―第壱拾肆章 黄昏のブラックフェザー―
「さぁ、着いたね」
「ここまで来るのに、なにもなかったって言うのも奇跡ですね。おかげで大体、体力が回復できました」
「あ、私も同じだよ。――じゃあ、入るよ」
「はい」
俺たちは七百九十三番室のドアを開けた。
『ひぃぃっ!』
すると最初に聞こえたのは人間の声だった。その主は三人の行方不明者――警官だった。全員一カ所に固まってうずくまっている。
「SICの者です。あなた方を保護しにまいりました。もう大丈夫ですよ」
「……ほっ」
「……た、助かった……」
綺羅先輩が手帳を見せて警官たちを落ち着かせる。……見た感じ、外傷はなさそうだ。
「フフフ……来たねぇ、綺羅くん」
「!」
第三者の声で綺羅先輩の表情が変わる。
その声の主は、上の展望台からこちらを見下ろしていた。白の髪にW型の額の傷の白衣の男だった。
「いらっしゃい、綺羅くん。……おや? そのオッドアイ。どうしたんだい? あのときは綺麗なブルーだったはずだが?」
「……あなたに心配されても褒められてもちっとも嬉しくないよ、ギルバード」
「ハハハ。まぁ、わざわざこんな山奥に来てくれたんだ。――前菜の次はオードブルといこうじゃないか」
パチンッ!
ギルバードとか言う科学者が指を鳴らした瞬間、再び合成獣が出てくる。今度は三体か……。一体はギルバードと同じとこにいるが。でもなんだか、雰囲気が違う。
全員ひとの顔……形をしているのだ。それぞれ、巨体の男、細目ニコニコ顔の男、そして、フードを深くかぶった男。巨体の方は右腕に2、ニコニコ顔の男は左腕に3、フードの男はわからない。…………あの男は……ダメだ……。
「あいつらは……ッ!」
「よぉ、綺羅。久しぶりだなぁ」
「おひさー」
「…………」
「……喋った?」
俺が思わず声を上げた。
「おいおい、合成人だって喋れるさ、兄ちゃん。人間なんだから」
「……違う」
「あ?」
綺羅先輩が怒りの声を上げた。
「あんたたちは人間じゃない! ただの恐ろしくて、哀れなバケモノよ!」
「……あぁん? んだと――」
「やめなよ、二号。まぁ、ボクたちは普通の人間じゃないんだから」
「…………」
優顔の男がなだめる。
「まぁ、そう言わずに、さ、姉貴」
「私はあんたたちの姉じゃない!」
「そんなことないさ。ボクたちは姉貴のDNAから創られているんだから」
「! なに!?」
俺が驚きの声を上げる。
「あるぇ? なにも訊いていないのかい、キミは」
俺に訊いてくるギルバード。
「ああ。どういうことだ」
「彼女はね、俺に遺伝子を提供してくれたんだよ」
「ふざけないで! 私から無理矢理献血して奪ったくせに!」
「――うるさいな。キミは義弟たちと戯れてろ。――――やれ」
バッ!
巨体の男に突然、異変が起こる。……今まで人間の腕だった腕が隆起して……翼のようなものが生えた。
優顔だった男も変化していく。……まるで、コウモリのような翼が生えていった。
「忘れてねぇな。おまえは二年前、俺らの一号を殺したんだ」
「同志を殺された恨み……晴らさせていただくよ、姉貴」
一号……そうか。二号・三号……てっきり、あのフードの男が「1」だと思ったが、どうやらすでに綺羅先輩によって消されていたのか。
綺羅先輩が一歩、足を踏み出して俺に言う。
「…………俊くん。こいつらは私が倒す。だから、そのひと達を連れて行って。大丈夫。私は死なないから――」
「なめてんじゃねぇぞ、女ぁ」
二号が翼を使って綺羅先輩に接近する! 恐ろしいスピードだ。
すると綺羅先輩はその動きが見えていたかのようにひょいと避ける。
「二号。姉貴……強いぜ」
「へっ。そんなこと知ってらぁ! 弱い俺らの血の提供元なんて認めねぇ! 三号! こいつとの戦いにおまえは手を出すなよ!」
「はいはい。キミはサシが大好きだからねぇ。余計な手出しはしないよ」
冷静に返す三号。綺羅先輩は二号と戦っていた。
ギルバードが俺に話をする。
「さて、続きと行こうか、杉並俊輝くん。二年前ね、綺羅くんは俺に血を与えてくれたんだ。まぁ、ちょっと強引にね。その血液を使って、俺は実験をしたんだ。合成獣に適した貴重な血を使ってね。通常、AとB型の混合物はAB型……別名トランスAB型と言うんだが、それに該当しない稀血というのが存在していてね。綺羅くんは偶然それに該当してしまったんだ。AB型の亜種……百万人の中にひとりしか存在しないという、特殊な稀血――シスAB型という血が流れているんだよ。その中でも特に珍しいモノをAB型キメラとも呼ばれている」
AB型キメラ……そんな血が流れていたのか。
「その血液は合成獣を創るのに最もふさわしい血液と俺の研究ではっきりした。だから、綺羅くんの血液をいただいて創ったのが、二号と三号だ。あと、もうひとり……一号もいたんだか、残念。綺羅くんに殺されてしまったんだ。あれが一番の傑作だったのに……本当に残念だ。一号の死体はもう埋めてしまったよ。あんなの死んだら研究材料に使えないただのゴミだからな」
溜息をつくギルバード。
「いやでもしかし、俺としたことがミステイク。献血の量が少なすぎた。そいつらの血液は使われたのはAB型キメラだったんだが、馴染んでいくうちになぜか、ただのAB型になってしまってな。――だからこの機会だ。もう一回、綺羅くんに協力をしてもらおうとな。なぁに、悪いようにはしない。だって大切な血液を創る機械なんだからな。少し痛めつけて植物状態にするだけだよ、殺しはしない」
「ふざけんな! 綺羅先輩は大事なおひとだ! 実験材料なんかじゃない!」
「……うるさいなぁ。キミもそこにいる警官も正直邪魔だ。――死ね」
――パチンッ!
ギルバードが指を鳴らした瞬間、合成獣が五体現れた。三人の警官は怯えるように肩を震わせる。
「そいつらは実験のカスだが、おまえらを殺すには充分だろうよ。――やれ」
合成獣たちが俺に接近する! クソ! ここは広いしさっきみたいに敵が密集していない! 攻撃が当たる確率が上がる! しかも綺羅先輩は二号と対戦中だし、こっちには警官もいる! 相当ヤバいぞ!
「……ちっ!」
青龍刀で対応するも……全然効いてない! こいつら、失敗作でも充分な力を持っているぞ! ここではアレは使えない。使ったらみんな死んじまう!
と、ひとりで頑張って応戦するも背後から合成獣が俺に襲いかかる! ヤバい! 避けきれねぇ! 殺される!
「俊くぅぅぅぅぅぅぅんッッッ!」
綺羅先輩の声がしたと思ったら、いきなりなにか、柔らかいモノが俺に突進してきた。物凄いスピードで。
「……え? 綺羅先輩?」
「……俊……くん」
その柔らかいモノの正体は綺羅先輩だった。綺羅先輩は庇うように、俺を抱きしめている。……助けてくれたんだな、俺を。合成獣から。
「おい、女ぁ! 俺との戦いは終わって――なッ!?」
「なんと!?」
「……これは……」
綺羅先輩を確認した二号・三号・ギルバードは全員驚きの声を上げる。――て、あれ?
「綺羅先輩?」
オッドアイだったはずの綺羅先輩の目が……両方とも金色に輝いていた。それどころが――。
「せ、背中……」
綺羅先輩の背中には――真っ黒な翼が生えていた。
……まるで、カラスのように、真っ黒で漆黒の翼だ。
「お、おまえ、まさか……ッ。一号かッ!?」
「じゃ、じゃあ、本物の姉貴は……」
「俺たちが埋めた方だったのか……ッ!」
驚きの表情で言う三人。……え? じゃ、じゃあ、この綺羅先輩は――。
「……ごめんね、俊くん。ちょっと、返してもらうよ」
綺羅先輩が優しく俺から放れ、俺に貸してくれていた青龍刀を掴んで、背中からもう一本、別の日本刀を取り出した。
「……待っててね」
消え入りそうな声と笑顔を見せて、綺羅先輩は俺に告げる。
「――すぐに終わるからね」
二刀を構え、二号と三号、周りにいる五体の合成獣に標準を定めた。……翼が生えて服が破けてしまい、露わになった綺羅先輩の背中には、大きく「1」の数字が刻まれていた。
――バサァ……ひゅん。
風を切るような音がしたかと思うと、綺羅先輩は低く飛び、そして――。
――ザシュ! シュン!
なにかを切り刻むような音が聞こえたかと思うと……ギルバードが未完成と侮辱した合成獣五体が切り刻まれ、崩れ落ちていった。
「…………くっ……」
「…………ぐはっ……ッ!」
二号と三号の両翼が捥がれ、上半身と下半身がバッサリ斬られてまっぷたつにされていた。その先には血に塗れているふたつの刀を持っている綺羅先輩の姿。……これ、全部ひとりで殺ったのか? 十秒もかからなかったぞ。
パチパチパチ……。
上で見下ろしているギルバードが拍手をしていた。
「素晴らしい。あの未完成の合成獣五体と二号と三号を数秒で片付けるなんてね。まぁ、未完成のゴミどもはともかく、二号と三号を同時に瞬殺してしまうとは。さすが、完全成功体の一号だ! 俺の傑作だよ!」
「……嬉しくないよ。アンタなんかの褒め言葉」
綺羅先輩のその言葉を聞いてギルバードが苦笑する。
「まぁまぁ。……でもいつから本物の綺羅くんと入れ替わった? そしてどうやって俺のマインドコントロールを解いた? 俺がおまえに仕掛けたマインドコントロールはなかなか解けにくいものだったはず――んん? そういえばおまえその眼……」
ギルバードがなにかを感じたように綺羅先輩を見たあと。
「そうか! おまえ、綺羅くんの魂を――」
「――俊くん! 引き上げるよ! 捕まって!」
綺羅先輩がギルバードの言葉を遮ってそう言うと、俺の方に高速で近づき俺と、警官三人の服を両手で掴んで空を飛び、天井を壊して研究所から脱出した。……綺羅先輩の腕力は凄いな。樹里と同じくらいあるかも。
To be continued




