―第壱拾章 橘のプログレス―
「さってと、地図と言いますか、パンフレットの全体図によりますとですね、このホテル内ではその場所は限られますよ」
俺と隣でパンフレットを開きながらそう喋る琴美は、ホテルの東側を探索していた。じゃんけんに負けた鏡花と綺羅先輩は西側を探索している。
理由は簡単。殺害現場を探すため。
殺害現場になる条件は、防音加工されている場所……ぐらいしか、今のところ手掛かりがなかった。
「だいたいありえるのは、カラオケボックス、レストランの調理場、大きな音が響いているゲームセンター、温泉あたりが濃厚だが……」
「生憎、このホテルにはカラオケボックスとゲームセンター、温泉は西側だし、レストランの調理場はコックがいて犯行は不可能。あんまり条件に揃う部屋がないんですよねぇ……」
「はぁ……」と溜息を吐く俺と琴美。そうなんだよなぁ。
「十四階までの一般用のホテルと十五階から二十九階までの会社の部分を含めると違ったんだがなぁ」
「月島さんを殺すために防音加工ができる部屋が作れるし、会社内にもそういう部屋はいくつかあると思いますが……」
「ああ。その肝心な親会社の階全部にセキュリティがあって、そこを通るにはこのSTに働く社員だけが持っているIDパスがないといけない。十四階までの一般の部屋も同じだ。四階のレストラン以外は全部セキュリティがあったし十四階の屋外プールも特に変わった様子じゃなかった」
これはさっき俺と琴美が下に降りて確認してきたから間違いない。
「そんなことができるのはこのホテルの関係者のみ……つまり、土田さんや警備員さんたちの誰かが犯人になる」
「でも令状を出して会社に強制捜査が入ればすぐに犯人がばれちゃいますしねぇ……。犯人は多分そこまで馬鹿じゃないと思いますし。……ってことは」
……そう。
「この三十階か一階のロビーしか犯行現場はあり得ない。つまり……だ」
俺のこのあとに続くように琴美がにっこり笑顔で答えた。
「アタシたちの意味……まったくなかったっすね」
「うむ」
まさしくその通り! ビックリするほど意味がなかった! なんてこった!
「まぁ、唯一の収穫は犯行現場の限定化ぐらいっすけど……」
「そんなの鏡花たちも気付くだろ。俺たちと同じように下に降りれば」
『はぁ……』
溜息を吐く俺たち。……なんにも役だってねぇじゃん。
「仕方ない。もう見るとこは見たし、レストランに戻って、歩美たちの手伝いをしよっか」
「うん」
なんだかんだで時間はもう三十分近く歩いているし、鏡花たちも終わったらそこにいるように言ってあるし、もしくは戻っているかもしれないしな。
「……ちょっと、質問なんですけど……」
「ん? なんだい?」
「鏡花さんのことなんですけど……」
俺の隣を歩きながら、琴美が鏡花のことについて俺に質問してくる。? なんだろう。
「鏡花さんのこと……どう思っています?」
……? 変なこと聞くな。そんなの。
「可愛くて強い、大事な妹だ」
「……うっわ」
俺の答えに琴美が若干引いたような声を漏らす。……なんだ? どうした?
「それ……本気で言っています?」
「ほ、本気だが? ……えっ!? な、なんかおかしいか!?」
「い、いえいえっ、とくには……っ。あ、あは、あはは……」
明らかに愛想笑いをする琴美。……な、なんか俺、変なこと言ったのか?
「……鏡花さん。あなたの想いはシュンくんに届くのは凄く苦労しないといけないっポイですよ」
「なんだって?」
「いえ、アタシのひとりごとなんで流してやってください」
「そうか」
ひとりごとか。
「でもなんで、そんなこと訊いたんだい?」
「……いえ、なんとなくです」
なんとなくで俺の鏡花に対しての思いを聞いたのか? 変な琴美。……あ。そうだ。
「そういえばさ、おまえの兄貴たちは今どうなんだよ」
「へ? 兄と姉っすか?」
ポカンと口を開く琴美。
「そうそう。『絶対兄妹』のふたりだよ。俺もおまえに質問したいなって」
「ああ、なるほどねぇ」
納得したように頷き、琴美は答えてくれた。
「ふたりとも、もう家に着いていると思いますよ。今夜帰国のはずですから。……あ。SICの敵には基本ならないと思いますよ?」
「い、いや、敵になるとか訊きたいんじゃなくて、その……なんだ。どんなひとたちなのかなって」
実際、歩美からちょろっと聞いただけだから詳しくは知らない。
「ふわふわして掴みどころのないふたり……って言いますか。なんというか……京竹龍侍四番隊隊長よりじゃないふわふわ感……っていうか……うーん」
「……ようするに、おまえでも理解できない雲のようなふたりなのか?」
「そうそう。そんな感じ」
なるほど、そんな感じのふたりか。なにをしてくるかわからない要注意人物って聞いていたけど……それは確かに言われるわ。「絶対に敵にしてはならない兄妹」って。
「あ、でも、優しいんですよ。だって……こんなアタシに居場所をくれたひと達なんですから」
「ん? どういうことだい? ……って、これ以上聞くのは無粋だな」
「いやいや、いいですよ別に。教えても」
少し自重しようかと思ったんだが、教えてもらえるなら教えて欲しいな。もしかしたら力になってやれるかもしれないし。
「じゃあ、聞かせてくれるかい?」
「うん。あのね、アタシは……捨て子だったんだ」
「……捨て子?」
「そ。で、いろいろあって兄と姉……瀬良順平と瀬良明美に拾われて、今に至るってわけ。スナイパーの腕も兄たちに教えて貰って身に付けた技術。視力だけは昔っからよかったから、なんとかここまでこれたんだ」
「なるほど……」
琴美の過去も色々ありそうだ。
俺の周りの女の子たちは悲しい過去だったやつばかりだ。
鏡花と歩美は俺の移し身……樹里は両親を目の前で抹殺され、優稀菜は孤独な毎日、綺羅先輩はオリジナルの綺羅さんを殺させられ、琴美は捨て子……。
色々と凄い能力と力を持った面子。その力は苦労に苦労を重ねて蓄積された力の結晶だ。
俺は改めて周りにいる彼女たちに負けないように、そして彼女たちを守れるように俺自身も努力をしようと、心から思った。
To be continued




