表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/136

―Kiras story 誕生……そして、出逢い―

 ひとりの少女がいた。

 青色の瞳を持った、セミショートの髪の華奢な少女。

 彼女は中目無綺羅。五番隊の隊長の天才児だ。そして……不思議な血液を持って生まれてきた。

 彼女は自分の血液型がヘンだということは知っていた。しかし、どうしてそうなってしまったのか知りたかった。……だからこそ、不運にもあの男と会ってしまった。

 彼女は二年前、「武装警察官集団テロ事件」を鎮圧し、ジェームズが裏切ってからおおよそ一ヶ月後、ある研究所に派遣され、調査を行っていた。その研究所は裏社会に通じている可能性が高かったため、そこに研究員として潜入していた綺羅であったが、ある男が綺羅の正体を見破り近づいた。それがギルバード・バターフィールド。

 彼は綺羅にこう言ったのだ。



「キミの血液の秘密を教えてあげよう。そのために少しだけ、血液を渡してくれたまえ」



 当時の綺羅は隊長で頭もキレることが有名だったが、やっぱりまだ中学生の子供。その言葉に釘つけになり、ギルバードに血液を渡すためギルバードにある場所に行かされた。

 そこは……。



「なに……ここは……」



 色々な生物の死骸だらけの部屋……しかも、その生物全てが異常な形をしていた。まるで……悪夢の部屋だった。



「……やっぱりいいです。失礼します」



 気味が悪くなった綺羅は部屋から出ようとする。が。



「おっと、もうダメだよ。キミはもう俺の虜なんだ。――抑えろ」



 ギルバードのその言葉で、周りにいた他の研究員全員が綺羅の身体を抑え込んだ。



「いやっ! 離して!」

「フハハ! SICの隊長殿がこの様とは、愉快だな!」

「なんで私のことを!?」



 驚く綺羅。そのことは綺羅が一番隠していたことだった。



「さぁ、どうしてなのかなぁ。キミは一生、ここで暮らして貰うよ。殺しはしないさ。ちょっと、献血させて貰うよ」



 ギルバードが綺羅の腕に注射器を当て、綺羅の血液を奪う。



「フフフ……ありがとうね、五番隊隊長の中目無綺羅くん? なに、ちゃんと食べ物は与えるし、風呂や睡眠も取らせてやる。俺は女には優しいんだよ」



 そう言って綺羅を部屋の中に閉じ込めそこで生活させた。

 そして一週間後。



「綺羅くん綺羅くん。来なさい、面白いモノを見せてやろう」

「……なんですか」



 ギルバードは綺羅をまた、あの献血を行った部屋に連れて行った。なぜか、そこまで行く間に研究員一人としてすれ違わなかった。



「あれは……ッ!」



 中にはふたりの男と――目の色が金色だけど綺羅にそっくりな少女がいた。

 男には右腕と左腕にそれぞれ「2」と「3」の数字、そっくりな少女には背中に「1」と刺青を刻まれていた。



「凄いだろう。全員の前から採取した血液でできたクローンだよ。まだまだ、面白いことがあるぞ」



 ギルバードがそう言った瞬間――バサッ!

 その三人に翼が生えた。



「……あなた、まさか……ッ!」



 なにかに気がついた綺羅がギルバードを睨む。するとギルバードはニヤリと笑った。



「ああ! そうさ! 俺の研究の成果――合成人の誕生だ!」



 その言葉を聞いて唇を噛み締める綺羅。



「キミは自分の血液の正体を知りたがっていたね。教えてやろう。キミに流れている血液はAB型血液の稀血――AB型キメラだ! そして、合成獣や合成人の繋ぎに一番適している魔法の血液なんだよ!」

「……なんですって……?」

「今まで作ってきた合成獣は全部失敗した。安定しないうえに酷く不格好だったよ。でもね、研究していくうちに人間との融合が一番安定するとわかった。そこで、ここで働いていた研究員を使って実験したんだがやっぱり失敗。血液が合わなかったんだ。融合する対象の生物とは。しかし――」



 綺羅に指を指して言う。



「キミに流れているAB型キメラはどんな生物とも融合素材にできることが判明したんだよ! その過程に至るまでにここ一週間でここにいた研究員全員を生贄に捧げたがな!」



 そう。さっき廊下で誰ともすれ違わなかったのは、ギルバードによって研究員が実験材料に使われて死んでいたからだった。



「フフフ……そして仕方ないから、おまえのクローンを創り、さらにそこに生物――今回は鳥類のカラス・鷹と哺乳類のコウモリと融合させたが……見事に成功したよ。そのうちのひとり、キミとそっくりの方は完全体でな。キミのDNA百パーセントだよ。他のふたりは純正じゃなくて混合型。他の人間のDNAが使用されているが、やっぱり純正の方が精度がいいよ。同じ血液には同じ人間のDNAってことだね」

「…………」



 黙って聞く綺羅。彼女の心の中には恐れと怒りが渦巻いていた。

 どうしてこんなものが創れるんだという恐れと、正義感から来る怒りだった。



「……よぉ、あんたが俺たちの生みの親か」

「……かわいいねぇ」

「…………」



 腕に「2」「3」と刻まれている男が喋る。



『……こいつら、話せるの? 恐ろしいモノを……』



 こんなバケモノに人間のような知能があるのならばもっと恐ろしい。綺羅はそう思えてならなかった。

 なぜなら、あの三人は合成人。普通の人間よりのスペックは高いだろう。それに加えて知能なんてついたら太刀打ちできないからである。



「フハハ。そのふたりはすぐに言葉を覚えたよ。大したものだろう? 一号は言葉を覚えていない代わりに身体能力がそのふたりの何十倍も高い。これから言葉を覚えさせるつもりだ」

「…………私をどうするつもり……?」

「ん? キミは俺のアシスタントをしてもらうよ。これからの合成獣たちの繋ぎを創るためにはキミが必要なんだから」

「――――」

『ダメ! そんなことさせるわけにはいかない!』



 そう考えた綺羅は懐に隠し持っていた閃光弾を投げ、ここから逃げ出した。



「待て! 逃がさん! 一号、追え! おまえの力を見せてやれ! ただし殺すな!」

「ギルバード、俺たちも――」

「おまえたちはまだ駄目だ! ロクに戦い方も覚えていないやつに綺羅を追わせて、綺羅を殺しでもしたら堪らん! だから一号、行け!」



 ダンッ! ヒュン!

 一号が物凄いスピードで低く飛び、綺羅を追った。



 ――Kiras story 諦め――



「くッ!」



 私は追っかけてくる私のそっくりさんの合成人から逃げていた。



『迅い! 迅すぎる!』



 合成人のスペックのせいか翼があるからかは知らないけど、物凄く迅い!

 何回も閃光弾を投げて目を晦まそうとするが、やっぱり撒けない! 

 そして私は……やっと出口に辿り着く、が。

 ヒュン!……タ……。



『ま、回り込まれた!』



 真っ黒な翼を広げて通せんぼしてくる。やっぱり知能が高い! おそらく、カラスの特徴でもあるんだろう。カラスは鳥類のなかで一番頭がいい鳥だから。その上人間の知能も得ているんだから、これは勝つのは難しい! こうなったら交渉か。



「あなた……どいてくれるかな?」

「…………」



 無言で首を横に振る彼女。おっ。日本語は通じる! こ、これなら望みはある!



「あなたを創ったひとはね……悪いひとなんだよ」

「…………」

「私は別にあなたには何もしたくないんだ。戦いたくない。でもね、そこをどいてくれないんだったら、戦わなくちゃいけない」

「…………」

「……あのね、あなた、あいつがあなた達を創った理由がわかる?」

「…………」



 やっぱり、首を横に振る彼女。



「……彼はね、あなた達を悪いことに使おうとしているんだよ、きっと。あなたたちはただ利用されているだけ……。あなた、彼がどんなことしてきたのか知ってる? たくさんのひとを殺したんだよ。ここにいた研究員もみんなあいつに殺された。彼はひとの死をなんとも思っていないんだよ。だって、あなたたちは成功しているけど、失敗しちゃった合成人たちをどんな扱いをしているのか……答えはゴミ扱いだよ。あなたたちだって、失敗していたらそんな扱いをされていたよ。それでもいい?」

「…………うるさい」

「え……?」

「黙れッ!」

「!」



 彼女は叫び、私に刀を構えて襲ってくる!――――。

 ――ガギィィィィンッッ!

 私も背中から青龍刀を取り出し、構え、攻撃を静止させる。



「あなた……喋れるの?」

「喋れるよ! 最初っから!」

「! じゃあどうして――」

「――私だって嫌だった!」



 彼女は声を嗄らして私に訴えかける。そして後ろに飛んで、私と距離を取った。



「私が水の中にいたときから……あいつが失敗した合成人にどんなことをしているのか! そんなのイヤというほど見てきたよ! でも私は……逆らえないの、逆らっちゃいけないの!」

「なんで?」

「私は人間じゃないから!」

「!」

「私は……人間じゃない……バケモノなんだよ……あなたとは違う。普通の人間たちの中では生きられない。生きちゃいけない……この気持ち……あなたにわかる……?」

「――ッ」



 そうか……この娘はただ――。



「私だってこんなことしたくない! でも……やらないと……私の生きる場所がなくなっちゃう……。だからッ!」



 彼女はただ、自分を認めて欲しかっただけなんだ。頭がいいからこそ、気付いてしまったんだ。自分がどれだけイレギュラーで、不正で、そして……孤独であることが。



「……だから……私はあなたを捕えないといけないの……自分のことで精一杯だから……他人のことを思うと、私はなんにもできないほど弱いからッ!」



 ――ふと、私の頭の中にある考えが浮かんだ。……カメラは……ここにはないね。



「――私が……あなたを人間の社会の中で生かさせてあげるね」



 私はほほ笑み、青龍刀を捨て……彼女に近づく。警戒する彼女に優しく言う。



「私を殺していいよ」

「!?……な、なにを言って――」

「あなたは私と瓜二つ。誰にもバレないよ。それにね、私が死んでもギルバードは気付かないと思うんだ。だってあなたは殺すなって指示されているんでしょ? ギルバードはあなたが自分の思うがままと信じ切っている。だったら、ここで私の死体が倒れていても、あなただと錯覚すると思うんだ。その隙に、あなたは私と入れ替わるんだよ。そうすればSICっていう私がいた組織に入れる」

「……本気? あなたは。そんなこと――」

「本気だよ」



 驚愕の表情を見せる彼女に私は言う。



「私が生きていたら、合成人がまた創られる。でもあなただったら創れないかもしれないよ。これからまた、あいつに追いかけられるかもしれないけど、あなたは私じゃないから合成人は創れない。それだったら、もうあいつが合成人を創れなくなる」



 私が生きていても、また捕えられて合成人が創られる。でも、多分この娘なら創れない……その可能性に私は賭けることにした。



「だから……一石二鳥だよ。あなたは自由になれるし、ギルバードは合成獣を創れなくなる」

「……イヤだ。そんなの……イヤだ……」



 泣き出してしまう彼女。……この娘は優しいな。だったら、もう、悔いはないよ。

 私は彼女が刀を持っている手を掴み――サッ。

 ……それを自分の身体に貫通させた。



「――ッ! ちょ、ちょっと! あなたッ!」



 彼女は驚いたように私を抱きしめる。



「う……ハハ。ねぇ、あなたが今日から……『中目無綺羅』だよ? いいね? もう自由だよ。これから、私に変わって人間界を生きて行くんだよ。……私はここでリタイヤしちゃうけど……あなたにとっては重要なスタートなんだよ。さぁ……逃げて。ね?」



 痛い……けど、もう少しで私の意識が途切れる。だんだん感覚がなくなってきた……。



「で、でもっ……私は――」

「大丈夫……私はいつも、一緒にいてあげる……から……ね」



 その一言を残して、私は絶命した。



 ――Another kiras story 出逢い――



「大丈夫……私はいつも、一緒にいてあげる……から……ね」



 その一言を残して……彼女は絶命した。…………。



「なんでよ……」



 なんで私のためなんかに死んじゃうのよ。こんな……バケモノのために……なんであんたみたいな立派で、強くて、優しいひとが死なないといけないのよッ!



「……あなたが死んでも……私は人間界には解け込めないよ……この翼がある限り」



 この翼は私の意志では仕舞えない。全てギルバードの指示じゃないと仕舞えないようにされているんだ。



「……どうすればいいのよ……これじゃあ……はっ」



 な、なにこの感覚……。私の中に……なにかが入り込んでくる……。そして、私の頭の中に声が響く。



『言ったでしょ? 私はいつも、一緒にいてあげるって』



 ――き、綺羅!? 綺羅なの!?



『私の力だけで大丈夫かな。ちょっと待っててね』

「?」



 言葉の意味がわからず、首を傾げる。すると――パァァ!

 私の漆黒の翼が光り出した。そして、だんだん小さくなっていき、私の身体の中に入って行った。



『……ふぅ……。これでもう大丈夫だよね』

「あなた……」

『ほら。あなたの中に私がいるんだから、中目無綺羅って名乗りやすくなったかな』



 ……そこまでしてまで私を……。



『さぁ、行こうよ。いざって時は私が手伝うから……行こう?』

「……うん!」



 こうして私は……いえ、私たちは研究所から脱走した。……SICについたときに、私の目がオッドアイになっていることに気がついた。でも他のひと達は大して気にしてはいなかった。……しかし、彼女の意志はそれ以来、私の中で眠りこんでしまった。

 それから一年経った、ある日。

 私はSICからこんな命令を下された。



「これから、おまえと京竹……そして俺は、向島学園という学園に派遣されることになった。ある重要な人物がいるんだ。おまえ達はそこで学園生活を送ることになる」



 ……どんな人物がどれだけ重要なんだろう。私たち隊長格三人……しかも総隊長まで行くんだから相当だ。



「こいつなんだがな」



 一枚の写真を見せてくれる。そこに写っていたのは、優しそうながらもなにかただ者ではなさそうな少年だった。……でもなんだか、誰かに似ているな。



「こいつは杉並俊輝。ここの十二番隊隊長の杉並歩美の兄貴だ」



 ……ああ。そうか、歩美ちゃんと確かにそっくりだ。



「俺たちはこいつの監視を行う」

「なにかあるんですか?」

「いや、なにもない。ただの高校生だ。来年、向島学園に入学する優等生だよ」



 よくよく見ると、向島学園の偏差値は高かった。確かに、いい進学校だ。



「でもしかし、上の方からの命令でな。こいつの監視を命じられている」

「へぇ……」

「…………」

「…………」

「?」



 なんだか、龍ちゃんと総隊長が私を見ている。どうしたんだろう。



「なんですか?」

「……いや、なんでもない」

「うん、なんでもないよ、綺羅ちゃん」



 なんだか気になったけど……まぁ、いいかな。

 そんな感じで私たちは学園に転入の形で向島学園に入学した。でも……私の目を見て、みんなは不気味な物を見るような目を私に向けてきた。

 ……悲しかった。折角、翼は隠せたのに今度はこの目のせいで、また私は解け込めないと知って。

 そして自分の任務を思い出し、杉並俊輝くんを見張っていた。しかし、別に彼は本当に普通の子で、みんなで楽しく学園生活をしていた。……なんでこんないい子を監視しないといけないんだろう。そう感じるほどだった。

 そんなある日、今日もなんとなく彼を尾行していた。龍ちゃんと総隊長は何か別のことをしていて、監視は私に一任していた。……すると。



「おい、おまえ……」

「なにしてんの? いつも」

「……え?」



 なにやら聞き覚えがある男の声。……その主は私と同じクラスの男の子ふたり。ガラ悪いなぁ。



「おまえ、いっつもあいつをつけているけどよぉ」

「なんかあんの?」



 ……ムカつくなぁ。今は忙しいから早く立ち去ってくれないかな。私は無視する。



「……おい、無視すんじゃねぇよ!」

「バケモノが!」

「…………ッ!」



 ……「バケモノ」……その単語に私は反応してしまう。……バケ……モノ……?

 私の肩が震えて、反応したことに気付いた男の子たちがさらに追い打ちをかける。



「ギャハハ! その目! おかしすぎんだろ!」

「それ、オッドアイって言うんだっけ? うけねーよ、そんなもん」

「…………」



 ……もう……イヤ……やめて……誰か……。



「おい、あんたら。なに女の子虐めてんだ」



 私の願いが届いたのか男の子の制止の声が聞こえた。……その声の主は私がつけていた杉並俊輝くんだった。



「あぁん? なんだてめー!」

「なに先輩にタメ口なんだ一年」



 すぐに喧嘩腰になるふたり。嘆息する杉並くん。



「あんたらみたいな、女の子を泣かすような男に敬意示す必要はない」

「はぁ? わけわかんねぇ」

「この目が見えないの?」

「目なんてどうでもいいじゃないか」

「――――っ」



 その彼の言葉に……私は救われたような気がした。この目について全然なんにも思ってくれていなかった。ただ私をひとりの女の子として扱ってくれた。



「あんたら……もしかしてそんなことで女の子を虐めていたのか? 下らねぇ。器ちっちぇんじゃねぇのか? それでも高校生かよ。小学生低学年レベルだぜ?」

「……てめぇ」

「……舐めてんの?」

「ああ、舐めてる」

「「!?」」



 堂々と断ずる杉並くんに仰天するふたり。



「目の色なんて関係ない。彼女は人間じゃないか。俺にとって見りゃあ、あんたらの目の方が心配だぜ。だってこんな可愛い女の子がバケモノに見えるなんてどうかしている。眼科にでも行け」



 ――っ。か、可愛い女の子? わ、私が? に、ニセモノの……バケモノの私が……可愛い? そ、そんなこと……言われたこと……ない……。



「……てめぇ、なに言ってんだ?」

「……頭、狂ってんじゃねーの?」



 しかし、引き下がっていられないふたりがそう言い放つ。



「……もういいだろ。ほら、早く行った方がいいんじゃないか? 授業に遅れる」



 そう言った瞬間、杉並くんは猛ダッシュで立ち去って行った。……速っ……。



「やべやべ!」

「次は幸田だぞ! 殺される!」



 そう言って、ふたりも走り去って行った。……遅い……。

 そのまま、私は立ち尽くしてしまっていた。……杉並くん……か。あとで話しかけてみよう。お礼も言わないといけないしね。当然の如く、私は授業に遅刻してしまった。



     ❁ ❁ ❁



「あの……」

「ん?」



 昼休みになって、杉並くんがひとりになったところを見計らって話しかけた。



「あ、先ほどの……」

「あ、いいよいいよ、気を使わなくって。ね?」



 なんか話辛そうにしていたから、一応、フランクに優しく対応。



「そ、そうですか。ありがとうございます」

「うん。ちょっと、お話しよ」

「は、はい」



 いまいち、緊張気味の彼。? どうしたのかな?



「あのさ、ありがとうね。さっき、助けてもらっちゃって」

「いえ、いいんですよ。当然のことです。それに……」

「それに?」

「あなた……なんか俺のこと、つけていませんでした?」

「!?」



 き、気付かれてた!? 自分のことを言うのもなんだけど、私は気配を消せる。だから、よく尾行とかでは功績を上げていたんだけど……バレちゃってた?



「あ、あはは……」



 私は曖昧な笑いを返す。



「まぁ、いいですよ、もう」

「そ、そうなの? いいの?」

「ええ。まぁ、可愛い女の子に追いかけられたって思えば、それはそれでいいかと」



 ――っ。ま、また、この子は……っ。なんでそんなことをさらりと言えるの。



「ま、まぁ……その……ごめんね?」

「いいですって。あなた先輩ですよね? たしか……今年、編入した……」

「中目無綺羅、だよ。よく知ってるね」

「俺は杉並俊輝です。いえ、みんな知っていますよ。だって……。……可愛いですからね」



 ………………。



「いいんだよ。……目でしょ? このオッドアイ」

「……すいません。傷つけちゃいましたか?」



 申し訳なさそうにする彼。



「いいんだって。私だって自覚しているよ。この目がみんなとは違うことを――」

「――違くなんかないです」

「……え?」



 今の彼の発言の意味がわからず、思わず訊き返してしまう。



「だって、同じ人間でしょ、俺たち。だったら、なにも変わりませんよ」

「ふぇ?」



 な、なに言ってるの、この子は。



「むしろ凄いですよ。その目……先輩は気に入っているんでしょう?」

「……う、うん」



 そんなの当然のこと。だって、これはもうひとりの私……本物の中目無綺羅の物なんだから。



「それをみんなに隠さないでさらけ出すことは、凄い勇気があることだと思います」

「――――っ」



 その言葉は私を認めてくれたみたいで……強く、心に響いた。



「その目はたしかに、一般的な人から見たらヘンかもしれません。普通なら、カラーコンタクトで誤魔化していると思います。でも、先輩はそのことを知っていてもそのことをさらしています。凄いことだと俺は思います」

「…………」



 ……あ、あれ? な、なんで泣いているのかな、私。お、おかしい……なぁ……。



「あっ、す、すいません! た、タブーでしたか!? すいません! 俺、無神経でしたよね? 反省します……」



 私に何回も謝りながら、沈んでしまう杉並くん。



「わ、わわっ。ち、違うよ、杉並くんはなんにもやってないよ! ただ……ね、今までそんなこと言われたことないから……ビックリしちゃっただけだよ」

「え? そうなんですか?」

「うん。みんな……私を遠ざけてね。この目を見た瞬間」



 思い出してしまった。最初にここに来たときの感覚を。……みんな私を気味悪く見るあの視線を。……あれはとても悲しいものだった。私を認めてくれないみたいで……遠ざけて……SICの隊長をしていても、やっぱり耐えられないほど悲しいものだった。



「でもね……本当はみんなに……認めて欲しかったんだ。この目のことを……。さっき答えたけど、この目は、私個人では気に入っていたから」



 本当は気に入っているどころじゃない。とっても大切なものだった。

 すると、杉並くんが私の肩に手を置いて視線を合わせて言う。



「俺は綺麗だと思います」

「――――」



 その言葉は私が求めていた言葉だった。思わず、彼の顔を見つめてしまう。



「本当? この目、綺麗?」

「はい。すっごく素敵だと思います。魅力的です」

「そ、そうか……な」



 少し照れてしまう私。……この子から出る言葉は今まで全く、言われたことがない言葉だらけでちょっと戸惑う。



「ありがとうね。そんな……私にはもったいない言葉をくれちゃって」

「いえいえ、全然もったいなくないです。当然なことを言ったまでです」

「……ちょっと変わっているね。杉並くんは」

「はは、それはよく言われます」

「そっか……あはっ」



 朗らかに話してくれるから、ついつい私も乗ってしまう。……こんな感覚、やっぱり初めてだな、私にとって。だってずっと、苦しかったから。



「やっと、笑ってくれましたか?」

「え?」

「いやだって、さっきまで苦しそうでしたよ、先輩」

「……そんな顔してたかな」



 無意識の内にそんな顔していたんだ、私は。



「でも、笑うとやっぱり可愛いですよね、先輩は」

「はぅ……」



 ……も、もうっ、この子ったらっ。



「な、なんでそんな……私の心を揺るがしてくるの?」

「え? なんのことですか?」



 気付いていなかった。……この子は天然ジゴロなのかもしれないね。



「……ねぇねぇ、その……杉並くん? その……」

「はい?」

「私と……友達になってくれる……かな?」



 思わず、自分からそう頼んでしまった。……あ、あれ? わ、私……。



「もちろん、いいに決まっています。よろしくお願いします」

「う、うん。よ、よろしくね♪」



 上機嫌で返す私。……な、なんでこんなに嬉しいんだろう。それだけなのに。本当にそれだけなのに…………あ。



「そ、そっかぁ……」

「はい?」

「……うん。そうだね……」

「せ、先輩?」



 これって……惹かれちゃったんだ、私。彼のその優しさと強さに。



「ど、どうかしましたか? おーい」

「ふぇ?……あ、ああ。え、えっと……なんか言ったのかな?」

「いえ、ただ……自分の世界に入り込んでいませんでした?」

「う、うん……ちょっと、ね」



 なんだか急に恥ずかしくなってしまった。……わ、私は……こんな気持ちを持ってしまっていいのだろか。バケモノが……ニセモノが恋なんてしてしまっていいのだろうか、正直不安。だけど――。



「おっと、授業が始まっちゃいますよ、先輩! 早くしないと!」

「ふわわ!」



 いきなり私の手を掴んで走る杉並くんの手は……温かかった。……今はこれで充分。この温かさに浸っていよう……と、そのときの私はそう考えていた。

 ――でも、それは今日でお終い。

 翼を広げ、空を飛ぶ私は、もう俊くんのいう綺羅先輩じゃない。ただの醜くて、哀れな合成人だ。



「さよなら……楽しかった日々……さよなら……大好きな……俊くん……」



 これ以上、私を救ってくれたひとを巻き込ませちゃいけない。私は急いで研究施設へ向かい、



「ギルバード」



 私の目の前に立っている悪魔と最後の合成人に……私の最後の戦いを仕掛けた。



              To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ