―第肆章 青空のサスピション―
「……じゃあ、明日の放課後、会議をするから全員来るように。雛形隊長と龍ちゃんも来るからね」
午後八時半。
琴美も含めて夕食を食べ終えると、綺羅先輩がみんなにそう伝える。
と、鏡花が琴美にこんなことを言いだした。
「琴美。あんたの兄貴と姉貴には明日の会議のこと、喋っちゃダメだからね」
「……え?」
驚いて鏡花を見る琴美。
「可能性の話だから、怒らないで訊いてくれるかしら?」
「う、うん……」
鏡花が断りを入れて……琴美に残酷なことを切りだした。
「今回の事件の犯人……絶対兄妹のあんたの兄と姉の可能性があるからよ」
「……っ!」
バンッ! 琴美が怒ったようにテーブルに手のひらを叩きつけ、立ちあがって鏡花に言う。
「それは……どういうことですか……?」
「……怒らないでねって言ったでしょ。あくまでも可能性の話よ」
「そんなはずないです! 今すぐ撤回してください!」
「まぁまぁ、琴美ちゃん。落ち着いて落ち着いて。鏡花ちゃん、あんまり仲間割れするようなことは今は言わないでね」
「ごめんなさい」
「まぁ……でも。琴美ちゃん、今の鏡花ちゃんの無礼は許してあげて。あと、一応の念のために、お兄さんとお姉さんには秘密ね」
「……はい」
綺羅先輩が琴美をなだめ、席に座らせる。
「でもなぁ……ちょっと、困ったさんだなぁ」
「ええ。仮にあのふたりが今回の犯人だとしたらね」
「ま、まぁ……仮の話はやめにしましょう。ね?」
「…………」
優稀菜たちの会話に琴美は眉間にしわを寄せ、いかにも不機嫌な顔になってしまう。
まぁ、当然だわな。
あのふたりは、琴美にとって自分の人生を変えてくれた大切な存在なんだから。そんなふたりが自分に殺気を浴びせるなんて、信じたくもないし考えたくもないのだろう。
「琴美、言っておくけど、わたしたちはあんたのことを思って、あえて言っているのよ。わたしたちはあんたの味方よ?」
「琴美ちゃん、優稀には琴美ちゃんの気持ちはわかるの。信じていたひとに裏切られる悲しい気持ち。でもね、現実は……受け入れなくちゃいけないの。逃げちゃダメなんだよ」
「私たちだってあのふたりをふたつの意味で、敵に回すようなことをしたくないわ」
樹里が言った「ふたつの意味で」とは、ひとつは敵に回すととんでもない目に遭うから。もうひとつは琴美の親族だからだ。
「そ、そんなの……わかってます。……けど……けど……っ」
辛そうに泣き始めちまった琴美。あーあ。
「歩美。琴美を」
「はい。さ、行きましょう、琴美さん。愚痴でもなんでも聞いてあげますから」
「……はい」
琴美は歩美に連れられて、部屋に向かっていった。まぁ、これで大丈夫だ。歩美は琴美の親友だし、歩美は心が大海原のように広い。
「さて……これで話しやすくなったわね」
「もう、鏡花ちゃん。琴美ちゃんを泣かしちゃダメだよ」
「いいんですよ、あの娘は。わたしと琴美の仲ですから。……さて、ここからはズバズバ言わせて貰うわ。今回の敵の絶対兄妹についての」
おまえらしい宣言だな。直球なところが。
「優稀菜。あんたの元『なんでも屋』としての意見を聞きたいわ」
「うーん、優稀自身の経験だと正直わからないの。あのふたりとは距離をとって行動していたし、学園でも避けてたからなぁ。……あ、でも仲間の暴力団の月見里……『千本桜』の若頭の情報によると、今年の夏休み中にイギリス・ロンドンを拠点としていたマフィアを壊滅させたらしいよ」
『!?』
優稀菜の情報に全員が度肝を抜かす。
はぁ!? イギリスのマフィアを壊滅ぅ!? なんてことしてんだ!
「そ、それは……スケールがだいぶ違うね……」
「わ、私たちもこの夏休みで暴力団をふたつ壊滅させてるけど……レベルが違うわよ! だってこっちは壊滅寸前の暴力団に止め刺しただけだし!」
綺羅先輩が苦笑し、樹里がぶっちゃける! まったくその通りでござんよ!
「……きつ過ぎるな、こりゃ」
「さすがにあのふたりだけで壊滅は……いや、できるわね。マフィア狩りを専門にしている狩人もいるし」
俺と鏡花の言葉でみんなの戦意が消失してしまう。
「……あのふたりが敵じゃないことを祈るわ」
『うん』
鏡花が完全にギブしたところで俺達全員がギブアップ。うん。考えない方がよさそうだ。
「……だけど、一番可能性が濃いのはこのふたりなのよねぇ……」
家の中、しかも琴美自身の部屋まで届いてくる視線を放てる人物は間違いなくその家の中にいる人物の可能性が高い。
それにさっき俺たちが感じた視線も間違いなく、プロ中のプロが放つ物だった。
となると、自然に出てくるのが絶対兄妹のふたりだ。
しかも彼らは琴美への視線に気が付いていないと言っている。そんなのはありえない。……しかし。
「そうなんだけど、露骨過ぎる。俺たちに気付くような手掛かりを残し過ぎている。まるで……自分たちが犯人であることを晒しているようにも見える」
絶対兄妹のふたりは世界一のなんでも屋だ。そんなふたりがここまで多く痕跡を残すのはおかしい。
「うーん、複雑なの。誰かが絶対兄妹の仕業に見せかけようとしているようにも見えるなぁ」
「でも、見せかけられている当の本人たちが気付かないはずがないじゃない」
「わかんないよ。こっそり、その犯人を捕まえるために知らん顔しているだけかもしれないし」
「……やりそうなのがイヤだわ」
優稀菜と樹里の言うことはもっともだ。その可能性もある。
「でも、実際の犯人が絶対兄妹のふたりならば、これだけの証拠を残す理由はひとつしかない」
「……なにかを、琴美に伝えようとしている?」
「そうだ」
「それって……どういうことかしら」
「わからない。でも、琴美は今のところなんにも感じ取っていない」
だから困っているんじゃないか。
メッセージを伝えられている当の本人、琴美がなにも話してくれない。どころか、琴美は犯人を兄貴と姉貴って信じていない。
「この事件……複雑になりそうね」
『はぁ……』
この場にいた全員が溜息をついた。
To be continued




