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―第壱拾弐章 黄昏のシニア―

「さぁ、じゃあいこっか、俊くん♪」

「は、はい、綺羅先輩」



 翌日の朝。時刻は午前八時四十六分。……仕事だから時間は正確じゃないといけないから、疲れる。でも、懐かしいな。



「じゃあ、綺羅さん。一日よろしくお願いします」

「うん。任せて、鏡花ちゃん。えへ♪」

「……なんか綺羅先輩、機嫌がいいの」

「え? だってぇ、俊くんとふたりっきりだもん♪」

「「…………」」



 その言葉を聞いた瞬間、鏡花と優稀菜が黙りこくってしまう。

 ……そう。今日、響に急用ができて来れないことを綺羅先輩に言った瞬間、一気に上機嫌になってしまった。なんでだろう。



「…………俊輝のやつ……」

「…………いつの間にフラグを……」

「ん? なんだって?」

「……なんでもない」

「……なんでもないの」



 鏡花と優稀菜がなにか言っていたような気がするが、本人たちが否定するんだからなんにも言ってないんだろう。



「……まぁいいわ。俊輝、いってらっしゃい」

「いってらっしゃいなの」

「おう。いってきます」



 俺と綺羅先輩はSICから出た。



     ❁ ❁ ❁



「さーて、場所は場所はっと……」



 車に乗り、調査する場所を確認する綺羅先輩。

 運転席に綺羅先輩、助手席に俺が座っている。SICには基本年齢なんて関係ない。だから免許証も未成年で取ることができる。もちろん、一番隊の指導の下、許可された者だけができる。ちなみに俺は持っていない。……俺も免許、取りたいな。今度、響に相談してみるか。



「……ここかぁ。じゃあいこ♪」

「はい、よろしくお願いします」

「こちらこそよ・ろ・し・く♪ えへっ♪」



 ウインクをくれる綺羅先輩。……可愛い。



「どんな仕事ですか?」

「ん? ああ、まだ内容を話してなかったね」



 運転しながら綺羅先輩が教えてくれる。



「今日行くところはとある山奥の研究施設。誰がいるのかは分からないけどね。その山の周辺の家から警察に通報があったんだよ。毎日……特に夜に、不気味な音が聞こえるって」

「え? じゃあ俺たちはその騒音被害のためだけにいくんですか?」

「ハハ、まさか。問題はそのあとだよ。その騒音調査のために何人か、刑事をその研究所に行かせたらしいんだけど……その刑事たち、その日以来、行方がわからなくなっているんだよ」

「!? それは……」

「本庁の刑事もふたりほど、不審に感じてそこに派遣されたらしいんだけど、やっぱり行方不明。だから特殊部隊揃いのSICに警察が珍しく頼んできたんだよ」



 ……SICに深い恨みを持っている警察直々のお願い。……なるほど。



「そりゃ、重要な任務ですわ」

「うん。この任務で行方不明の刑事を私たちの手で救えることができれば、SICと警察との溝が少しでも埋まるかもしれないしね」



 思ったよりも大切なことだった。……それにしても。



「なんで俺たちふたりだけなんですか?」

「うん。今日ね、私のとこ――五番隊の隊員たちはFBIに定期派遣されててね」

「ああ、そうですか」



 定期派遣。それはSICの親であるFBIに隊長以外の隊員を送り込んでFBIの手伝いをさせたりして、親交を深めようというもの。イメージがよくないとFBIから時々来る最重要特別事項を含めた最上級依頼を引き受けられないから。

 この組織は一種の会社なのだ。依頼を引き受けて成功すれば成功するほど、隊長・隊長補佐官・FBI直属の特殊部隊・FBIの上層部などの出世ができ易くなる。

 最上級依頼を見事に成功させると、評価も他の隊員とは比べ物にならないほど上がる。そして注目もされやすくなる。だから、まずは印象が大事なのだ。

 隊長が行かなくていい理由は、そもそも隊長はFBIが決めているからどんな人物が把握しているから。……まぁ、その長官が俺の親父なんだが……。…………。



「……あれ?」

「? どうしたのん?」

「俺は今、おかしいことに気がついてしまいました」

「ふぇ? なにが?」



 首を傾げる綺羅先輩に言う。



「なんでそんな最上級依頼に近い重要な任務に俺なんかが借り出されたんだ?」

「そんなの、俊くんがちょー強いからだよ?」

「ええ!?」



 綺羅先輩の意外な即答に驚く俺。すると綺羅先輩は車を止めて、綺麗なオッドアイの瞳で俺を「?」の視線を送ってくる。



「俊くん、響ちゃんの地獄の特訓を受けたんだよね?」

「え、ええ。それが?」

「いや、普通の隊員だったら響ちゃんの特訓を受けたら三時間で一週間は動けなくなっちゃうよ? だって、響ちゃんの特訓は、ただでさえ強い自分の技を相手に容赦なくぶつけて体で覚えさせるタイプ。それなのに、俊くんは二日もそれを受けて平然としているんだから。あ、でもね、響ちゃんは凄く生き生きしていたよ。『私の特訓に生還者がようやく出たわ! すっごく気に入った! これからもイジメてやるわよ!』って」

「…………えー。そんな理由でですか?」

「うん。充分だよ。だって一番隊隊舎内を歩いているときも挨拶されたでしょ。一番隊の方々が自分から挨拶するなんてよほどだよ? だから俊くん、すっごい一番隊に期待されているみたいだよ。それに以前、鏡花ちゃんに勝ったでしょ。それからでもあるんだよ」

「……俺は二年前に少し活躍しただけの堕ちた隊長なのに……もうそこまで復活しちまったのかよ……」

「アハハ、複雑かもしれないけどさ、ポジティブに考えようよ。期待を向けられた人間はその期待に応えなくちゃいけないけど……期待を向けられる時点で凄いことなんだよ。ね? だからさ、自信を持とうよ。『自分は凄いことしたんだぞ!』ってさ」

「――――」



 にこやかに答えた綺羅先輩の言葉はいつか、俺が鏡花と優稀菜に言ったことだった。

 ――自分に自信を持て。それは自分でもわかっていた言葉だったはずなのに……。



「……すいません」

「? なにが?」

「いや、俺……わかっていたはずなのに……『自信を持つ』ってこと、忘れていました」



 俺の情けない言葉に綺羅先輩は屈託のない笑顔をくれる。



「そんなの私に謝ることや感謝するようなことじゃないよ。それに気付いたらもういいんだよ。さぁ、自分に自信はついたかな、俊くん」

「…………いや、すいません。やっぱり、少し、不安です」

「うん。それで正解だよ。『少しは自分に不安を持つこと』。これもとっても大事。それがないひとはね、大抵簡単なミスをしちゃうんだ。そしてその後、そのせいで自分にまったく自信がなくなっちゃう。まぁ、シルフィアちゃんはメンタルが凄く強いから立ち直ったらしいけどね。だからね、俊くんはなんにも間違ってなんかないんだよ。だって正しいんだから」

「――――」



 綺羅先輩のその優しい言葉は俺の心に強く響いた。……やっぱり綺羅先輩は凄くいいひとだ。



「……ごめんね。ちょっと先生を気取っちゃったかな」

「いえいえ、とんでもない! 綺羅先輩もなんにも間違っちゃいません! 素敵な人です!」

「――っ。はぅ……。俊くん。ちょっと恥ずかしいよぅ。……もう、そんなんだから鏡花ちゃんたちや私まで堕ちちゃうんだよ……」

「えっ? なんですって?」

「な、なんでもない! なんでもないよ! うん! 忘れて!」



 綺羅先輩がなんか凄いことを言った気がするけど、俺の気のせいだったらしい。



「……さっきから、なに言ってんだか……。私は……なのに」



 小さな声で寂しそうに呟く綺羅先輩。……途中部分が聞こえにくかったな。



「……さ。そろそろ行こう」

「あっ、はい。相談に乗ってくれてありがとうございました」

「いいのいいの♪ 私なんかで良かったらいくらでも相談に乗ってあげるからねん♪」



 優しい言葉と同時に、綺羅先輩は車を発進させた。



     ❁ ❁ ❁



「――さて、とうちゃーく。ここだよ」



 俺たちが来たのは山奥にそびえる巨大な建物。……こんな山奥なのに騒音が聞こえるって言うんだから、よほどうるさいんだろうな。でも、今は静まり返っている。



「一応、武器は持ってきたよね?」

「はい。持ち前の拳銃と……モチに渡された秘密兵器です」



 昨日の晩に十三番隊長の鏡モチとあって、あるモノを渡してきた。頼もし過ぎる。

 まぁ、こんなもの、よほどのことじゃないと使わないけど。



「じゃあオッケーだね」

「綺羅先輩は?」

「私のふたつ名はなーんだ?」

「……全身武器庫人間」

「せいかーい」



 心配しないでも良さそうだった。



「さて、まずはインターホン」



 ピンポーン。

 綺羅先輩がインターホンを鳴らす。……でない。



「ふーん。お留守かな?」



 そう言いながら扉の元に行き、引く。



「――にしては不用心だね。鍵が開いてる。……いつでも来いという意味だね」

「先輩。警戒態勢に入ります」

「うん。これは相当手強いよ」



 ガチャ……。綺羅先輩が扉を開けた。俺たちは警戒しながら中に入って行く。



「明るいね、意外と」



 建物の中は広く、蛍光灯で明るかった。――――っ!



「綺羅先輩!」

「うん。すっごい殺気を放ってくれているね!」



 入った瞬間、強烈な殺気が俺の体を貫通する。

 ぐるるぅっ……。



『!?』



 獣のような声が聞こえその方向を見る。……そこにいたのは――。



             To be continued                   




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