたものの、身を挺して攻撃を躱す。
その隙を窺って、彼は太刀でリグルに攻撃を仕掛けるも、背景のスキマから放たれた光線に戸惑ってしまった。
…そう、今の彼女は後ろに破壊光線を放つ艦隊を得ているようなものであったのだ。
「…あのスキマ…!」
「…私があの隙間を壊す!
…幻象召喚!―――『エニルクスオブラウンド』!…ゾディアック・システムver!」
靄と共に現れた、8人のエニルクスはリグルに向かって武器を向けた。
当の彼女はいきなり現れた存在に驚愕し、反撃の対応を取れないでいた。
エニルクスオブラウンドによって、そのまま異次元へと連れ込まれ、別世界で8人の蹂躙を受けた。
そしてとどめの8人の一斉攻撃を受け、異次元世界から回帰したリグルは多くの出血傷を身体に付けていた。
「…何だ、あの幻象は…!」
「私もやればいいのね!
…幻象召喚!―――『エニルクスオブラウンド』!…ゾディアック・システムver!」
彼女も左腕に刻まれた捺印を掲げるや、8人のエニルクスは現れた。
無言のままリグルを再び異次元へと連れ込み、何も抵抗出来ない彼女は散々踏み躙られた。
8人の一斉攻撃と共に姿を現した彼女は再起不能な程、怪我を負っていた。
所々を紅く滲ませており、その様相は地獄の悍ましき姿たるや、やはり恐怖感を煽るものであった。
「…フフ…此処までやられた以上、全てを無に回帰させる!
…フハハハハハハ…フハハハハハハ!」
笑いを遺して、そのまま胎内の神聖な湖に姿を落とした彼女。
エニルクスオブラウンドの攻撃で受けた血は湖の透き通った状態を濁らせていく。
そして段々と大きくなる振動と共に、2人の前に姿を見せたのは、希望と絶望と言う対局した存在が結びついた機械神であった。
右側は希望…光輝く機械の女神が小さな2つの腕で祈りを捧げている。
左側は絶望…闇の容姿とも言える暗黒の機械の神が極端に大きい右手の掌を2人に見せる。
そしてその間に挟まれて生まれた子供…。
―――希望と絶望の間に挟まれていた顔こそが、全てを司る存在…オズマ・トフェニ=エデンであったのだ。
…リグルが湖に自ら落ち、大地のエネルギーとなって誕生したのは、父母とその間に生まれた子なのだ。
其れは過去のリヒトを皮肉しているかのようにも思えた。
「希望と絶望―――」
「齟齬たる2つの次元を抱きて、我らは誕生す―――」
「私は死ぬために此処に生まれた…私は生きるために此処に生まれた…哀れなる孤児―――」
「時を隔てても尚…その残酷さは剣戟を走らせる―――」
「残虐の彼方に消え果てようとも、全てに希望を与えん―――」
2つの顔は交互に話しだした。
重厚感に溢れる声は、2人の恐怖を引き立たせる。
「我が名はエデン…。
全てに於いて神と為り示した、孤児の下で生まれし者―――」
◆◆◆
オズマ・トフェニ=エデンはアダムとイヴを合体させ、更なる力を得ていた。
齟齬たる次元の力を得たエデンは2人に向かって絶望の極端に大きい右手の掌で叩きつけた。
しかし、2人は身を後ろに挺して躱したものの、襲い掛かった胎内への地震。
揺れは2人を襲いかかり、戸惑いを見せる。
「…オズマ・トフェニ=エデン…。…でもそんなの…こわくとも何ともないわ!
―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!…ゾディアック・システムver!」
放たれた紅き槍はそのまま神聖なるトフェニへ放たれたものの、希望の女神が作り出した謎のバリアは攻撃をかき消してしまう。
そんな守備方法に、彼女は歯を食いしばった。
「…ゾディアック・システム状態時でのスペルカードも効かないのね…!」
「…今度は私の番だ!
…幻象召喚!―――『バハムート摂理』!…ゾディアック・システムver!」
靄と共にその機械化された姿を見せたのはバハムート摂理。
彼のゾディアック・システム状態を受けて一段と攻撃力が嵩増しされ、その灼熱の一撃をエデンに放つ。
しかし、希望の女神が織りなすバリアによって防がれてしまう。
「なっ…!?」
「愚かなる者共よ―――」
天井から巨大な雷鳴を起こしたエデンに対し、2人はすぐさま気づいて避け続ける。
超常的現象を前にしながらも、隙を狙う彼であったが、何処か気持ちが沈降していた。
―――自分の所為で招いた事実。
…これが4000京回も続けられているのだ―――。
「…やはり…こんなのはおかしい…!」
彼はその時、何かが変わった。
彼女も、その異変に気づいた。彼はその精神を破壊し、自らが変になっていった。
避け続けていたオズマ・トフェニ=エデンの雷も、やがて右手を掲げるだけで回避されるようになっていった。
「…ど、どういうことだ!?」
「…やはり私は全ての元凶だった…。
―――お前を生んだのも、この世界を変えたのも、そしてレミリアと共に反逆を示した原因、も…。
…エデン、ここでくたばれ!」
ゾディアック・システム状態を超えた超常状態は彼を取り囲んでいた。
全てに於いて謎の現象に至った彼はそのまま太刀を構え、希望と絶望の狭間の子に向かって太刀を突きつけた―――。
…其れは女神が織りなすバリアを壊し、そのまま顔を貫いた…。
額から刺さる白銀の刀。彼の眼は真っ赤に染まっており、何かに憑かれているかのようであった…。
電流が走る。リグルが生まれ変わったエネルギーを吸い取って降誕した機械神は、荒れ狂う神を前にして朽ち果てていった―――。
「…な、何故だ…ウゴァアアアアアアアアアア…」
機械的な断末魔の声を上げたエデン。
…たった今、全ての世界は救われたのだ。
機械的な平和は終わりを告げ、新たなる平和を獲得したのだ―――。
「…リヒト!よくやったわね!」
「…うぅ…」
狼狽えの声を上げた彼。その前で湖に落ちていくエデンは、最後の足掻きを放った。
自身の希望と絶望を重ね合わせ、生まれた"齟齬"と言う次元を作り出したのだ―――。
…それこそが明羅の織りなしたブラックホール…しかし、今度は2人を飲みこもうとしたのだ。
「ぶ、ブラックホール!?―――ど、どうして…!?
…き、きゃああああああああああ!!!」
大きな彼女の叫び声と同時にブラックホールに吸い込まれていったレミリア。
それに続いて彼も、やはり重力の渦には勝てず、そのまま吸い込まれてしまう。
当のエデンは最期の目的…"2人の排除"を成功させた事を笑い…そのままエネルギーに回帰してしまった。
幻想郷では、静かな遺構が跡を佇ませるだけであった。
廃墟とも思える世界に、誰一人姿を見せる事は無かった。
機械神の起こした平和は…新たな平和を無にかき消してしまったのであった―――。
次章、最終章です。




