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―第捌章 黄昏のレスティング―

 ……小二時間後。

 俺はヘトヘトの状態で実戦室から休憩室に向かっていた。

 芝崎と戦った後、優稀菜や他の隊員と連続で戦った。……隊員たちはともかく、優稀菜は強かった。だってルール無しにしたらご自慢のワイヤーワールドのご展開。相当面倒臭かったな。てか、負けた。

 長年のブランクで体力が落ちてしまった俺にとっては、この連続対戦には相当応えた。

 てなわけで、俺の役割を優稀菜と鏡花に押し付けて、休憩室に着いた俺は設置されているベンチに座り、給水機の水を飲んで一服する。



「……あ、あの……」

「ん?」



 俺の後ろで控え目な声がして振り返る。



「おお、芝崎じゃないか」



 そこには芝崎隊長補佐官が立っていた。俺と同じく休憩のためなのか、水の入ったコップを持っている。

 さっきまでの態度とは違って、なにかを言いたいけど言えない年頃の少女のような態度である。



「どうした?」

「ご、ごめんなさいっ……!」



 いきなり頭を下げて俺に謝る芝崎。



「な、なにがだ?」

「いえっ、あの……さっきは暴言を言ってしまって……」



 ああ、あのことか。



「え、えっと、とりあえず頭を上げてくれ。な?」

「で、でも……」



 ……うーむ、どうやらあのことを俺以上に気にしているようだ。



「いいからいいから。ほら、座ってくれよ」



 トントンと俺はベンチを叩く。



「で、では……失礼します」



 すると彼女は、俺が叩いたところ――俺の隣に頬を赤らめながら座ってきた。……俺の隣に座れという意味じゃなかったんだが、まぁいい。



「あの……本当に申し訳ありません」

「いいんだって。俺だってあのまんま、ちやほやされるより怒られた方がピシッときて良かったぞ?」

「……意外にM?」



 うっ。相変わらずの毒舌だ。自分でも「もしかしたら?」と思っていたことを……。



「ま、まぁ、Mかどうかはともかく、俺に謝らなくてもいいんだぞ? おまえの言っていたことは正しい。俺は二年前、ここから逃げ出したんだからな」

「そんなことないよ」



 俺と芝崎以外の声が俺の後ろで聞こえた。

 ハッと振り向くと、そこには優稀菜がいた。しかも、いつものニコニコ顔は消え、真面目な顔をしていた。



「俊ちゃんは逃げてなんかないよ」

「優稀菜。理由がどうあれ、結果的に俺がここから逃げ出したのは事実だ」

「違うよ。だって俊ちゃんは鏡ちゃんたちのために――」

「優稀菜……ッ!」



 俺は思わず声を荒げる。



「ご、ごめん……なさいなの……」



 しゅんと肩を落とす優稀菜。ちょっと言い過ぎたな。



「い、いや、こっちこそ」



 俺も優稀菜に謝る。芝崎はこの光景を「?」という視線を向けて見ていた。

 そんな彼女を、優稀菜はキッと睨みつける。



「あんたが俊ちゃんに言ったことは、絶対に優稀は許さないの」

「な、なんですの。あんたには関係な――」

「関係なくないよッ! 優稀は俊ちゃんの友達だもん! だから、優稀は友達への悪口は許さないの!」

「…………」



 黙り込む芝崎。…………。



「優稀菜、もういいよ。俺はなんにも気にしていない。だから芝崎を許してやってくれ。な?」

「……俊ちゃんがそう言うんだったら、優稀はもうなにも言わないの」

「ありがとうな」



 話がわかるやつでよかった。



「ほら、芝崎……って。そ、そんな顔すんな」

「そんな顔ってどんな顔ですか」

「なんか、泣きそうだぞ、おまえ」

「そ、そんなことっ! ないですっ!」



 強がる芝崎。……よくよく見るとこいつも美人だな。目が吊り上がって、ちょっと悪人面だけど。



「そういえば、あんた。意外に傷付いていないね。俊ちゃんにコテンパンにされたのに」

「き、傷付いて凹んでいる時間なんてないですわ。そんな時間あれば自分をもっと強く、鍛えさせています」



 優稀菜の問いにそう答える芝崎。メンタル面は強いな。あんな自信満々だったから、少しやり過ぎたかなと思っていたんだが……どうやらいい薬になったようだ。



「……あんた、強いね」

「……なんのお世辞ですか? 私は全然強くないですわ。だって俊輝さんにポケットに手を突っ込まれたまま、完封されてましたし……」



 ……どうやら自分の意志の強さを実感していなかったようだ。



「……『俊輝さん』ですって……? あんたに……俊ちゃんの下の名前を呼ぶ権利はないの……ッ!」



 優稀菜から再び怒りのオーラが滲み出る。お、おい!



「い、いや、いいっていいって、優稀菜。俺はもう気にしてないって言ったろ。し、芝崎もそんな悲しい顔すんな。い、いいから。俺の名前、下の方で言って」



 優稀菜を嗜め、芝崎を慰める俺。



「……俊ちゃんは優し過ぎるの……」

「厳しい方がいいか?」



 不満そうにする優稀菜に訊き返す。



「……ううん。優稀はそんな優しい俊ちゃんが……大好きなの」



 頬を赤らめさせながら俺にそう答える優稀菜。



「そうか、ありがとう」

「…………」



 ――ボコッ! 優稀菜が俺の脇腹に拳を入れる! ぐへぇ!?



「いてぇ!? ど、どうして……」

「……俊ちゃんのバカ……」



 怒った様子の優稀菜。な、なにがあった?



「……ちょっと鏡ちゃんの様子を見てくるね。大丈夫だとは思うけど」



 そのまま優稀菜は鏡花の元へ向かうため、この部屋から出て行った。



「……あなた……鈍感にもほどがありますわ」

「ん?」

「……なんでもないです」



 芝崎がなにを言っていたのか声が小さくて聞こえなかった。



「それよりさ。おまえ、確かシルフィアって言ったよな、下の名前」

「え? な、なんで知ってるんですか?」

「さっき、鏡花が堂々とおまえの名前を宣言してたしな」

「……あ」



 思い出したように声を漏らす芝崎。そして。



「…………」



 頬を赤らめさせて俺になにかを期待するような視線を送ってくる。……? なにを期待してんだ? まぁ、いいや。



「俺もおまえの下の名前で呼んでいいか?」

「は、はい! どうぞ、喜んで!」



 大げさにもなにかの願いが叶ったかようにパァッとお顔を輝かせる芝崎――シルフィア。

 なんかわからんが、機嫌をよくしてくれたのならいいか。



「ま、まぁ、もうあのことは気にすんな。俺を指導してくれよ、隊長補佐官殿」

「ま、任せておいてください!」



 あまり豊満ではない胸を張るシルフィア。



「おう。頼んだぜ」

「じゃ、じゃあ、ちょっと席外しますね。ではまたです、俊輝さん」



 上機嫌なご様子で休憩室から出て行くシルフィア。…………。



「ふぁ~あ。寝よ。眠い」



 俺はそのままベンチで横になって寝た。




             To be continued

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