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―第肆章 橘のアクシデント―

 遊んでいるうちに時間はあっという間に過ぎ、すっかり日が暮れてしまった。

 俺たちは着替えて三十階の自室に戻ってゴロゴロしていた。七人全員が寝転がっても、この広い部屋にはまだまだいっぱいスペースができる。



「あー、お腹減った……」



 鏡花が呟く。あー、うん。みんなもそんな顔してる。俺もだけど。



「ここってレストランみたいなのあるんだっけ?」

「あるぞ。四階にバイキングがあったはずだ」

「金は……取るわよね?」

「取るけど……でも、全員で一か二だろ」

「じゃあ問題ないわ」



 ちなみに一と二のあとに付く言葉は「万」。普通は「たっか!」と思うかもしれないが、俺たちにはSICの給料があるため、なんの問題もなかった。



「じゃあ、行きましょ」



 俺たちはバイキングに向かった。



     ❁ ❁ ❁



「おっ。優稀たちが一番乗りなの?」

「そうみたいだね」



 もう七時だっていうのに客は俺たちしかいなかった。



「まだみんな、お腹減ってないのかなぁ?」

「わたしたちが遊び過ぎたっていうのもあるかもしれないわ」



 優稀菜と鏡花がそんな会話をする。

 俺は多人数用のテーブルに自分のバッグを置く。



「さて、席は取ったし、食いたいものを取っていこうぜ」

「そうね、行きましょう」



 鏡花をはじめ、みんなも頷く。

 さて……なにがあるかな。テレビで見たんだが、バイキングで元をとるコツは野菜や肉、魚をバランスよく取るのがいいらしい。まぁ、見た目も綺麗だし栄養もバランスよく取れるから、俺もそれに従ってみようかな。



「……みんなは色々取ってるなぁ」



 さすが女の子。こういうことには手慣れているな。俺はおかずを取っていくと、女の子たちの色々な会話が耳に飛び込んできた。



「肉よ、肉! 空腹のときは肉!」

「鏡ちゃん、お魚も食べないとダメなの……」



 優稀菜。そんなこと言っているけど、おまえも肉を取っているぞ。……あ、でもサラダはある。



「牛肉ってどこにありますか?」

「あそこですけど……なんで牛肉なんですか、琴美さん」

「なんかね、牛肉を食べると胸が大きくなるって噂ですよ」



 すっごくわかりやすい乙女の純情だった。



「ひゃわー!? と、鳥さん……」

「綺羅さん!? そのグリルはカラスじゃないですよ!?」

「うぅ……私の同族には変わらないんだよ……」

「あああっ! 私、鶏肉が大好きなのに食べるのを躊躇されてる!」

「ジュンちゃん……ちゃんと心を込めて、食べてやってね……」

「そんな切実な気持ちじゃ味わえません! ううぅ……」



 なんとも複雑な会話だった……。カオスだ。この空間、カオスすぎる……。

 とか思いつつ、俺は順調に食べ物を乗せていく。……よし、いい感じになったな。

 俺は席に戻る。



「……ん?」



 と、ここで誰か食堂に入ってきた。……あ、あれは……。



「社長、ここで食事をしましょう」

「うむ」



 高田一家と……今話をした女のひとは秘書の方かな。

 続いて……。



「ここだよ、ここ!」

「そんなに張りきらなくていいから、恵美」

「桃花だって、結構楽しみにしてたじゃん」

「な、奈緒子ぉ……」



 アイドルの沢崎恵美、高橋桃花、月島奈緒子の三人組だ。

 アイドル同士、遊びに来たのかな? さすが、売れ時のアイドルたちだぜ。



「ここ……食堂ですか?」

「イエスイエス」



 そして……大スターハリベル・クリントンもご登場! うわ! なんかオーラが違う!

 通訳と思わしき人もいるが……ハリベルさんって日本語喋れるんだな。そういえば、このひと日本好きで有名だったけ。



「なーんか、すっごいひとばっかり集まってくるわね」

「うんうん。とても優稀たちと一緒の空間にいるとは思えないの」



 戻ってきた鏡花と優稀菜は口々に言う。そうだよな。なんだか別次元にいるみたいだよな。

 綺羅先輩や樹里たちも戻ってきた。

 乗っているおかずはなんだかんだ言って全員バランスが整っていた。



『いただきます』



 みんなで手を合わせる。

 さて、お味は……。



「うまい!」

「さっすが高級ホテル!」

「めっちゃめちゃ美味しいの!」



 俺と鏡花、優稀菜は思わず口に出してしまう。樹里たちも美味しそうに頬を緩めていた。

 俺たちが幸せな気分で食事を続けている……と。



「なんだと、貴様!」

「父さん! 俺の決意は揺るがないぞ!」



 なんだか言い争う声がした。

 そっちの方を見ると……高田コーポレーション社長の幸一さんと代表取締役のの康彦さんが口論をしていた。



「アイドルと結婚するだと?」

「そうだ! 彼女は素敵な女性だ! 別にいいじゃないか!」

「認めん! おまえはうちの大事な跡取り息子なんだぞ! 今後高田コーポレーションを引き継ぐ人間なんだ! それなのに……アイドルと結婚? ふざけるな! おまえには許嫁の令嬢がいる! それと結婚しろ!」

「そっちこそふざけるな! 俺は自分で決めた女と結婚したいんだ! そんな社交的な理由で……しかも会ったこともない女と結婚できるか!」

「なんだと!」

「やんのか!」

「や、やめて、あなた! 康彦!」

「お、落ち着いて、落ち着いて」



 ヒートアップしたふたりを奥さんの美影さんと秘書の女のひとが仲裁に入る。



「……はぁ、もういい」

「なに!?」

「もういいよ! 掛け落ちでも構わない! 俺は彼女と結婚する!」



 そう言って、康彦さんはこのレストランから出て行ってしまった。



「待て! 康彦!」

「あなた! 今は落ち着かせましょう。落ち着いてから、また話し合えばいいじゃない」

「……うむ、そうだ。……今は、落ち着こう」



 高田夫婦と秘書のひとは、康彦さん抜きで食事を再開させた。

 お金持ちも大変なこったな。まぁ、関わらないけど。

 ……ん? あっちのアイドル組もなんだか会話している。でも、遠くて聞こえんな。



「俊ちゃん。あんまりよそ様のことは気にしないの」

「あ、ああ、そうだな優稀菜。俺の悪い癖だ」



 そうだよ。俺たちはここに遊びに来たんだ。変なこと気にする必要はない。

 俺たちは美味しい食事を、よく噛み締めた。



     ❁ ❁ ❁



「……ツモ! 一発メンタンピンツモドラドラ。跳満なの」

「優稀菜は強いなぁ」

「むむ、優稀ちゃんやるね」

「残念」



 三十階のゲーム室。そこにあった麻雀卓に囲む俺、鏡花、優稀菜、綺羅先輩。

 一方で。



「よっしゃあ! リーチ一発ピンフイッツードラ三。親ハネだぜ!」

「いってー! 連荘された挙句、吹っ飛んだ!」

「残念ですね」

「ハハハ、ざーんねん」



 向うの一卓では、歩美、琴美、そしてプールサイドにいたチャラ男ふたりと打っていた。あのふたり、ギャンブラーだったんだな。そして……。



「フフフ……勝負する? これ強いわよ」

「いいぜ、掛かって来い!」



 樹里ともうひとりのチャラ男がインディアンポーカーをしていた。



「優稀たちはオーラスなの」



 おっと、もうそんなに進んだのかよ。親は俺。



「役満叩きだして逆転するわ!」

「こっちは黙テンして粘るよ」

「優稀は最初っから降りるよー」



 くそ……最下位はなんだかんだで俺だ。鏡花ほど目標は立てないで、連荘してがんばろう。

 あっちの方は……東二局一本場。

 さっき来て入ったからなチャラ男たち。なんか最初は樹里とはギクシャクして優稀菜には天使を見るような目で見ていたけど……なにかあったのか? と、そのとき。



「きゃー!」



 ――パシュ!



『!』



 俺達全員はその悲鳴と……銃声に反応する!



「な、奈緒子!? どうしたの!?」

「返事して!」



 そして、すぐにふたりの女性の声がした。



「ゲーム中断だ!」

「いくわよ!」



 俺と鏡花が叫び、全員立ち上がってゲームセンターから走る。



「な、奈緒子!?」

「だ、誰か! 誰かっ!」



 ふたりの女性の叫び声。……あっちか!

 俺たちは声がした方へ走る。その先にあったのは……302号室。

 そこには、アイドルの沢崎恵美、高橋桃花が尻込みをしていた。



「どうしました!?」

「あ、あれ……」



 沢崎さんが指を指した方向を見る。そこには……。



「月島さん!」



 アイドルの月島奈緒子が胸から血を流して倒れていた。



「歩美、警察と救急車だ! 鏡花! ここのホテルの従業員を呼べ!」

「は、はい!」

「わかったわ!」



 歩美はケータイを、鏡花は走っていった。



「優稀菜、俺たちは現場検証をするぞ。あとのみんなは全員ここで見張りをしてくれ! 一歩もこの部屋に入らせるな!」

『了解(なの、です、だよ)!』



 俺たちは全員、随時携帯している手袋をはめる。

 なんかいつの間にか、俺が指揮者になってしまっているが……まぁ、従ってくれているし、いいか。

 俺は月島さんに近づいて脈を確かめる。…………。



「俊ちゃん、どう?」

「ダメだ。亡くなっている」



 優稀菜の質問に首を振って答える俺。



「う、うそ……」

「ど、どうして、奈緒子が……」



 沢崎さんと高橋さんが俯いて涙を流す。

 俺と優稀菜はそのまま、部屋内を調べる。まだ犯人がいるかもしれないしな。

 と、そのとき。



「なんだね、騒がしい」

「どうかしたんですか?」



 廊下の向こう側から、高田さんたちと秘書らしき女のひとが現れる。

 樹里が冷静に返す。



「殺人事件が起きました」

『ええ!?』



 当然のように驚く四人。



「Why?」

「なにかあったのでしょうか?」



 隣の303号室から……ハリベルさんと女のひとが出てくる。

 そのふたりが302号室の中を見た瞬間。



「What!?」

「な、なんと……!」



 驚くふたり。



「現在、現場検証中なので現場には立ち入らないでください」

「あ、あぁ」

「わかりました」



 全員、樹里の指示に従ってくれる。



「さ、さっきっから警察ぶっちゃって……あんたたち何様なのよ!」



 友人が亡くなって逆上したのか、俺たちにそう当たる沢崎さん。

 綺羅先輩が手帳を見せて答える。



「申し訳ございません、自己紹介が遅れました。私たち、SICの者です」

『!?』



 その解答は意外だったらしく、全員驚きの表情になる。



「え、SICって……」

「あの天才児の集まる組織か?」



 理解してくれたみたいだ。一般的にSICも知られているんだな。俺は知らなかった、っていうか忘れていたけど。



「す、すみません」

「いいんですよ。あなたもご友人を亡くなられて悔しいのでしょう? 仕方ないです」



 謝る沢崎に優しく答える綺羅先輩。

 一方俺たちは。



「優稀菜、なんかあったか?」

「なんにもないの」

「そうか……」



 さて、面倒なことになったぞ。

 さっきチェックしたが、窓の鍵はすべて閉じてあった。俺たちがくまなく室内を捜索したから、どこにも犯人らしき人はいない。

 さっき銃声がしてすぐに沢崎さんと高橋さんの声がした。そのときに誰かが出てきたようには思えない。つまりこれは……。



「密室、殺人。……しかも犯人は……消えたの」



 優稀菜も俺と同じ答えに気付いたようだった。



              To be continued

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