18章 神龍の現真機は甦る
大地を引き裂き、目の前に現れた巨大な神龍の機械―――。
神々しさを身に纏い、赤き眼で真下の2人を睨み据えるトフェニ…。
希望を揶揄する黄金などの希少金属で作られし彫刻を背景に、神龍は"降誕"した。
混沌の世界に救世を与えるかのように誕生せしトフェニは口から煙を溢れ出させる。
湖の中から吸い上げた大地のエネルギーで動くトフェニにとって、有り余るエネルギーは強大かの一途を辿らせるものであった。
恐怖の直喩。偉大な存在は、2人の前に姿を現したのだ。
「…作られし存在が…。…我をオーバーヒートなどで倒した気でいたか!?」
「―――復活したのか。…今度は何をするつもりだ」
妙に顔を知っているような素振りを見せる彼に対し、彼女は気になった。
目の前に存在する、荘厳なる存在。
―――もしかして、と思い彼女は彼に問い正した。
「…リヒト、あのトフェニは…」
「お前を聖櫃化して聖匣にした張本人だ…」
「…やっぱりそうね…!」
最初から彼の様子を見て予測を立てていたものの…そうであったとは。
彼女はスペルカードを片手に、目の前に存在するトフェニに恐れず立ち向かった。
恐怖よりも、自分を聖櫃化した復讐を果たすために―――。
「…貴方が私を聖匣にしたんでしょう…!」
「…デク人形如きが…。…その編まれた口で何を喋る?同じ事しか言えぬ者に、希望は宿らぬ」
「貴方が希望を消したんでしょう!?私たちから!」
「―――我々は"希望を織り成す神"…。…感謝したまえ。絶望をこの世界から取り払ったのだ。
貴様が述べることは的外れに過ぎぬ。平和になった世界を喜べ」
「機械的な平和なんて、誰も求めてない!ただ聖櫃化が怖くて、自由に行動できないだけよ!」
怒りを露にした彼女は機械的な平和を"真なる平和"と語るトフェニが許せなかった。
世界を滅茶苦茶にして、何が平和なのか―――。
彼女は重厚感を放つ声に対しても恐れず、今までの負の感情を捨て去った。
「…ただ大きいだけで、何も出来ない神を信じることは出来ないね…。
―――それに、一回お前とは戦っている。…悪いが、今回も勝たせて貰う」
太刀の先を向け、そう宣戦布告した彼に対し、トフェニは呆れを見せた。
敷衍された機械的な平和を何時までも受け入れず、抗うことしか知らぬ冒涜者に―――天罰を与えるために。
「…それが貴様らの出した答えか。…よろしい、その身を持って我に捧げろ!」
◆◆◆
ドリルのように回転している腕のうちの右腕を一気に2人に向かって殴りかかったトフェニ。
その攻撃を見切った2人はすぐに躱したものの、巨大な機械の一撃に大地は揺れ動く。
彼らはトフェニが生半可な存在では無い事を悟った。
「…流石はトフェニね…!でもね…今までは恐れていた存在だけど…今は違うのよ!」
「戯け事は言わなくてもいい…。…心の中で呟け」
「…お前と話す位なら石とでも喋っていた方がマシだ」
一気にリヒトは硬い装甲を打ち破るため、太刀で貫きにかかるが攻撃は弾かれてしまう。
ニスト・ペグダムを纏う機械の装甲を前に彼はたじろぐも、諦めることは無かった。
再び貫きにかかるも、回転している左腕の攻撃を正面に受け、彼は吹き飛ばされてしまう。
「リ、リヒトっ!」
彼女は吹き飛ばされた彼を心配し、追いかけようとするものの…目の前にトフェニに行く手を腕で遮られたのだ。
回転する腕は彼女の前を塞ぎ、逃げ道を失ってしまう。
急に孤独の身になった瞬間、今まであった威勢が消えてしまい、目の前の巨大な存在に畏怖を感じるようになってしまう。
元々は妖怪の中では最強とも謳われた吸血鬼が見せる恐怖―――恐ろしきトフェニを前に、彼女は震えていた。スペルカードを持つ右手が震えて、攻撃することも儘ならなかった。
―――怖かったのだ。彼を心の拠り所としていたことが多かった彼が消えた瞬間、自分が持つ自身が一瞬で灰になってしまい、恐れることしか出来なくなったのだ。
「ひ…ひ…」
「恐れるな。前を見よ。…聖櫃化を前に…」
彼女はその時、自身に付けられた捺印を見た。
光り輝く紋章―――そう、それこそが彼の証…彼は彼女と共にいる、何よりの証拠であった。
彼女はそれを思った瞬間、怖さが一気に弾け、襲い掛かる閃光に対して笑みで挑んだ。
閃光が失せ、機神龍は嘲笑を浮かべた―――そう、機神龍は思っていた。
しかし―――現実は異なっていた。
閃光の後にも、彼女は堂々と立っている。…うっすらと笑みを浮かべて。
「…どういうことだ!?」
「―――悪いけど、私は1人じゃないし…それに私はエニルクスよ?…感謝しなさい?」
「そんな…そんな訳が…!?」
「―――これで終わらせるわ!―――スペルカード!神槍、スピア・ザ・グングニル!」
放たれた紅き槍は固い機械の装甲に傷をつけ、一気に刺さる。
自身の体に罅が入ったニスト・ペグダムは彼女の行く手を遮る腕を離し、狼狽を見せる。
震え動く機構に、静かな笑みを共に。
「…遅れた!」
吹き飛ばされた彼は自力で立ち上がり、攻撃を受けた身に対して一気にトフェニに向かって貫きにかかる。
既にグングニルが刺さっていたニスト・ペグダムの隙を窺って―――太刀で一閃した。
―――刹那。レミリアはニスト・ペグダムの右腕に掴まれ、監禁されたのだ。
「うわああああ!」
「愚かな…。…隙を産むとはこういう事よ…」
「それはお前もだ!」
紅い槍が刺さった場所から太刀で斬り続け、中の構造を断ち切る彼に、トフェニは狼狽を見せ続けた。
核を見つけ、太刀で一気に斬った瞬間。
トフェニはその仕組みを全て破壊された扱いとなり、システムは崩壊した。
構造は全て崩れ去り、美しき湖の中に自身を形成していたパーツを落としていく。
―――だが、腕に掴まれた彼女もまた、湖の中に引きこまれそうになったのだ。
―――吸血鬼は水が苦手だ。吸血鬼を豪語していた彼女は―――涙目であった。
「た、助けてリヒト!」
「待ってろ!今すぐ行こう!」
崩れゆくトフェニ。
現れし機神龍は仲間も道連れにしようと試み、当人は泣き叫んでいた。
迫り来る湖―――硬い装甲に挟まれた彼女の身が解放され、暖かな腕の上に乗っかった瞬間、腕は湖へと姿を消した。
◆◆◆
お姫様のように抱きかかえられた彼女は、助けてくれた彼に対して照れくさそうにお礼を述べる。
助けてられてばかりの彼女に…彼に求める権利なんて無かったのかも知れないが。
「…あ、ありがとう…」
「―――助かったな」
「…うん」
静かに地面に降り立った彼女は、自分が彼に抱きかかえられていた事実を少し嬉しそうにした。
―――感情輸入が苦手な彼なら尚更だ。
倒れている美鈴を背負った彼とレミリアは、更地となった異次元世界から旅立とうとする。
彼の大きな声が―――その混沌に響いた。
「―――幻象召喚!…リヒト、レミリア、美鈴!」




