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―第参章 月影のディプレーション―

「おい、樹里?」

「…………」



 俺は部屋の隅でポーっとしている樹里に話しかけるが反応がなかった。歩美たちはどこかに出かけていて、今はいない。

 樹里の様子がなんだかおかしい。

 今もそうだが昨日からいつもポーっとして、力が入っていないようだった。



「……あ。なに? 俊輝」

「いや……どうしたんだ?」

「……ねぇ、俊輝……」



 と、いきなり俺に抱きついてきた。



「……私……ちょっと切ないよ……」

「へ? じゅ、樹里?」

「しばらく……こうさせて……ね?」

「あ、あぁ……」



 いつになく力が入っていない樹里の温かくて柔らかい身体は、抱いたら壊れてしまいそうなほど頼りがなかった。



「最近さ……俊輝は私以外の女の子をいっぱい見るようになって……同じ隊じゃないから、なんだか仲間はずれにされているみたいで……寂しいよぅ……」



 ……こりゃ、樹里の寂しがり屋な性格からきているな。しかもその原因は俺にあるらしい。……なんでだ? 



「二年前までは……私だけを見てくれていたのに……」



 ギリッと噛み締める樹里。……どうしたんだよおまえ。早く元気な樹里に戻ってくれ。なんか調子狂う。



「ねぇ……俊輝はなんで強くなろうとしたのか……覚えてる?」

「え?……えっと……」



 なんだったっけか? 鏡花にも同じこと言われたけど……思い出せない。



「……そっか。……そう……だよね……覚えてなんか……いないわよね……」



 すっごく寂しそうな樹里の言葉に俺は罪悪感に襲われる。……ち、チックショウ! 思い出せ! 思い出せよ! 



「……いいよ。ありがとう……いいよ。うん……」



 消え入りそうな笑顔を見せるが、俺はそんな笑顔の樹里は見たくない。おまえはもっと元気な笑顔が素敵なのに。



「……俊輝?」



 俺はいつの間にか、樹里の頭を撫でていた。優しく壊れないように。



「……ふぅ……にゃぁ……」



 猫のような息を漏らす樹里。……こんなにフワフワしていたっけ、樹里って。もうちょっと樹里は気が強かったはずだが……やっぱりおかしい。



「はぅ……俊輝……」

「な、なんだ?」

「……ずっと、私のことを……守って……よ」



 その言葉は本当に消えてしまいそうな樹里の訴えだった。すると。



「すぅ……すぅ……」



 樹里は俺に抱かれたまま寝てしまっていた。

 樹里の寝顔は子供のようにあどけなく、屈託のない寝顔だった。



「……なんで樹里はあんなこと言ったんだろう」



 ――ずっと……私のことを……守って……よ。



 そんな……俺にとって当たり前のことをなんで樹里は言ったんだろう。俺は……樹里を守れていない……のか? それだったら。



「ごめんな、樹里」



 静かに寝ている樹里の頭を撫でる。が、聞こえてくるのは規則正しい寝息だけだった。

 俺は樹里を彼女の部屋のベッドに寝かせた。



     ❁ ❁ ❁



「ふーん。樹里が?」

「ああ、そうなんだよ。おかしいんだ」



 夜ごはんを食べながら樹里のことを話す俺。今も樹里は自分の部屋で寝ている。



「ジュンちゃん……確かに今朝おかしかったよね」

「うんうん。買い物に誘っても『行かない』の一点張りだったし……ジュリちゃん……どうしちゃったんだろう?」



 首を傾げる綺羅先輩と優稀菜。



「わたしもわからないわ。歩美は?」

「すみません……私も特には……」



 この会話でみんな考えてしまう。



「……もしかして……」



 優稀菜がなにかに気付いたような顔をする。



「ジュリちゃん……アノ日だったりして……」

『あー』

「?」



 女性陣は優稀菜の言葉に納得しているが……。



「なんだ? あのひって?」

『俊輝(俊ちゃん・兄さん・俊くん)!』

「は、はいっ!?」



 なんか怒られた。



「デリカシーないわよ」

「女の子だけの秘密なの」

「そうです」

「まぁまぁ……男の子にはわからないことだったから、しかたないよ」



 ボロクソ言う鏡花たちを綺羅先輩がフォローしてくれる。ありがとうございます。あなたにまでボロクソ言われたら多分部屋に引き籠っていました。



「まったく……でもその可能性アリね」

「はい。樹里さんも落ちついていないのかもしれませんね」

「でしょ。たぶんそのせいだよ」

「うんうん。そうだね♪」



 全員納得している限り優稀菜の言う「あのひ」とやらのせいらしい。



「ていうわけで俊輝?」

「なんだ?」



 鏡花が俺に真剣な顔で言う。



「今、樹里が繊細な状態になっている可能性があるから、優しくしなさいよ?」

「お、おう」



 なんだかわからんが優しくすればいいんだな。理解した。



「そ、それと……わ、わたしにも――」

「優稀にも優しくしてね♪」

「あー、先輩にも優しくしてくれるよねん? 俊くん♪」

「わ、私にも優しくしてくださいね、兄さん」

「あーん、もう! なんでわたしのセリフの途中で口挟んでくるのよ!」



 今晩の夕食も賑やかなものだった。早く元気になってくれよ、樹里。




               To be continued

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