―第参章 橘のアクアリゾート―
そして当日。
「おぉー」
「これはすごいの……」
真っ先に樹里と優稀菜が漏らした感想がそれだった。その気持ちはよーくわかるぞ。現に歩美も綺羅先輩も琴美もみんな、口をポカンとさせている。
長野の高級リゾートホテル……「橘」。思ったよりもスケールがデカかった。
なんせ三十階建てのホテルだもんな。そりゃ驚くよ。
「よく、こんなホテルの無料券……しかも三日分を商店街の景品として配られるよなぁ」
「わたしもおかしいと思ってちょっと調べてみたんだけど、理由はわかったわ」
「どうだった?」
「全然悪い理由じゃないわ。ここの社長が地元にサービスとして何枚か送ったみたい。ほら、いわゆるオープン祝いとして。でも商店街のひと達はここに来る暇がなかったから、景品に出したみたい」
「ああ、なるほどな」
単純なご厚意か。いいひとだな。
「さって、いつまでもこんなところ突っ立っていないで入りましょ」
鏡花の言葉で、全員がホテルに入っていった。
❁ ❁ ❁
「えーと、部屋は?」
「三十階の308室だ」
「ふえー、三十階。最上階なの」
ロータリーにて。受付を済ませ、部屋の鍵を貰った俺に訊ねてきた優稀菜が驚く。
「このパンフレットによると、このホテルの十五階から二十九階までは親会社の『Shining Tatibana』……通称『ST』らしいわ。『ST』は会社とホテルを一緒にすることで、人件費削減と信用を得ているってことね。三十階はVIP用の部屋。私たちはそこに招待されたわけね」
パンフレットを片手に説明してくれる鏡花。そうか。ここは「Shining Tatibana」の親会社だったのか。なるほど。それだったら、信用はできるな。
「ST」は様々な分野で好成績を叩きだしている大企業だ。商品は売れるし、その後のアフターサービスも行ってくれる。だから一般の客はもちろん、他の企業や専門店、ついには外国にも信用されている。
「ほら、周りを見てよ。凄いひとがいっぱいいるよ」
綺羅先輩に言われて周りのひとをよーく見る。……って、おお。
「高田コーポレーション社長、高田幸一と副社長の高田美影。その息子かつ代表取締役の高田康彦」
「アイドルの沢崎恵美と高橋桃花。お、月島奈緒子もいるね」
「凄いな。アメリカの大スターのハリベル・クリントンもいるぞ」
俺たちは口々に名前を挙げて行く。
「こんだけ有名人がいるから、信用も信用できるでしょ」
「たしかに」
納得した。そりゃあ、儲かるわけだよ、この会社。
「さぁ。部屋に行こうぜ」
『はーい』
とってもいい子のお返事が返ってきた。
俺たちは三十階の部屋に向かった。
❁ ❁ ❁
「ひゃー!」
「広っ! えっ!? 広っ!?」
琴美と鏡花の悲鳴にも似た歓喜の声が響いた。
「なんだこりゃ!? すげぇ!」
俺も俺も叫んでしまう。
「これ本当に一室? 三室分くらいの部屋の広さだよ?」
綺羅先輩も心底驚いているご様子。
樹里も優稀菜も歩美も口をあんぐりさせていた。
さすがVIP用の部屋。スケールが凄すぎるぜ。VIPがこれなら、通常の部屋も割と広いんだろうな。
「歩美。おまえはとんでもないホテルの無料券を当ててきたな。お兄ちゃん、嬉しいぞ」
「は、はい……ビックリしました……」
歩美も自分は凄いことしてしまったことに今気付いたんだろうな。
俺は苦笑しながら、いまだに部屋の広さに感激してゴロゴロしている鏡花と琴美、ポカーンとしている樹里、優稀菜、綺羅先輩、歩美に声をかける。
「みんな、早くプール行こうぜ。遊ぶ時間が減るぞ」
『はーい』
本日二回目のよい子の返事をいただいた。
❁ ❁ ❁
「……すげぇな、ほんとに」
十四階の屋内プールにきた俺。もちろん水着姿だ。
プール内は結構広い。てか、あんまり客いないな。
見た感じ、どっかの金持ちのボンボンらしい男三人と……おっ、ハリベルさんがいる。高田親子も。泳ぎうまいなぁ高田康彦会長。
「俺も泳ごう」
あんな風に気持ち良く泳いでるとこを見たら俺も泳ぎたくなってきた。
俺は少し離れたところにある、25メートルプールに向かった。
――Kyoukas story――
よし! 着替えた。
わたしは俊輝に可愛いって誉めてくれた黒のビキニを纏った。……でも。
「なんか、大胆すぎたような気がしなくもなくもなくもない」
四重否定を思わずしてしまうわたし。……うん。黒ってなんだかヤらしいわね。
「俊輝って、こういうのが好きなのかなぁ。むぅ……ま、いっか」
サッパリと割り切るわたし。別にいいや。俊輝はこれで落とす。
「さって、俊輝どこかなぁ」
屋内プールに飛び出し、俊輝を探す。……うーん、あっ、いた。
25メートルプールでバタフライしていた。……これでも泳ぎはわたしは得意。競争を仕掛けて俊輝を驚かせてやろう。ふふふ……驚いて唖然とする俊輝の顔が浮かぶわ。
と、ひとりでクスクス笑っていると。
「おーい、そこのかわいー子!」
「俺たちと遊ばない?」
なんだかチャラチャラしたどっかの金持ちのおぼっちゃまらしい男三人に囲まれていた。
「ごめんなさい、連れがいるのよ」
「連れも一緒でいいからさ」
むぅ、しつこいなぁ。
「ほら、泳ぎを教えてあげるからさ」
「いや、泳ぎは得意なんだけど……あっ」
いいこと考えた。
「じゃあさ、わたしと泳ぎで勝負しよう。それで勝ったら遊んであげるわ。ただし勝負は一回ポッキリ。一番泳ぎが得意な奴を出してきなさい。泳ぎ方を自由。それでいいかしら?」
「よっしゃあ! 受けて立つぜ! 伊達に金持ちのボンボンやってるわけじゃねぇぞ! な! 剛毅!」
「おう! 俺に任せておけ!」
このあと、圧倒的な実力の差で剛毅と名乗ったチャラ男にわたしが余裕勝ちをしたのは言うまでもない。
――Zyuris story――
「まったく、二着買っておいてよかった」
完全に鏡花と丸被りだったから焦ったわ。
鏡花のやつ、俊輝が黒の水着が好きなの知ってたな。しかもあっちには銀色の髪があるから絶対に勝てないと悟った私は、すぐに路線変更。
正直このパターンは読めていたから、もう一着買っておいた。
「ふぅ……これは俊輝の好みのタイプかなぁ」
そのもう一着ももちろん黒の水着。
タイプはビキニからフリルに変更……したんだけど。
「これ……私らしくないかも……」
なんか私って、こんな可愛い水着は……似合わないかなぁ。
優稀菜たちと笑いながらノリで買ったものだから、今の今まで気付かなかった。
「……はぅ……ま、まぁ、いいわ」
これしかないし、勝負よ勝負! そうよ、私は本来こういう性格だったじゃない! ただし水着は性格に合っていなかった。
プールサイドを歩いていると……お、いたいた。俊輝が鏡花と競争していた。……鏡花速っ! 陸上だと俊輝よりも遅いのに水中だと速いんだな。と、そんなことを考えていたら。
「そこのかーのじょ」
「俺たちと遊ぼう」
「ん?」
なんだかちゃらちゃらしている男三人がいた。……どっかのボンボンかな?
私は満面の笑顔で一言。
「いやです」
「いや、そう言わずに」
「いやです」
「ま、まぁ、話を――」
「いやです」
「……あの、その……」
「いやです」
『…………』
「いやです」
男たちは完膚無きままに笑顔で「いやです」を連呼され、すっかり凹んでしまっていた。
「もういいですか?」
「……はい」
さって、なんだかわからないけどスッキリした。ありがとう、名も知らないチャラ男三人。
――Yukinas story――
「よっし、着替えたの」
優稀は更衣室から出て、屋内プールの敷地内に入った。
「さって……優稀ながら大胆すぎる水着を選んだの」
優稀が身につけているのは胸元が大胆に開いたパープルのビキニ。うん、エロい。エロすぎる。
ふっふっふ、女の子っていうのはね、好きな人には大胆にサービスしちゃうもんなんだよ、俊ちゃん。
だから優稀はなんにも気にせず、それを選んだ。……サービスサービスぅ!
とか、いつもみたいにネタを飛ばしていると。
「……そこの美少女ー」
「……俺たちとあそぼー」
なんだか思いっきり沈んでいるチャラ男に絡まれた。
……こ、怖っ! 怖いよ! なんか怖い! え!? ちょっ! な、なにがあったの!?
「ちょ、ちょっと。ど、どうしたの?」
なんか可愛そうだったから声をかけてみる。
「……いや……」
「……俺たちが悪いんです……」
「……ふふふ……」
なんか卑屈になっていた! こ、怖いぃぃぃぃぃぃい! ど、どうしてこうなってしまったの!? 酷いナンパの振られ方をしたとか!? そ、それはなんだか可愛そう……。
「ま、まぁ、遊ばないけど……大丈夫? ちょっとあそこのパラソルで寝ていた方がいいんじゃないかな?」
「はい……」
「そうします……」
「…………」
三人ともちょっと元気が出たように、パラソルに行ってそのまんま寝てしまった。……本当にどうしたんだろう? なんかいたたまれないよ。
――Kiras story――
「ふぅ……俊くんはどこかなぁ」
プルーサイドを歩く私。水着には着替えたけど……上にはパーカーを着ている。
理由は簡単。背中に「1」の数字が刺青されているからだ。
このプールの警告板に「刺青をしている人禁止」って書いてあったから仕方なく、パーカーを着ていた。
……はぁ……、バレなければ泳いでもいいかなぁ?……お。いたいた。
「おーい、みんなー」
私はみんなに手を振る。……あれ? なんだか俊くんと鏡花ちゃん、倒れてるよ? なんだか目を回しているみたいだけど……。
「どうしたのん?」
「あっ、綺羅さん!」
「大変だよ! 俊ちゃんたちムキになって前を見ないで競争していたから、プールの壁にゴッツンしちゃったの!」
「ふぇえ!? そ、それは大変だ!」
い、痛そう……。私はふたりの頭を撫でてあげる。……痛かったよね。
「あれ? 綺羅さん、パーカー」
「なんで着ているの?」
ジュンちゃんと優稀ちゃんが私に訊く。
「あぁ……これはね」
私はパーカーを脱いで、背中を露わにする。
「……あ」
「そ、そうだったの……」
ふたりとも申し訳なさそうな顔をしてしまう。わわっ、ちょっと。
「いいんだよ。しょうがないことだから」
私はすぐにフォローする。
「なんか綺羅さんって」
「大人の女って感じだよね。なんか雰囲気が」
「ふぇ?」
ちょこんと首を傾げる私。
「あ。やっぱり子供っぽいかも」
「綺羅先輩可愛い!」
「わわわっ」
優稀ちゃんが私に抱きついてくる! 私はバランス崩して倒れてしまった。ちょ、ちょっと! ゆ、優稀ちゃん!?
「……うーん」
「いてて……」
とその時、俊くんと鏡花ちゃんが起きた。
「んん?……って、ええ!?」
「き、綺羅先輩が……ゆ、優稀菜に……押し倒されてる!?」
あああっ! ヘンな誤解しないでぇぇぇぇぇ!
「そうよ、俊輝、鏡花。ふたりは今! 新しい愛に目覚めたわ!」
『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
「ふ、ふたりともー! ほ、本気にしないでぇぇぇぇぇぇぇ!」
優稀ちゃんの大きなおっぱいに埋もれながらも、私は必死で叫ぶ。
「そうだよ。優稀たちは新しい愛なんかに目覚めてないの。それに……」
優稀ちゃんも遺憾に思ったのか、私からそっと離れる。
そして俊くんに頬を赤く染めて一言。
「優稀はもう好きなひとはいるの」
「そうか。だったらそいつに想いが伝わればいいな」
「……想いは……なかなか伝わらないの……伝えているのに……」
「酷いやつだな。まったく」
「…………」
……まったく気付いていなかった。あれ、結構勇気持って言っているのに……。まぁ、あれが俊くんだし、仕方ないって言っちゃ仕方ないんだけど……。
私も頑張らないと、とられちゃうね。
――Ayumis and Kotomis story――
「ほほう、生乳は違いますなぁ」
「こ、こらっ。琴美さん、触らないでくださぁい!」
更衣室にて。私は琴美さんにセクハラされていた。
み、水着に着替えたのに、なんで手を突っ込んでくるのでしょうか。
「ふぅ……それに比べてアタシのは……」
琴美さんはご自身の胸を見ると嘆息する。……なんか泣けてきます。
「えぇい! なんで歩美さんといい、鏡花さんといい、樹里さんといい、優稀菜さんといい、綺羅先輩といい、シュンくんの周りにおっぱいがおっきい女の子がいっぱいいるんですか!」
「そ、そんなこと言われましても……」
正直、なにもしていないのに気がついたらこうなってた。みんなそう思っているのでしょうね。
「はぁ……ライバルはみんな巨乳……凹む……」
「こ、琴美さん? 私はライバルじゃないですよ?」
「え?」
琴美さんが驚いたように目を開く。なんだか少し嬉しそうにも見える。
私は苦笑して答えた。
「私は兄さんのことは好きです。……けど、恋愛対象には、今のところ見ていません」
「なんでですか?」
「……兄さんは、私を『妹』と見ているからです」
兄さんが私を「妹」と扱っている以上、私はライバルになりたくてもなれない。
「ですから、私は兄さんの妹として生きることに決めたんです。私を兄さんが『妹』と見ている以上、私は『妹』であり続けます」
「……もし『恋人』として見始めたら?」
「そのときは『恋人』にならせていただきます。まぁ……ないと思いますけど」
「彼氏とかは?」
「作りません。絶対に作りません」
だって私は……ダメなことですが、兄さん以外の男のひとを見ることができません。
「……そうですか。歩美さんは凄いですね」
「別にそんなことないですよ。ただ諦めているだけです」
「でも、あのひとは『妹』として、見られたくないですけど」
「……鏡花さんですか」
彼女は……兄さんのことを「兄」と見ていなかった。ひとりの……「男」と見ていた。……少し、羨ましいですね。
「鏡花さんは……諦めないひとだと思います。絶対に」
「そうですよね。はぁ……ライバルはふたりも減らないか……」
「しかたないですよ。好きになることに、理由なんてありませんから」
「好き」という感情は自分の中に自然と生じてくるモノ。理由は後付けにしかなりません。
「そうですよね……。歩美さんは誰を応援しますか?」
「誰も応援しませんよ。……私だって、兄さんのことが好きですから」
「やっぱりライバルじゃないですか」
「そうかもしれませんね。矛盾していますけど、私だって『恋人』として見て欲しいですよ。女の子なんですから」
私は素直に琴美さんに伝える。
「いいと思いますよ。それが歩美さんらしいです」
「ありがとうございますね」
「でも、アタシは負ける気ないですよ。『SHU○FLE!!』の真弓=タ○ムだって言っていますから。『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』って」
「たしかにこの中では希少価値ですね」
「きぃ~! 言ってくれますね! この巨乳娘が!」
「あっ! だ、ダメですよ~」
また琴美さんのセクハラが始まってしまった。
……兄さん、誰か……助けてください……ぁん!
To be continued




