―第壱章 月影のニューメンバー―
「じゃーん。中目無綺羅、今日から俊くんの家にお世話になりまーす。えへっ♪」
合同練習が終わり、夏休みの前半が終わって中盤に入ろうとしていたときの朝、俺の家に綺羅先輩が旅行バッグを持ってきていた。
「……あの……」
「……綺羅さん?」
我が家に実質一緒に暮らしている鏡花や樹里、優稀菜と歩美が俺と一緒に玄関にいる綺羅先輩に戸惑いの反応を見せる。
「えー、その反応は予想外」
「『この顔文字は流行らない』みたいなノリで言わなくても」
鏡花が若干ピンとこない東○ネタを入れてくる。
「……えっと……、どういうことでしょうか?」
「ふぇ? いやぁ、ね。最近引っ越ししようって思っていたんだけどいい家が見つからなくてね。だからいっそのこと、俊くんの家にお世話になろうかなって」
「……無理矢理すぎじゃあ、ありません?」
「うん。私もそう思った。うーん。じゃあ、ストレートに理由を言ってもいいのかな?」
「どうぞ」
「俊くんと住みたいから」
『ぶっ』
直球の剛速球過ぎて全員が吹く。……またご冗談を。
「まぁ、そんなわけでよろしくねん♪」
問答無用で俺の家に入って行く綺羅先輩。……まわりの女性陣がみんな白い目で俺を見ている気がするが、怖いから知らんぷりした。
❁ ❁ ❁
「えへへ♪ 俊くんとお・ふ・ろ♪」
「…………」
この展開……どっかで見た。
オレが綺羅先輩に勧められて何故か、一番風呂に入らされていたのだが……その綺羅先輩が全裸で入ってきたのだ。もちろん俺は腰にタオルを巻いている。
「ささっ、お背中流すよー」
「……どうぞ、お好きになさってください……」
俺はもう諦めていた。以前の優稀菜との体験上、こういうときは耐えて相手を満足させた方が効率はいい……と悟っていたから。
ガチャっと風呂場のドアが開く。……もう嫌だ。
「あー!」
「き、綺羅先輩!?」
俺は見えていないが声から察するに優稀菜と樹里だ。……綺羅先輩、お願いだから追っ払ってください……。
「ざーんねん。今は私の時間」
「ま、まぁそう言わずに」
「優稀たちも我慢しますから」
「うーん。じゃあねぇ……」
なかなか立ち去ってくれないふたりの言葉を遮って綺羅先輩はふと、立ちあがって――バサァ……っと翼を広げた……音がした。
「ほら。この姿、写真に収めていいから、今夜は我慢してね?」
「――――」
「――――」
その発言を聞いた瞬間、ドタドタとこの場から立ち去るような足音が聞こえ……またドタドタとここに戻ってくるような足音が聞こえたかと思うと――パシャパシャっと写メするような音が聞こえた。
「優稀菜! 早速これをコラるわよ!」
「まっかせて! 優稀、仕事がめんどいなーって思ったときに証拠写真と偽ってコラった写真を依頼主に送って詐欺ったこともあるの! だから写真のコラ技術は生徒会役○共の畑ラ○コさんもビックリだよ!」
「うほほ! さっすが我が親友は変態ばかりで嬉しいですなぁ! お主、なかなかの変態属性じゃのう」
「いえいえ、お代官様には敵いません」
『ふっふっふ……』
変態腐女子どもは怪しく笑いながら風呂場から立ち去って行った。……変態「ばかり」だと? 俺は変態じゃないぞ。大変遺憾だ。
「さーて、あのふたりは追っ払ったから、ゆっくりしていよ?」
「いや、先輩。なんか今、色々な物を犠牲にしませんでしたか?」
「いーのいーの。あの子たちはいい子だから。そんなに酷いことはしないと思うな」
「……まぁ、節度は弁えると思いますけど」
そういうことを言いたかったわけではないのだが……まぁ、いいか。先輩は気にしていなさそうだし。
「ふぅ……俊くん背中、大きいね」
「え? そうですか?」
先輩に生の背中をさわられてドキリとしながらも冷静に返す。
「うん。頼れる背中だと思うな。なんか……お父さんみたいな感じ?」
「……俺、まだ高校二年生なんですけど……」
「そうだね。でも……なんだか、大人びているよ」
「綺羅先輩の方が大人びていると思いますけど」
「……実年齢を言っちゃうと、私の方が俊くんよりも年下だよ?――まぁ、私の方は年上だけど」
――っ!? 俺はその言葉に驚いて綺羅先輩の顔を見る。……予想通り、両目が青く輝いていた。
「綺羅さん? あ、あれ? 寝てたんじゃないんスか?」
「むっ。ひどいなぁ。『永遠に眠る』って解釈してたの?」
「い、いえっ、そうではなくて。早くないですか?」
「起きるのが?」
「はい」
「いやー、ね。あのときは色々力を使いすぎて……疲れていたんだよ。まぁ、寝過ぎていて、起きたときちょっと頭が痛かったけど」
「そうだったんですか」
「だから、たまーに出てくるよ。よろしく♪」
ウィンクをくれる綺羅さん。
「さて――で、どこまで進展したの? この娘と」
「ぶっ! どういう意味ですか!?」
「いやー、一緒の家に住むようになったし一緒にお風呂に入っているし。……ヤッたの?」
「ヤッてません!」
い、いきなりなにを言ってくるんだ! このひとは!
「ふーん。じゃあ――今しよう」
「は?」
そう言った瞬間、綺羅さんは俺の腕を掴んで――俺を綺羅さんの身体の方に向かせた! お、おいおいおい!
「おっ。目、瞑るね。いい反射神経だなぁ」
「瞑るに決まってますよ! な、なにやろうとしてるんですか!」
「ん?……前座?」
「なんの!?」
「えー。言わなくちゃダメ?」
「結構です! 説明不要です!」
こ、このひとは! な、なんてひとだ!
「じゃあヤろう。いい機会だしここはお風呂場……バレないよ」
「ヤりません!」
「えー、なんでー?」
なんでもなにもないでしょう!
「むぅ……じゃあねぇ」
綺羅さんは俺の手を掴むと……もにゅん。自信の胸に誘導した!?
柔らかくも……意外に大きかった綺羅さんの……いや、綺羅先輩の胸! こ、これは意外すぎる! 綺羅先輩はどうやら巨乳ロリのロリの一歩手前だった。
「あふぅ……なかなかこの子の身体は発育がいいなぁ……私と同じ身体のくせにいい成長っぷりだなぁ……むぅ、なんだか悔しい」
綺羅さんは色っぽく愚痴っていた。どうやら、綺羅さんはあんまり発育はよくなかったみたいだ。
「ひゅう……まぁいっか。私の身体はもうないし、これは別人の身体だし……でも……妬ましいなぁ……あぁ、妬ましい妬ましい」
「まさかの水橋パル○ィ状態!?」
どうやら本当に綺羅さんはいろいろと変質していたようだった。
「ふぇ……って、ちょ、えええ!? しゅ、俊くん!?」
「はい?……って!」
突然慌てだした綺羅さんを見ると――オッドアイに戻っていた。……てことは……。
「こ、これ……ふぇえええ!?」
綺羅さんが引っ込んで綺羅先輩に変わっていた! で、今現在、俺は綺羅先輩の胸を揉んでしまっていた! これは……いろいろとマズい! 俺は急いで胸から手を離し、綺羅先輩に必死で言い訳をする。
「い、いえっ、違うんですっ! これは――」
「ふ、ふわわわっ。え、えーとその……こ、これは……俊くん……大胆だよ……」
慌てながら色っぽく、俺に言ってくる綺羅先輩! ち、違うんですよぉぉぉぉぉおおおおお! ちっくしょう! 綺羅さんめ! なんて絶妙なタイミングで引っ込むんだ!
「あのですね、綺羅先輩。これは――」
俺は必死で説明をする。すると……。
「き、綺羅……あのひとは……はぅ」
お顔を真っ赤っかに染まってしまった。
「……まぁ、いっか……望んでいたことだし……」
「え!? な、なんか言いました、今!?」
「な、なんでもないよ! うん! なんでもない!」
なんだか凄いことを聞いたような気がするが……気のせいだったようだ。
「ふぅ……お風呂浸かろっか、俊くん。ちょっとお話したいし、ね?」
「……わかりました」
……もうこういう耐久訓練は優稀菜で慣れたつもりなんだが……やっぱりダメだ。耐えろ、耐えるんだ俺の理性。
俺と綺羅先輩は風呂に浸かった。
「……ふぅ……気持ちいいねぇ……」
「……そ、そうですね」
そんなこと考えていられず、適当に返してしまう俺。
「ねぇ、俊くん。あの、さ」
綺羅先輩が俺になにかを言おうとするが、なんだかぎこちない。どうしました?
「私のこと……みんな知っているけど……どうして怖がらないの?」
不思議そうな顔で訊いてくる綺羅先輩。?
「はい?」
よく意味がわからず、俺は首を傾げる。
「いや……さ、私は……やっぱりバケモノだよ? 翼が生えている人間を……なんでみんな遠ざけたり怖がったりしないの?」
……まだ気になさっていたようだった。
「みんな……俺と同じだからですよ。みんな、綺羅先輩のことを信じているんですよ」
「……私のことを?」
「そうです」
「……どうして……かな?」
今度は綺羅先輩の方がわからないといった顔をしていた。……そうか。綺羅先輩は……自信が欲しいんだ。
「みんな、綺羅先輩のことを知っているつもりなんですよ。俺だってそうです。知っているつもりです。綺羅先輩が優しくて、強くて、可愛いってこと。だから、みんなは信じているんじゃないですかね」
「……『つもり』ってどういうこと?」
「だって全部はやっぱりわからないですよ。誰でもそうです。自分自身も同じです。だから、みんなは知っている綺羅先輩を信じているんです」
「……でも……この翼は……みんな知らないよ?」
「翼とか外見じゃなくて、中身を見ているんですよ。性格面のほうで綺羅先輩を信頼しているんです」
「…………」
黙って見上げてくる綺羅先輩。
「あなたはなんにも変っていません。みんなが知っている優しい綺羅先輩のままです。だから……自信を持ってもいいんですよ」
「……そっか。ありがとね、俊くん」
晴れたような顔で笑ってくれる綺羅先輩。
「ふぅ……はぁ……俊くん出よっか」
「はい――って、それはダメですよ!」
「あ、バレちゃった。えへ♪」
可愛いから許します。お罪な方だった。
そのあと、優稀菜の部屋の前を通りかかると……。
「よっし! 次はメイド服いっくよー!」
「凄い! 優稀菜! なにこの色々な服着せられるアプリ! 私も欲しい!」
「このプログラムは優稀が仕事上の関係上で必要だったから作っただけなの。だから、これアプリじゃないの」
「あー、そこは残念だなぁ……。でも仕事の関係上とはいえ、メイド服とか旧スク水とかワイシャツとか……本当にそれだけが目的?」
「そこは優稀の趣味なの!」
「ハッハー! さっすが我が親友! ってわぉ! 綺羅先輩、こういう堕天使系や小悪魔的のコスチューム似合ってるぅ!」
……愉快な俺の親友たちだった。
To be continued




