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―第壱拾弐章 橘のレスティング―

 全てはここから始まった。



「あれ? そういえば俺はどこで寝ればいいんだ?」



 一時過ぎ。全員を解散させ部屋に戻って寝ようとしていたんだが、ふと俺が思った。

 この部屋は団体専用の部屋だったらしくベッドはひとつもなく全て敷布団だ。……つまり、このなかの唯一の男である俺はかなり気まずい立場なわけなんですよ。



「まぁ……部屋は広いし、俺は端っこで寝ればいいか――」

『い、いやいやいやいやっ!』

「!?」



 妥当な判断をしたつもりだったのだが、全員に拒否られてしまった。……なんで?



「いやいや、俺はあっちで寝るって」

「で、でも俊輝、寂しくない?」

「まぁ、多少はそうかもしれんけど仕方がないだろう?」



 俺の周りに女子が複数人寝るなんて、考えただけでもキツい。それなら、多少我慢しても距離を取った方がいいだろう。



「ううん。全然仕方なくないよ? 優稀たちは多分みんな構わないと思っているよ?」

「そうだよ、私たちのことは考えなくていいと思うな」

『(コクコク)』



 優稀菜と綺羅先輩の言葉にコクコクと首を縦に振ってくれるみんな。



「う、嬉しいけどさ、本当にいいのか? 俺なんかが近くで一緒に寝ちまっても」



 だがやっぱり訊いてしまう俺。……なんだか男っぽくないなぁ……でもなぁ……。



「だから、いいっすよ。アタシたちはせっかくみんなで楽しく旅行に来ているのに、ひとりでぽつーんと寝ているシュンくんを見ている方が辛いっすよ?」



 琴美がそんな俺にはもったいないくらい嬉しいことを言ってくれる。



「あ、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせていただくよ」



 やっぱり俺はいいやつに恵まれているな。幸せ者だ。



「さって、布団敷きましょうよ、眠い」

『おー!』



 鏡花のその言葉を受け全員が全員、布団がしまってあるクローゼットから布団を取り出し始める。

 最初に布団を取った俺は、適当なところに布団を敷きその上に腰を下ろした。すると……どさどさ!

 なぜか、俺の周りにだけ布団が集中してどさどさおかれている。こんなに広い部屋なのに。……なんでだ?



「ちょっと! なんでみんなここに集中してんのよ! こんなに広い部屋なんだからもっと有効活用しなさいよ!」



 鏡花が俺の心の言葉を読み取ってくれたかのようにみんなに言ってくれる。おお、さすがだ鏡花。でもね、おまえさんの布団も俺の周りに置かれている布団の中に混じっていると思うのは気のせいでしょうか?



「だって優稀は俊ちゃんの隣で寝たいんだもん」

「そうだよ、先輩だって譲れないなぁ」



 優稀菜と綺羅先輩がなんだか凄いこと言ってる! き、聞かなかったことにしよう。



「わ、私は俊輝が寂しいかなって思っただけよ……」

「わ、私は妹なんですから別にいいじゃないですか……」

「アタシはシュンくんともっと話をしたいんです」



 そして弱々しくも反論してくる樹里と歩美! さらに、琴美もその後に続く!



「……あんたたち……」



 鏡花がお顔を真っ赤っかにしさせながら、なにやらお怒りの様子でプルプル震えている! な、なんだか凄いことになってきたぞ!



「お、俺……歯、磨いてくるわ」



 俺は一旦この場から離脱し、流し台のとこまで行き歯を磨く。その間……。



「わたしが隣で寝るのよ!」

『いいや、私よ(優稀なの、私だよ、私です、アタシです)!』



 女子全員でなんだか喧嘩が始まってしまった。



「だいたい! 優稀菜はたびたび勝手に俊輝のベッドに侵入しているじゃない!」

「最近はジュリちゃんと綺羅先輩に邪魔されて侵入できてないよ!」

「な、なんですってぇ!?」

「別にいいじゃない! 早いもん勝ちよ!」

「私は俊くんが甘えてもいいって言ってくれたから、そのお礼をしているだけだもん!」

「わ、私だって! 妹なのにまだ一回も兄さんと一緒に寝たことなんてないんですよ!? 家でもあんまり兄さんに甘えられないんですから、こういう日ぐらいは許して下さい!」

「アタシに限っては一緒の家にすら住んでいないんですから別にいいじゃないですか!」

「えぇい! うるさいうるさいうるさーい! 隊長命令よ! 今すぐ俊輝の布団の周りから撤退しなさい!」

「職権乱用だ! 最悪の上司なの!」

「私はあんたんとこの隊員じゃないし!」

「それどころか、私に限っては他の部隊の隊長だよ!?」

「そうです! 私だって綺羅先輩と同じです!」

「アメリカにいたときも今でも鏡花さんに尽くして来ているアタシに向かってなんという言い方ですか!」



 ……ヒットアップしてんな。いかんね。こういうのはヘンに首突っ込むと全員からの総攻撃を喰らうことになる。



「ちょっと、部屋から出るか」



 なんだか熱いし、外の様子でもな。

 俺はそう思い、玄関に行ってスリッパを履き部屋から出て、ドアをぱたんと閉める。



「おお。部屋の中じゃあんなに声が響いていたのに、こうすると全然うるさくない」



 さすが、高級ホテル。迷惑になっているかなと思ったけど、心配して損したぜ。……ん? あれ? なんだかヘンだな? ……あれれ?

 なにかに違和感を覚え、少し考える俺。……気のせいか。



「ん? あれは……」



 俺は奥の方にある人影を捕えた。……あれは……。



「ハリベルさんと……誰だ?」



 暗くてよく見えない。どうしたんだろうかこんな夜中に。――バタン!



「俊輝、なにしてんの? 入りなさいよ?」



 俺が部屋にいないことに気付いた鏡花がドアを開けて俺にそう言う。



「あ、ああ……あれ?」



 ふたたび、ハリベルさんがいた方を見ると……消えていた。



「どうしたの?」

「いや、なんでもない」



 見間違いかな。



「あれ? もう喧嘩は終わったのか?」

「女の子の喧嘩は早く終わるのよ」

「ふーん」



 そんなもんなのか。まぁ、みんなの性格上、ぶっちゃけあって終わりだもんな。



「で、喧嘩が治まったのはいいが、これはなんだ?」



 部屋に入り、俺はすっごく違和感がある布団の敷き方に疑問を抱く。

 布団はなぜか、部屋のど真ん中で円形に並んでいた。



「これならどこで寝ても俊輝の顔が見れるからっていうことでみんなで納得したのよ」

『(コクコク)」



 鏡花の回答にみんなは頷く。ふーん、まぁ、いいや。



「それで、俺はどこに寝ればいいんだ? っていうか、おまえらはどこの布団で寝るんだ?」

『…………あ』



 俺のその質問にみんな硬直。……んん? なんだかまた変な雰囲気になってきたぞ。



「しゅ、俊輝はどこで寝たい? それから決めるわ……」

「わ、わかった」



 なんだかよくわからんから鏡花の言う通りにテキトーに布団を選んで座る。



「じゃあ、俺はこの布団にしようかな――」

『じゃあ、わたし(私、優稀、アタシ)はここで!」

「!?」



 俺が決めた瞬間みんな動き、俺の左隣りの布団に鏡花、優稀菜、樹里、琴美、歩美の五人が場所を奪い合っていた。……そう、五人だけ。



「ふっ、勝った」



 唯一、綺羅先輩だけが右隣りの布団でリラックスしていた。



『し、しまった!』



 ほかの女子たちも気付いたがもう遅かった。



「えへへ、みんなはそこで頑張ってね。先輩はここで決定だから♪」

「ず、ずるいです!」

「ずるくないよ鏡花ちゃん。みんな近い方の布団ばっかに集まるんだもん。先輩はただちょっとだけ抜け駆けしただけだよ? さあさあ、後はみんなで決めてねん♪」

『…………』



 ひとり笑顔で言う綺羅先輩。女子全員はそんな綺羅先輩を睨んでいたが綺羅先輩は全くの無視。すると女子全員諦めたのか俺の右隣りで女子全員が沈黙し、火花をぶつけあっていた。



「……じゃんけん」



 またもや鏡花が沈黙を破り……全員が構えた!



『じゃんけんポンッ! あいこで(ry』



 もう俺は驚いていない。だってもう三回目だもん。わかるよ流れくらい。



「わ、私……勝っちゃいました……勝っちゃいました!」

『…………』



 どうやら勝者は歩美のようだ。歩美はぱぁっと可愛い笑顔を見せ、俺に言う。



「兄さん、今日はよろしくお願いします」

「お、おう、こちらこそ……」



 なんでだろう。今日の歩美は以上に可愛いぞ。いや、普段の歩美も充分可愛いんだけどさ。



「……なんかその笑顔はずるいわ」

「うぅ……なんだか抜け駆けした私が情けなく感じる……」



 眩しい歩美の笑みに鏡花は苦笑し、綺羅先輩はなにかに後悔している様子だった。



「まぁ……仕方ないわよね」

「……そだね」

「うん」



 他の女子三人はなんだか後悔していない様子で自分が寝る布団を決めていた。

 鏡花もしばらく経って、みんなが選び終わったあと電気を消し、残った布団にもぐりこんだ。

 それからしばらくみんなで話をしながら……俺は眠りについた。




                  To be continued

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