34章 アガスティアの豪翼
引き金を引き、銃弾の雨を作りだしたアリス。
彼女の前にいる3人に襲い掛かった横殴りの豪雨に、リヒトは反応した。
捺印スティグマがある左腕を天に翳し、声高らかに宣言を行う。
「…幻象召喚!―――『イルシス・ワンダー』!」
靄と共に現れた巨壁は襲撃してくる銃弾を見事に防いでくれる。
城壁であるイルシス・ワンダーの前ではアリスの銃弾は歯も立たなかった。
屈したアリスはすぐさま城壁を登り、そして真上から3人を襲撃したのだ。
「喰らいなさい!」
しかし、城壁の後ろにはリヒトしかいなかったのだ。
そして太刀を携えた彼はイルシス・ワンダーの真上に上っている彼女に向かって斬りかかったのだ。
同じ舞台に立った彼に対し、アリスは拳銃で応戦する。
城壁の上で銃声が響き渡るも、彼はその垣間を抜け駆けた。
太刀の白銀に大量の雨を映して、その朧げなるエニルクスに対して一閃を図ろうとする。
「…銃弾は避け慣れている」
「それが貴方の答えかしら?」
襲い掛かる一撃を拳銃で受け止める。
空気を裂く音と共に虚無の空間に響き渡ったのは金属音。
2つの鋼がぶつかり合い、お互いは睨み合う。衝突した武器武器に音を言わせて…。
「…ふふ、貴方の攻撃なんて受けないわよ?」
「それは後ろを見てからいうものね!」
アリスの後ろから迫ったのはレミリアであった。
スペルカードを片手に、一気に城壁を駆け上り、そして声高らかに宣言した。
不意の出来事に、アリスは反応に遅れてしまう。
「―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!」
放たれた紅き槍は、そのまま空気を割いて一直線に弧を描く。
その先にいた存在は―――アリス。
しかし、彼女はすぐさま彼の攻撃を空周りさせ、すぐに槍を躱す。
ジャンプして攻撃を避けた先にいたのは―――デオスカリバーであった。
「喰らえ!」
大剣の一撃を空中で受け、下に叩きつけられるような形で攻撃を被った彼女。
そのまま隕石のように落下する姿は、彼女の疲弊とも捉えられた。
空間と言う白地の中、縦に彩るは彼女の叫び声であった。
「うっ...きゃああああああ!!!」
イルシス・ワンダー自身は靄へ昇華し、そのまま地面に彼女は墜ちた。
叩きつけられた形の為、地面で受けた衝撃は大きく、彼女は血だらけの姿で起き上がった。
額からは血が線を描いて流れている。眼も充血し、地獄の様子でも見たかのようであった。
―――彼女は目の前に存在する3人に、この怪我で勝てる訳は無いと悟った。
懐に右手を差し込み、取り出した赤い物体―――それに彼女は火を点け、嘲笑った。
どうでもいいや。…全ては摂理府の為、この世界の為。
「…もういい…お前らと共に、私も死ぬわ!
―――それがこの世界が定めた運命!…受け取りなさい!」
全てを受け入れ、この現世に淡い希望を抱いて―――。
それを天高く投げ、3人纏めて殺しに掛かろうとする。…自分も含めて。
流るる血は、その紅を指示していた。…虚ろざる永遠を、その流れに宿して。
「それは…ダイナマイト!?」
不意に投げられたダイナマイトは、避ける暇も与えずして爆発する。
それはアリスと3人の間の地点…巻き添えにしたアリスはその白煙の中で消えゆく。
その衝撃は3人にも襲い掛かってきたが、デオスカリバーは2人に向かって、甲冑を着たまま足で蹴りを放った―――。
「…お前らは生きろよ。…どんなことがあってもな」
…重たい一撃が、腹部に放たれる。
2人はそのまま蹴とばされ、遠くに飛ばされて、尻もちをついた。
刹那…目の前で甲冑が粉々に吹き飛んでいったのであった。
◆◆◆
「あ…ああ…」
落ちるは鋼と肉片の欠片。そして瞬間的に固まった血球だ。
凝固した血の降る地面は―――2人を犠牲にしていることを示す墓標でもあった。
…自分たちに何も出来なかった懺悔が、心の隅を巣食う。
どうしようもない感情が、自分の中で暴れている。靄靄とした感覚が…涙を流させた。
「…私たちは…何も出来なかった...」
「…ごめんなさい…デオスカリバー...」
僅かな間であったが、自分たちを助ける為に身代わりになってくれた仲間。
最後に言った一言を…彼らは忘れてはいない。
静かな祈りと共に、2人の"虚偽の平和の犠牲者"を追悼し、次へ向かうことにした。
助け出した人間たちに古代図書館への行き方を教えて…。
「次は…咒番1號炉、か」
「…行くわよ。…デオスカリバーの命は無駄にしてはいけないもの」
遥かなる水平線の向こうに行ってしまった、デオスカリバーの魂。
悲しみは、またそこに…。
黒のバイクを走らせ、白亜の瓦礫を後にして…2人は次なる地へ向かった。
そして…この旅も、多くの犠牲が起きて生まれているものであることを、改めて悟った。
―――世界は、表も裏も、綺麗であった。




