―第捌章 青空のトライオン―
「へぇー、ミスコンかぁ……」
学校が終わり、帰宅した俺たちは文化祭の話に盛り上がる。
「でも、よくみんなミスコンなんてやろうと思ったんだね。普通の女の子ならイヤがるものだよ」
「それがまさかの、女子全員の賛成でまとまったんですよ」
「な、なんでみんな賛成しちゃったんですか?」
「ああ(ちらっ)」
歩美の質問に、俺は鏡花の方を見る。
「し、仕方ないじゃない。あんな風に言われたら癪じゃない」
「ま、おまえはああいうことには黙っていれないほど直球で素直だからな」
「うっさいわねぇ。否定はしないけどさ……」
お顔を真っ赤っかにしながらオレンジジュースをちびちびやる鏡花。本当に可愛いなこいつは。
「そっかぁ、じゃあ私も出てみようかな」
「え!? 綺羅先輩がですか!?」
意外な言葉に俺は驚いてしまう。
「うん。最後の文化祭だし、記念にね。それに、私が出た方が儲けがでかいんじゃないかな」
「いや、儲けは全部優勝者行きですよ」
「あれ、そうなの?」
「はい。俺達男子は見るだけで眼福ですから」
ミスコンはいいよね。男のロマンの結晶と言っても過言じゃないよ。
「でも、衣装は自由なんだよね? 何を着て出ようかな」
「それについては問題ないの!」
自分の部屋に行くと言って部屋に行った優稀菜がなにかを引っ張ってくる。……そ、それは……ッ!
「ほら、衣装だよ。こっから選ぶこともできるよ」
「凄かったわ! めちゃめちゃ凄かった!」
そして興奮気味に優稀菜の後ろから出てきた樹里。すっごいテンションが上がっている。
「ねぇねぇ。どうせだったらさ、ここで試着してみて俊ちゃんの反応を見てみようよ」
優稀菜がなんか凄いこと言ってる! い、いやいや、それはさすがに……。
「いいね。せっかくだし、参考にしようかな」
「一応全部着てみたいしね。いい機会よ」
「わたしも興味あるわ、そういうの。ステータスになりそう」
ならねーよ! なんのステータスを期待してんだ鏡花!
「面白そうっすね。アタシも着てみたい!」
「私もご一緒させて貰ってよろしいですか?」
琴美も歩美も興味があるらしい! ……じゃ、じゃあ。
「俺は部屋で宿題でも――」
『ここにいなさい(いてね、いてください)』
「……はい」
逃走失敗。
男の意見を聞きたいからって、そんな理由だけで俺にコスプレを見せてくれていいのか? 有料だったら金を払ってもいいぞ。いくらだ?
「洗面所に行こう。そこで着替えをしよっか。俊ちゃんはソファで座ってて。着替え終わったらここにくるからね」
「あ、あの……料金は?」
「無料だよ」
えぇー。おまえら本当にいいのかよ。すっごい眼福だけどさ。ありがたいけどさ。ロマンだけどさ。
「じゃあみんな、いこっ♪」
こうして、女子ズは張り切りながら洗面所に向かっていった。……一方、俺はやっぱり呆然としていた。
❁ ❁ ❁
数分後。
「俊ちゃーん。こんなのはどうかなぁ?」
まず最初に登場したのが優稀菜だった。
優稀菜が身に付けているのは……婦警さんの格好だ。素晴らしい。
「逮捕しちゃうぞ☆ バキューン」
「おわっ。なんだこれ、すげぇ!」
優稀菜が腰にさしてあった拳銃の引き金を引くと……花束が出てきた! これはあれだ。よくマジシャンが使う変わった拳銃だ。
「えへへ。一時期はこれを着て警察署に潜りこんだことがあったっけね。なかなかスリルな体験だったの」
なんだか恐ろしいことを聞いた気がするが難聴だろう。うん。そのはずだ。
優稀菜がくるりとまわってリビングから出て行った。それと入れ替わりに……。
「どうかな、俊くん。これ」
入ってきたのは綺羅先輩。
その姿はなんと挑発的な真っ黒な衣装! しかも自前の漆黒の翼を広げている! だ、堕天使的な、男を魅了させるフォルムだった……ッ!
「……綺羅先輩。似合っていますけど、それはやめておいた方がいいかもしれませんよ」
「うん。私もそう思う」
もしこんな姿の綺羅先輩がミスコンに出てみろ。
まず、俺たちのクラスは全員教師たちによって処刑される。
それはいいとしても、綺羅先輩が危ないだろう。
猛獣と化した男に襲われる可能性がある。まぁ、綺羅先輩だったら大丈夫だと思うけど。
「に、兄さん……」
綺羅先輩が「着替えなおしてくるね」といって出て行ってちょっとしたとき。
次にきたのは歩美だ。
「え、えっと……どうですか、これ」
歩美が纏っているのはメイド服。王道中の王道のデザイン。うんうん。やっぱりメイド服は素晴らしい。
それにチョイスがいいな。
家庭的で、あったかい歩美が「ご主人さま」とか言ったりしたら大変に可愛いだろう。
歩美はメイド喫茶とかで働いたらぼろ儲けするだろうな。
「いいと思うぞ。おまえは癒し系だしな。イメージにあってる」
素直な感想を言う俺。
「そ、そうですか?……私もミスコンに出てみましょうかね……」
「絶対にダメだ」
「え、ええっ? どうしてです?」
「おまえのそんな可愛い姿を見せるわけにはいかん。兄として許さない」
やだ。絶対こんな可愛い歩美を誰かも知らない野郎なんかに見せたくない。
「うふふ、そうですか。じゃあ、諦めますね。家にいる時、こういう格好をしていた方がいいですか?」
「うむ。……い、いやっ、冗談だ冗談。あははは……」
ついつい本音が漏れてしまった。
「素直な兄さんですね。可愛いです」
「こらこら。あんまり俺をいじめないでやってくれ」
「はい」
にこにこしながら、歩美は部屋から出て行った。
「凄く上機嫌だったじゃない。俊輝、なにか言ったの?」
続いて現れたのは樹里。
その姿はナース服だった。手には注射器を持っている。……うわぁ。
「むっ、なにその反応」
黒い綺麗な樹里の髪と白いナース服がマッチして天使のように見える。だが。
「ごめん。おまえのようなSがそれを着ていると、リリーを思い出す」
「なっ、なっ、なっ!」
顔を真っ赤っかにしてしまう樹里。
「た、たしかに……。ごめんなさい。怖かった?」
「い、いやっ。なんで樹里が謝るんだよ! 俺の方が悪ぃよ! 本当にごめん! 可愛い格好しているのにそんな見方をしちまって!」
すぐに某医療機関隊長の顔を払いのける。……だめじゃねぇか、俺。全然なってねぇ。
「そ、そうかしら……な、ならいいわよ。喜んでくれたんだったら……」
「ん?」
「な、なんでもない! き、着替えてくるわ」
ああぁ……傷つけちまった……。絶対に怒ってる。あとでめちゃめちゃ謝ろう。樹里に嫌われるのはいやだ。寂しい。
「え、えっと……なに落ち込んでるのよ?」
「しゅ、シュンくん?」
俺に心配そうに話し掛けてきたのは鏡花と琴美だった。
ふたりとも水着姿だ。
鏡花はリゾートホテルに行った時に身につけていた黒のビキニ。琴美のは……。……ッ!
「こっ、琴美……それは……ッ!」
「あ。やっぱり反応しましたよ、鏡花さん」
「へぇ、男ってやっぱソレに弱いんだ」
琴美が身に付けているのは……なんと旧スク水! しかも紺ですよ紺!
青髪の琴美に紺色の旧スク水……なんて素敵な組み合わせなんだ! みんなもそう思わんかね?
「すごいわね。スク水の破壊力がこんなだとは思ってもいなかったわ。セクシー系だけが水着じゃないのね。勉強になったわ」
「鏡花! そんな勉強せぇへんでええ!」
思わず関西弁でツッコム俺! やばい! 俺、こんなにスク水が大好きだったとは思わんかった!
自分の新たな志向に気付き、我に帰る。
「アタシも出てみよ。ミスコン。参加者は自由でしょ?」
「あ、ああ。うちのクラスの女子は全員強制参加。あとの女子は希望制だ。まぁ、あんまり集まらんと思うがな」
ミスコンなんて、女子はそう喜んで出てくれるようなものじゃない。なのにうちのクラスの女子はそれに燃えていた。なんて珍妙なクラスなんだ。
こんな感じで、女子達の衣装選びが過ぎていった。
終わったあと、俺はみんなに無条件で一万円を差し出した。これぐらい当然の代価だ。
――??? side――
「本当にやるの?」
「やるよ。これもあいつのためだ」
「……そう。そうよね」
「なに、悪役になるのは今回が初めてじゃないじゃないか」
「まぁね。で? いつやるの?」
「そうだな……とりあえず、明日の夜に挨拶しに行くか」
「急ね。まぁ、いいけど、準備はできているの?」
「手は打ってある。もう一度言うが、これはあいつのためにやるんだ。手加減は一切するなよ。ま、あいつの周りはSICの優秀な捜査官でいっぱいだから、手加減したくてもできないと思うがな」
「わかってるわよ。じゃあ、もう今夜は寝るわ。あんまり、あの子とはギスギスしたくないのよ」
「それは俺だって同じさ。おやすみ」
To be continued




