―Syunkis story 出逢い……そして、約束―
俺が樹里と出会ったのは今から六年前の夏のアメリカ。
当時十歳だった俺は親父に連れられて、よく樹里の家に遊びに行った。
樹里の家は街から少し離れた小高い丘の上に立っていた。
俺の親父は当時、FBIの幹部のひとりで樹里の父親もそれだったから、仲が良かったようだ。
当時から樹里は気がめっぽう強くて仕事も一緒に出陣していた。よく俺に色々命令していたっけ。あと力……腕力が抜きんでていたな、腕は細いのに。
……でも、動きだけは俺の方が上だった。
樹里は力任せの攻撃が得意だったから、よく俺と模擬戦をしていたときには俺にかわされまくって地団駄踏んでいたっけな。
「ねぇ、鏡輔」
「ん? どうしたの、樹里」
「鏡輔は……なんでそんなにスピードが速いのよ?」
「……さぁ? なんでだろうな。よく親父に走らされていたからじゃないかなぁ。それが?」
「悔しいのよ。力は私の方が上なのに、どうして鏡輔に勝てないのかが」
「おまえおっそいもんなぁ……」
「う、うっさい! バカ!」
そう言われて殴られた。樹里とはこんなやりとりが普通だったな。
「樹里、おまえ鏡輔くんのこと好きだろ?」
「ぱ、パパ! な、なんてこと言うの!? きょ、鏡輔も本気にしないで!」
おじさんの冷かしにテンパる樹里。……面白いから見守ってやろう。
「ほほう、そうなのかね。私としては嬉しい限りだよ、樹里ちゃん。鏡輔、よかったな。おまえの未来のお嫁さんは樹里ちゃんみたいだぞ。私は全然構わんよ……っていうかウェルカムだ」
「お、おじさま! そんな冗談はやめてください!」
「……うむ。冗談じゃなくて本気だったのだが……まぁ、今はいいか。ゆっくり待てばいい」
「あらあら、私も別に構いませんのよ、樹里。鏡輔くん強いしかっこいいから許可するわ」
「ま、ママ! そ、そんな……わ、私……鏡輔なんか……」
「そうだよ、みんな。樹里が俺なんかを相手にするわけないでしょ」
「…………」
ボコンッ!
「痛い! な、なんてことするんだ!」
「当然の報いよ」
「???」
な、なんのことだ……まったくわからん。
「あらあら」
「これはおもしろいですな」
「今の樹里ちゃんの気持ちに鏡輔が気付くのはいつになることやら」
おばさんやおじさん、親父の言っている意味がわからない。
今の樹里の気持ち? わかっているに決まってるじゃないか。キレているよ。俺に。
「ふんっ」
「げはっ!?」
ま、また殴られた……。何故だ?
親父たちは苦笑していた。
しかしそんな楽しくて、充実していた日々も、早過ぎる終わりを迎えることになる。
ある日の夜。樹里の家に……ひとつの大時計が搬送された。
この日は、父さんも母さんも出張で誰もいなかったから、俺は樹里の家に預けられていた。
「うわー、おっきい時計だね」
「これパパが買ったの?」
呑気に時計を見る俺と、おじさんににこやかに聞く樹里。
「ん? そんな物買っていないんだが……ママー、おまえが買ったのかい?」
「買っていませんわよ、そんな物」
おじさんとおばさんは首を捻っていた。
「差出人は……あれ? お義父さん?」
「お父さんから?……あら、ほんと」
差出人は樹里のおじいさんからだった。
「電話しよう。これはなんだか凄そうだ」
おじさんは笑いながら、電話を掛ける。
「……あ、もしもし、お義母さん? 私です。……はい……はい、そうです。いつもありがとうございます。あの、お義父さんはいますか?……はい……はい? はい……わかりました。失礼します」
なんだか様子がおかしかった。
「変だな」
「どうなさったの?」
「ああ……お義父さん、一ヶ月以上前から日本にいて、まだ帰ってきていないようなんだよ」
「えぇ? だってこれ……えぇ?」
「うーん……」
おかしかった。じゃあなんでこんな大時計が送られてきてしまったのか。しかし、この頃の俺は子供。そんなこと、なんとも思わなかった。
「……どう思う? これ」
「せっかくだし……どこかに寄付しましょう。こんな大きなもの、家には置いておけませんし」
今夜限り家に飾って、明日どこかに寄付しようということになった。
……本当に今夜限りの、大時計だった。
❁ ❁ ❁
そして……その日の夜三時。
月の光が雲に隠れてしまって届かない月影の夜だった。
俺は三階の樹里の部屋で、樹里と一緒にベッドの上で寝転がっていた。
樹里は寝ていたが、俺はなんだか胸騒ぎがして寝付けなかった。
……ごーん……ごーん……ごーん……。
大時計が三時半の鐘を鳴らす。……随分変わっているなと、俺は思った。瞬間――。
――ドォォンッ!
突然爆発音がこの家の正門の方から聞こえた! そして、この家の裏口から、数人の人影が見えた。……一、二、三、四……合計四人だ。ひとりは裏口につっ立っていやがる。
「な、なに!?」
樹里が跳び起きる。……こ、これは……っ!
「ヤバい! 夜襲か!」
俺は咄嗟に判断! そして……。
「樹里! 逃げるぞ!」
樹里の手をしっかり掴んで、一目散に逃げる俺!
「な、なんなの!? どうして逃げるのよ!」
突然の出来事に驚いている樹里に俺は走りながら説明する。
「この家の中に裏口から何人か入ってきた! そいつらが家の正門を爆破したんだよ!」
「だからなんなのよ! そんなやつら、やっつけちゃえばいいじゃない!」
「バカ野郎! この状況がまだわかんねぇのか!? 相手は正門を破壊して、裏口から入ってきた! しかも、裏口にはひとり見張りがいる! つまり俺たちは完全に逃げ道を失ったんだよ! 戦ったりしたらダメだ! こっちはFBIの捜査官だが所詮は子供! こんな狭い空間で大の大人数人相手に出来るほど強くねぇ!」
「じゃあどうすんのよ!?」
「隠れんだよ! どこかいいところないか!?」
「それなら……秘密の部屋を使いましょう!……ここ! ここに止まって!」
樹里の言葉を受けて俺は三階階段から離れたところにある行き止まりの壁の前で立ち止まる。
「……ここ?」
「ここ。見ててね」
パカッと、樹里は壁の一部を開くと……。
「こ、これは……」
「入力装置よ。パスワードは……77786357……っと」
入力したあと、入力装置があるドアを閉じて元通りにする。すると……静かに隠し扉が開いた。
「……す、凄い。こんなのあったんだ」
たったった……。足跡がこちらへ向かってくる!
「急いで! 早く入るわよ!」
「う、うん!」
俺と樹里は隠し扉の中に入り、きっちりと閉めてわからないようにする。
「もう大丈夫。ここはパスワードがわからないと、開かないわ」
「あれ? おじさんとおばさんは?」
「ふたりは普段、この部屋を寝室に使っているのよ。私はこの部屋が嫌いだから……あそこに自分の部屋を設置したの。いざって時にこの中に入れるようにするために」
流石だなと、俺は思った。やっぱりおじさんたちはすごいや。
「樹里! 鏡輔くん!」
「よかった、ふたりとも無事だな!」
おじさんとおばさんがベッドに座っていた。
「パパ! ママ!」
「よかった! よかった!」
樹里はおじさんに抱きついた。
「おじさん! これはまずいよ!」
「ああ……さすがにこの状況はマズいな! この部屋はわからんと思うが――」
ガン! ドン!
この部屋の隠し扉が……叩かれている!
「やばい……想定外だ。……みんな! 覚悟を決めろ! 防弾チョッキなら、そこに二着だけある! 樹里と鏡輔くんがつけろ!」
「パパとママは!?」
「仕方がないからパジャマのままだ! おまえも覚悟を決めろよ!」
「任せなさい! そう簡単には死なないわ!」
……俺と樹里は防弾チョッキを身につける。……こうなったら裏口から出るしかねぇ! 強行突破だ!
「みんな、武器はあるよな」
「「「はい」」」
寝るときでも決して身から武器は離さない。これは戦いの基本。
ガンッ! ガンッ!
「……ちっ! そろそろ限界か……行くぞ!」
そのおじさんの言葉に全員反応! ドアがぶち破られる瞬間に……パシュ! パシュ!
俺たちは一斉に引き金を引く!
撃たれた奴らは床に倒れた。まぁ、心臓を撃ち抜いたからな、今ので。正当防衛ってことで通るよな。……倒したのは三人。あと、ひとりか……。
――パシュ! パシュ!
イヤな銃声が響き渡る……。
「パパ! ママ!」
振り向くと、血を流して倒れているおじさんとおばさん。……。…………うそだ……。
「へっへ……ちょろいもんだぜ」
笑っている男が扉の陰に隠れていた。
「てめえか!」
「な!? ガキ!?」
パシュッ!
俺は容赦なく男に撃つ。……心臓めがけて。おじさんの敵だ。
それにしてもこいつ、俺がここにいること知らなかったのか。よかった。
ドォォォォォォォォン!
再び爆発音が響く……おいおい! この家、火事にあってるぞ!
「樹里! 来い! もうここはダメだ! 逃げねぇと火だるまになる!」
「で、でもパパたちが……っ!」
「もうダメだ! おまえだってわかってんだろう! 胸の中心……心臓にブチ当たっている! ふたりとも! 即死だ!」
「うそよ! そんわけ――」
「俺だって信じたくない! でも……現実を見ろ!」
俺は無理矢理樹里を引っ張り、走った。ただただ走り続けた。そして……俺の視界に写ったのは午前三時四十八分に止まった例の大時計だった。……すげぇ壊れていたな。あれが爆弾だったのか。
俺たちは普通に裏口から出れた。……見張りのやつはここから立ち去ったようだ。
俺たちは走り、少し離れたところで止まる。……家は全焼。こりゃぁ……。
「ひっく……パパ……ママぁ……」
樹里は……もうひどい有様だった。涙を流し、そして……目が虚ろになってしまっていた。
「樹里! しっかりしろ!」
「鏡輔……私どうすればいいの……? パパもママも……死んじゃった……」
「大丈夫だ! 俺がおまえを守ってやる!」
「……でも……パパとママは……守ってくれなかった……」
「……そうか、そうだな。俺はまだ弱い。でも、きっとおまえを絶対に守ってやる!」
せめて……せめて、樹里だけは守る。そう、俺は感じた瞬間だった。
「……そう……だったら……」
樹里は俺に抱きつき……、
「……私を……守ってね……」
といった。
「ああ、約束だ。絶対に、俺はおまえを守れるように強くなって見せるからな」
「……私も……もっと強くなって見せるわ……。……あんたのハードルを上げてあげるわ」
「……ああ、構わない。俺に任せておけ!」
「……ありがとう……」
これが……俺が樹里と交わした約束と……六年前の真実だった。
To be continued




