―第壱拾陸章 銀色のパーシング―
次の日。
いつものように学園に向かう俺と鏡花、歩美。しかし……。
「お、おい、鏡花? 大丈夫だって。仲直りぐらいできるさ」
たぶん昨日の優稀菜のことを引きずっているんだな。テンションが低い。
「……あ、あんたは……もっと自分の、自分の価値を、知るべきだと思うの……っ」
小さな声で力強く俺に訴えてくる鏡花。
価値? 俺の価値なんてそれほど高いもんじゃないぞ。さっぱり意味がわからん。
「兄さんは、鈍感です」
半眼の歩美に、前に鏡花に言われたのとまったく同じことを言われた。
……鈍感? 俺は鈍感なのか? 全然気付かなかったぞ。……あ。この時点ですでに鈍感なのか。なるほど、納得した。
「……バカ……」
ゲシッ!
「おおうっ!?」
俺の膝を蹴りやがりましたよ、この銀髪美少女。結構痛い。
まったく、なんだってんだ?
❁ ❁ ❁
この日、優稀菜は学校を休んだ。
樹里は不思議そうにしているのかと思いきや、そうでもなく平然としていて気にもしていなかった。
「珍しいな、優稀菜が休むなんて」
樹里にその話題を振る。しかし、樹里の反応は俺の思ったのとは違った。
「……ふん。知ってるわよ、そんなこと……」
「……おまえ、優稀菜が休んでんだぞ? 少しは驚かないのか――」
「――そうじゃないわよ」
樹里がハッキリと俺に――いや、俺の横で沈んでいる鏡花に向かって言う。
「優稀菜が休んでいる理由ぐらい知っているって、言ってんのよ」
『……は?』
「……黒幕の仲間のひとりなんでしょ?」
苦しい表情の樹里は驚く俺たちに胸ポケットからなにかを取り出す。それは、俺が先生に貰った手帳と同じものだった。
「……え? じゃあ、あんた――」
鏡花の言葉を遮って樹里が頷く。
「ええ。私もSICの捜査官よ」
『!』
樹里が……SICだって。
「……ちょっと場所が悪いわ、鏡花。俊輝はここに残っていて。私、鏡花とお話したいのよ」
「あ、ああ。いいぞ」
促す俺。……もう慣れたよ。こういうこと。なんで俺の周囲のひとはこういうやつが多いんだ?
「ありがと。じゃあ、鏡花。行きましょう?」
「……ええ。わかったわ」
樹里と鏡花は教室から出て行った。まったく……なにが起こってんだよ、俺の周りで。
放課後まで一気にジャンプして、生徒会室にみんなが集結していた。
樹里は鏡花と話をしたあとに早退した。
「じゃあそう言うことで、頑張ってね、みんな」
『……はい』
綺羅先輩はあまりにも気が抜けていたため司会になっていた龍侍さんの言葉でお開きになった。……まだ立ち直っていないらしい。
俺は瀬良さんに話しかける。
「えっと、瀬良さん?」
ビクンッと瀬良さんの体が傍から見てもわかるように弾んだ。……猫みたいだな。
「はっ、はひっ!? あ、ど、どうも、こ、こんばんはっ」
……うん。もう完全に俺に恐怖感があるよね。若干、おかしくなっている。
「昨日はゴメンな。怖がらせちまったな」
「い、いえいえっ。あ、アタシが余計なことしようとして、す、すみませんでしたっ」
「お、おいおい。そんなにかしこまるなよ……」
「い、いえっ。あ、アタシがでしゃばってっ、しゃ、射殺しようとしてゴメンなさいっ! ゴメンなさいっ! ゴメンなさいっ!」
大事なことらしく三回も「ゴメンなさいっ!」を繰り返す瀬良さん。……復活してきてないか?
「あ、ああ。もういいって。もう怒ってないよ?」
「ほ、本当?」
瀬良さんが今日初めて、俺と視線を合わせてくれた。
「ああ、怒ってない。だから、もう怖がるなって」
「わ、わかった……。よかったぁ」
ようやく安心していつもの笑顔を見せてくれる瀬良さん。
「じゃあさ、アタシのこと『琴美』って呼んでくれる? 呼び捨てで。なんだか『瀬良さん』じゃあ、距離置いているみたいだからさ。ね?」
「ん? そんなのでいいのか? 俺は怖い思いをさせちゃったんだぞ?」
「まぁ、怖かったけどね。でも、あのときさりげなく、アタシのこと琴美って呼んでたでしょ? 正直、嬉しかったんだよ?」
へぇ。そんなことで嬉しいと感じるものなんだ。ていうか、耳聡いね。
「わかったよ。今度から瀬良さんのことを琴美という。それでいいのかい?」
「うん。いいよ。エヘヘッ」
うんうん。笑っているし、いいのだろう。
俺はひとまず家に帰るため鏡花と歩美を見つけ、この場をあとにした。
❁ ❁ ❁
『……みんな、準備はオーケー?』
「……いつでも」
「……いいっすよ」
『狙撃と監視は任せてください』
『監視カメラのハッキングに成功しましたよ』
鏡花、俺、瀬良さ――琴美、歩美の順で綺羅先輩に応答する。
昨日と同じ場所、時刻も昨日とまったく同じ時間。組み合わせも同じだった。
『おいおい綺羅ちゃん。そんな調子じゃあ、活気が付かないよ?』
『わかっているよ、龍ちゃん……』
まだ、治っていないらしい。
『ゴメンねみんな。じゃあ、行こうか』
『了解しました』
龍侍さんの言葉に全員が反応する。
「あの……お願いがあるんですけどいいですか?」
『ん? なんだい、鏡花ちゃん?』
鏡花が龍侍さんに言った。
「わたしと、俊輝に追わせていただけますか? 優稀菜を」
「! きょ、鏡花、おまえ……」
「俊輝は黙っていて! お願いします龍侍さん!」
『……理由は? 理由はなんだい?』
龍侍さんの質問に一瞬詰まるが、
「彼女は……優稀菜はわたしたちの友達ですからっ!」
真っ赤な顔をしながらもハッキリと言う鏡花。――思わず泣きたくなった。鏡花、おまえ、いいやつだなぁ……。
『……いいよ。じゃあ、その友達を救ってやりな。絶対にだよ。ボクたちはもうひとりを追うよ。――じゃあね』
「あ、ありがとうございますっ!――行きましょう、俊輝。優稀菜を助けるわ」
龍侍さんに礼を言った鏡花が俺に話を振る。
「ああ! もちろんだ!」
俺たちは優稀菜を探すため校舎内を走った。
❁ ❁ ❁
『……こちらは琴美。別館校舎二階多目的ホール付近にて人影を捕捉。……女ですね。おそらく、昨夜、シュンくんと接触した人物とみて間違いありません』
「わかったわ。ありがとう、琴美」
『いえ。アタシは待機してあなたたちを見ています。頑張ってくださいね。邪魔はできるだけしませんので、今から通信を切りますよ。あと……万が一のときには狙撃許可をしなくても狙撃してあなたたちを助けます。そこはご了承を。アタシの我儘です。――以上』
――ジッ。
通信が切れた。頼りがあるなぁ、琴美は。いい娘だよ、あの娘は。
「行きましょう、俊輝」
「おう!」
俺たちは指示通り、別館校舎二階に向かった。
❁ ❁ ❁
「こ、これは……!」
二階別館の入口。そこには至る所に無数のワイヤーが張り巡らされている。
「危ないわね……」
鏡花がワイヤーにピンっと触れた瞬間。
――ビッ!
いきなりワイヤーが動き、ワイヤーに触れた鏡花の人差し指は切られて血が出ていた。
「……どうやら全部、優稀菜が操っているらしいわね……。自分の指か腕にでもこのワイヤーの先を巻きつけて、ちょっと動いたと感じたら引く。そうすれば自動的にワイヤーが動くから触れている物を切断する。……これ、気付かなくて突っ込んだら身体、バラバラになっているわよ」
!? お、おいおい、優稀菜。なんてもん仕掛けてんだ。
はさみを取り出して解体する鏡花は、俺にもはさみを差し出す。
「ほら。俊輝も手伝って」
俺は鏡花から渡されたはさみで、ワイヤーを切断していく。
優稀菜……なにを考えているんだ?
To be continued




