―第壱章 橘のトラベル―
……夏休みも終盤。あと一週間もしたらお終いだ。
「なーんか、暇ねぇ」
「せっかくの休日なのになぁ」
昼過ぎ。歩美以外のみんなリビングの机を囲んで会議。歩美は買い物中。会議内容はどうやって残りの休日を過ごすかだった。
この前の暴力団の一件で、俺たちは夏休みのこの一週間、ずーっと仕事を休んでもいい有給休暇をいただいていた。と同時に全員給料も入っていた。
「……そういえば……」
「ん?」
「なぁに、ジュリちゃん」
はたと思いだしたように樹里は言う。
「私たち、海とか一回も行っていないわよ。夏休みなのに」
『……あー』
俺たちは気付く。そうだな。確かに一回もそういうところに行ってない。
「そういう暇がなかったよね、みんな」
「そうだね。いろいろあったし」
「でも、この近くのプールとか行っても混んでいるし……海は……私がダメ」
「え? なんでなの?」
海は行きたくないと言う樹里に不思議そうに訊く優稀菜。
「樹里はな、海に行ったときにクラゲに刺されたことがあるんだ。それ以来トラウマに――ぐはっ!?」
「……余計なこと言わないでいい」
樹里に脇腹を殴られた俺。……痛い。
「じゃあ、どうしよっか」
『うーん』
結局振り出しに戻ってしまった。と、そのとき。
「ただいまー」
歩美が帰ってきた。
「おかえり、歩美」
俺が言うとみんなも歩美に「おかえり」を言う。
「はい、ただいまです。ふふっ……ちょっと、お土産がありますよ、皆さん」
「お土産?」
みんなも首を傾げる。歩美はなんだか上機嫌だが……どうしたんだろう。
「これを見てください」
歩美がかばんの中からなにかの紙を取り出す。……ん? なんだろう。
俺たちはその紙を見た瞬間……。
「そ、それは!」
「リゾートホテルの宿泊券じゃない! し、しかも高級な!」
「ど、どうしたの、歩美ちゃん?」
「どうやって手に入れたのん?」
驚き、そして目を光らせた。
「商店街のくじ引きをしたんです。最初はポケットティッシュがもらえるからだったんですけど、まさかの大当たり。なので、一等の高級リゾートホテルのチケットを貰ったんです」
「そうだったのか。枚数は……八枚。俺、歩美、鏡花、樹里、優稀菜、綺羅先輩、琴美、美鈴で……ぴったりだ」
「ケータイで琴美さんと美鈴さんもお誘いました。でも……美鈴さんは来れないらしいんです。だからひとり分余ってしまいました」
そうか……美鈴は来れないのか……。
優稀菜が口を開いた。
「響ちゃん、誘ってみる? この前お世話になったし」
「響か。面白そうだな。電話してみよう」
俺は響に電話をかける。この前の特訓でアドレスは知っていたんだ。
『はい、もしもし』
おっ。繋がった。
「よお、響」
『俊輝? なに、どうしたの?』
「明日、リゾートホテルに行くんだがチケットが余っちってな。来れるか?」
『ほっ、はっ! ご、ゴメン! 行けそうにない!……よっしょっと』
「そうか、残念だな。……ところで、今なにをしてるんだ?」
『アンタのとこの隊長補佐官の相手をしてあげてるのよ――って、ああ! なにさっきから電話に出させろってうっさいなぁ! だったら私を倒してみなさい……って! ど、土下座すんじゃない! どんだけ電話に出たいのよ!?……あぁあぁ、わかった! ほれ! 電話!』
『……あー、こほん。もしもし、俊輝さん?』
「おぉ、シルフィアか」
シルフィア、響の特訓を受けていたのか。
「丁度よかった。おまえ明日空いてるか?」
『え、ええ!? な、なにかありますの?』
「明日、リゾートホテルに行こうと思ってな。人数がひとり余ってたんだ。だからおまえも来るか?」
『はい! よろこんで――って! ちょ! 響先生!? なんでダメなんですの!? え? 明日は滝に打たれに行く予定でしょ? そ、そんなバカな! 延期しましょう! え? だから私も断ったんじゃない、私もほんとは行きたかった? ご、ごめんなさいごめんなさい! あぁ……残念ですけど、行けませんわ』
「お、おう。ざ、残念だな。また、暇ができたら呼ぶよ」
『せっかくのお誘いに乗れなくてすみません。では』
電話が切れた。…………。
「ダメだって」
「うーん、どうしようか」
少し考えてみた。……あ。
「龍侍さんは?」
「私も考えていたんだけど……龍ちゃんはアメリカにいるんだ」
綺羅先輩の言葉で、もう候補がいなくなってしまった。
「しょうがないですね。このチケットは予備ということにしましょう」
というわけで、このチケットは予備になりました。めでたしめでたし。
「じゃあみなさん。支度しちゃいましょう。このチケットによりますと、三日間宿泊可能らしいので着替えは忘れないでください。あと水着も」
歩美がそう言うと、女性陣の目が光り出す。
「あ、水着買いに行こう」
「優稀も買いに行くの」
「私も買っちゃおうかな」
「じゃあ、私も買うよん♪」
みんな水着を買いに行くようだ。
「俺は去年のでいいや」
「私もそれでいいです」
俺たちはそう言う。しかし。
「ダメよ」
「俊ちゃん、歩美ちゃん。みんなで買いに行くの♪」
「お金だったら、さっき給料が入ったばかりだし」
「ね♪」
買わないという選択肢はないみたいだ。
まぁ、折角だし。いっか。
俺たちは水着を買いに向かった。
To be continued




