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―Ayumis story 瀬良家―

 話は撒き戻って、午前九時半過ぎ。

 家を出ておおよそ十分経過しました。

 私、杉並歩美は琴美さんの家の前にいた。ちょっと、時間がかかりましたね。

 ピンポーン。

 私はインターホンを押す。



『はーい』

「あ。琴美さん? 私です」

『歩美さんですね。お待ちしておりました』



 がちゃ。

 家のドアが開くとそこからひょっこりと青髪の娘が顔を出す。

 彼女は瀬良琴美さん。

 九番隊隊長補佐官。鏡花さんと一緒に今年、私と同じ学園に派遣されたスナイパー。



「おはようございます、歩美さん」

「はい。おはようございます、琴美さん」

「歩美さんはアタシよりも格が上なんすから、呼び捨てでいいっすよ?」

「いえいえ。これは口調なので……申し訳ありません」

「あ、謝る必要はないっすよ。さ、どうぞ。上がってください」

「はい。失礼します」



 私は琴美さんの家にお邪魔する。

 琴美さんは腹違いのお兄さんとお姉さん――順平さんと明美さんがいらっしゃったはずなのですが……。



「あの、琴美さん? 順平さんと明美さんは?」

「兄貴たちは『仕事』っす」

「……なるほど」



 あのおふた方もやっぱりこっちの世界の住人でしたか。学校にいるときも大体、雰囲気でそう把握しておりましたが……私の目と勘はどうやら正確のようです。



「SICのメンバーじゃないんすけど……ふたりともちょっとした『なんでも屋』なんすよ」

「優稀菜さんと同じですね」



 優稀菜さんのことについては彼女が和解した際に話してくれたので知っていました。……そのときに私と鏡花さんの正体も……。

 琴美さんはほほ笑む。



「ええ。まったく、あのふたりはいっつもふわふわしていて、なにをしているのか把握しづらいんすよ」

「それ、わかります」



 あのふたりは三番隊京竹龍侍隊長並みに飄々としていてなかなか掴めない。いつもなにを考えているのかわからない笑みを浮かべているし、性格も普通にいいひとなので、裏で本当に何をしているのかわからなかった。



「プロですよね、おふたりとも」

「さぁ……それすらもわかりません」



 本当に掴めないひとたちです。



「ここがアタシの部屋っす。座っていてください。お茶、持ってきます」



 琴美さんはそれだけ言い残して、部屋から退出していった。



「…………」



 小さなちゃぶ台の前に座る私。

 ここが琴美さんの部屋……ですか。

 見渡せばゴルフバッグ、ギターケース、テニスのラケット入れ、トランクケースにポシェット、色々な物を収納できそうなリュックサック……全部なにかを仕舞うものですね。

 おそらく中身は狙撃銃、狙撃銃の弾丸、様々なタイプのスコープ、バトル用の銃剣……といったところでしょうか。

 ……さすがスナイパー。さりげない日用品にそういうものを仕舞い込みますよね。

 琴美さんの性格も大胆でさっぱりしているし、見た目はとても健康的なお方ですから、トランクケース以外は全部普段持っていて違和感がありません。



「おまたせしましたー。……歩美さん。あんまり部屋の物からいろいろ推測するのはちょっと……」



 そんなことを想像していた私に、お茶が入ったコップを乗せているお盆を持ちながら苦笑している琴美さんがドアの前に立っていた。



「えっ? わ、わかります?」

「スナイパーの目を侮ってもらっては困ります。そういう瞳をしていましたよ」

「す、すみません……」



 そ、そうですよね。勝手に自分のお部屋をじろじろ見られるのは女の子としてイヤですもんね。



「まぁ、いいっすよ。あんまり年頃の女の子の部屋とは思えないほど物騒な物ばかり転がっている部屋ですから」

「全部私物ですか?」



 私がそう訊ねると、琴美さんは私の正面に座ってお茶をすすりながら答えた。



「ええ、私物です。たまーに、兄貴たちにそのトランクケースを貸しますけど……ほんっと、なにをしているのやら……」

「…………」



 あの方たちはスナイパーの腕を持っているのでしょうか。なんだか、順平さんと明美さんの存在がどんどん謎に包まれていきますね。今日だけで。



「そういえば、例の転入生は?」

「そろそろ来ると思いますよ。二学期からアタシたちと同じクラスに来る予定です。部屋はもう用意していますし、兄貴たちの了承しています」



 私は今日からこの琴美さんの家に住むことになった「例のひと」を歓迎しようとここに来たわけですけど……結構時間にルーズな方ですね。まぁ、あの方は琴美さん以上に大雑把なひとですからね。

 ピンポーン。

 そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。



「――来たようですよ、行ってきますね」

「私も行きます」



 私たちは立ち上がって玄関に向かう。



「はいはーい。今行きますよ」



 がちゃ。ドアを開ける琴美さん。



「よォ、邪魔するぜ」

「はーい♪」



 そこには、隻眼のいかにも危険そうな雰囲気をバリバリ纏っている男性と、私たちと同い年の可愛らしいツインテールの女の子。

 前者から順に、郡山ジョー隊長と郡山美鈴さん。

 特別殺戮部隊八番隊隊長と隊長補佐官である。……うわぁ……。



「な、なぜ郡山隊長まで……?」



 目を引くつがせながら訊く琴美さん。



「あァん? 悪いかァ?」

「いえっ、全然っ、とんでもございません!」

「ガッハッハッハッハ! 安心しろよォ。オレはただ美鈴を見送りに来ただけさ。もうそろそろ帰るからよォ」

「……え? あ、あぁ、ビックリしました」



 ああ、美鈴さんを送って来ただけでしたか。さすがに郡山隊長まで一緒の生活を送ることになったら……あぁ、考えない方がいいですね。



「パパ。もう帰っちゃうの?」

「ああ、もう帰っちゃうんだ」

「ヤダ~。私を置いていかないで~」

「だだ捏ねるんじゃねェ! オレはここに住むように命令された覚えもねェし、ここに住む気もさらさらねェ!」

「そんなこと言っちゃって~。私のことを心配してここまで送ってきてくれたんでしょ~?」

「違ェよ! おまえがオレをここまで引っ張って来ただけじゃねェか!」

「いーやーだ~! パパもここに住むの~」

「はァ……ったく。――おい、オレをつけていた双子。もう出てこいや」



 郡山隊長が琴美さんの家の庭の茂みに呼びかける。



「ちぇー」

「バレちゃってたー」



 そこからそっくりな小さい女の子がふたり現れる。

 この双子は棗サリナ隊長と棗リリナ隊長。

 ふたりでひとつの情報伝達隊二番隊隊長。たしか来年で中学生になるSICの最年少の隊員かつ、最年少の隊長。

 郡山隊長が嘆息しながら言う。



「隊長様ふたりがかりでオレをつけていたんだ。なんかあんだろ?」

「はい。八番隊郡山ジョー隊長に一番隊雛形隊長から伝達です。『自分の娘になにを言われても今すぐ帰って来い、ドタコン。今すぐに、だ。おまえの隊のやつらが暴れまくってて困ってる。シバいてやれ』だそうです」

「八番隊郡山美鈴隊長補佐官に一番隊雛形隊長から伝達です。『おまえはとにかく、ひとりで任務を遂行しやがれ、ファザコン。さもないと――」



 そこまで報告してからリリナ隊長が美鈴さんに人差し指をクイクイしながら呼び寄せ、美鈴さんの耳元で囁く。



「――――するぞ』だそうです」

「――――ッッ!?」



 瞬間、美鈴さんはなにを聞いたのか、お顔を真っ赤っかにして驚いていた。



「な、な、なぁ!?」

「以上! 伝達いたしました!」

「私たちはこれにてお役御免! さらば!」



 戸惑いの声を上げる美鈴さんを尻目に、それだけを言い残してひゅんっと音がしたと思うと、もうサリナさんもリリナさんも姿を消していた。……忍者みたいな方たちですね。



「……だそうだ。また迷惑かけてんのかよあいつら……。美鈴。おまえもなに言われたのかは知らんが、ヤバいことなら聞いてやらんから、オレを帰らせてくれ」

「う、うんっ。帰っていいよ」



 その言葉を聞いて、郡山隊長は去っていった。

 ……凄い手のひら返しですね、美鈴さん。さっきまであんなに、お父さんにベッタリだったのに。一体なにを吹き込まれたのでしょうか。

 それにしても「ドタコン」とは……。雛形総隊長は「あか○色に染まる坂」をやったことがあるのでしょうか。



「てなわけで、いろいろありましたが自己紹介! 郡山美鈴です! 今日からよろしくお願いします!」



 そんな感じで、時間は過ぎて行った。

 ……ちなみに、次の日。家を勝手に改造した樹里さんと優稀菜さんにたっぷりお説教したのは別の話。みなさん、かなり怖がっていましたね。……私はそんなに怖いんでしょうか? ちょっと複雑です。




                  To be continued

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