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35章 炎礫の敷衍

―――咒番1號炉。

白亜の神殿前に2人を乗せたバイクは到着し、そのまま降り立った。

荘厳な雰囲気と共に、何処か熱さや鉄臭さを感じて。


「…ここにはゼア・トフェニ=ツイガク…炎を司るトフェニのいる場所よ」


「…そうか」


2人の会話には、何処か生気というものが存在しなかった。

と言うのも、全てはさっき起きた自決事件がそうであった。

…エニルクスの特攻に、咄嗟に2人を庇い、そして自らの命を落とした…。


…悲しくても、この世界では泣けなかった。

それは2人にデオスカリバーが希望を託したことであった。

自分たちを信じてくれていたからこそ、彼は守ってくれた…此処で泣けば、自らの雄姿は薄れていく。

―――全員の希望を背負った身として、悲しい面を浮かべることは出来ないのであった。


2人はそのまま中へ入っていく。

幻想的な空間に足を踏み入れ、そのまま敷かれたレッドカーペットの上を歩いていく。

足音だけが静かな世界に響き渡り、2人は改めてその虚無を思った。


視界の奥に映る、燃えるような熱気が漂う空間―――。

…それこそが2人の目指す、ツイガクの胎内トフェニ・クレイドルでもあった。

中は黄金や白銀では無く、製鉄用の機械が立ち並んでいた。

蒸し暑い空間で、聖櫃化ヴィルドガンズされそうになっていた人間たちが、希望を無くした眼で―――そのトフェニを見据えていただけであった。


…マグマを湖に流し、熱気の中に佇むトフェニ。

緻密な機械構造の中にエネルギー源として通っているマグマは熱さを蔓延らせながら…その流れは湖を真っ赤に染め上げていた。


燃え上がる熱気を溜め込んでいたトフェニは、眼下に汗を掻きながら佇む2人の人物をデータと照らし合わせた。

―――それは摂理府が血眼にして追いかけている指名手配犯であった。

多くのトフェニを壊し、OBEYを解体にまで追い込んだ主犯…。


「…お前たちが…巷で噂の存在か」


「噂どころでは無いんじゃないかしら?摂理府にとっては」


当たり前のように言い返した彼女は、そんな熱気にも余裕で仰いでいた。

マグマはそんな時にも静かに流れていく。ねばねばした紅い流れはトフェニの怒りの示唆にも捉えられたのは事実であった。


「…そうだな、言い方を訂正しよう。

―――強欲且つ傲慢で、平和を受け入れない愚かな民、とでも言っておこう」


「悪口のオンパレードだな…。…無意味な罵詈讒謗ばりざんぼうは只の無能しか言わない」


冷酷にも、彼はトフェニに対してそう言い捨てた。

下らない言葉を並べただけでは、ご飯に牛乳を掛けたような「元の味を尊重しない」行為に等しかった。

現に、ツイガクは「言葉」と言うご飯や牛乳をかき混ぜている。

無駄な組み合わせは、本来の味をかき消す。


「…そう捉えるかはお前たち次第だ。

―――だが、お前たちは所詮…世界のしもべだ。

―――「世界」と言う閉ざされた繭の中で虚ろな行動をしているだけで、お前たちは何もしていない。

ならば、その繭でも破壊してみよ。何も出来ぬ生き物風情が…!」


「繭を閉ざしてるのは、貴方たちの所為なのよ…!

―――いいわ、やってあげる。…トフェニを倒し、その弱々しい繭を破壊して見せるわ!」


「ほう…そうか。

――――――お前たちは…壊れた道具エニルクスだな。…玩具は壊せば動かない。

――――――お前たちにも同じ運命を教えてやろう!世界に恐怖を馳せるまで!」


◆◆◆


マグマを迸らせた巨腕をトフェニは振り上げた。

降りしきる溶岩の流れ。それを纏って、豪大なる一撃を彼らにこうむらせようとする。

が、2人はその一撃を何とか躱す。

先程までいた場所の地面が捲れ上がり、隆起していたのが分かった。そして、そこにマグマが一気に流れ込んだのだ。


その一撃に畏怖を抱きながらも、彼女はスペルカードを構えた。

そして目の前に存在する炎を司るトフェニに向かって紅き槍を向けた。

鋭さを先に、彼女は宣言した。


「―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!」


弧を描いて直線状に投げられた、血のような色彩を誇る槍。

しかし、ツイガクはその槍を巨腕で突っ撥ね、無効化してしまったのだ。

改めて―――トフェニがどんなに悍ましく、強大な存在であるかが理解出来たのだ。


「流石ね…。…やっぱりトフェニは強いわ…。

―――でも…負けてはいられないのよ!…幻象召喚シグマバース!―――『アマテラス』!」


靄と共に現れた、光輝く女神は彼女に憑き、強大な力を授けた。

そしてレミリアはその光の一撃を一気にツイガクにぶつけたのだ。

放たれし閃光が解き放たれ、同時に煌きし閃光は溢れ、漏れていく。


強大な光陰の一撃はその機構の身体を打ち破り、共にマグマが溢れていく。

しかし…その一撃を被っても尚、ツイガクは動いていた。それは自身が後ろの製鉄機械と合体している為、核が最奥に存在していたのだ。


「…まだ動くのね」


「…私は啓蒙せし神だ。…易々と動かぬ訳にはいかん」


「馬鹿げた啓発は邪魔だ」


彼は左腕を掲げ、その捺印スティグマを輝かせた。

彼は高らかな声で宣言し、その声を胎内トフェニ・クレイドル内で響き渡らせた。

―――しかし、それを阻止せんと襲い掛かってきたのはツイガクの巨腕の一撃であった。


それに気づいたレミリアはすぐさま彼を押し倒し、自分も回避する。

その直後に襲い掛かった巨腕はマグマを振りまきながら、さっきまでいた場所を貫いた。

緻密な仕組みで組みあがった機械の一撃は重たく、その地面を貫いていた。

―――逆に、地面を貫いているため、抜けないのだ。


「今よ!」


「分かった!…幻象召喚シグマバース!―――『アステルウェポン』!」


すると彼の身体は急に輝きを帯び始め、そして紅き装甲の龍に生まれ変わったのだ。

靄と共に、彼はアステルウェポンそのものになると、くねくねした両腕を地面に固定し、エネルギーを充填し始める。

―――そして、巨大なエネルギー光線をツイガクに向けて…発射した。


◆◆◆


その一撃の威力は凄まじく、腕が固定されたツイガクを貫いた。

最奥に設置された核もそのエネルギー光線には逆らえず、ツイガクを形成していたパーツは崩れていく。

マグマも共に湖へ流れ始め、トフェニが真っ赤に染めた中に入り込んでいく姿は製鉄作業にも思えた。


アステルウェポンそのものになっていた彼は役目を果たすと元の姿に回帰していた。

靄と共に現れた彼に、彼女は驚きと興奮を隠せずにいたのだが。


「…凄いわ、リヒト!あんな姿になれるなんて!」


「あれはアステルウェポンを宣言した際に勝手になったものだ。

…レミリアも、もしかしたら出来るかもしれない」


「そうなの?…えへへ 、いい事聞いちゃったわ」


頬を赤くしながら、彼女はそう呟いた。

彼はそんな彼女に何処か癒しを感じながらも、次なる地へ目指そうとする。

囚われていた者達を助け、古代図書館までの道筋を教えて、8つ目のトフェニの元へ…。


「…ミレ・トフェニ=トフェスヴァルキリー。

――――――アダムとイヴ、エデンを除いて最後のトフェニよ」

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