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―Kyoukas story Episode⑤ 現実―

「俊輝!」



 いきなり落とし穴に入った俊輝にビックリしたわたしだった。

 わたしも俊輝を追おうと落とし穴に入ろうとする。しかし……。



「鏡花! 入る必要はないわ! どうせ、今のあんたじゃ、俊輝に追い付けないわよ!」



 樹里がわたしの腕を掴んでわたしを止める。



「別にいいわよ! 放して――」

「歩美が来ているのよ! ここにっ!」



 ――っ。なんですって……?



「歩美は今、琴美と一緒にいるはずよ!」

「いいえ、さっき連絡が入ってね。もうここに着いたらしいわ。あんたに話したいことがあるんだって」

「なによっ!?」



 俊輝を追いたくて怒鳴りつけるように樹里に返してしまうわたし。



「――あんたが私から聞きたがっていたことよ」



 その言葉を聞いて一気に頭が冷える。



「!? 本当!?」

「ええ、本当よ。場所は二年B組……私たちの教室」



 そこにいるのね……歩美が……!



「鏡花ちゃん。ここは、先輩たちに任せて、行ってもいいよん♪――団体様方ー、強行突入だよん♪」

『おおーッ!』



 無数の警官たちが綺羅さんの言葉で一斉に落とし穴の中に入る。



「さぁ、行こうか、加賀美優稀菜さん? キミはボクらで保護するよ」

「……ありがとうございます。龍侍先輩、綺羅先輩……」

「いいのいいの♪ 優稀ちゃん。じゃ、いこっか?」

「……はいなの」



 優稀菜は綺羅さんと龍侍さんに保護された。もう、大丈夫だろう。



「じゃ、行ってくるわ、樹里」

「うん。いってらっしゃい。私も少ししたら行くわ。――どんなこと話されても、受け入れるのよ。現実を」



 ……わたしの番か……。次に現実を見ることになるのは。



「……絶対に逃げないわ。絶対に受け入れるッ!」



 優稀菜は死ぬ覚悟で現実を受け入れた。今度はわたしの番だ。

 わたしは二年B組の教室に向かった。


 

     ❁ ❁ ❁



 わたしは樹里の言われた通り、二年B組の教室の前にいた。

 不思議なことにここの階だけ警官隊はいない。

 ――ガララッ。

 わたしは教室内に入る。――そこには。



「歩美……」

「こんばんは、鏡花さん」



 月明かりの窓辺に立っている歩美。



「ここが、普段、兄さんや鏡花さんたちがいる教室なのですね……」



 歩美は教室内を見渡し、わたしに面向かって言う。



「今日はお話をしにここに来ました」

「……わかっているわよ」

「どうぞ。警察の皆さんはこの階から立ち去っていただきましたので、なんでもお話しますよ」



 そう……。この娘もそれなりの覚悟があるってわけね。……わたしに、真実を教える覚悟を。



「わかったわ」

「どうぞ」



 悲しそうな笑顔を浮かべる歩美。



「俊輝は……杉並俊輝は、元SICの十番隊の隊長。……そうよね?」



 わたしが最初の質問をする。すると……。



「ええ、そうです。兄さんは、第一代目、初代十番隊の隊長ですよ」



 ……やっぱり。



「……どうして、SICの隊長にあいつがなったのよ」

「……兄さんはですね。元強力なFBIの捜査官だったんです。――兄さんの親はFBIの幹部のひとりでした。結婚して生まれた兄さんを、幼いうちに色々な訓練や英才教育を受けさせ、小学二年生程度の歳にして兄さんは仕事を請け負うようになるほどに、鍛えぬかせました」



 ……そんなに幼いうちから現場に出ていたのね、あいつ。通りで強いわけだ。……酷い親ね。俊輝を一般人として生かせてあげれば良かったじゃない……。



「兄さんの親はこう考えていたんですよ。自分がとんでもない立場にある以上、自分の家族は格好の的になる、と。だから、自分で自分の身を守れるように、教育したんです」



 ……そっか。見方を変えたら、ある意味、それは愛情になるんだ。自分のため、そして俊輝が死なないようにするための。



「四年前のことです。兄さんが日本にできたSICの十番隊にスカウトされて、派遣されたのは。ちょうどその頃の兄さんの同期で部下だったひとが樹里さんですよ。これが、兄さんがSICの隊長になった大まかな説明です」



 ……なるほど。それだったら、樹里も恐ろしいほど強いわけだ。そして、部下っていうことは上司の俊輝には力が及んでいない証だ。同期だったらなおさら。だから、樹里はわたしに断言できたんだ。



「こんなんじゃ、俊輝には勝てない」って。

「大体……わかったわ。次、訊いていいかしら?」

「どうぞ」



 正直、わたしの先輩に当たるひとを部下にしてしまって複雑なわたしだった。しかし、頑張ってわたしに答えてくれる歩美のためにも、わたしはショックを隠す。



「……その四年前に、無くなったんでしょう? 記憶が」



 おそらく記憶を失ったのは四年前だ。

 歩美はクスリと悲しそうに笑う。



「そうですよ。兄さんの気憶が封印されたのは、四年前。かの有名な事件『武装警察官集団デモ事件』の一日後です」

「……なにがあったのよ……その日」



 ポタ……ポタ……。

 歩美の瞳から涙の滴が落ちる。



「だ、大丈夫です……。お話します。その日の数日前に、兄さんにあるひとりの科学者が近付いたんです」

「誰?」

「……ジェームズ・オリバーソン……忌々しいこの名前、聞いたことはありますよね?」

「!」



 じぇ、ジェームズ・オリバーソン……ですって……?



「も、元SIC十三番隊科学研究科初代隊長! SICの黒歴史……最凶のマッドサイエンティスト! 現在、全国的――いや、国際的に指名手配中のSS級犯罪者!」



 あ、あのクソジジイか!



「はい。あのひとは兄さんに接して、髪の毛を兄さんから採取したんです」

「な、なんのために……?」



 ポタ……ポタ……。

 歩美は頑張って堪えようとしているが、涙が止められなかった。



「ね、ねぇ……? ホントに大丈夫?」

「は、はい……。大丈夫です。――彼は兄さんの髪の毛を使って、ある実験を行っていたんです」

「実験? なんの?」



 歩美はわたしの質問に一回息を吐き、意を決したように答えた。



「日本、アメリカ……その他、さまざまな国で本格的な実験は一切禁止とされている、DNA技術至上、最もしてはならない、禁断の実験ですよ……」



 ……っ!



「ま、まさか、それって――」

「ええ」



 歩美は答えた。



「――あるひとは『神の技術』と畏怖し、また、あるひとは『悪魔の技術』と非難した禁断の実験……人間のクローン実験です」

「…………」



 く、クローン実験! あのジジイ。俊輝のクローンを作ろうとしていたのか!



「兄さんは強力なソルジャーです。そんな兄さんの記憶もどういう方法かで盗み出し、量産しようとしたんです。それに兄さんが気付いたのが『武装警察官集団デモ事件』の日」



 そこで、その事件か……。



「あのとき、警察官を退けるため兄さんや樹里さんを含めた、数人のSICの捜査官が現場に向かったんです。――そのとき、兄さんは気付いてしまった」

「!?」



 あ、あいつ……まさか……。



「その事件で試したの!? 俊輝のクローンの出来を!」

「ええ、そうです」



 な、なんて奴だ……。



「しかし、不安定のまま成長させられ、現場に寄こされたクローンは途中で死んでしまいました。そのときに、兄さんは確信したんです。ジェームズに自分のクローンが作られていることを」

「そ、そう……だったの……」



 あ、あいつ……俊輝はどんな気持ちだったんだろう。勝手に作られて、勝手に現場に派遣された自分のクローンの死を目の前で見せつけられたら……。



「激怒した兄さんは、ジェームズの研究所に乗り込んだんです。そこには……」

「そ、そこには……?」



 涙を流しながら語る歩美。



「……完成された……二体のクローンが、鉄の容器に入れられていたんです」

「!?……そ、そのクローンは……? し、死んだの……?」

「……いいえ。今も生きていますよ。最も、一体は記憶を失っていますが」



 ま、まさか……ッ!



「い、今の俊輝が……?」

「いいえ。それは違いますよ。兄さんは、オリジナル――本物です」

「……ほっ……」



 首を横に振る歩美。よ、よかったぁ……。俊輝はクローンじゃない……。



「じゃ、じゃあ、そのクローンはどこへ……? っていうか……」



 わたしは、ずっと抱いていた歩美への違和感に気付き歩美に訊いた。



「歩美。なんでその話には『あなた』がいないの……?」



 そうだ。よくよく考えてみたらそうじゃない。

 今までの話には「その当時の歩美」がいないのだ。どこにも。

 出てきているのは、俊輝、樹里、ジェームズ。それだけだ。歩美がいない。

 なんで? 歩美は俊輝の一歳年下の妹のはず。俊輝の親の性格を考えると、当然妹にも兄と同じような教育を与えるに決まっている。そして歩美の性格上、兄貴に甘えてついていくはずなのに。……そういえば……。



「あ、あんた、なんで自分の親を『兄さんの親』って言うの?」



 歩美は「私たちの親」じゃなくて「兄さんの親」って言っている。まるで、自分の親じゃないかのように。



「……流石、鏡花さんですね」



 遠い目をして涙を流す歩美。



「……そうですよ。元々、兄さんは妹なんて持っていません」

「!」

「もっと、言いましょうか?」 



 歩美が泣きながら続ける。



「初めから『杉並俊輝』なんて名前の人物……少なくても、この学園にはいないんですよ……」



 !? じゃ、じゃあ、どういうこと……?



「あなたは根本が間違っていますよ。――私が言っているのは『兄さん』であって、さっき以外、一回も『杉並俊輝』だなんて言っていませんよ? でも、あのひとは正真正銘、私が言っている『兄さん』とは同一人物です。さて、どういうことなのでしょうね」

「!」



 ま、まさか……。あ、あいつ……封印されたのは記憶と――。



「――気付いたようですね。そうです。兄さんは……記憶だけでなく、本当の名前も封印されたんですよ」

「で、でも。そ、そんなことしたら個人履歴と住民票でバレちゃうはず――」

「……私のSIC管轄部署を忘れましたか?」

「!!!」



 あ、歩美は……コンピュータ関連ハッキング技術のエキスパート部隊の隊長!



「書き換えたんですよ。戸籍を、全て」



 な、なんてこと……。



「……もう気付いているでしょうが言いますよ?」

「……え、ええ」



 もうわかっている。この娘は――。



「私は……兄さんのクローンです。そして、兄さんの本当の名前は――」




                      To be continued

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