27章 静謐の悪魔
胎内で捕まっていた咲夜たちを助けた2人。
全員の縄を解き、解放させた2人に咲夜たちは自らが助かった事を改めて自覚していた。
「お、お嬢様にリヒト様…」
「全く、何やってるのよ。…もう少しで聖匣になりそうだったわよ。
…私たちが助けたからいいけど…」
下を俯き、捕まってしまった事を反省する咲夜。
そんな彼女の様子を見計らったレミリアは「…でも、よく頑張ったわ」と褒めの言葉を入れる。
褒めの言葉なんて貰えると思っていなかった咲夜はそんな彼女に涙が零れた。
「…すみません…でした…」
「何で泣く必要があるのよ。…咲夜、元気を出しなさい。
…貴方も私の我儘に付き合ってくれたのよ。…貴方も、よく頑張ってくれたわ」
そんな彼女に咲夜は自分が恵まれていることを察した。
自らが置かれている立場―――自分が情けなくなったのも事実だ。
「レミィ…。…貴方、以前とは違って凛々しさがあるわね」
そう言ったのはパチュリーであった。
彼にはその言葉の意味がよく分からなかったが、彼女がカッコよく見えるのは事実であった。
以前まではどんな状態であったのか、それは彼の知った範囲では無いが…。
「…パチェ、そう言う事は後で言いなさい。…照れるわ」
「お姉さま、やっぱりリヒトさんと一緒にいると…何て言うんだろ…なんか…"お似合い"、だね」
妹のその発言はレミリアの頬を一瞬で真っ赤に染めさせる。
「な、何でよッ」と反論をたじろぎながら行う彼女に説得力何て存在しなかった。
彼の横にいた彼女は、自然と―――。
「…あれ~?…もしかして、お嬢様…リヒトさんに…」
「そそそそ、そんな訳ないでしょっ!こあ、少しは自重しなさい!」
そんな彼女は彼の手を引っ張り、外へ出向こうとする。
その仕草から、彼女の焦りや羞恥さが見て取れる。…小悪魔の言っていたことは正解なのか。
それは彼が察する話では無いが…。
「レミィ!…奴らは無差別聖櫃化を始めているわ!
…きっとOBEY兵の減少に伴う、民間人の聖匣増加を狙う動きよ!
…確か4、2、7、1、8の順で聖櫃化を行うって聞いたわ!
「分かったわ、パチェ!…後は何とか出来るでしょっ!…は、早く戻りなさいよ!」
◆◆◆
咒式3號炉からバイクで疾走する2人。
摂理府がOBEY兵を増やすために無差別聖櫃化を開始した事に多少焦りを覚える。
彼は摂理府営高速道路に乗り上げ、次の行き先―――咒式4號炉へ目指す。
「…次は咒式4號炉、だな…」
「パチェの言う事が本当なら、そうね。…4號炉のトフェニは"ゼア・トフェニ=メソタピア・アルザリオン"…水を司るトフェニよ」
バイクは高速道路上を猛スピードで通過する。
その勢いは空気を貫き、風を切る。白線は繋がり、水平線はどんどん迫っていく。
「…メソタピア…アルザリオン…」
「…摂理府が無差別聖櫃化を始めた以上、私たちも連続してトフェニと戦わなければならないのよ。
…でも、私は怖くないわ。…今までは怖かったけど、もうトフェニなんか…」
「異物発見!」
彼は後ろから現れ、並走するバイクの存在に気づいた。
左手だけでバイクを運転し、右手に取り付けられた制御棒の口を2人に向ける女性―――。
「貴方は…霊烏路空!…エニルクスね!」
「貴方たちがコンガラを倒して、パンドラもやっつけた事を聞きつけたのよ。
…摂理府は今、OBEY崩壊寸前で危機的状況に晒されているのよ。…貴方たちの所為で!」
2台のバイクはただ直線状に伸びる高速道路を駆け抜ける。
エニルクスである空の声はバイクが風を切る音が響く中、鮮明に響き渡る。
「…リヒト!バイクに乗ったまま戦うわよ!」
「…分かった!」
彼も左手で太刀を構え、右手でハンドルを操縦する。
後方座席のレミリアはバイクの上で立ちあがり、スペルカードを構える。
高速で駆け抜ける中、戦いが始まろうとしていたのだ。
「…そして地上は聖櫃化で溶かし尽くされる…。
―――その現世をとくと見よ!…摂理府に抗いし者どもよ!」
◆◆◆
空は自身の制御棒に込められた核エネルギーを並走するバイクに向けて解き放つ。
凄まじき力を誇る核の力はそんな2人に向かって放たれたが、彼はアクセルを踏み切った。
彼が運転するバイクは空のバイクの前を行き、高速道路は核エネルギーによって崩壊してしまう。
今さっきまで通過していた箇所は既に瓦礫の山になっていたこと…それを何よりも恐ろしく感じた。
「お前の自由にはさせない!」
バイクの速度を再び落とし、並走状態にした彼は一気にタックルを仕掛ける。
バイクでの一撃を被った空は片手運転であるが為にバランスを崩し、狼狽を見せる。
何せ高速の上で戦っている状態、焦りが生じる。
「追撃を仕掛けるわ!―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!」
バランスを崩していた彼女に放たれた、紅い槍。
それは狼狽を見せるバイクに一気に襲い掛かるものの、何とか立て直した空は巧みな運転さばきで槍を回避する。
そして至近距離で2人に向かって核の一撃を解き放とうと試みたのだ。
「…燃え尽きろ!」
「そうはさせるか!」
彼は太刀でそんな彼女に一閃し、見事に横脇腹を斬りつけた。
血が滲み、攻撃を射たさで一旦中断する彼女はバイクでタックルを仕掛けた。
が、彼はそれを見切ってスピードを落とし、彼女のタックルは空回りしてしまう。
「うわ!ちょ…!」
そのままバイクは高速道路の端に設置されたフェンスに衝突し、大爆発を遂げた。
炎の中、断末魔の叫びを背後に2人は疾走した。
「…まだ終わってないぞ」
そんな2人と並走するように飛ぶ、白銀の頭髪を持つ悪魔。
背中にレミリアよりも大きな悪魔の羽を生やし、2人を睨みつける。
靄と共に姿を現したこと―――間違いなく幻象であった。
「アイツは…!?」
「きっと空が置き土産に幻象召喚した奴ね…!…リヒト、行くわよ!」
「―――ああ!」
2人は空を倒した後に襲い掛かった大悪魔と戦う為、武器を構える。
―――新たなる戦いの始まりだ。
大悪魔はバイクと並走しながら一気に自身の持つ闇を解き放つ。
天から2人に降りかかる、闇の矢の雨。それらを見据えたレミリアは左手を天に掲げる。
「空を守るのよ!幻象召喚!…『銀河廊マザーホルス』!」
靄と共に空に現れた、機械で出来た鳳凰は炎を纏いながらバイクの上を飛ぶ。
そして襲い掛かってきた闇の矢を自身の機械の体で受け止めたのだ。
盾代わりとなった鳳凰はその役目を果たし、隙を突いた彼は大悪魔に一気に太刀で斬りかかる。
バイクで悪魔の幻象に近づき、太刀で斬りかかるも、悪魔はさらりと身を躱してしまう。
「愚直な輩は黙ってなよ!」
闇を纏い、並走するバイクに向かってオーラを射出する悪魔。
それは波動砲となって、2人の運転するバイクに龍となって襲い掛かる。
が、彼はハンドルを巧くさばき、攻撃をギリギリで躱す。
「…何よ、今の攻撃…」
「奴が持つ力の解放だ。…でも、奴の攻撃は反動が大きい!…今を狙うしかない!」
確かに大悪魔は波動砲を放った反動で苦しそうにしていた。
そんな隙を狙って、2人は一気に攻撃を仕掛けることにした。
彼はバイクを至近距離で大悪魔に迫り、太刀を風に切らせる。レミリアは近づいた瞬間にカードを天に掲げた。
「―――スペルカード!…紅魔、スカーレットデビル!」
「太刀の一撃を受けろ!」
2人の攻撃は…反動で体が硬直していた大悪魔に一撃を被らせた。
◆◆◆
「ぎにゃああああああああ!!!」
果てしなき叫びと共に悪魔は高速道路上を転げ回った。
バイクもそんな悪魔の意向を確かめる為、一旦ブレーキを掛ける。
タイヤとコンクリートの間に静電気が迸りながら、バイクはゆっくりと速度を下げ、やがて止まった。
高速道路上で仰向けに倒れる悪魔。
駆け寄った2人の前で静かに、ゆっくりと立ち上がると微笑んで見せた。
「…わ、悪かったです。…どうやら僕を召喚した人の思念に憑りつかれて、暴走していました…。
…誠に申し訳ない事をしましたね…」
「…本来の貴方はいい人なのね」
「あ、はい。魔界で悪魔を束ねています、ジストルシファーって者です。
―――貴方がレミリアさんで、貴方がリヒトさんですよね?」
彼は2人に指を差しながら、名前を確かめる。
実際に彼が覚えていた名前は一致していたため、2人は頷いて見せると彼は安堵を示す。
「よ、良かった…」
「それにしても、だ…。…お前、ギャップが激しいな。見た目と性格がな」
冷酷そうな目や表情を持つ彼の本来の優しさを気づいたリヒトはそう述べた。
ジストルシファーは「えへへ…///」と頭を掻きながら、それを肯定した。
「よく言われるんですよ…。…悪魔を束ねる王の癖して優しいんだな、って」
「でも優しい事はいい事よ。…誇りに持った方がいいと思うわ」
「そうですか。…あはは、ありがとうございます。
…お礼と言っちゃなんですけど、今度から幻象としてお2人のお供をしますね。
何時でも僕の名前を言ってください。すぐに駆けつけますから」
すると彼は靄の中に消え、辺りに寂寥が漂う。
「…意外といい人物だったわね」
「…ギャップの激しい奴だ。…いい意味でな」
そのまま2人はバイクに跨り、彼はアクセルを踏み切った。
―――摂理府の無差別聖櫃化を止める為―――2人は前を見据えた。
あと召喚獣は3体出てきますね~




