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―第玖章 黄昏のミーティング―

合同訓練から三日後。

 俺はシルフィアに色々な格闘技を教えて貰い、そこそこ覚えた頃。



「俊輝、一番隊本部に行くわよ。会議があるから」

「……なんで俺が行かないといかん」



 ……一番隊。一回しか入ったことはないが、たしか、バケモノしかいなかったような気がする。



「大体会議は隊長格か隊長補佐官のみのはずだろ? 俺の記憶が正しかったらな」

「ええ、そうよ――本来ならね。でもあんたには会ってほしいひとがいるのよ。今のあんたにはわたしのお付きって事で通しておいたわ。だから、会議にも出れるわよ」



 それはそれは大変だっただろうね。お疲れ様です隊長殿。



「会ってほしいひと? 誰だ?」

「さぁ? 雛形総隊長がそうわたしに言ってきたのよ。知らないわ」



 ……一番隊総司令官の雛形先生からの命令、か。誰に会うんだろうか。俺は気になりながらも鏡花と一番隊本部に向かった。



     ❁ ❁ ❁



 一番隊本部の重要会議室。

 ここに来るのも二度目……か。



「入るわよ、俊輝」

「……ああ」



 がちゃり。鏡花がドアを開けた。



『失礼します』

「おー、よう。おふたりさん」



 俺と鏡花が挨拶すると、長身のイケメンが俺たちを出迎えてくれた。

 このひとこそ俺たち二年B組の担任教師かつSIC一番隊総督の雛形景隊長。

 見れば、雛形隊長と俺たち以外にもひとがいた。



「おーい、俊くーん、鏡花ちゃーん♪」

「や」



 オッドアイの俺が通っている背がちっちゃい学園の生徒会長かつ五番隊隊長、中目無綺羅先輩といつも通りシブい着物を羽織っている風紀委員かつ三番隊隊長、京竹龍侍さん。



「久しぶりです、兄さん、鏡花さん」

「寂しかったわよ、俊輝、鏡花」



 歩美と樹里。



「…………」

「ほらほら、隊長。彼がシュンくん――前十番隊隊長、十七夜鏡輔さんですよ」

「…………知ってる、琴美」



 無口無表情の九番隊隊長の天才狙撃手、(あかつき)(しのぶ)とブルーの髪の少女、琴美。



「……アイツは……」

「パパ、あれ十七夜鏡輔だよ」

「知ってる。復帰したのか……」



 通称「皆殺し隊」の隻眼の八番隊隊長、郡山ジョーと隊長補佐官の郡山美鈴。



「……ほぅ……」

「これはこれは、凄く久しいひとが来たものです」



 厳格そうな老人と堅実そうな眼鏡の男――作戦・戦術のエキスパート、六番隊隊長の(りゅう)豪院元(ごういんもと)(はる)、隊長補佐官の森永(もりなが)(たける)



「わお! 鏡輔くんだ! やっほ~」



 ほわほわしながら俺に手を振ってくる小柄な女の子は、十五番隊「武器作り隊」隊長、(かがみ)モチ。



「今までなにをしていたのか……あとで聴取しようかしら」



 怪しい目で俺を見てひとりごとを呟いているのはSIC最強の「S」尋問科十四番隊隊長、キャリー・アレクサンドリア。……「聴取」? 「尋問」や「拷問」の間違いじゃねぇか? やめてくれ。



「あらあら、おかえりなさい、鏡輔くん。うふふ」



 天使のような笑顔を俺に向けてきたのは医療班、七番隊隊長の三日月(みかづき)チェリー。……実は隠れS。キャリーとは拷問仲間。

 以上、俺たちを含めて十五人の隊長、隊長補佐官が集結して自分の席に座っていた。

 ……この光景で少し違和感を覚えたが……気のせいだろう。



「おっす、失礼――って、鏡輔じゃねぇか、久しぶりだな」

「よう、乱暴女」



 入ってきたのは勝川(かつかわ)つかさ。四番隊隊長である――グヘッ! 



「いきなりそれはないだろ、鏡輔」

「いきなりひと様の脇腹に拳入れるのもないと思うんだ、つかさ」

「ふん。そういうわりにあんまり痛そーじゃねーな」

「痛ぇよ。俺は身体鈍ってんだ。二年間の長期休暇のせいでな」

「おまえが勝手にボッたんだろ」

「まぁな」



 まぁ、本当のことは言わない。



「……ウソ、ついてねぇか?」

「ツイテナイヨ」

「ついてるだろ」

「ツイテナイヨ」

「……もう一発、殴ってやろうか?」

「ウソつきました。ごめんなさいごめんなさい」

「ふん。まぁ、深くは訊かないでおいてやるよ」

「気が利いて助かるぜ、つかさ」

「ん。じゃ、また話そうぜ」

「おう」



 つかさも自分の席に座りに行った。



「わたしたちも座りましょ、俊輝。今日、シルフィアは来ないから」

「わかった」



 俺たちは席に座り、少し雑談しながら会議まで時間を潰した。



     ❁ ❁ ❁



「――よし、全員揃ったところで始っか」



 一時間後、派遣されている十一番隊隊長、実験室に籠っている二十番隊隊長以外の隊長が揃い、ようやく会議が始まった。

 隊長補佐官は会議に出ても出なくてもいいから、そのまんま。



「今回はまずみんなに紹介することがある。そのために全員集まって貰った。……まぁ、もう気付いているやつも多いがな」



 雛形総隊長が俺に目を向ける。



「現在、十番隊隊長補佐官の椅子に座っている隊長補佐官の代わりに参加している男――元十番隊隊長の十七夜鏡輔だ。今は名前を変えて杉並俊輝と名乗っているがな」

「あ、はい。どうも、久しぶりです。あと、はじめまして。元十番隊隊長の十七夜鏡輔です。今は杉並俊輝と言います。再びですが、よろしくお願いします」



 急に振られて多少声が上がりながらも軽く自己紹介。



「アハハ、あの子、下手な暴力団幹部やギャンブラーより怖いや」



 笑いながら俺に対してそんな感想を言ってくるチャラ男――十六番隊の隊長、ゼウス・アウフシュナイター。

 二年前にはなかった十六番隊は違法カジノの潜入捜査官育成施設。

 その隊長のゼウスはプロ中のプロのギャンブラー。トランプ、スロット、麻雀からバーペット、ソリティア、ビリヤードなど様々なギャンブルやゲームを極めた男。あとの鏡花からの補足説明だととある指定暴力団の幹部のひとりだったとか。

 その他、色々な隊長格が俺を好奇の視線で見てくる。……怖いからやめてくれ。



「ゴホン。まぁ、そこまでにして――中目無」

「はい、なんでしょう」



 雛形総隊長が綺羅先輩に話を振る。



「あいつは現場を長い間いなかったから感覚を忘れている。――そこで、次におまえに任せている重要な仕事に一緒に連れて行ってやれ」



 ……は?



「はい、お任せされちゃいました♪」



 それを聞いて顔を光らせる綺羅先輩。……え?



「よし。ていうわけで、杉並。おまえは三日後、中目無と同行させる。そこで現場の感覚を思い出してくれたまえ」

「い、いやいや、俺はブランク続きで、攻撃の仕方のまだちょっとしか覚えてないんですよ? そんな俺を同行させていいんですか?」

「そう言うと思ったから、おまえには特別講師をつけてやる。……もう少しで来ると思うんだが――」

「――おっくれましたぁ!」



 雛形総隊長の言葉を遮って入口の扉が開いたと思ったら、そこには――。



「……迷子?」



 ――小学生、よく言うならば小さい中学生くらいの背の金髪の女の子がいた。



「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあうッ!」

『はははははははははは!』



 絶叫を上げて否定する少女の声と、俺たちのやりとりを見て大爆笑の隊長・隊長補佐官たち。鏡花も歩美までも爆笑している。……ああ。



「そうか。サリナやリリナたちと同じ、小学生の天才児か」

「だから、ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうッッ!」

『わはははははははは!』



 少女の絶叫と隊長格の笑いの渦は止まらない。……ああ。



「そうか。小学生じゃなくて」

「そうそう、小学生じゃなくて?」

「幼稚園児の天才児だったんだな」



 この子、自分がSICで一番年が若いっていうのに気付いて欲しかったんだな。「自分が最年少だぞー」って、言いたかったんだな。



『わははははははははははははは!』

「ッッッ!」



 しかし笑いの渦は納まらず、憤怒の形相の少女が俺にずんずん詰め寄り、俺の脚を掴んだかと思うと――。



「ふんっ!」



 俺の足首を――思いっきりグネる。――――。



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! あ、足がっ……足がッ!」



 俺の絶叫が響く。い、痛ぇッ!? 

 足首を押さえて悶える俺の首をギリギリと締め上げてくる少女!



「わ、た、し、は! 高校生だッ! アンタの一個下! 高一!」

「わ、わかった! わかったから! 済まなかった! く、苦しい、痛い! 息できない! 許してくれ!」

「ふんっ!」



 俺の懇願に近い謝罪の言葉で俺を解放してくれる少女。そして、いまだに痛い俺の足首に手を伸ばし――もう一回グネる。すると。



「……あ、あれ?」



 痛みが消えたぞ? どういうことだ?



「アンタは三日後にミッションが入っているんでしょ? そんな足じゃ役に立たないから治してやったわよ」

「あ、ありがとう」



 なんだか知らんが元に戻してくれた。……ふぅ、痛かったよ……。



「てなわけで、自己紹介しろ響」

「はい、総隊長」



 答え、俺に振り返る少女。



「私は一番隊所属、小山内(おさない)(ひびき)。今日からアンタの教育係に付かせていただくわ。よろしく」

「俺は杉並俊輝だ。よろしく」



 俺も挨拶し返す。……名前通りだな、という感想は言わない。また足をグネられそうだから。



「よっし。今日のところはここで解散だ。――響。三日後までにみっちり指導してやってくれ。なに安心しろ。そいつは腐ってもブランク続きでも元隊長格。しかも隠密機動隊の十番隊のだ。多少無理させても死なないぞ」



 無茶苦茶言ってるよ、このひと。やめて。



「わかりました。この小山内響。こいつを二日間で隊長補佐官程度の実力に戻しましょう」

「……隊長補佐官程度の実力なら、もう復活しているらしいんだが……まぁいい。がんばってくれ」



 会議はそれだけだった。……え?



「ちょ、ちょっと、雛形さん?」

「どうした、トラン○フォーマーがアリを踏んづけたことに気付いて一ミリ程度の罪悪感に浸っているような顔をして」

「どういう顔ですか! そうじゃなくて、俺を紹介するために散らばっている隊長格をここに呼んだんですか?」

「ああそうだ。それがなにか?」



 いや、なにかもなにも。



「なんで俺なんかのために隊長格を集める必要があるんですか?」

「……は?」



 俺のその質問によくわからないといった表情をする雛形総隊長。



「なんでって、そりゃおまえ、おまえが帰ってきたからだが? おまえは元十番隊の隊長だ。それなりの接待をしただけのことだ」

「いやいや、『元』でしょう? そこまでする必要は――」

「――ある。おまえはこの先、もう一回隊長になる可能性が高いからだ」

「!」



 …………。



「なんでですか?」

「……まぁ、それはまた今度な」

「は、はぁ……」



 いまいち、意味がわからないが流しておく。

 クイクイっと俺の服を小山内さんが引っ張る。ん?



「ほらほら、私の生徒。ちょっと面接しよう。鏡花さん、借りるよ」

「いいわよ、響。じゃあね、俊輝。響の言うことちゃんと聞くのよ」



 俺は子供かよ……。そう言うと鏡花はここから出て行った。



「えっと、俊輝……って呼んでもいいかしら?」

「あ、はい、どうぞ。で、小山内さん」

「私のことも呼び捨てでいいわよ。『響』で」

「そ、そうか。じゃあ、響。俺と面接ってなんだ?……拷問関連だったらイヤだぞ」

「アンタ、私をなんだと思っているのよ」

「え?……バケモノロリ?」

「……もっかい、足をグネらせてあげようか?」

「素晴らしく大人らしい美少女教官だと、私は存じております」



 もう痛い目に会うのはゴメンだ。俺は急いで前言撤回。



「ふん。じゃあ、移動しよう。ついて来て」



 そう言って歩き始めた響の後を俺はついて行った。





            To be continued

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