―第参章 黄昏のバスルーム―
「あー、なんてこった」
俺は少し早めの風呂場に入り身体洗おうとしていた。
風呂場も広くリフォームされていたよ。どんな風にすればこんな短時間でここまで家を改造できるんだろう。まぁ、面倒だし怖いから訊かないけど。
樹里と鏡花は先に風呂に入り、次は優稀菜かと思ったんだが譲ってくれて俺が先に入らせていただいている。
今日はカオスだった。
樹里たちが隣に引っ越ししてきたこと。銀行強盗をとっちめたこと。そして家が勝手にリフォームされて一軒家が実質二軒家になっていたこと。
もういろいろあり過ぎて疲れた。
その疲労を身体の汚れと一緒に洗い流そうとしていたそのとき。
「俊ちゃーん。入るよー?」
「……は?」
脱衣所から優稀菜の声。そして……。
――ガチャ……。風呂場のドアが開く音が聞こえて振り返ると……一糸纏わぬ優稀菜が堂々とご登場ぉぉぉぉぉぉお!?
優稀菜は普段のポニーテールを解いて、ストレートに髪を流していた。
俺は急いで優稀菜から目を反らし、腰にタオルを装備する! は、は、はぁっ!? なんだこのシチュエーション! わけがわからないよ! 俺に声をかけたってことは、優稀菜は俺が風呂に入っていることを知っていてここに入ってきた! つまり! それは! 事故でもなんでもなく! 完全に! 本人の意思だということの証明ッッ!
「あー、俊ちゃん。優稀は全部見せてるのにひーどーいー」
「な、なに言ってんだ! お、おまえは、な、な、なんで!?」
もはや自分が言っている意味もわからないほど動揺する俺。
「んー? 優稀はただ単に俊ちゃんとお風呂に入りたいなーって思ったから来ただけなの。別に深い意味はないの」
え、え、えぇぇぇぇぇぇぇえッ!? 俺と入りたかったから来た!? パチこけ! お、おまえはそれでも花も恥じらう年頃の女の子なのか!? 一瞬ちらっと見えた物凄くでっかくて綺麗な胸を見る限り立派な女の子でした! 流されている綺麗な髪の毛が妙に色っぽい。
「ふんふーん♪」
だき。もにゅぅぅぅぅぅん。
上機嫌な優稀菜の鼻歌とともに、俺の背中にとてつもなく柔らかい感触と仄かな甘い香りが俺を刺激してくる! う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお! なんてこった! 俺、優稀菜に抱きつかれているよぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!?
な、なんで女の子の身体はこんなにも柔らかいんだ!?
「えへへ。優稀、一度こんなことしてみたかったの! あぁ……これが俊ちゃんの身体かぁ……。女の子のとは全然違うの……」
抱きつきながら優稀菜が色っぽく呟く。
正直に言うと、この状況は男として非常に光栄な状況だ。だが! しかし! まるで、全然! 展開が早過ぎてついていけないんだよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!
展開が早過ぎる! 俺と優稀菜はこういうことをするほどまでの仲じゃないだろう! 優稀菜は素敵な女の子だ。俺なんかよりももっと相応しい男はいるだろう!
「……うー。俊ちゃん、なんか勘違いしていない?」
俺からなにかを察したのか、優稀菜はそんなことを言う。勘違い? なんのことだ。
「……やっぱり、なんでもないの」
少しがっかりしたような声でそう返す。そのあと優稀菜は「アプローチが足りないのかなぁ?」とか言っていたけど、どうしたんだ?
「あ、これ優稀菜の服だ。じゃあ、優稀菜が入っているのかな……んん? あれ? 優稀菜は俊輝に順番を譲って、今は俊輝が入っているんじゃなかったっけ?」
脱衣所で鏡花の声が聞こえる! や、ヤバいぞ!
「お、おい、優稀菜! 浴槽に浸かって隠れろ! 鏡花に気付かれる!」
「……うーん、どうしよっかなぁ……」
聞いていらっしゃらない!?
「俊輝ー、ちょっと入るわよ?」
ば、バカッ! 来んな! 入るな! やめてあげて!
――ガチャ。
しかし俺の願いは届かず……鏡花が風呂場に入ってきてしまった。
「俊輝、優稀菜の服があるんだけど――」
ピッキーン。
台詞の途中で俺に抱きついている優稀菜を見て見事に石化する鏡花。
「な、ななな、ななななななにしてるですかぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
鏡花は動揺のあまり口調が変になってしまっていた。
「あ、あんた、優稀菜! な、なにやってんのよ!?」
「ん? 俊ちゃんとお風呂に入ってるだけなの? わかんない?」
「喧嘩売ってんの!? そんなこと見りゃあわかるわよ! 見りゃあ!」
「じゃあなにが?」
「なんであんたが俊輝と一緒にお風呂に入っているのかを訊いているの! わかんないの!?」
「ちゃんと主語がないとわからないの。理由? そんなの俊ちゃんを落とすべく、優稀なりのアプローチをかけようと思ったからなの」
「な、な、なんですって!?――わたしも入るわ!」
「……は?」
素っ頓狂な声を出す俺を尻目に、鏡花がそう叫んで風呂場から出て行った。
優稀菜と鏡花がなにやら言い争っているから、無視して頭を洗っていたのだが……今さっき、鏡花がすごい台詞を言ったように聞こえたんだが気のせいか?
――ガチャ……。
ドアが開く音に反応して思わず振り返ると――そこには鏡花の全裸が見えた! お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおいッッ! ど、どうなってんだこれは!?
鏡花も出るとこ出て引っ込んでるところは引っ込んでるよな! 胸は優稀菜の方が若干大きいが……ってなに見てんだ俺は!
「むー。鏡ちゃん、優稀のマネをしないで欲しいの」
「ふん。マネじゃないわ。パクリよ」
「なんで最低な言い回しをしたの。……ふーん、だったら」
優稀菜は鏡花に話しかけながら俺の右腕を取る。……ん?
――もにゅん。むにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう。
「!?」
そのまま俺の腕を自らの胸に当てる!
瞬間、俺の手のひらに極上の柔らかさが襲いかかる! こ、これは! ゆ、優稀菜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! お、おまえはっ、一体なにをしたいんだ!?
「……あぁん……うぅ……ふぅ……。鏡ちゃんはこういうことできるの? 優稀は俊ちゃんにこういうことされても全部受け入れられるの」
「〰〰〰〰ッッ!」
艶っぽい優稀菜の声。そしてお顔を真っ赤っかに染め上げて不機嫌にほっぺたを大きく膨らませる鏡花。
怖い顔で鏡花が俺の方に来る。そして……。
――むにゅん。
鏡花も優稀菜と同じように、優稀菜に及ばないが十分――いや、十二分に豊かな胸に俺の左手を埋没させる!
きょ、鏡花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!
な、なんてことしてんだおまえは! 兄として複雑すぎるぞ!
「ぅうん……ぁん……。ど、どうよ、優稀菜。わたしだって、へっ、平気よ」
若干震えていながらも頑張る鏡花。……あの、おふたりさん? 手を放していただけないでございましょうか?
「優稀菜には負けないわ!」
「優稀だって、鏡ちゃんには負けないの!」
俺の手のひらを胸に押し当てながら火花を散らす美少女ふたり! おまえらさっきまで凄く仲良かったじゃん! なにをそんなに争っているんだ!? そしてその争いに俺を巻き込まないでくれるか!? 怖い!
「……優稀菜。こいつ……」
「……うん。まったく気付いていないみたいなの……」
なんかがっかりしている鏡花と優稀菜。……どうした? おかげで俺の両手はおまえらの胸から解放されたわけだが……。
「……まだこいつに想いが届く日は遠いみたいね……」
「……しょうがないの。こういうところを含めて俊ちゃんなの……」
なにやら話し込んでるふたり。声が小さくてよく聞こえない。
「おい。俺は洗い終わったから、おまえらが身体、洗え?」
「……はーい」
「……はいなの」
実のところ、早く風呂から出たい。しかしそうすると、鏡花たちが「ちゃんと浴槽に浸かっていなさい」「風邪ひくよ?」と引き留めるから仕方なく風呂に浸かる。
「ふっふっふ。さーて、鏡ちゃん。優稀と俊ちゃんの甘い一時を邪魔した罰ゲームの時間なの」
「……わたし、さっきお風呂入ったから遠慮しておくわ」
「ダーメ。女の子はお風呂に入ったら、身体は洗わないとはしたないの」
逃げようとする鏡花を捕まえ、強制的に鏡花の身体を洗おうとする優稀菜。……ちなみにこれは、直接見ているわけではなく声と音でそう感じ取れるだけだ。
俺はなんにも聞こえないように両手で耳を塞いだ。
というわけで、ここからは声だけを皆様だけに提供します。ちなみに俺は、ナニモキコエマセン。
「さって、ここをこうして……」
「や、やぁん。や、やめてぇ……」
「やめないの。優稀の恨みは強くてしつこいよ? それに鏡ちゃんのは柔らかくて感度がとてもいいの」
「……ひゃぁん。も、もう……わたしの初体験は好きな人と一緒がいいのにぃ……」
「優稀も俊ちゃんと体験したいから、これで勘弁してあげるの。……ふふふ。ここをこうするとね……」
「あぁぁっ! そ、そこはっ……ゃん……だ、ダメ……あ、あんたはどこでそんなテクニックを覚えているのよ!?」
「それは秘密なの。それにその方が美しくなるんだよ。ほら、名探偵コ○ンのベ○モットだって言っているでしょ? "A secret makes a woman woman."ってさ」
「現実、そういう組織にいるひとがそんなこと言ったらおしまいだと思うんだ!」
「五月蠅いの、鏡ちゃん。今は黙って優稀の罰ゲームを受けるの」
「……ぁ……ぃやぁ……はふぅ……」
……瞑想瞑想。
俺は今、どんなことをふたりがしているのかは全く聞こえないぞ。聞いてないぞ。聞いていないんだからな!
――ちゃぷ……。
誰かが俺が入っている浴槽に入ってくる。
「えへへ。俊ちゃん♪」
――むにゅうぅぅぅ。
優稀菜の声と同時にまたあの柔らかい感触が背中に襲いかかる! そして女の子特有の甘い香りも漂ってくる!
「俊ちゃん、こっち向いて。大丈夫だよ。優稀の大切なところは見えないからさ」
「……本当だな? もし一瞬でも見えたら、今日一日おまえを無視るぞ?」
「……………………俊ちゃん。ちゃんと浸かってるからこっち向いて? その……いつまでもそっぽ向かれてたら寂しいの……ね?」
寂しそうな声を出す優稀菜。……今の間から察する限り、多分見えていたな。危ない危ない。
俺は一応、優稀菜を信用して優稀菜の方に顔を向ける。すると、だきっ。
「やっと優稀を見てくれたぁ。鏡ちゃんは今、身体を洗っているの」
俺に真正面から抱きついてくる優稀菜。生の優稀菜の身体が俺を刺激する!
「……優稀菜。抱きつくのはやめようぜ……」
「やーなの♪」
笑顔で「やーなの」と一蹴する優稀菜。……もうなにも言えない。仕方ない、俺は理性を保ち続けるように尽力していよう。
「あのね、俊ちゃん。優稀がこうしているもうひとつの理由はね、俊ちゃんにお礼を言いたかったからなの」
「お礼? なんのことだ?」
俺に抱きつきながら、優稀菜は俺と視線を合わせて真面目そうな顔つきになる。
「ありがとう。あのとき、私に声をかけてくれて」
「……いきなりどうした?」
いつもの優稀菜の一人称が変わって少し驚いて返す俺。
「数日前に言ったよね。私はずっとひとりぼっちだったって」
……たしかに。最初に出会ったときや、仮面男に脅迫され、自殺にまで追い込まれそうになったとき、優稀菜はそんなことを言ってたような気がする。
「……私はね、中学のときは孤立していたんだ。別にいじめられていたとかじゃないよ。ただ、周囲のみんなが私の存在を認識していなかっただけ」
「…………」
「でもね、今となってはしょうがないなって思う。私だって友達を作るっていうことを知らなかったから。裏の仕事では『仲間なんて足手纏い。自分ひとりが生きればそれでいい』なんて考えて、すっかり冷めきっていたから」
「…………」
「でもね、実は……本当はね……ずっと寂しかったんだ。さっき言った私の言葉は、裏を返せば『誰も信じてはいけない。信じられない』だからね」
「…………」
「それは仕方ないなって思ってた。だってそれが現実だったから。私の目の前で裏切るひとや裏切られたひとはたくさん見てきたから、誰にも背中を預けられなかった。だって裏切られたらそれでおしまいだからね。私はそのことを突き付けられた」
「……そうか」
……その気持ちはよくわかる。事実俺も、樹里に会うまで誰も信じられなかった。
裏社会は、本来人間同士の関係で大切な「絆」を持つことは容易にはできない。だって裏切られたら優稀菜の言う通り、ほぼ百パーセント死ぬからだ。
「だから……俊ちゃんと出会って仲良くなったときはね、本当に嬉しかったんだ。だってやっと、私を認識してくれて、信用もしてくれて……そして私自身が信用できるひとができたんだから」
「……そうだったのか」
俺の登場は優稀菜にとってそこまで大きかったのか。たしかにあのとき俺にとって、樹里の登場はなかなか大きかった気がする。
「だからね、あのとき――俊ちゃんがSICに入って私の敵になっちゃったのを知ったときは本当にショックだったんだ。だって、信じていたひとに裏切られたみたいで……。だから、鏡ちゃんにあんなことを……」
「……もう気にしてないわよ」
優稀菜は身体を洗っているはずの鏡花がそう言った気がして振り向く。しかし、鏡花は身体を念入りに洗っているだけだった。
そして、改めて俺を見上げてくる。
「俊ちゃん。だから私は言いたいんだ。『ありがとう』って。あのときに声をかけてくれなかったら、私の今のこの楽しい時間は存在しないから」
「……その必要はないよ」
「え?」
不思議そうな顔で見上げてくる優稀菜。
俺は優稀菜と目を合わせて頭を撫でる。
「きっかけを作ったのは俺かもしれない。でも俺は、おまえにどうしろとはなんにも言ってないぞ? ひとを信じようと頑張って行動したのは、誰でもない優稀菜自身じゃないか。むしろ俺が感謝したいぐらいだ。そこまで俺を信用してくれていたことにさ」
「え? でも……」
「大丈夫さ。信じたひとに裏切られて平気な人間なんてこの世にはいない。信じていたひとに裏切られたと思って、ショックを受けて、それで起こした過ちは、決して恥ずかしいことじゃない。だってそれは『そのひとを本当に信じて疑わなかった』っていう純粋な感情の裏返しなんだから。依存じゃない。『信じる』という感情は、『依存』みたいに他人任せで無責任な感情じゃないだろ?」
「…………」
「だからな、別におまえが俺にそんなに感謝を感じなくていいんだ。むしろ自分を誇ってもいいくらいだと思うぞ? だって今まで知らないことをチャレンジして見事に達成したじゃないか。俺や鏡花、樹里や先輩たちや歩美、琴美。ほら、こんなに友達ができた。これを現実にしたのは紛れもない、おまえだ。誇れ」
「…………」
「おっと、俺はなにを偉そうに語ってんだ。ごめんな、優稀菜。なんか俺、熱くなってたみたいだな。ヘンなこと言ってねぇか?」
話し込んでしまったようだ。ちょっと引いてるかもしれない。
「……そっか。誇ってもいいんだ……優稀が……優稀に……」
俺を見上げてくる優稀菜の一人称が元に戻っていた。瞳には僅かに涙が溜まっている。
「ねぇ、俊ちゃん」
「なんだ?」
「優稀はさ、自分に自信を持っても……いいのかな?」
「いいに決まってんだろ。自信を持てよ、優稀菜。俺が保障する。おまえは立派なことをしたんだ」
「……そっか……やっぱり、優しいな、俊ちゃんは」
薄く微笑み、立ち上がる――って、おい! 俺は速攻で回れ右。優稀菜の身体が見えないようにする。
「あ、ごめんなの。優稀はもう上がるね。じゃあ、鏡ちゃんのお話も聞いてあげてね」
そう言い残して、優稀菜は風呂場から退出していった。……ふぅ。やっと、ゆっくりと風呂に浸かれ――。
「さって。やっと入れるわね」
――なかった。ちゃぷっという音がしたかと思うと、鏡花が浴槽に入っていた。
「ふぅ……酷い目に遭ったわ。はぁ……」
俺の背中に背中を合わせて溜息を吐く鏡花。
「……鏡花、俺、上がるぞ。ゆっくり浸かってろ」
「……え? ちょ、ちょっと! 優稀菜とは入れてわたしとは入れないの!?」
俺の宣言を聞いてショックを受ける鏡花。……正直、俺はどちらとも入れません。
「えぇ!? ちょ、本気で上がる気!? ちょ、ちょっと待ってよう!」
……なんか鏡花が涙声になりつつある。……しょうがねぇなぁ……。
「入ってやる。でも優稀菜みたいに抱きつくのだけはやめてくれ」
「……わ、わかったわ……残念」
小さな声で聞こえにくかったが、どうやら俺の言葉を聞いてくれたらしい。
「……ねぇ、俊輝……」
「なんだ?」
鏡花が背中合わせに弱々しく俺に話しかけてくる。
「わたし……強くなりたい」
「……どういうことだ?」
言ってる意味がよくわからない。おまえは充分強いと思うんだが?
「わたしは……隊長よね? あなたや優稀菜たちがいる十番隊の」
「そうだな。それがどうしたんだ?」
「……でも。わたしは俊輝や優稀菜より強くない……。自分が……みんなを引っ張って行く隊長なのに……弱いのは許せない」
「…………」
気がついていたのか。優稀菜も自分より強いことが。
「ねぇ……俊輝はどうやって強くなったの? 思い出せない?」
「うーん。そうだなぁ……俺は気がついたらFBIにいたからな。自然に身についちゃったって感じだな。で、鏡花はそんなこと訊いてどうするんだ?」
「え? いや、参考に、ね。出来るのなら真似しようと――」
「それはやめとけ」
「え?」
「他人のを真似したって自分は強くなれないぞ。自分のやり方でやるもんだそれは」
「…………」
鏡花が黙りこくってしまう。
「いや、決して、他人の意見を聞くことは間違っていない。でもな、やっぱりそれは他人のやり方なんだ。自分のやり方は自分で決めた方がいい。本当に参考までにしておけ」
「……そっか。やっぱり自分で考えなくちゃ……ダメ?」
「自分がどういうように強くなりたいのかで変わってくるんじゃないか? 昔の俺の志向は忘れたけどな、今はちゃんと自分の志向があるぞ」
「なに?」
「自分を信用してくれているひとを守る」
「!」
ちょっと恥ずかしかったけど……言ってみた。
「どうだ? 参考になったか?」
「……ありがとう、俊輝。少し気分が楽になったわ」
「いいんだ。俺はおまえの兄貴だぞ? 相談ならいつでも乗ってやる」
「……そっか。もうあんたの中じゃ、わたしは『妹』なのね……」
少し複雑そうな顔をして呟く鏡花。……どうした?
「……じゃあ、わたしも上がるわ。ゆっくり浸かっててね。自分で考えてみるね」
俺ともう話すことがなくなったらしく、鏡花が風呂場から出て行った。
「……ふぅ……これでようやく、風呂に浸かれる」
俺は鏡花に言われた通り、ゆっくり浸かった。
To be continued




