36章 バハムート摂理の幻象召喚
バイクに乗って、最後のトフェニが御座せし場所…咒番8號炉へ向かう。
風を切って、摂理府営高速道路の上を2人の乗るバイクは駆け抜けた。
その先に見える咒式降誕炉を目指して…。
エンジン音は虚空に紛れて、その音を響かせる。
途切れ途切れの白線は繋がるようになり、動揺を隠せない摂理府が統治する大地にも、雑草が生え始めている。
気づかなかった光景は、2人の行動が報われている証拠であった。
「…私たちの行動は…間違っていないのね」
「…確かにな。…漠然とした大地に命が宿り始めている」
その広大な地には、何処か希望を抱ける場面があった。
有象無象を受け皿とした蒼天は、その地に光を降り注いでいる。
近代化の波から立ち上がった"本来の幻想"が…2人の反逆を肯定していた。
いや、"反逆"と言う比喩は間違っているのかもしれない。これは…"自由を駆けた闘い"、だ。
―――しかし、その自由を手にする為には、多くの壁を壊さなければならなかった。
それは今にも、2人の目の前に聳え立っていた。
機械化された身体を空中に飛翔させ、その電気を纏った人口の大翼を広げて…。
その口からは体内で機械的に生成された灼熱が溢れだし、過大な電気が零れる。
悍ましきその目つきは蛇に睨まれた蛙の如く、2人を震え上がらせた。
靄と共に召喚された機械龍は羽ばたきながら、2人の前に―――立ち塞がったのだ。
「…あれは…"バハムート摂理"…」
「な、何だ!?バハムート摂理、って…!」
彼女は何処か知っている雰囲気を漂わせていた。
また、彼女もその機械龍を見据えては畏怖を抱き、震えていた。
彼はそんな機械龍に太刀先を向ける。…行く手を阻む者は全て敵だからだ。
「…邪魔するな!」
「グギギギギ…グゴゴゴ…。…ぐぎゃああああああ!!!」
機械音を言わせ、そのけたたましい雄叫びは大地に呼応した。
多くのパーツで出来あがった龍は眼下の2人に向かって灼熱を溜め始める。
―――正式に敵扱いした証拠でもあった。
「…戦おう。…私たちの邪魔はさせない!」
彼はその思いを胸に、いきなり立ち塞がる龍と戦う意思を見せた。
行く道に何度も壁が現れるのならば、破壊するまで…。
その困難を困難と思えるか、が…未来を拓く重要な手掛かりになることを…。
彼女も、そんな彼の様子を見ては何処か勇気づけられたようであった。
蒼天の支配者気取りをしている機械龍に天誅を下す為にも、背中の蝙蝠の羽を過敏に動かして…。
―――紅魔館の主として、立ちはだかる者は戦うまでだ、と。
「…そうね、私もリヒトについていくわ!」
2人は戦う意思を見せると、対峙せし機械龍もその感情を露わにした。
世界と言う虚無に祀られし機械は、その2人の強さを確かめるかのように…。
「グギギギギ…グゴゴゴ…。…ぐぎゃああああああ!!!」
◆◆◆
自身を稼働させる多くのギアを回転させ、眼下の2人に向かって雷鳴を落とす。
厖大な電圧が雷と為り、その龍の身体から降り注いだのだ。
しかし、2人は高速道路上で避けれる範囲を見極め、攻撃を躱していく。
避けられた雷撃はバハムート摂理を更に激昂させる。
何の為に立ちはだかって、何の意味を以てして2人に拘りを見せるのか。
遠くまで離れた2人に向かって―――巨大な灼熱砲を口から解き放った。
「そんなの…彼に手は出させないわ!
―――スペルカード!…紅符、スカーレットマイスタ!」
彼女のスペルカードの一撃は迫る灼熱と相殺し、高速道路上で爆発した。
暴発した三次エネルギーを前に2人は気を動転させるも、そんな暇は存在しない事を悟った。
すぐさま、立ち昇る黒煙を突っ切って彼は太刀で斬りかかった。
低空を飛翔しているバハムート摂理に向かって、その一撃を蒙らせようとする彼。
鋭さを示す太刀先は機械龍の緻密な機構を裂こうとしたが、呆気なく躱されてしまう。
と言うのも、バハムート摂理は機械とは言え龍、飛空は自由自在の身だ。
攻撃時に真上に更に高く飛翔し、太刀の攻撃は届かなくなってしまった。
―――しかし、彼はまだ攻撃手段を持っていた。
「…幻象召喚!―――『バハムート』!」
靄と共にその姿を見せたのは黒龍…バハムート。
天高くを飛翔するバハムート摂理に向かって、灼熱ブレスをお見舞いする。
空で大爆発が起きると共に、攻撃を受けたバハムート摂理はそのまま高速道路上に墜ちていく。
コンクリートに多大な罅を起こして、その姿を露見させた時、バハムート摂理が纏う機構は頑強であることを証明していた。
しかし、その翼は灼熱に壊され、機械龍は地上戦に持ち込んだ。
ここまで持ってきた以上、攻撃を飛翔で躱されるという心配は無くなった。
「…何とか地上戦に持ち込めたようね」
「…ああ」
2人の先にいたのは、翼がもげて飛べない鳥…。
大空を夢見し、哀れなる鳥は原因を作った2人に向かって大きな咆哮を叫んだ。
―――其れは何処となく残酷にも思えた。
「うごぁああああああああああああ!!!」
陰謀の先も、水平線に消ゆ。
機構の全てをエネルギーにして、先の2人に向かって巨大な破壊光線を放ったのだ。
それは荒れ狂う白き大蛇が摂理府営高速道路を喰らうが如く…。
「…あ、あれ…!」
「…私が守る!…幻象召喚!―――『イルシス・ワンダー』!」
突然現れた城壁は、その大蛇を2人から守る。
しかし、その威力は顕在でイルシス・ワンダー自身にも罅が入り始める。
その間に2人はバハムート摂理に近づき、同時に幻象召喚を試みた。
――――――止めを刺す為に。
「…終わりだ!…幻象召喚!―――『アステルウェポン』!」
「全て…終わらせるわ!…幻象召喚!―――『ジストルシファー』!」
◆◆◆
2体の召喚獣の攻撃によって、バハムート摂理はその身体に障碍を蒙った。
炎を上げ、最早再起不可能に思われるほど傷を刻まれていたのは見ても分かる程の事実であった。
しかし、バハムート摂理は機械音声で2人に向かって言い放ったのだ。
「…ピピピピ…。…これがそなた達の力か。…受け入れよう。
…何時でも我が名を呼べば駆けつけよう。…共に世界を復興させる為に」
するとバハムート摂理は靄靄として行き、やがて空気に帰ったのだ。
2人は虚構の中に佇んでいるに過ぎなかったのだ。
「…そういや何故、あの機械龍の名を知っていたんだ?」
彼は彼女が「…あれは…"バハムート摂理"…」と言えた理由が分からなかった。
いきなり初登場で出てきた機械龍と彼女は、何処か関係があるとでも言うのだろうか?
彼は心の隅で不思議と不安の感情を蜷局のように渦巻かせていた。
「…あれは曾て、私たちが爆破ミッションを執行した際に邪魔してきた龍だからよ。
…そう、ガーディアンと同じ…摂理府によって作られし、人工の幻象なのよ。
―――でも、此処で悩んでる暇もないわ。…行きましょう、次なる地に」
2人はそのままバイクに乗り込んで、咒式降誕炉を目指した。
青々とした水平線は、何時までも静かにその場で佇んでいた。




