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―第漆章 黄昏のデュエル―

 実戦室。

 懐かしいな。ここで俺と樹里はよく戦っていたな。他のやつらとも遊んでいたっけ。



「さて、ルールはなんだ、芝崎隊長補佐官殿。フリーダムか?」

「ルールは、格闘のみ。武器は禁止。命に関わる技も禁止」



 へぇ……割と緩いな。武器禁止の上に致命的な攻撃も禁止か。樹里と戦っていたときなんてフリーダムだったぜ? いやー、あいつのせいで俺は文房具に戦慄を覚えたな。でも、ブランクが激しい俺にとってありがたいルールだ。

 俺と芝崎はボクシングのリーグのような競技場の上に立つ。



「じゃあ、ジャッジはわたしが担当するわ。文句、無いわね?」

「ありませんわ」

「ねーよ」

「そう。じゃあ、カウントするわ――スタート十秒前……九……八……」



 鏡花がカウントを始める。芝崎はすでに警戒状態だけど、俺はリラックスして両手をズボンのポケットに突っ込んでいた。……俺の目は相手の強さを無意識のうちに測定していた。



「……三……二……一……零!」



 ――ダッ。

 芝崎が俺に向かってくるが……遅い。ひょいと避けてやろう。



「なっ!?」



 俺に避けられると思わなかったのか、ビックリしているご様子。

 たしかに今の攻撃のタイミングはよかった。但し、遅い。それだけだ。



「ほら、隙だらけだぞ、隊長補佐官殿。俺は攻撃しないから、存分に攻撃して来い」



 挑発する俺。……実際、俺は「攻め方」を忘れてしまっているから、下手に攻撃して芝崎を怪我させないようにする処置だ。

「戦い」とは大まかにふたつある。

 ひとつは「決闘」。

 正々堂々、ルールに則って戦う。いわば、ひとつのスポーツだ。

 もうひとつは「戦争」。

 こちらは「決闘」とは全くの逆。ルールなんてなく、仮にルールがあったとしても破るのが普通だ。卑怯も蜂の頭もない、自分さえ勝って、生き残ればいいというのが「戦争」だ。

 この場合は「決闘」。

 だから、まともな戦い方を覚えていない俺は攻撃できない。攻撃する資格がない。だって、当たり所が悪ければ「ルール違反」――「命に関わる攻撃」になるからな。



「舐めていただきたくありませんわ!」



 怒る彼女。しかし冷静らしく、感情のままに攻撃してこない。……そこら辺はちゃんとしてんだな。

 その後、芝崎は俺に命には関わらない急所への攻撃、関節技など様々な格闘技を繰り出す。……狙いは正確。タイミングもばっちり。

 しかし、遅い。

 それだけで、攻撃の方向、その後の動きなど、全て見抜けてしまう。よく衰えなかったな、俺の目は。鏡花や優稀菜、仮面男に銀行強盗犯だけと戦ったのに、目だけはすぐに復活してきた。こりゃ……あと「技」を覚えたらミッションの前線に出れるかな?

 そんなことを考えながら、隊長補佐官殿の攻撃を全て受け流す俺。



「くっ……なんで当たりませんの!?」

「そりゃ、遅いからだ」



 表情を強張らせている芝崎に素直に答えてあげる俺。



「う、うるさいですわっ!」



 若干涙目の芝崎。……ちょっと可哀想だな。どれ、一発ぐらい喰らってやるか。攻撃を喰らった後に受け身を取るためポケットから手を出す俺。そして――。

 ――ゴンッ。

 俺はわざと芝崎のパンチを腹に喰らう。これで少しは気が晴れたかな……って、あれ? 吹っ飛んでいない? てか、なんでこんなに痛くないんだ? いや、痛いって言っちゃ痛いんだが……思ったより軽い。あれれ? 攻撃はクリーンヒットしているはずだぞ。



「…………なんだ? 今の。パンチか?」

「ッッ!?」



 ポツリとこぼした俺の言葉を聞いて目を見開く芝崎。……え? 今のが本気のパンチでしょうか?



「ど、どうなっているの!?」



 俺に怯えた視線で小さく肩を震わす芝崎。



「……え、えっと……ゴメン。弱過ぎだ、おまえ。踏み込みからやり直せ」

「…………ッッ!」



 涙を流し距離を取る芝崎。そして――。



「――死ねッッ!」



 目を血走らせながら、芝崎はズボンのポケットに手を突っ込む。――っ!

 一瞬ちらっと見えたグリップから察するにあれは間違いなく中国・ハンガリー・ユーゴスラビア製トカレフTT‐33! 元は旧ソ連が開発した拳銃。徹底的な単純構成のために安全装置まで省かれたしょっちゅう暴発することで有名だったが、中国などで改良を加えられ、今はすっかり安全装置がついている暴力団もお馴染みのシンプルかつバランスのいい拳銃だ。

 それを取り出し標準を俺に向け――ようとしていたから、芝崎がトカレフに手を差し伸べる前に動いて芝崎との間合いを詰め、芝崎がそれを右手に取った瞬間に彼女の手首を捻ってトカレフを彼女の手から俺の手に移し、ハンマーを長押しして手動安全装置を作動させ、トカレフを床に滑らせて芝崎の手から届かないようにする。……ったく。

 俺はポカーンとしている芝崎の顎を掴む。



「――おい。ルールは守れよ、小娘。これは『決闘』。『戦争』じゃない。――自分が決めたルールを破るんじゃねぇよ」

「!…………は、はいっ!」

「よろしい」



 俺はわかってくれたらしい芝崎の頭を掴んでいた手を放し、笑顔でその頭を撫でる。



「よしよし、いい娘だ。じゃあ、もういいな?」

「……はい」

「だってさ。――鏡花」



 俺は鏡花に合図を送る。鏡花は「ええ、わかったわ」と頷き、



「芝崎シルフィア投了。――勝者、杉並俊輝!」



 宣言を聞き、この場にいる外野の隊員たち全てが沸いた。





            To be continued

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