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―第玖章 橘のセイトヴァリフィケーション

「……さて、本当にそのままだな」



 俺、鏡花、綺羅先輩、琴美の四人は犯行現場を訪れていた。



「まぁ、変化と言っても月島さんの仏さんがいないことぐらいね」

「もっかい見てみると、あんまり現場は荒らされてないね」



 鏡花と綺羅先輩の言う通り、この部屋は俺たちが来たときとは特に変化はなく、部屋も荒らされていない。つまり犯人は、単なる物取りとかそういう類ではなく、明らかな月島さんの殺害が目的だった人物。



「ねぇねぇ、ここにこんなのあったよ」



 琴美が部屋にあったバッグから手帳を見つける。



「なにか書かれているか?」

「うん。前の仕事の依頼から今後の予定までぎっしり。凄いな、アイドルは。こんなに仕事してるんだ」

「そりゃあ、テレビやラジオに出てるんだから仕事は多いだろ。高橋さんや沢崎さんもそんな感じじゃないのか?」

「……そうでもないみたいね」

「うん」

「え?」



 鏡花と綺羅先輩がそう返してきた。

 見てみれば、ふたりとも違う手帳をふたつ見ている。



「勝手に見させてもらってるけど、このふたつは高橋さんと沢崎さんの手帳よ」

「このふたりの手帳にはぎっしりというほどの仕事は来てないね」

「なんだって? ふたりとも今が売れ時のアイドルだぞ? 月島さんと同じ事務所だし、ほぼ同期だ。そんなはずはない」

「じゃあこの手帳に書かれているのはなによ」



 鏡花の言う通りだった。

 さて、おかしいことが増えたぞ。

 なんで月島さんの手帳には仕事の依頼がぎっしり詰まっているのに、高橋さんと沢崎さんには仕事の依頼が月島さんほど来ていないのか。

 ……もしかして。



「琴美。ちょっとその手帳貸してくれ」

「うん。はい」



 琴美から手帳を受け取り、少し注意して見てみる。……やっぱり。



「みんな、ちょっと来てくれ」



 俺は机がある方に移動し、鏡花たちを呼ぶ。



「この『仕事』ってなんだろうな」

「え? それはテレビ関連のじゃないの?」

「違うね。これ、明らかに違う」

「……ほんとだ……」



 綺羅先輩と琴美はわかった様子だが、鏡花は首を傾げていた。



「ほら、鏡花よく見てみろ。この『仕事』は、テレビ局の名前が書かれていないんだ。ほかの『仕事』関連には全部テレビ局やラジオ局の名前が書かれているのに、この『仕事』だけ書かれていない。書いてあるのは時間だけだ」

「あ、ほんとだ」



 やっと気付いた鏡花。変なところで頭が悪いな。



「さてと。じゃあこの『仕事』はなんなのでしょうね」

「少なくてもいい仕事じゃなさそうだね。他にもこの種類の『仕事』が先月で十二個もある。多分これを引いたら彼女たちとほぼ同じ仕事の数になるね」

「ってことは、この『仕事』は完全に彼女のプライベート。詳細はおそらく彼女しか知らないだろうから、推理していくしかないようっすね」

「……運び屋、麻薬売り(ドラッグストアー)、暴力団(ヤクザ)関連……」

「……探偵、スパイ、裏賭博関連……」

「……スナイパー、殺し屋、ハンター……」

「みんな物騒だなぁ、おい!」



 言わせておけばみんなそんなことばっかり言っていた。



「えー、じゃあ、なにか案でもあんの?」

「うっ」



 鏡花のふてくされたその言葉に俺はたじろぐ。……内心、俺も鏡花たちとまったく同じことを考えていたから、正直なんにも言う権利がなかった俺。ふがいない。



「……これはまた面倒くさそうな話になりそうね。月島さんはただのアイドルではないことが分かっちゃったわけだし、下手をするととんでもないモノと対立しそうになりそうね」

「そうだね。これはちょっぴりキツいかな」

「……アタシたちは今回はなにも武装していません。相手が武器をしている場合はますますつらいですね。……特にアタシは」

「相手は拳銃を使っていることはわかっているし……かなりの手馴れだ」

『はぁ……』



 俺達全員が溜息を吐く。……楽しい旅行のつもりがこんなことになってしまった。



「あれ? これは……ラジカセ? なにかに使うのかしら?」



 鏡花が部屋の隅に隠すように置いてあった小さな……本当に小さなラジカセに気付く。……なんでそんなもんがここに? そんなことを考えていると鏡花がラジカセの再生ボタンを押した。……すると。



 ――きゃーっ! ぱしゅっ!



『!?』



 突然の悲鳴と銃声が大音量で流れ、俺たちは戦慄した。……こ、これは!



 ――ドタドタドタ…………ッ!



 複数の足音がこの部屋に凄いスピードで近づいて来る。



「どうしたの!?」

「なにがあったの!?」

「大丈夫ですか!?」



 そして開いていたドアから、樹里と優稀菜と歩美が部屋に飛び込んで来ていた。



「お、おう。ちょっとこのラジカセを再生したら……な?」 

『は?』



 俺の回答にぽかんとする三人。

 俺はラジカセを持っている鏡花と目線を合わせる。鏡花は俺の言いたいことが分かったらしく頷き、ラジカセの再生ボタンを押す。



 ――きゃーっ! パシュッ!



『!?』



 案の定、俺たちがさっき聞いた音声が再生され、さっき来た三人もさっきまでの俺たちと同じ反応をした。



「……なるほど、簡単なトリックだったな。消えた犯人」

「本当ね。こんな単純な仕掛けだったなんて……バカみたい」



 苦笑する俺と鏡花。



「なるほど……ねぇ」

「まさかラジカセから被害者の叫び声と銃声が再生されて犯行時刻を誤魔化させられるなんて……」



 そして呆れたように樹里と琴美が失笑していた。しかし……。



「それじゃあ……月島さんはどこで殺されたのかなぁ」



 優稀菜はそうわからないように一言。



『……あ』



 綺羅先輩と歩美はその優稀菜の言葉の意味がわかったらしく、声を上げる。……んん? 俺も樹里も鏡花も琴美も意味がわからず首を傾げる。

 そんな俺たちを代表してか、鏡花が優稀菜に訊く。



「どこで殺されたって……ここじゃないの?」

「違うよ。少なくてもここじゃないよ、月島さんが殺されたのは」

「……なんで?」

「犯人は拳銃で月島さんを殺したんだよ? しかも、ここは三十階。四階のレストランにいる優稀たちにも聞こえている。……っていうことは、気付かないわけないじゃん。優稀たちが銃声に」

『!』



 たしかにそうだ。この録音された音声を流しただけで樹里たちはすっ飛んできた。実際の銃声はもっと大きいはず。俺たちが気付かないはずがない。



「つまり、月島さんは大きな音が響き難い場所で殺され、ここに運ばれた……ってことだ。もう一回、全員のアリバイを洗いなおした方がよさそうだ。……歩美、樹里、優稀菜。レストランに戻って五十嵐刑事と一緒にいいか?」

『はい(うん、わかったの)!』



 歩美と樹里、優稀菜は俺の言葉に素直に頷いてレストランの方へ駆けて行った。これで大丈夫だ。歩美と五十嵐刑事は丁寧だし、樹里と優稀菜がいれば誰も逆らえないだろう。



「あとの俺たちは二手に分かれて、本当の犯行現場を探そう。えっと、組み合わせは――」

『わたし(私、アタシ)と俊輝(俊くん、シュンくん)』

「…………」

『…………』



 またなんかさっきと同じ雰囲気が……。気まずい。



「……勝者一人。じゃんけん一本」



 またも鏡花が沈黙を破るように言い……全員が構えた!



『じゃんけんポンッ! あいこでしょッ! あいこで(ry』

「!?」



 ま、またじゃんけん大会が始まってしまった! だ、だからそんなに俺を心配しなくていいって! おまえら、そんなに俺が頼りないか!? 少し情けないぜ!



「よっし、勝ちましたよ! V!」

『…………』



 勝利したのは琴美だった。その表情はやけに生き生きしており、他の敗北者たちはなぜか、見るからに凹んでいる。……どうした?



「じゃあシュンくん、よ☆ろ☆し☆く」

「お、おう」



 わざわざご丁寧に「よろしく」の文字ひとつひとつの間に「星」って言ってたぞ、琴美。なんでそんな妙なテンションなんだ?





             To be continued

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