―第捌章 月影のポジティブ―
んあ、寝てた?
気がつくと、俺はベッドに横たわっていた。時刻は午後五時ちょっと過ぎ……。
「……寝ちまったのか」
俺はベッドから出た……ところで気付いた。
「あれ? 樹里?」
寝ていた樹里がいない。おかしいな。
俺は部屋から出て、下に降りてリビングに行く。
「あ、俊ちゃん」
優稀菜がいた。
「治ったの?」
「ああ。もう大丈夫だ。心配かけてごめん」
「いいのいいの。風邪なんて誰でも引くしね」
「鏡花と綺羅先輩は?」
そのふたりはいなかった。
「ふたりはSICに召集されたの」
「え?」
SICに?
「なんか会議があるらしいの。隊長の鏡ちゃんと綺羅先輩は、それに呼ばれたんだって」
「ああ、なるほど」
そんなことだったら何の違和感もないか。
「樹里を知らないか?」
「ジュリちゃん? ジュリちゃんだったら自分の部屋で寝てると思うよ。さっき優稀が行ったらいたから」
自分の部屋に……ねぇ。
「わかった。ありがとう」
「お礼なんていらないの。じゃあ、優稀は夕食の準備をするね。鏡ちゃんたちも夕食までには帰ってくるって言っていたの」
「ああ、ありがとうな」
「優稀は居候の身だから、これくらいは当然なの。おいしいごはんを提供するから、楽しみにしていたなの♪」
可愛くウィンクをして、優稀菜はキッチンに行った。……ありがとな、優稀菜。
「さて……樹里の部屋か」
俺はとりあえずそこに向かってみた。樹里の部屋は俺の部屋とは逆の方向にあって、少し遠い。優稀菜の部屋もその隣にあった。ちなみに俺の部屋を挟んだ両サイドの部屋は、右から歩美、綺羅先輩の部屋だった。
俺は樹里の部屋の前につく。
「樹里ー。入るぞー」
ガチャっと、俺は樹里の部屋に入る。そこには……。
「あ、シュンくんだ! やっほー」
「うおっ!? 琴美!? なんでおまえが……」
青髪アップテールの歩美の同級生であり、天才スナイパーの琴美がいた。樹里は……寝ていた。
「いやー、なんとなくシュンくんの部屋の様子を肉眼で見ていたら、なんだか樹里さんと一緒に、風邪引いてるみたいだったし、鏡花隊長たちはSICに召集されるし、美鈴はお父さんに会うためにそれに便乗して行っちゃったしだったからお見舞いに行こうとしてスーパーでフルーツを買い物して家に寄ったんですよ」
「肉眼で俺の部屋を見た!? おまえどんだけ目がいいんだよ!」
「視力四・三?」
「知っとるわい! おまえまさかいつも俺の部屋の様子を見ているんじゃないだろうなぁ! プライバシーの侵害だ!」
「いやー、見えちゃうんだからしょうがない」
「なんでそんな覗き魔の言い訳みたいな風に言うんだよ!」
「まぁまぁ。ま、そんなわけで窓から侵入したんですけど――」
「ちょっと待て! 今おまえさらっととんでもないこと言ったよなあ! なんで窓から入ってくるんだよ! てか『侵入』ってなんで悪い言い方するんだよ! 普通に玄関から入って来いよ!」
「えー、つまんない」
「『つまんない』じゃねぇよ! いいんだよ! そんなところに面白みの要素入れなくて!」
「だって、ビックリさせることとイタズラすることがアタシのモットーだし……」
「そんなモットーを持つやつ、うちの仙崎や如月たちイタズラ五人衆で間に合っているから! いいよ! おまえまでそんなキャラにならなくて!」
「でもそんなの関係ねぇ!」
「まさかの小島よ○おのギャグ!? 古い! 古いよ、琴美!」
「シュンくん、小島○しお舐めてる? 早稲○大学卒で頭いいんだよ?」
「学歴の話じゃねぇ! てか、そういう話をしようとはしてねぇよ!」
「話は変わりましてVIPがお送りします」
「なんで2○hっぽく言うんだよ! VIPって誰だよ!」
「アタシ?」
「おまえそれ自分で言って恥ずかしくねぇのかよ!」
「まぁいいじゃないっすか。『ちっちゃいことは気にすんな』ってどっかの誰かが言っていましたよ?」
「それワカチコのひとだよ! そしてそれは名言じゃねぇ!」
「おお、そうだ思い出した! これザブ○グルのネタだった!」
「違うよ!? 全然違うよ!? ザ○ングルそんなこと言ってないよ!? もっと言うなら所属事務所も違うよ!?」
「あれー。じゃあ誰だったかなぁ……ミ○ティーだっけ?」
「惜しい! それじゃあ庄司○春さんの嫁になっちまう!」
「じゃあ……午○ティーだっけ?」
「惜しい! それじゃあ紅茶になっちまう!」
「わかった! 『お~い、○茶』だったね!」
「お茶の種類じゃねぇよ!」
「……あんたたち、なに面白い漫才やってんのよ……」
気がつくと、樹里が起きてしまっていた。俺と琴美が騒いでいたからだろう。
「ごめん、樹里。起こしちまったな」
「いいわよ。あんたたちのトーク、面白かったから」
「このシュンくん凄いよぉ! さすが鏡花隊長のお兄さん!」
「なんでギンガ○ムっぽく言うんだよ!」
「……あんたたち……仲いいわね」
樹里は呆れていた。俺の方はというと……疲れた。
「さて……今はふたりとも熱はないですね。元気そうでなによりです」
「ありがとう、琴美。でも俊輝の言う通り、次からは玄関から入ってきてちょうだい」
「にひひ、それは保障できないなあ」
イタズラな笑顔を見せる琴美。この娘は本当に身軽だ。猫みたい。
「あのふたりは?」
「兄さんと姉さんですか? あのふたりだったらイギリスにいますよ」
「イギリス?」
「はい。アタシの狙撃銃一丁とその他、さまざまなスコープを持って。なにをやってんだか、わかりません」
「敵にはならないわよね」
「ならないと思いますよ。まぁ……連絡によりますと、夏休み中はずっとイギリスにいるらしいので、今は美鈴とふたり暮らしです」
……琴美の兄と姉……歩美から聞いたことがある。
世界を股にかける有名ななんでも屋……。優稀菜と同じ職業だ。それだけだとどこにでもいる普通の人たちなんだが……瀬良兄妹だけは別。優稀菜も言っていたが、彼らは裏社会の関係者にはこう呼ばれている。
――絶対に敵にまわしてはならない兄妹……と。
なんでも権力、実力ともに最高のクラスの兄妹らしく、彼らにはおかしいほどの人材も揃っているらしい。
「ほ……よかった。『絶対兄妹』。彼らが敵に回ったら危険だわ」
「まったく、兄さんとたちなにをしたらそんな風に言われるんだか」
ほっとする樹里と嘆息する琴美。
「さてと、ふたりとも元気みたいだし、退散します」
「おう、ありがとうな、琴美」
「ええ、じゃあね」
「はい。失礼しました」
そう言うと琴美は……窓から飛び降りて見事に着地。靴を履いて帰っていった。
「……琴美、凄い子だな」
「ねぇ……」
俺と樹里は苦笑した。
「でも、あれで格闘能力は皆無なのが不思議」
「あれ? そうなのか?」
「ええ。琴美は銃剣と狙撃は得意なんだけど……格闘に関してはド素人よ。まぁ、急所は知っているけど」
まぁ、そうか。狙撃する訓練を受けた子が格闘技を取得する余裕はないもんな。
「樹里、下行こう。優稀菜が待ってる」
「うん。行くわ」
俺たちは下に降りて行った。
To be continued




