28章 永櫃のレーゾンデートル
[ここだけの裏話]
リヒトって言う名前の由来は…ランダム名前メーカーに作らせた結果です
―――咒式4號炉。
白亞の建材で建てられし神殿の前にバイクは動きを止める。
降り立った2人は摂理府の無差別的な聖櫃化を止める為―――意思を固める。
静かな感情はその神殿を前に荒ぶっていく。
「…ここが咒式4號炉、か…」
「そうよ。…水を司るトフェニ…メソタピア・アルザリオンが御座する場所よ」
2人は迷い無く、その神殿の中へ入っていく。
足の速さは2人の感情の高ぶりと焦りを示唆している。
薄暗い咒式降誕炉の中に敷かれたレッドカーペット上を急いで行く2人の視界に映る、煌いた世界―――。
そこは他の胎内と変わらず綺麗な彫刻やステンドグラスが置かれていた。
透き通った湖の中から姿を現す、竜の形容をしたトフェニ。
精密なパーツ同士で組み込まれて出来上がった、水を司りしトフェニは身体中から水を溢れださせていた。
恐らく、透き通った湖の水を潤滑剤として体内に通しているのだろう、錆びるはずの水を潤滑剤として用いるメソタピア・アルザリオンの特徴は不思議であった。
「…イジスガンダー…ニスト・ペグダム…パンドラ…。
…摂理府から聞いた情報だと、今まで3体のトフェニが破壊され、その命を失ったと聞く。
―――それがお前たちの答えか。…最終指名手配犯…"レミリア・スカーレット"…そして"リヒト"…」
紅い眼で眼下の2人を睨み据えるメソタピア・アルザリオン。
そんなトフェニに対して屈せず、武器を構えて対峙する。
集団で聖櫃化されそうになっていたのは、幻想郷に住む、無実な妖精たちであった。
最早、摂理府は暴走していた。…戦力になる人材なら、何をしてでも手に入れようとする執拗さ。
妖精たちは縄で手足を結ばれ、全く動けない状態でそこに佇んでいた。
大きいであれ小さいであれ、摂理府の意向に示された妖精たちはただただ、聖匣になるのを待っていた。
眼を縄で隠され、見聞き不自由な彼女たちは絶望しか持っていなかったのだ―――。
「…そうよ。…私が紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。
―――それに、彼が私の仲間、リヒト・スカーレットよ。…別に最終指名手配犯になろうが、どうだっていいわ。
貴方たち摂理府の行うことに抗う為にここまで来たのよ、今更引き返すことなんて馬鹿でもしないわ」
「…未来を見出すのは君たちの自由だ。…だが時として救いようの無い過去に立ち塞がられることもある。
―――君たちは過去を決別しないのか?…それが君たちの選ぶ答えなのか?
…未来は変遷し、時は無常、移り変わってゆくもの。…君たちは過去の思い出に囚われた者達なのだ」
メソタピア・アルザリオンは重厚感を持つ声で、そう言い放った。
過去を決別しないことに、訪れる未来は存在しない。…そう述べたトフェニに彼は反論した。
「…私に思い出は無い。…だから、未来を見出す!…平和な世界を望むため!」
「そうよ!…過去はもう戻らない!…だからこそ、過去に"似た"、平和な世界を作るのよ!
―――そっくりそのままの世界はもう帰ってこない。だけど…それに疑似したものは作れるのだから!」
「そうか…。…哀れな子羊たちだ」
2人は目の前にいるトフェニに向けて、戦う構えを取る。
彼は太刀先をトフェニに向け、彼女は右手に何枚かのスペルカードを携える。
水の機械龍は自身の身体から寂寥を棚引かせて流れる水と共に巨大なその姿を露見させ、2人の意思を受け止めた。
「…永劫の悪夢に導こう。…さあ、かかってくるがよい!
―――終わりなき負の連鎖を始めよう!…未来へと続く、果てしなき世界を!」
◆◆◆
メソタピア・アルザリオンは自身が司る力を利用し、2人に向けて大海嘯を起こす。
それは巨大な大津波となりて、2人を飲みこむ竜が如く襲い掛かってくる。
「私たちを守れ!…幻象召喚!―――『イルシス・ワンダー』!」
現れた巨大な城壁は襲い掛かる波から2人を守る。
とてつもない圧力に対しても耐えたイルシス・ワンダーは役目を果たすと靄へ回帰した。
「…貴方の自由にはさせないわ!…新たな未来は私たちが作り出す!
―――スペルカード!…運命、ミゼラブルフェイト!」
彼女のスペルカードの一撃は大海嘯を起こした後のメソタピア・アルザリオンの硬い装甲に一撃を与える。
精密な機械の一部が剥がれ落ち、機械龍はレミリアにカウンターを仕掛ける。
自らの身体に取り付けられた何丁ものマシンガンで彼女を狙い撃ちしたのだ。
襲い掛かる銃弾。それに対して何も行動が取れなかった彼女の前に現れたのは彼であった。
そして彼女を守るべく、自身の太刀を上に翳して宣言する。
「…幻象召喚!―――『銀河廊マザーホルス』!」
炎を纏いし、機械の不死鳥は襲い掛かる銃弾を代わりに受け止める。
マグマのような熱さを誇る灼熱に、放たれた銃弾は溶けていく。
―――鉄の溶解温度は1,000℃を超す。…マザーホルスの機械は何故溶けないのか…。
…それは召喚獣である為分からないが。
「…ありがとう、リヒト」
「礼に及んだ事じゃない、それよりも戦うぞ」
彼は一気に太刀で巨大なトフェニに斬りかかった。
レミリアの先ほどのミゼラブルフェイトが響いた装甲部分を狙って斬りつける彼。
装甲に罅が入り、彼は一気に最奥まで太刀を差し込んだ。
しかしメソタピア・アルザリオンはそんな彼を太刀と共に振るい落とすと、赤い眼で見据えた。
「…創造を幻想で回帰させよう…」
水はメソタピア・アルザリオンの思うがままに形を変え、巨大な剣と為る。
そして機械の右手でその剣を携え、眼下の2人に一撃を被ろうとする。
2人はその攻撃を見切り、何とか躱したものの、巨大な水飛沫が衝撃と共に発生する。
小さな津波に襲われた2人は半分溺れたが、何とか態勢を立て直す。
「…ここで終わらせるわ!…幻象召喚!―――『アポカリプス』!」
靄と共に召喚された、白亜のトーガを纏いし神。
トフェニであるメソタピア・アルザリオンと同じ大きさを誇り、右手には宝飾が施された杖を持っていた。
アポカリプスは杖を地面に一突きさせると、電磁波を伴ったハリケーンを起こしたのだ。
雷鳴を轟かせ、一気に水を司るトフェニに襲い掛かったハリケーンは精密な機械で作られたシステムを完全に崩壊させる。
それは水に流れる電磁波―――電圧が過電流となり、機械的に動かなくなったのだ。
アポカリプスは役目を果たして消えたものの、神の一撃を被ったメソタピア・アルザリオンは湖の中へと沈んでいく。
どんどんパーツを中に落として…赤き眼を消灯させて。
「…終わった、のか…」
「―――そうね。…これで残りトフェニの数は6体。
…ここまで来れたのよ、貴方となら…何でも出来そうな気がするわ」
「…馬鹿な発言はよせ。…それよりも早く妖精たちを助けよう」
「(正直に言ったつもりなのに…///)」
静かな水の流れ。
過去との決別をしなくては未来を見い出せないのか?
―――メソタピア・アルザリオンの問いに対する答えを、2人は見い出そうとしていた。




