―第壱拾壱章 月影のグリーフ―
――Zyuris story――
私の……せいだ……。
私は……後悔していた。
あのとき……私が気を抜かなければ……油断しなければ……ッ!
「俊ちゃん!」
「俊くん!」
「シュンくん!」
「兄さん!」
駅内にあった非常用の担架に横たわっている俊輝に涙を流しながら近づく優稀菜、綺羅さん、琴美、歩美。……そして……。
「俊輝、しっかりなさい! 死んだりしたら許さないわよ!」
きつい言葉を浴びせながらも涙を流している鏡花。……ごめんなさい……ごめんなさい、みんな……。
「もしもし、八番隊隊長補佐官の郡山美鈴です。……たった今、十番隊杉並俊輝がヤクザ幹部の山梨に銃撃を受けました。現在重体です。とっ捕まえたヤクザはこちらで八名。残り二名は逃走中です。すぐさま、三番隊と四番隊をここに集結させること、そして現場指揮を十七夜鏡花十番隊隊長から私に変えることを許可してください。今、あのひとはまともな行動はできません。……はい……はい……そうですか、わかりました」
美鈴はすぐに現状報告を済ませる。
「鏡花さん、無理はしないでいいです。私が指揮を取りますので、今は落ち着いてください」
「……ごめんなさい、美鈴。頼んだわ」
鏡花はそういうと、俊輝の傍でがっくりと膝を折る。
「俊輝……お願い、頑張って……」
救急車が到着し、歩美は救急車へ乗り込み、私や他のみんなも綺羅さんが運転する車に乗り込み、病院へ向かう。
「俊……輝……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「謝ったって、しょうがないの。この仕事は死と隣り合わせ……。いつ死んでしまっても、おかしくないの。……たとえそれが今日であっても」
「優稀菜! なんてこと言うの!? あんたは俊輝が死んでも仕方がないっていうわけ!?」
鏡花のその言葉に……冷静だった優稀菜が再び泣き出してしまう。
「そんなわけあるわけないじゃん! 私だってイヤだよ! そんなこと! 私だって……私だって……」
「……ごめん……言い過ぎたわ」
「うぅ……鏡ちゃぁん……」
一人称が変わってしまっていた。
……優稀菜は必死に耐えていたのだろう。現実は現実。そして真実。このことを誰よりも知っているのが優稀菜だ。だから、ちゃんと見つめようとした。……でも、やっぱり認めたくない……。そのふたつの感情を抑え込んでいたのだろう。
「シュンくん……大丈夫でしょうか」
「……まだ、わからないよ……撃たれたのは胸……撃ち所が悪かったら心臓に行っている可能性がある……。どちらにしろ、危険な状況だね……ほら、病院に着いたよ。早く行こう? 救急車はもう着いているから」
私たちは車から降りて病院に走った。
❁ ❁ ❁
「歩美!」
「きょ、鏡花さん! み、皆さん! 兄さんが……兄さんがッ!」
「落ちついて歩美! どうしたの!? なにかあったの!?」
手術室の前のベンチに座っていた歩美が鏡花にしがみつく。
手術室のランプが赤く光っていた。
「容体は!?」
「わかりません……でも……胸から血を出して……あんなにも苦しい表情をして……私……私……」
「もういいわよ、歩美。疲れたわよね、休みなさい」
「はい……。……はぁ……はぁ……」
優しく歩美をベンチに座らせる鏡花。歩美はもう寝てしまっていた。……。…………。
「……ごめんなさい」
私は鏡花に……いえ、この場にいる全員に頭を下げる。
「ごめんなさい! 私が……私が油断したからこうなっちゃったの! 全て私の責任! 殴るなり蹴るなり好きにしてッ!」
私の本音だった。あのとき……私は……ッ!
こうなったのは全部私のせい……。彼が好きなこの娘たちになにかされても、文句なんかない。
「……樹里」
鏡花が手を私の方に向ける。……うん。殴って……いいわよ。そう思った、が。
「あんたなに言ってるの?」
鏡花は私の肩に手をのせただけだった。
「『全部私のせい』? あんたはなにを言ってるの? なんであんたがそんなに責任を感じているのよ」
「だ、だって……私が油断したから……」
「俊輝がああなったのは、自分から飛び込んだからよ? 別にあんたのせいじゃないわ。……それに」
ギリッと奥歯を噛み締める鏡花。
「あのチンピラ……俊輝に手ェ出しやがって……」
鏡花から殺意が剥き出しになる。……それは私に向けてじゃなくて、ヤクザに向けてだった。
「……そうだね、どうして貰おうかな……? たっぷりお礼してあげないと……」
「……だね。……私も久しぶりに翼を出そうかな……?」
普段終始ニコニコの優稀菜と綺羅さんまで殺意を剥き出しにする。綺羅さんに限ってはタブーの翼まで展開しようとする。
「……アタシ……久しぶりに銃剣で戦ってみましょうか……? もちろん、刺したら死ぬ可能性大ですけど……正当防衛ってことでいいですよね……? ふふふ……」
笑顔の琴美も一瞬で凶悪なオーラに包まれる。……ヤクザに向けて。……。…………。
「……なんでよ」
私は耐えきれずに言う。
「なんでみんな私を責めないの!? 私が……全部悪いのにッ! なんで私を責め立てたりしないの!?」
……辛かった。自分が悪いのに……罰を受けるべきなのに……彼女たちに文句や暴力を受けるべきなのに……っ!……なのに、なんにもされないなんて……これならまだ、殴られたりした方が数倍ましだった。しかし……。
「あんたを守った俊輝が……死ぬ思いであんたを救った俊輝が、そんなこと望むと思う? それに、あんたはなにも悪くないわよ?」
聞こえてきたのは、私の頭を優しく撫でてくれる鏡花の優しい声だった。
「そうだよ? ジュリちゃんはなんにも悪くないよ? 悪いのはヤクザ達だよ?」
「うんうん。別に気に止まなくていいと思うな、ジュンちゃん」
「樹里さん。もうちょっと自信を持って下さいよ」
優稀菜たちまで私にそんな言葉をくれる。…………。
「それに……さ」
「ジュリちゃんは優稀たちの友達だよ」
「友達にやつあたりなんかしないよ。ね」
「この場にいる全員、誰も樹里さんを責めてなんかいません。だって……友達でしょう? アタシ達」
みんな……私を……。
「あ、ありが……とう……」
「ほらほら、泣かない泣かない」
「折角の綺麗な顔が台無しなの」
「深呼吸深呼吸だよ」
「ほーら、落ち着いてくださいッスよ」
みんな優し過ぎでしょう。……俊輝。あんたはいい女の子たちに好かれたわね。
……私もこんな娘になれるのかな。と、思っていると。
「……あ」
「ランプが」
「消えた」
「手術中」のランプが消えた。中から手術をしていた先生が出てくる。
「先生! 俊輝は!?」
「俊ちゃんはどうなったの!?」
慌てて訊く鏡花と優稀菜。すると、先生はニッコリ笑った。
「手術は成功です。銃弾がわずかでもずれていたら心臓か肺に当たっていました。運が強いひとで良かったです。お疲れ様でした」
――――っ! その言葉を聞いた瞬間、私の心が熱くなった。
「手術は成功……みんな! これで心置きなくチンピラを蹴散らしましょう!」
『おぉー!』
みんな落ち着きを取り戻す。……俊輝……ありがとう。私もがんばってくるから、今はベッドの上で休んでいなさい。
To be continued




