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―第玖章 月影のミッション―

「ミッション?」

「ええ、ミッション」



 夜七時。俺たちは夕食を食べながら、SICから帰ってきた鏡花たちの話を聞く。



「昨日、SICの二番隊から伝達があって、今日わたしたちは呼び出されたんだけど」

「なんかね、面倒なことが起こってるみたいなんだよ」

「面倒なこと?」



 鏡花と綺羅先輩が嘆息する。



「昨日、とある暴力団を三番隊と四番隊が制圧したんですけど……SICに送られる直前に十七人の暴力団の団員が逃走したんです」

「そのとき、隊長の龍侍さんとつかささんは別任務中で手がつけられなかったのよ。今もアメリカにいるわ」

「三番隊と四番隊が血眼になって探した結果、七人が逮捕。残り十人がいまだ逃走中なんだ。そのうちの三人はこの街に潜伏している可能性が出てきたんだ。しかもそのうちひとりは、その暴力団幹部のひとりなんだって」



 歩美、鏡花、綺羅先輩の順で状況を説明してくれる。



「なるほど。その危なっかしいヤクザを優稀たちが捕まえてくれっていうわけなんだね」

「そういうことよ。わたしたち隊長格三人、準隊長格三人、そして元隊長と強力な元なんでも屋がいれば賄えるだろうって」

「顔は?」

「逃げたヤクザ全員の写メをみんなに送っておくわ。ミッションは明日から。指揮はわたしがとらせていただくわ。全員ふたりずつチームを作って貰って別々に行動をする。それぞれ通信機を配布するから、連絡はそれで取ること。琴美と美鈴にはもう伝えてあるわ。彼女は高層ビルの上から監視をしてもらう。大丈夫。琴美はあれでも視力三・八。この街のほとんどを見渡せるわ。琴美がいる限り、ヤクザたちは袋のネズミよ」



 琴美が監視してくれるのか。これは頼れる。



「歩美は自宅待機。あなたは今回働けないから――」

「――働けますよ。これでも私は近接格闘系・銃撃戦は得意です」

『え?』



 歩美のその言葉に俺たちは驚きの声を上げる。驚いていないのは樹里だけだった。歩美は苦笑した。



「私は兄さんの記憶を全て記憶しています。それに、自分のことは自分で守れるように一定の戦闘体験も受けました。ですから、兄さんの得意分野は私の得意分野です」

「あぁー、なるほど」



 俺は納得した。みんなも「ああ、そうか」みたいな表情をしている。

 歩美は俺の……言いたくはないんだがクローンだ。だから、俺と同じスキルを得ていて当然だった。



「あとは誰と組むかなんだけど――」

「優稀は俊ちゃんと組む!」

「いいえ、私よ!」

「私が俊くんと組むんだよ!」

「わ、私だって兄さんと組みたいです!」

「あんたたちぃ……」



 早速グダグダだった。

 女性陣はなぜか、俺を巡ってすさましい取り合いが始まってしまった。



「じゃあ、じゃんけんよ! じゃんけんほど公平な物はないって、どっかの誰かさんが言ってたわ!」

「いいよ! じゃんけんだね!」

「ふたりでいいかな? 勝利者」

「いいんじゃないんですか? ひとり余ってしまいますし」

「よし、結構チャンスあるわね」

「じゃあ、行くわよ! せーのッ」

『じゃーんけーん……ポン!』



 ……結果、勝ったのは。



「よし! 勝った!」

「俊輝! よろしく!」



 鏡花と樹里だった。残りの三人は沈んでしまっている。




「お、おおう。よろしくな」



 誰をとっても心強いけど、このふたりのコンビだったら結構息が合いそうだ。それよりも――。



「昔を思い出さない? 私があんたの隊長補佐官だったときとか」



 樹里は張り切っていた。よかった。いつも通りの樹里だ。



「そうだなぁ。なんだか懐かしいな」

「そうね。だから……あのときの約束も、きっと思い出してね」

「ああ、思い出すように頑張るよ」

「それなら……いいよ。うん」



 そう言って柔らかく微笑む樹里。俺の大切な記憶の断片。……あれ? よくよく考えたら歩美に聞けば一発じゃないか?



「兄さん。め、です」

「ごめんなさい」



 先を読まれてしまった。……そうだよな。自分で思い出さないと樹里に失礼だよな。



「じゃあそういうことで。明日は朝二時から始めるから、充分に体力を温存していてちょうだい」

『了解』



 明日から……「狩り」を行うことになった。



     ❁ ❁ ❁



「じゃあ、始めるわ。全員、散らばりましょうか」



 午前二時俺たちは街に散らばった。

 チームは俺・鏡花・樹里のA班、優稀菜と綺羅先輩のB班、歩美と美鈴のC班の三チーム。琴美は指定の場所で待機。俺たちの目になってくれている。

 それぞれ、北・東・西に移動する。



「それにしても、熱っちいな。まだこんな時間なのに」

「仕方ないわよ。夏だし」

「それに今日は湿気が凄いわね。やっぱり七時ぐらいから雨だから?」

「できれば雨が降る前に終わりにしたいんだけど……生憎、こういうときに機動力がある警察は動いてくれないし、十番隊は残念だけど定期派遣中。だから、わたしたちしか動けるひとがいないのよ」

「応援は?」

「――来るわよ。ひとりだけ。でも時間がかかって午後に到着するらしいわ。でもさっき樹里が言った通り、七時ぐらいから雨が降っちゃうからやむを得ずにこの時間にしたってわけ。朝中に完遂しなかったら助っ人と一緒に後日。捜索を開始するわ」

「待っていちゃダメなのかしら」

「ヤクザが同じ街に長時間滞在するわけないでしょ。しかもひとりは幹部。こっちが自分たちの存在に気付くことくらい当然だわ」

「……一刻の猶予もない……か」

「そういうこと。逃げる前に捕まえるわ」



 一通りの鏡花の説明で俺と樹里は嘆息する。……タイミングがいちいち悪いなぁ。



「さ、早く行動を始めましょ」

「わかった」

「ええ」



 俺たちは街に出向いた。

 街はまだ暗く、不気味な感じが漂っていた。



「さて……どこから行きましょうか」

『えぇー』



 俺たちは鏡花のその言葉にずっこけてしまう。



「それ決めてなかったのかよ」

「いやー、どっか隠れるところにうってつけの場所はないかしら」

「…………あ」

「…………やば」



 俺と樹里は大変なことを思い出してしまった。



「この街って……隠れる場所、いっぱいあったっけ」

『…………』



 今更気付いた俺たち。



「……これは時間かかりそうね。この時間で正解だったわ」



 このヤクザとの隠れ鬼は長引きそうだった。



 ――Gangster side――



「……ボス、やつら嗅ぎつけが早いですぜ」

「さすがSIC……優秀な犬どもを飼い鳴らしていやがる」

「はい……そのせいで俺らのところは散り散りに……」

「心配はいらんよ。また、この秘密の場所に集まるように命令した。すぐに復興できる。あとは身を潜めて、頃合いを見てまた活動をすればいいさ」

「ボス! 大変です!」

「なんだ? どうした?」

「この街に潜んでいたSICの捜査官たちが活動を開始しやした! 今、ここに向かっている仲間からの連絡なので間違いありやせん!」

「なぁに、心配はいらんさ。今、その話をしていたところだ。ここは絶対に見つからない。仮に見つかってもその頃は俺の部下や他の幹部たちも一緒。全員チャカは持っているだろうから、生きて帰しはしないさ。わかったら、仲間にここに集結するように連絡して黙って俺についてこい」

「うす!」

「俺たちは兄貴の下で働けて幸せっす!」

「ふん、当然だ。さぁ、SICよ。そのいい鼻を利かせてここを見つけてみろよ。こっちもそれ相応の持て成しをさせていただくぜ」



              To be continued


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