25章 世界を委ねよ、使命を抱きし子供達よ
―――咒番3號炉。
…ここに咲夜たちが連れ去られたと聞き、やって来た2人はバイクを入り口付近の死角に止める。
広大な神殿への入り口。2人はそれを睨み据えていた。
悍ましいオーラを醸す、希望と諭されし神殿。それは2人にとって、"悪"の象徴であった。
「…行くわよ」
「…ああ」
彼らは簡単な会話と共に、静かに中へ足を踏み入れた。
煤けたランプが灯す、薄暗い空間。その中に敷かれたレッドカーペットの上を坦々と歩いていく。
カーペット上の重たい足音が、空間に呼応する。
両端に置かれた彫刻―――聖蹟の前を通って、トフェニの御座せし場所へ目指した。
空間と相反して奥に輝く、煌いた世界―――。
「…見えてきたわね」
「―――そうだな」
突然、行く手を阻む者が現れるのを足音で察した2人。
薄暗い世界の中に響き渡る、対峙者の声…エニルクスであった。
「…お前たちが紅魔館組の余り、だな。…最も厄介な存在で、最も憎たらしい敵」
「…同じことをそのまま返すわ」
日本刀を右手で携え、暗闇の中で紅き眼を朧げに輝かす存在―――。
彼女に足は存在しなかった。幽霊のように、足から下が半透明な状態になっている。
ふわふわと浮遊させながら、日本刀の先を2人に向け、自らの"使命"を果たそうとする。
「…私はコンガラ。…ここの咒式降誕炉の主であるトフェニ、"ゼア・トフェニ=パンドラ"の元へお前たちの同胞を届けた存在だ。
…憎いか。…憎いだろう。…だがな、考えてみるがよい。…これが世界なのだ」
「…丁寧な自己紹介、どうも。…そして、貴方達への憎しみが更に増えたわ!
―――世界の平和の為、と偽装して…世界を滅茶苦茶にしてきた貴方達が!」
「…だから何だ。…平和は時として破壊を要求する。…保つことだけが平和とは限らない」
レミリアの論を当たり前のように反論する彼女。
そこに籠っていたのは―――冷酷さ、冷淡さ。感情がそこには存在しなかったのだ。
"機械的な平和"を望み、自ら与えられた使命を全うに果たそうとする彼女も、正しいと思えば正しいのかもしれない。
世界から見て、これが果たしてどんな評価に値する行動なのか―――それは分からないが。
「…私たちを破壊するつもりなのね。…貴方たちが偽る平和の為に!」
「…言っておこう。…今のお前たちは只の『伝染病』だ。
―――反逆を示し、この世界に於いて"摂理府打倒"の動きを高めている、第一人者だ。
…その病気は何処まで蔓延していくのか。…私如きに分かった話じゃないが、この世界にとっては害悪だ。
…病気は排除する。―――それを"破壊"と捉えるかどうかは、お前たちの自由だ」
「私たちは破壊と捉える。…だからお前たちを邪魔する。…そして世界を変える!」
彼はそう―――きっぱりと言い放った。
感情を持たぬ人工魔導士が抱いた、静かな気持ち。…芽生えた心は目の前の情景を捉えていた。
…彼に後悔は無かった。太刀先をコンガラに向け、真剣な眼差しを向けた。
「…そうか。…お互いの感情は齟齬したな。…仕方ない…。
…戦おう。―――どちらが正しいか、決着を付けるために!」
◆◆◆
コンガラは自身が浮幽霊であることを利用し、一気に日本刀で2人に斬りかかった。
足が無い分、高速で空中を駆ける彼女にリヒトは太刀で応戦する。
剣同士が交わり合い、剣戟が走る。摩擦音が薄暗い空間で響く。
果てしない斬撃の猛攻に、彼は太刀で何とか応戦していたが、一瞬の隙すら作ってはいけない防衛に疲弊を増やしていく。
「…もう…リヒトには手を出させないわ!」
猛攻を繰り出していた彼女の後方でスペルカードを掲げるレミリア。
そして声高々に堂々と宣言を試みたのだ。
「―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!」
放たれた紅き槍は直線上に弧を描き、一気にコンガラの背へ飛んでいく。
後方からの気配を察知した彼女は日本刀で飛んできた槍を斬り裂き、無かったことにしてしまう。
「今だッ!」
彼は太刀を構えて一気に斬りかかるが、俊敏な動きは彼を捉えた。
すぐさま受け身の姿勢を取り、太刀の一撃を防いでしまう。
「クッ…!」
苦しそうな表情を見せる彼。それはとても辛そうなものであった。
一瞬の油断が命取りになり兼ねない状況で、彼に疲弊が溜まっていたのだ。
それは主に先程のコンガラの猛攻を防いだ際に出来上がったものだった。
彼女は怖かった。
自ら投げた槍が剣で斬られることに…自身を無くしたのだ。
―――だが、その時…同位遺伝で得た、彼の捺印から謎の呼応を得たのだ。
そして彼女の脳裏に浮かんだ、一筋のフレーズ…。
―――私たちを召喚せよ、世界を変えるエニルクス…"レミリア・スカーレット"よ…!
彼女はその時、自身の腕に刻まれた捺印を見た。
青々とその輝きを灯す紋章に、彼女は左腕を天に掲げた。
「…幻象召喚!―――『アマテラス』!」
その瞬間、彼女の背後に降り立った巨大な太陽の神が現れたのだ。
薄暗い空間に神々しさを放った神を背景に、彼女は光の剣を携えた。
その剣はアマテラスの力が籠った剣―――巨大な一撃を、彼女はコンガラに試みた。
化身のような召喚獣に、コンガラは驚愕を隠せなかった。
そして自分に降りかかって来る攻撃に彼女は日本刀を構えるも―――無駄であった。
「うっ…うわあああああ!!!」
天の力を伴った彼女の一撃は一気にコンガラを吹き飛ばしたのだ。
レッドカーペット上を転がり続ける勢いは、その攻撃の威力を示唆していた。
「…レミリア…お前も出来るようになったのか…」
「―――そうよ。…フン、感謝しなさい。助けてあげたんだから」
「…ありがとうな」
お礼を言われるなんて、思ってもいなかった。
自分に向けられた、彼の優しげな笑顔―――こんな時に見せるなんて、と彼女は多少憎んだ。
…が、彼女もそんな彼に微笑み返した。…頬を真っ赤に染めて。
「…ったく、私だって…正義はあるんだ!」
召喚獣は消え、元の姿に回帰した彼女に襲撃を図るコンガラ。
しかし、そこには彼の姿があった。
「それはこっちの台詞だ!」
「ぐっ…ぐわあああああ!!!」
太刀は彼女の背中を斬りつけた。
幽霊だからなのか、血は滲まないものの、コンガラはそのままレッドカーペット上に倒れこんだ。
愛刀の日本刀を横に、そのまま動けずにいた。
◆◆◆
「…お前たちの"正義"…とくと見させて貰った…」
「―――悪いけど、行かせて貰うわ。…助けなきゃいけないもの」
2人はそんなコンガラを後に胎内へ向かった。
そんな2人にコンガラも奇襲攻撃を仕掛けず、負けを認めて倒れていた。
寂寥の中、倒れている彼女に灯った感情―――。
―――幻想は、そこにあった。




