―第壱拾参章 橘のモーニング―
「……んあ。もう朝か……」
眩しい朝日を浴び、眠気を纏わせながらも目を覚ました俺。……しかし。
「……やぁん」
なぜか。背を伸ばそうと腕を動かそうとすると柔らかい感触と艶やかな声が聞こえてくる。それだけじゃない。なんだか俺の身体全身に柔らかい感触がある。……なんだ? なにが起こっている?
気になった俺は布団は剥ぎとってみる。そこには……。
「……うぅー」
「さ、さぶいの……」
「ふぁ~あ……ぅん……」
「ふぇ……?」
「すぅ……すぅ……」
「……ふぅ……にゃん」
「……!?」
眠かったから反応に遅れた! な、なんでみんな俺に抱きついて寝てんだ!?
綺羅先輩や歩美は隣りだから寝造の問題でこうなるのかも知れんが、それ以外はあり得んだろう!
し、しかもおまえら! 浴衣がはだけて……む、胸の谷間が見えちまっているぞ!
「お、おい、おまえら! は、離れろ!」
俺はこの状況から脱するために叫ぶ。しかし……。
『すぅ……すぅ……』
聞こえてきたのは規則正しい女の子たちの寝息だけだった! こ、こうなったら最後の手段だ!
俺は力を込めて勢いよく立ちあがり、
「おまえら、朝だ! さっさと起きやがれぇぇぇぇぇぇぇえッ!」
朝っぱらから大声で叫んだ。……声はたぶん聞こえていないだろうから近所迷惑にはなっていないよね。
❁ ❁ ❁
「ふぁ~あ。まだ七時……ごはんまであと一時間もあるじゃない……」
『ふぅ……』
まだ眠かったらしい女子三人を代表して鏡花がそう言うと、ほかのやつも欠伸を零す。
今、俺たちは全員で食堂に向かっているところだ。
「あのなぁ、俺だってまだ眠かったんだぞ? でもなぁ、おまえらのせいでパッチリだ」
あんなふうになっていたら誰でも目を覚ますに決まっている。まったく、素でビックリしたんだぞ。
「あれ? 土田さん?」
レストランに着き、優稀菜が携帯で電話している土田さんを見つける。……なんだか深刻そうな顔をしているけど、どうしたんだろう。
「……はい……はい、そうですか……わかりました。……はぁ……」
「あの、どうしたんですか、土田さん」
電話を切って溜息を吐く土田さんに鏡花が尋ねた。
「あぁ、皆さん、おはようございます。いや……あのですね……」
「どうかしたんですか?」
「……食事が用意できないんです」
『は?』
土田さんの言っていることがわからず、俺たちは間の抜けた声を出してしまう。
「さっき警察から電話が掛かってきまして……事件を解決するまでは関係者以外立ち入り禁止と言うことで……いつもは、もうここにいるはずのコックが来れなくなってしまったんです」
「うわ……まじっすか……」
こういうことを徹底してくれるな、警察は。
「それで、警察はいつ、ここに来ると?」
「それが……警察の方で月島さんの周りで変わったことがないか、ここにいるお客様と月島さんとの接点を片っ端から捜査していて、ここには来れないらしいんですよ」
『あー……』
俺達全員が納得する。
確かにここにいる客は全員裏がありそうなやつらばかりだ。
俺たちはSIC、高橋さんと沢崎さんが人気アイドル、高田一家は一会社の社長さんたち、ハリベルさんはアメリカの超人気スター……みんな裏でなにかを抱えていそうだし、仮にそうだとしても、暴きだすのは難しい限りだろう。なるほど、だから警察はここに事件とは関係ない人物の出入りを禁止させたんだ。これ以上、余計な捜索を行わないために。
「まぁ、警察のやったことは間違っていないし、むしろグッジョブなことだと思うけど……困ったわねぇ……」
頬をポリポリ掻きながら嘆息する樹里。まったくその通りだ。
「誰が飯作るんだ?」
最大の問題を俺が言葉にした。…………。
『…………』
全員しばし沈黙。そして……優稀菜が口を開いた。
「土田さん。食材は……ありますか?」
「は、はい。巨大冷蔵庫の方に保存してありますが」
「そうですか……わかりました」
優稀菜が土田さんに確認し、歩美に視線を合わせた。
「歩美ちゃん……やろっか」
「……。…………はい」
少しためらった後、歩美が答え、優稀菜が柔らかく微笑んだ。…………まさか。
「ね、ねぇ、あんたたち……まさか……ねぇ?」
鏡花のこの質問に優稀菜が少し緊張気味に答えた。
「優稀の腕じゃここのコックさん達には及ばないかもしれないけど……仕方がないの。歩美ちゃんもいいよね?」
「は、はいっ。が、がんばっていってみますっ」
『!』
今の優稀菜の言葉で全てがわかってしまった俺たち! 優稀菜……! 歩美……! お、おまえらまさか……マジで?
「優稀たちが……料理するの」
優稀菜がめちゃめちゃ緊張しながら……そう、告白した。
「土田さん……よろしいでしょうか?」
「も、もちろんです! 献立は調理場にありますのでそれを参考にしていただければ!」
土田さんが笑顔で了承。優稀菜と歩美が覚悟が決まったような顔をする。
「じゃあ……いこっか、歩美ちゃん」
「はい、優稀菜さん」
ふたりは調理場の中に入っていった。一方の俺たちは……。
『…………』
いまだに開いた口が塞がっていなかった。
To be continued




