33章 The profane and the Arts of well-being
"烏賊"と言う仮の姿の中から本当の身を現した人物―――。
柔らかい偽りの布を地面に落とし、くたびれた様子を見せ、その大地に足を踏み入れた―――。
…それは甲冑を着て、重厚感を示す存在…。
「貴方は…デオスカリバー!?」
曾て高速道路上で戦い、そして勝利した相手…アロン・グレッダ=デオスカリバー。
確かに気を失って倒れたのは事実であったが、ここで出会えるとは思ってもいなかったのだ。
それにカリスマ溢れる"枢機卿"と言う立場を翻して烏賊になり切っていたことが、2人はどうも気に食わなかった。
「…そうだ。…私がシソーラスになっていた」
「じゃあ過去が易者だのどうのこうのの話は全て嘘だったのか…」
「いや、嘘とは一概には言えない。…本当の事実を述べただけだ」
デオスカリバーそのものがシソーラスであって今の易者であること…。
それを2人は悟った。この方程式は予想もつかないものだが、本人によって定義づけられた以上、疑う余地は無いものであった。
甲冑の男は烏賊の着ぐるみを畳み始め、遥かなる水平線を狭き視界の中に映していた。
「…貴方は易者でもあって烏賊でもあるのね…」
「…そうだ。…私はあの道化の姿を用い、お前たちの偵察をしていた。
―――が、途中からどうも馬鹿馬鹿しくなってきてな。…摂理府の命令も、阿呆らしくなった。
…どうせなら私が2人を殺害しようと思ったが…結局、失敗だ。
…ここまで来たなら、お前らを助ける身にでもなった方がマシじゃないか、ってな」
「…それで美鈴を攫おうとしたのか」
「…あの女は零刻次元症状に罹っている。
私はその研究として持って行こうと思っただけだ。決して危害は加えないつもりでいた」
デオスカリバーはそう堅実に語るも、2人は不思議であった。
見た目とそのカリスマに一致する姿に、烏賊の幻影を照らし合わせると、何処か変な気分を抱くからだ。
感情や気持ちの齟齬が相俟って、余計に呆然とする。
「…裏切り者は此処においでかしら?」
バイクのエンジン音を虚空に響かせ、その姿を現したのは…アリス。摂理府のエニルクスであった。
崩れ去った咒式降誕炉を見据え、確信した彼女は3人の前に立ちはだかった。
甲冑の男も含めて、アリスはそれぞれを睨みつけた。其れは咒式降誕炉を既に6個も破壊され、OBEYの聖匣不足によって今、窮地に立たされている摂理府の困惑でもあった。
「…貴方は…アリス・マーガトロイド…摂理府のエニルクスね…!」
「そうよ。…それにしても失望したわ。…デオスカリバー、そう言う事だったのね」
「馬鹿げたエニルクスに従う意味なんて無いと分かったからな」
デオスカリバーはそう…きっぱりと言い放った。
元々はOBEYに勤めていた身である彼はエニルクスに反抗したのだ。
易々と降参するかと思っていたアリスにとって、それは意外な展開でもあった。
「なら…」
アリスは懐から二丁銃を取り出し、両手で構えた。
銃口を3人に向け、得意げな表情を浮かべていた。それはエニルクスである彼女の不思議な自信でもあった。
元々は人形遣いと言う人々の夢の揶揄を、彼女は自分自身で壊しているのも一つの滑稽であったが。
「…ここで儚く散りなさい。…無残に消えよ」
「…悪いけど、それは無理ね。…行くわよ!リヒト、デオスカリバー!」
「「ああ!!」」
2人の声が重なり、3人はアリスに立ち向かった。
白亜の廃墟の前で、カードや太刀、大剣と二丁銃を向け合う4人。虚しさの叫びが漂う。
「…それが貴方たちの答えね…!…ならば、私がエニルクスの名に懸けて…!
――――――覚悟しなさい!」




