―第陸章 黄昏のイントラクション―
十分後。
鏡花は俺と優稀菜をみんなに自己紹介させるため、前に出て俺と優稀菜を隣に並ばせていた。
「みんな。今日集まってくれてありがとう。まぁ、落とし穴のことは大目に見ましょう」
「ウソ付けぇ!」
「俺たちに拳骨ブチ込んだじゃないっすか!」
「五月蠅いわよ、仙崎、如月。――みんなに新しい仲間を紹介するわ。まずは彼女、優稀菜、自己紹介して」
「はーい」
鏡花に言われ、優稀菜は一歩前に出て、満面の笑顔で自己紹介。
「加賀美優稀菜といいます。どうぞ、よろしくなの♪」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお! 可愛ぇぇぇぇぇえ!』
男子隊員全員に受けていた。女子隊員の中でもうっとりしているやつもいるほどだ。
「そして……さっき、気付いたひともいたけど、こっちは杉並俊輝。今はそう改名している元十番隊隊長の十七夜鏡輔と同一人物よ」
「再びよろしくお願いします、みんな。俺を知らないひともどうか、俺を受け入れてやってください」
『あったりまえです! 鏡輔隊長!』
「お、おいおい、みんな。俺はもう隊長じゃないぞ。あと俺は改名して『杉並俊輝』っていうんだ。わかったか?」
『わかりました! 鏡輔隊長!』
「……おまえら……」
「あはは、俊ちゃんは人気者なの♪」
「お約束のパターンよね」
「うっさい!」
『あははははははははは!』
ちょっとした俺たちの会話で笑いに包まれる十番隊隊舎。
「ふん、あなたたちが新人……ですのね」
――フッ。
しかし、俺の聞き覚えがない女の子の声で、今まで笑いに包まれていた隊舎内がフッと静まり返る。みんなも白けたような顔をする。
その声の主は隊員たちをかき分けて俺たちの方に来る。
そのひとは少し生意気……もとい、高圧的な雰囲気を纏った少女。外国人だな。でも、日本人っぽくも見えるからハーフか? 俺たちと同年代ぐらい。雰囲気から察するに、かなり自分に自信がある様子だ。
少女は鋭い目つきで優稀菜を見る。
「あなたが、加賀美優稀菜さんですか?」
「そうだよ。それが優稀の名前」
「……そう。よろしくお願いしますわ――そして、あなた。杉並俊輝さん……でしたっけ」
「おお、ここにきて俺の新名を始めて呼んでくれた」
「そんなことより、あなた。ここの初代隊長と同一人物ってホントですか?」
「俺の名前をそんなこととは……ああ、本当だ。それがどうかしたか?」
少女は俺のその言葉を聞いて、俺を見下すように言った。
「あなたが、二年前にここを逃げ出した臆病者ですわね」
「おっほう!?」
少女の口から出た凄い毒に仰天する俺。そして……。
『…………』
俺以外のこの場にいるやつ全員が少女に厳しい視線を送る。優稀菜なんて、凄く危険な雰囲気を醸し出しているぞ。笑顔だけど。
「ま、まぁ、そう言う見方はあるわな」
一応、周りを鎮めるためにフォローするのだが……。
「いいえ、全然。――あなたはただの臆病者ですわ。この雰囲気からして人気はあったのでしょうけど……この仕事がつらくて、逃げだしただけだわ」
「うへっ!?」
物凄い毒舌! 俺の心を簡単に抉るな――って、お、おいおい。なんか知らんが、ますますヤバい雰囲気になってんぞ、みんな。おまえも雰囲気でわかるんだったら刺激しない方がいいだろ。
話題を変えるため、俺は口を開く。
「ええっと……そういえば、名前、聞いていなかったな。俺はおまえのことを知らないから、多分、新しいひとだと思うんだが……」
「私の名前? そんなの自分で調べてくださいまし? 臆病者なんかに名前、教えたくありませんので」
「芝崎ぃぃぃぃぃい!」
少女の俺への毒舌連発についにキレてしまったオールバックの男の隊員――東雲は少女に向かって殴りかかろうとする。しかし……。
「お、おい、よせ! 東雲!」
「あいつは隊長補佐官だぞ!」
「気持ちはわかるが、立場をわきまえろ!」
仙崎、二階堂、荒巻に取り押さえられ、静止される。
「へぇ……おまえ、隊長補佐官だったのか。なるほど。それなら俺が知らないわけだ。俺のときの隊長補佐官は樹里だったし、その樹里は十番隊をやめたからな」
日本のSICの隊長、隊長補佐官は必ずアメリカから派遣される。逆に、アメリカの隊長と隊長補佐官は日本から派遣される。それが、SICのルールだ。
だから、このハーフの芝崎という少女はアメリカから新しく、樹里の代わりに派遣されてきたのだろう。
……なるほど。だったら、この少女から出る自信も頷けられる。
おそらく、自分がこの立ち位置にいることに誇りを持っているのだろう。そして、その立ち位置相応の実力もあると信じている。なかなかの自信家だ。
「ふん。臆病者のこいつを隊員にするとか……隊長も落ちたものですわね」
「なんですって?」
眉間を寄せる鏡花。少女は嘆息しながら続ける。
「しかもこいつに逃げられたこともあるとか? 見ましたわよ。あの情報」
「…………」
凄く悔しそうにする鏡花。うわぁ……この娘、凄ぇな。
「そんな、臆病者なんかに撒かれた隊長は信頼できませんわ。――この私を隊長にするべきです」
「ちょ、ちょっと。やめないわよ。それに少なくてもやめるとしたら、あんたに任せられないわ、シルフィア」
SICは隊長・隊長補佐官が別のひとを推薦して辞任を表明すれば、そのひとが隊長・隊長補佐官なれる組織でもある。要するにひとつの選挙方式でもあるんだ。本当に自由な組織だ。
……それにしても、この娘――芝崎シルフィアさん。結構な自信だが大丈夫か? 自信の持ち過ぎは体に毒だぞ?
「ならば……誰に任せます?」
「やめることなんて考えたことないんだけど……」
じぃーっと俺を見つめる鏡花。えぇー、また俺隊長やるのぉ……。
「……なるほど。あなたはとことん、落ちてしまったようですわ。――よろしい。だったら、私があの臆病者に勝てばいいんですね……?」
「あなたが勝てるとは思えないんだけど……まぁ、考えておいてあげるわ」
お互いに挑発し合うふたり。……あれれ? なんか俺が戦う方面に向かっていないか、これ。
「おお! 久々に鏡輔前隊長が戦うぞ!」
「俺たちも見てみたい!」
外野のみなさんも盛り上がっていらっしゃる。お、おおーい。
「俊ちゃん。頑張ってなの♪」
可愛くウインクをくれる優稀菜。…………。
「……はぁ……。わかった。――やるよ」
面倒臭いが仕方ない。どうやら芝崎も俺と戦わないと気が晴れないようだしな。
「じゃあ、ふたりとも。移動しましょうか。隣の実戦室に」
「ええ、行きましょう」
芝崎は凄いやる気満々だ。そして、他のやつらは見る気満々だ。はぁ……いきなり隊長補佐官殿と戦わなくちゃいけませんか。気が引ける……。
そんな感じで俺たちは隣の実戦室に移動した。
To be continued




