26章 静かなる災厄
ラスボスは絶対に予測出来ない奴にします
「コイツかよ!」ってなるようなラスボスにご期待下さい
勿論、この章までで既にラスボスの名前は出ています
咒番3號炉の深淵に座せし、災厄の箱。
それは煌めく黄金や白銀で彩られた彫刻と幻想的なステンドグラスを背景に、そこに存在した。
美しい湖から姿を見せる、災厄の箱を持ちし美貌な美人のトフェニ。
女神を彷彿とさせるような姿を前に―――2人は立ち止まった。
胎内では縄で結ばれ、見聞きが出来ない咲夜たちが―――捕縛されていた。
眼も縄で結ばれているため、2人が助けに来たことも分からなかった。
2人は目の前に御座せしトフェニの前に立ち、睨みつけた。
―――仲間たちを聖櫃化しようと試みるトフェニに。
「…お前が…ゼア・トフェニ=パンドラか…」
「…如何にも。私こそが闇を司りし神…パンドラだ」
「…その手に持ってる、機械製の箱が…パンドラの箱とでも言うのかしら」
彼女はパンドラが持っていた大きな箱の正体を予測した。
その箱は今にも開けられそうであり、中から闇の示唆である魔障が溢れだしていた。
恐怖の揶揄―――それは美女の掌の中で…渦巻いていた。
「…この箱に名は無い。…絶望しかない、災厄の箱とでも言うべきか」
「今のお前自身が災厄だがな!」
彼はそう…きっぱりと言い放った。
自らの仲間たちをここまで追い詰め、エニルクス達と協力して聖櫃化を試みようとする存在―――。
―――それは2人にとって災厄の存在であった。
「…そうか。…お前たちが聖匣候補を助けに来た存在か」
「そうよ!だから全員を返してもらうわ!」
「出来ぬ。…それは未来のこの世界を支える、重要な人材だ。…お前たちのような、反逆しか考えぬ存在に何が理解出来る?どうして未来を案じられようか?
―――全ては見出された。…お前たちに生きる世界など、与えられぬ!」
「じゃあ作り出してみせるまでよ!
…私たちが平穏に生きれる、"機械的な平和"を取り払った世界を!」
彼女の想いを果たすまで―――世界は変わらない。
だからこそ戦うしか無いのだ。…如何なる存在に対しても、武器を構えて―――。
「…高が庶民如きに何が出来る!?…ならば見せてみよ、世界を案じて見よ!」
◆◆◆
闇を司るパンドラは箱の中から溢れ出す魔障を操り、それらで剣や槍などの武器を形成していく。
そして魔障の武器の雨を2人に向けて、一気に降らせたのだ。
美しき空間を埋め尽くす―――魔障。
「あれは…」
「武器を闇で作りだしたのね!…任せなさい!
…幻象召喚!―――『イルシス・ワンダー』!」
靄と共に2人の現れた、巨大な城壁は襲い掛かる魔障の雨から2人を守る。
弾かれる音が連続で響き、その音の凄まじさが雨の恐ろしさを物語っていた。
イルシス・ワンダーは魔障の武器の雨を塞ぐと、その役目を終えて靄へ回帰してしまった。
「…私が決める!
…幻象召喚!―――『リヴァイアサン』!」
靄の中から水飛沫を纏った海竜が姿を現すと、目の前に御座するトフェニに向かって大きな咆哮を上げる。
そして靄の中から波を呼びよせ、一気に大海嘯を起こしたのだ。
勢いが凄まじき津波は機械仕掛けのトフェニに襲い掛かり、電流が飛び交う。
津波を起こした後、リヴァイアサンは自ずと消えていった。
「お前たちを…許してはおけぬ!」
パンドラは自身が持つ箱を更に開け、中から膨大な闇を溢れださせる。
そしてそれらの闇を用いて、巨大な剣を作り出してはトフェニ自身が構えたのだ。
魔障は禍々しさを醸し出しながら、悍ましいエネルギーを形容していた。
「喰らうがいい!」
その闇の巨大な刃は2人に牙を剥いた。
恐ろしき魔障の一撃。…それに対し、彼女はスペルカードを掲げた。
―――彼を守るために。
「…スペルカード!―――神槍、スピア・ザ・グングニル!」
紅い槍でその一撃を受け止めようと試みた彼女―――。
後ろでその剣に狼狽を見せる彼の前でカッコいい姿を見せたかった彼女はその攻撃を受け止めたのだ。
摩擦が走る。膨大な圧力と共に―――。
「リ、リヒトッ!」
「わ、分かった!」
彼女がトフェニの攻撃を受け止めている間に彼は太刀を天に掲げた。
…彼女が示す、苦しい顔。…しかし彼は垣間見た。
―――彼女は自分に対して、無理そうな笑顔を浮かべたこと。
それが何を示唆するのか…彼は分からなかった。只、自分を守るために―――。
…彼は動けなかった。トフェニの剣が襲い掛かってきた時、何処か恐怖心を抱いていた。
―――そんな馬鹿馬鹿しい自分の為に、彼女は身を張って守ってくれた。
―――そうだ、今度は自分の番だ。
「…幻象召喚!―――『バハムート』!」
―――ぐぎゃああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおう!!!
◆◆◆
咆哮と共に恐ろしい炎の一撃を放った黒竜。
その一撃はリヴァイアサンの大海嘯を受け、機構が麻痺していたパンドラにとって一撃必殺であった。
一気に仕組みが崩れ、精密機械で構成されたパンドラはその機能を停止させた。
携えていた機械の箱に収納された魔障は湖の中に崩れゆくパンドラと共にする。
彼女に掛かっていた圧力は無くなり、剣ごと湖の中へ消えていった。
彼はそんなトフェニの最期をしっかりと見届けた。
何時の間にかバハムートは靄となって消えていた。…が、何よりもレミリアは無事であった。
「…あの時、私は動けなかった…。
―――何度も助けられてばかりだな。…これで感謝するのは何度目だろうか」
「いいのよ。…だって、貴方は私の仲間じゃない」
彼はそんな彼女の言葉に感銘を受けた。
…彼女には、やはり感謝し切れなかった。…守られてばかりの、自分が。
「…ありがとな」
静かに、彼はそう呟いた。
寂寥の中、2人は捕まった咲夜たちを助ける。…これが摂理府の残酷さであると、2人は改めて知った。




