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42章 聖櫃の繭

摂理府の最奥に佇む胎内トフェニ・クレイドル―――。

其れは2人の前に巨大な湖として姿を現したが、そこに巨大なトフェニは存在しなかった。

荘厳なる装飾を前に、周囲には寂寥の風の音が空しく響き渡る。

その風の流れをマントに靡かせ、存在する1人の女性。


「…全て、こうなってしまった。…流石ですね」


2人の前に、アダムとイヴの代わりとして現れたのは…緑色の髪、触角の付いた頭。

不敵な笑みを浮かべながら、2人の前に立ち塞がった敵―――。

その姿は、2人を唖然とさせたと同時に不思議な感情が湧く。


―――其の姿こそ、高速道路爆破時に救出してくれた…。


―――リグルなのだ。


「…ど、どうして貴方が此処に…?」


「驚かれちゃ困りますよ。…私だって生きてるんです。…この世界ガイアのトフェニとして」


…トフェニ。

その単語を聞いた時、2人は何処か悲し気な気持ちを抱いた。

…信じていた、私たちを助けてくれた仲間の存在…。


「…トフェニ!?どういうことよ!?リグル!」


「…そのままですよ。…私は此の世界ガイアをループさせてるんです。トフェニとして。

時間枢軸の中で貴方たちが動いてるだけであって、同じような事は何度もしてきましたね?」


「…時間枢軸…!?」


彼女は自慢げに語っていた。が、2人は驚かされるばかりであった。

ポケットに両手を突っ込み、嘲笑うかの如く、その容姿を見せて―――。


「…トフェニは機械神とイコールしているように思えますが…違いますよ?

…フフフ…何をご勘違いで?この幻想郷は私を中心とする為に開発した世界ガイアですよ?

―――貴方たちエニルクスに使命を与えたのは…この私です。…無様極まりありませんね」


「…私たちは…貴方のエニルクス…!?」


「そうですよ、レミリアさん。…貴方たちはこの仕組まれた世界に何度も反逆を示した。

だけれども、全ては水の泡。時間枢軸を司るトフェニ…私の前では無力。

―――私をトフェニにしてくれて、感謝しますよ…リヒトさん」


彼はそう言われた時、心情の動転が隠せなかった。

リグルが本当の事を言うのならば…全ての責任は自分にある、と。

おかしくなってきた。色々な複雑な感情が絡まり合い、自分としての心情を掴めなくなっていたのだ。


「…リヒト…どういうこと…?」


「…私には、何も…」


「惚けないで下さいよ。…貴方がこの世界ガイアを織り成し、機械化したんでしょう?

…自ら蒙った"傷"を癒す為、別次元の世界ガイアに責任を押し付けた結果…私たちトフェニは誕生した。

そして…其の別次元の世界から精神として召喚された貴方は蘇り、その姿を得ている」


「傷、とは何だ…!?」


「…クックック…。…私は貴方の父母に従っただけですよ?

―――実験台として私が貴方を誘き寄せ、魂と身体が分離させたんですよ。

…貴方は平和の意義を彷徨いながら求めた。…彷徨う魂…そう、精神として。

―――彷徨っている間にこの世界に辿り着いたと同時に…貴方はこの世界ガイアを実験台とした。

…私はそんな貴方を追って、ここまで来た。…そして、思った通りの行動をした」


ポケットから両手を出し、彼の今までの行動を馬鹿にしたような笑いを取る彼女。

そこには黒幕でありながら何も理解していない、彼の憐れみを嘲笑していたのだ。


「…トフェニ。…其れは貴方の母親。…エニルクス。…其れは貴方の父親。

―――不思議なその片仮名にも、ちゃんとした意義はあるんですよ…。…貴方が付けた固有名詞、ね。

…私は貴方を追ってこの世界まで来て、貴方の暴走を見届けた…そしてこの力を得た」


「…私は理解出来ない」


「…元々、私の行った実験には貴方の心情を確かめる事も一つだ。

何を考えているのか分からない、屑みたいな餓鬼…そう、お前の事だ。

大国の皇帝の息子でありながら、全てを何も理解せず、受け入れない"不用意な殻"…。

体精分離を行い、…お前はこの世界に平和を求めた。

…で、リヒトを呼び出したのは「運命を司る能力」…そう、レミリア。お前だよ」


「…違う!こんなの…出鱈目に決まってるわ!

―――リヒトは何も悪くない!彼がトフェニやエニルクスを作った訳無いわ!」


「…はァ、相変わらず臭い擁護ですね」


苛立ちを見せる彼女は、レミリアの擁護を快く思っていなかった。

全ては事実、信じようが信じまいが真実なのだ―――。

其れが如何なる場合でも、疑う事は出来ない事象…。


「…じゃあ、この叙事詩を読んであげましょう。…抑々そもそも、貴方たちも知ってるでしょう…」


そう言うや、彼女は一冊の古煤けた本を取り出した。

その本は曾て彼が古代図書館で読み上げた、不思議な言語で抱えた童話であった。

埃を取っ払い、彼女は咳を一つすると、声を上げた。



―――むかしむかし、ある所に1人の男の子がいました。


―――その男の子は小さいころに両親を失い、貧乏な生活を強いられていたのです。


―――毎日が食べ物に困る日々を過ごした男の子に、ある日、高貴な服を着た人は話しかけました。


―――いい子にしてあげたら、毎日毎日ご馳走だって食べれるよ。色んなおもちゃで遊べるよ。


―――男の子はその人についていきました。しかし、連れていかれたのは実験所でした。


―――男の子はそのまま実験台となり、魂と身体が分かれてしまったのです。


―――そして、その悲しみが故に、彼は平和な世界を作ろうとしました。


―――それこそが、今の幻想郷なのです。



静かに彼女は読み上げると、彼は体を震わし、動揺を隠せないでいた。

リグルもまた、その不思議な言語を読め、彼も読めた事…つまり、2人は異世界からの来客であった。

真実を疑えないであった彼に対して、文句を付けたのはレミリアだ。


「…も、もし其の童話の内容が真実なら、彼は貧乏であったはずじゃない!

…貴方がさっき言っていた「大国の皇帝の息子」とはかけ離れてるわ!」


「…愚かさ故に捨てられたんだよ。…リヒトは」


蹂躙された過去。悪寒が走る以前の記憶。

…彼は頭を抱え、その事実を否定しようとだけ試みた。

暴走を始めた彼にレミリアは優しく肩を叩き、何とか落ち着かせる。


「…大丈夫よ、貴方は1人じゃないわ。…私がいるもの」


「ずっと孤独だったものね。…トフェニって名前も、エニルクスって名前も、貴方が捨てられても尚、未だに父母を思いやる気持ちの名残なんだよね。

…ま、要するに貴方たちは私の「時間枢軸」のお陰で永遠と反逆を繰り返す身となる。

―――反逆の20年の歴史がこれで4000京ループ目だったっけ?…馬鹿だね」


…20年の歴史を、4000京回も続けた。

所謂、2人は4000京回をも反逆を続け、この世界を救おうとした、

咲夜たちは4000京回もブラックホールに飲みこまれ、レミリアはニスト・ペグダムによって4000京回も聖櫃化ヴィルドガンズした。

バハムートやジストルシファー達と4000京回も戦い、紅魔館を2人のエニルクスによって4000京回も焼かれた。

…今も尚、生きている存在として、2人は8垓年を生きていたこととなり、8垓年歳でもある。


「…でも、今回の運命は変わった。…リヒト、レミリア。

―――今回はお前たちがゾディアック・システムを覚えた。…アレは私が密かに研究していた事象だ。

…たまたま何かの反芻か、2人に力を与えてしまったが…私は意地でも止める。

…またお前たちを倒し、そして永遠に…この輪廻スパイラルを続けるのだ!」


「…行くわよ、リヒト!」


「…ああ」


全ての輪廻スパイラルを断ち切り、物語の真実を知った2人の意思は決まっていた。

―――リグル・ナイトバグ。…奴を倒し、4000京回のループを解き放つためにも。


「…見せて下さい。その力を…リヒト、レミリア」

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