17章 裂かれし大地と恐怖の再臨
2人は美鈴をその世界で只管捜した。
が、何処を見渡してもあるのは更地、さっきまでいた烏賊は何処かに消えてしまったのだ。
自分の事をナンパしに来た烏賊に何処か感情を覚えるレミリア。
その横にいた彼はあの烏賊の事に少し好感を抱いていた。
「…あの烏賊、一体何者なんだろうか」
「易者よ。…元々は幻想郷で占い師として勤めていたけど、巫女にやっつけられたのよ。
…まあ、貴方には分からなくてもいいわ」
「…その巫女とやらは強いのか」
「強いわ。それは私が実際に倒されたから言えることよ。でも今のアイツは只のダメ人間よ。
…トフェニが作り出す世界を受け入れて、力を全て吸い取られたのよ。…摂理府に」
「―――今、戦えるのは私たちだけなのか」
「…言ってしまえば、そうね。…抗ってるのは私たちだけなんですもの」
戦えるのは自分たちだけ…。
改めて胸の奥に存在する"決意"が少し揺らいだ彼であった。
他に助けは…無い。世界中、全てが敵なのだ、と。
弱き者は力になれず、妖精メイドのように零刻次元体になるのを待つだけに過ぎなかった。
「…"弱き生命体に、抗う権利無し"…私たちは弱いのかしら」
「…弱いとかどうとか関係ない。要は強くなればいい」
最もな答えが、そこにあった。
彼は当たり前のように言い捨てるが、彼女はその言葉に感銘を受けた。
何処か、その言葉に隠された真実が―――今、見つかりそうであった。
只管捜すこと、彼らは遂に更地の真ん中で倒れる美鈴を発見したのだ。
混沌の中、彼女は静かに…その場で佇んでいた。動かなかった。動こうともしなかった。
視界に映ったその姿に、レミリアは驚き、そして喜んだ。
「リヒト!美鈴よ…見つかったわ!」
「良かったな」
彼はそんな彼女を遠くから見ていた。
レミリアは倒れている美鈴を見つけ、彼女の手を握る。幸い、まだ温かったのだ。
「まだ生きてるわ!これで…」
「うわ―――!セーブデータ消えてる―――!ぎゃああああああ!!!」
レミリアを突き飛ばし、泣き叫んでいたのはあの烏賊であった。
何故なのか、小さな目から涙を流し、大暴れしている。自暴自棄になっていたのだ。
「あ、貴方…また来たのね」
「…あ」
レミリアの姿を見ては急に泣き止み、何故か紳士風に身を熟す烏賊。
そんな烏賊に彼女はやはり呆れていた。
「…ゴホンゴホン。…これはこれはレミリアお嬢様」
「…言い方は合ってるけれども」
「酷くない?僕ちんがやろうとしていたゲームのデータが消されてたんだよ!?
…せっかく僕ちんがやろうとしていたのに…。…もういいや、この娘を貰ってこ」
シソーラスは倒れている美鈴を触腕で掴み、そのまま何処かへ連れ去ろうとしたのだ。
そんな烏賊に反応したのは彼であった。
「おい、何処へ連れて行く気だ」
「何処へ、ってそりゃあ僕ちんの家だよ。抱き枕になって貰おうかなあ~♪」
「駄目よ!美鈴は私たちの仲間だもの!」
そんな反抗する2人に「えぇ~(まじかよ…)」と声を上げた烏賊。
美鈴を地面に優しく置き、2人の言葉を聞き入れたのか…と思いきや、何本も生えた足を広げ、戦闘態勢を整えたのだ。
「家に帰ってダーキニーする!僕ちんの邪魔はさせないぞ~☆」
「調子に乗ってる烏賊め…私が彼女を取り返させて貰う!」
太刀を構えた彼と同時に彼女もスペルカードを右手で構えた。
烏賊はニタニタ笑いながら、そんな2人に触腕を向ける。
「…って言うか美鈴を抱き枕、って貴方イカでしょ…」
「だって、イカだもん」
◆◆◆
烏賊はいきなり2人に向かって襲い掛かってきたのだ。
滑る触腕を用いて、2人の足に巻き付いて転倒させる事を試みたのだ。
しかし彼はそんな触腕を見切り、太刀で足を斬りつけたのだ。
「ギャ――――!いってえええええええ!!!」
いきなり大声を上げる烏賊に足を掴まれていたレミリアはすぐに脱出し、カードを構える。
当のシソーラスは大声を上げて発狂している。元からそう言う性格であったのだろうか。
しかし太刀ではその足を断ち切ることは出来なかった。確かに他の烏賊とは違って耐久力が存在しているのだ。
「今よ、―――スペルカード!神槍、スピア・ザ・グングニル!」
輝く紅き槍を掌の上に乗せ、一気に彼女は直線状に投げたのだ。
投擲の一撃はそのまま烏賊の漏斗部分に刺さり、更に大声を上げる。
「ギャ――――!痛い痛い!痛すぎる!」
◆◆◆
あっさりと決着がつき、烏賊は美鈴の事を諦めたようであった。
予想外の弱さに溜息しか出なかったが、やっぱり面白い存在であった。
彼は止めを刺そうとは思わなかった。それは彼の思う気持ちからであった。
「…今年もクリスマスは孤独、か。…あーあ、MMOやって今年も終わりを迎えるのか…」
「…貴方、淋しいの?」
「淋しいよ。だって年齢と彼女いない歴が同じ奴って大体人生に悲嘆してると思うんですけど」
「そりゃあ烏賊だからだろ」
「…それを言ったらお終いだぁ…。…まあいいや、この娘は返すよ。…ハァ…」
烏賊はため息をつくと、孤独にも2人の前から去っていったのだ。
虚しさや寂寥を醸し出して、そう言い残して―――。
彼は少し同情出来るような、出来ないような感情がそこに存在していた。
「…イカ、行っちゃったわね」
「でも彼女は連れ去られずに済んだ。…早く私が幻象召喚するから帰ろう…」
そう彼が太刀を天に掲げた―――刹那。
急に大地が震動を起こし、揺れ始めたのだ。巨大大地震の襲来であった。
彼は幻象召喚を揺れで遮られ、2人は必死にしゃがんで態勢を保とうとする。
「なななななななな何よ今度は!?」
「あ、あれは…」
突如、2人の目の前の大地が割れ、モーセの十戒のように真っ二つに割れたのだ。
割れて空いた大地に鮮明な水が溢れて湖となり、周りに金銀が施された彫刻が並び始める。
そして2人の前に現れた、巨大な龍の機械神―――。
―――ミレ・トフェニ=ニスト・ペグダム。
―――レミリアを聖櫃化した張本人だった。




