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22章 随伴現象説のパラダイムシフト

バイクは摂理府営高速道路を駆け抜け、水平線の向こうに存在する"生きた世界"―――紅魔館まで一気に走る。冷たい風を切りながら、静かな幻想を撃ち破って―――。

紅い館が視界に朧げに映った…が、不穏な雰囲気が漂っていたのは事実であった。

戦火が立ち上り、煙が空中で舞っている。


「…あれは…」

「―――嫌な予感がするな」

「…急ぎましょう」


その光景を見て、辛辣な表情に変えた彼はバイクのアクセルを更に掛ける。

轟音とも言うべきエンジン音を響かせて、彼は疾走した。

悪寒が2人の背を走った。その奥で見えているものは、一体…。


◆◆◆


バイクが結界前に着くと、目の前に広がる光景は…やはり予想通りであった。

武装した妖精メイドは疎か、仲間である咲夜やフランも捕まっていたのだ。

縄で纏めて結ばれて、口や眼にはロープが巻かれ、地面に座らされている彼女たちの姿を見て―――レミリアは驚きを隠せなかった。

仲間を捕縛し、不敵な笑みを浮かべる存在―――。


そこに姿を見せる、2つのスーツ服姿の女性。

1人は私用飛行機を傍らに、捕縛した紅魔館勢を詰め込んでいく。レミリアはそんな様子に耐えきれず、助けに向かった。―――が。


「おっと、そうはさせないわよ」

「…貴方は…天人の永江衣玖…!…確か貴方もエニルクスだったわね…!」


怒りに震える彼女は、行く手を遮る衣玖を無視して助けに行こうとするが、拳銃を構えた彼女の前では狼狽えることしか出来なかった。

すぐそこにいるのにも関わらず、助けに行けない悲しみや悔しさが一気に込み上げて、彼女はスペルカードを構えた。

彼もそれに続いて、太刀を構える。衣玖はそんな2人を見ては…何故か拍手をしていた。


「…ここまでエデンに反逆できたことを褒めてあげるわ。…流石ね」


「な、何が言いたいのよ!?」


「―――分からないかしら?…貴方たちは所詮、エデンの下の存在。…"作られた物"に過ぎないのよ。

…その癖して、私たちの手を最後まで焼かせることを…褒めてるのよ」


「まだ私たちの反逆は…終わってなんかいない!」


そう怒りを口調で示したのは彼であった。

太刀を陽の光で輝かせるは、彼の衣玖に対する瞋恚が示されているかのようであった。

睨みつけて―――彼は仲間を連れ去ろうとするエニルクス達が許せなかった。


「あら?でもそんなのも終わったようなものじゃない、何を今更…」


「勝手に決めるな!」


彼の怒りに面倒な顔を見せた衣玖は、拳銃の銃口を2人に突き付けた。

―――仲間を連れ去られるくらいなら、ここで闘う。

そんな彼らの意思はオーラとして醸し出されていた。


「…そうね。…コンガラ、後は頼んだわ、私はコイツらを引き付ける!」

「了解!どうかご無事で!」


後方にいた女性はどんどん詰め込み作業を続ける。一刻も早く、彼女を止めるために―――。


「…貴方を止めて見せるわ…衣玖!」


◆◆◆


衣玖は右手を上に翳すと、生き残りと思われるOBEY兵が2人、彼女の補佐についた。

仲間を纏う、彼女の戦略に苛立ちを見せながらも彼は幻象召喚シグマバースを行う為、太刀先を天に向けた。


「…幻象召喚シグマバース!―――『フィア・デス』!」


2人の前に掛かり始める靄の中から姿を現したのは、鱗も真っ白な神龍であった。

眼下の3人を見下し、そして点を貫く咆哮を上げる。

その咆哮は天候を一気に曇天へと変え、雹の雨を一気に降らせたのだ。


2人のOBEY兵は雹攻撃を受けて退散し、弱い仲間に呆れた衣玖は自身の能力である雷鳴現象を引き起こし、フィア・デスに落雷を直撃させる。落雷で神龍は靄に回帰してしまい、曇天は晴れる。

靄の奥に姿を隠していた2人は衣玖の視界に映ったや否や、攻撃を仕掛けたのだ。


「…今よ!―――スペルカード!神槍、スピア・ザ・グングニル!」


紅き槍は空中で一筋の線を描きながら飛んでいく。

その槍を見切った衣玖は回転回避で攻撃を躱し、空中で2人に向かって拳銃を連射したのだ。

飛んでくる銃弾の雨に被弾しない為にも、2人は後退しながら隙を窺った。


「…私が衣玖を誘き寄せるから、リヒト…」

「分かった!」


レミリアは自ら囮を選び、彼に攻撃を託した。

彼は銃弾の雨の範囲から逸れ、太刀を構えていくの不意打ちを狙う。

―――彼女は拳銃でレミリアを撃ち続けることに耽溺していたのは事実であった。

背中から一気に太刀で一閃を図る彼。


「喰らえ!」


その攻撃は彼女の横腹を―――貫いた。彼の刹那が、彼女の行動を止めさせたのだ。

血がゆっくりと溢れる。黒に滲む赤は何とも言えない色彩を示していた。


「クッ…うぅ…」


呻き声を上げて倒れこむ衣玖。

戦いに攻撃は油断してはいけないもの、拳銃を持つことでいい気になっていた彼女に襲い掛かった、天罰でもあったのだ。


◆◆◆


「…まさか、あんな囮に引っかかるなんて、ね」

「いざとなれば、私が囮になっても良かったのだが…ここまで楽であったとは」


2人は倒れる衣玖に元まで近づき、彼女を見下した。

エニルクスである衣玖から、彼は武器である拳銃を奪うと、衣玖は只泣くばかりであった。


「うぅ…」

「…哀れね、衣玖。…貴方は負けたのよ」


冷酷な目で言い下す彼女に、衣玖はレミリアの姿が朧げで見えなかったのだ。

―――潤いが、彼女の視界に映るレミリアの姿を柔和させる。

…結局、彼女は敗北した人物に過ぎなかった。…が、本来の目的を達成できたのは事実であった。


「…もう1人のエニルクスは…チッ、既に飛行機を離陸させたのね…」

「―――ああ、そうよ。…私が勝とうが負けようが、貴方たちの仲間はいないのよ!

…貴方たちはたった2人!その人数でこの世界に抗う?…ふふっ、笑わせないで欲しいわね」


敗者の笑みを浮かべる彼女に心底イラついたレミリアは倒れる衣玖の頭を右足で踏みつけた。

怒りに震え、眼を真っ赤に染めた彼女の表情―――。


「…黙りなさい!…貴方が信じる常識を、私たちは変えて見せるわ!

―――行きましょう、リヒト。…咲夜たちを追うのよ!」

「ああ!」


彼女が持つ感情を把握した彼はバイクに乗り込み、続いてレミリアも後ろに乗りこんだ。

急発進させて、連れ去られた仲間を追う為、摂理府営高速道路に乗った。

アクセルを踏み切り、2人は音速の如し速さで向かう。…全ては仲間の為に。


倒れていた衣玖は薄笑いを浮かべると、そのまま倒れていた。

心臓はゆっくり動いていたが、疲弊感で彼女はどうでもいい気持ちに至っていた。

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