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―Yukinas story Episode① 迷い……そして、絶望―

 あのとき。

 優稀、加賀美優稀菜が依頼を引き受けたときの夜だ。

 夜の十二時過ぎ。

 優稀はまだやっていなかったエロゲを攻略していた。

 昨日までは正直テンションが低かった。いや、だって昨日やったやつがバッドエンドに直行してしまった――否、直行させたから。……だってさ、そうしないとさ、専用のCGが取れないんだもん……。

 まったく、バッドエンド専用のCGとかやめて貰いたいの。……まぁ、そうしないとせっかく作ったバッドエンドを誰も見ては貰えないから、仕方がないかもしれないけどね。

 その前の日は、リ○バスやって泣いちゃったからね。うんうん。今思い出しても泣けるよ、リフレ○ンは。製作者は神だと思うの。世界に誇られるのも当たり前だと思うんだ、うん。

 俊ちゃんも今頃、楽しんでいるかな?……って、あれ? 俊ちゃん、ロッカーにしまったまんまじゃなかったかな? うーん…………おっ?



「お、おおっ! エロシーンキタ――――――――!」



 さっきまでの、俊ちゃんへの心配も完全に消え失せて、優稀はそう叫んだ。

 前日とかはバッドエンドで沈んだり、リフ○インで感動したりで、純粋にエロシーンを堪能できなかったから、テンションが上がり、眼をギラギラ光らせている優稀だった。



「ふんふーん♪……ん?」



 エロシーンに差し掛かったそのとき。



「もぅ……なんで優稀が盛り上がっているときにメール来るかなぁ……」



 ネットワーク回線のメールが来て雰囲気をぶち壊された優稀は、仏頂面でメールの差出人の名前を見る。



「…………っ」



 ――「非通知」の文字。



 ……そっか。また、か……。久しぶりなの……。

 どんなことかを察した優稀は、ゲームを止めてセーブし、メールの内容を見る。

 優稀は裏社会ではちょっとばかり有名な「なんでも屋」だった。お金さえ払ってくれれば、できることならなんでもする。それが優稀の仕事。あと、指名手配犯を捕まえる「ハンティング」もやっていたっけ。まぁ、名前は偽名でコロコロ変えているんだけどね。

 だから、その世界のひとたちから依頼を受けるのは、大して珍しいものではなかった。



 ――夜に向島学園に入って秘密を探っているのがSICにバレてしまった。だから、俺が探す間、SICの捜査官達を引き付ける囮役と捜査官を手当たりしだいの抹殺を買ってくれないか? 報酬は三十万だ。



 あまりにも簡単な内容に間の抜ける優稀。しかもそこは、優稀が通っている学園。これほど簡単に金が稼げる仕事は他にない。それに報酬は三十万。悪くない。まぁ、人殺しはしない主義なんだけど、殺したと見せかけて捜査官達を縛って、どこかに幽閉しとけばいっかと思っていた。ていうか、学園の噂の人影の正体はあんただったんだ。

 だから優稀はその依頼を引き受けた。しかし、次に送られてきたメールを見て、優稀の時間が止まる。

 それは、学園に潜伏しているSICの捜査官の名簿だった。



「な、なに……? これ……?」



 そこに書いてある名前はほとんどが優稀の知っている人物。



 中目無綺羅。……か、会長……?

 京竹龍侍。……このひとまで……?

 十七夜鏡花。……きょ、鏡ちゃん……?

 雛形景。……せ、先生……?

 杉並歩美。……あ、歩美ちゃん……?



「じゃ、じゃあ、も、もしかして……」



 優稀は急いで名簿の他の名前を確認する。……ほっ。よ、よかった。俊ちゃんの名前はない。妹の歩美ちゃんがそうだから、もしかしたらって。

 ほっと、胸を撫で下ろす優稀。



「ん?」



 またメール? 通達?



 ――今日、先ほど。学園で十七夜鏡花が誰かと接触した。しかもそいつは、逃走も成功している。おそらくSICの捜査官になると思うから、今のうちに名前を記載する。



 ああ、なんかあったね。SICは正体を知ってしまった一般人を味方につけるんだったっけ? ていうか、早いね。よくそんな情報見つけたもんだ。名前まで調べるなんて、ご丁寧なもんだ。それほど重要なモノが隠されているのかな? 興味ないけど。



 ――名前は杉並俊輝。前述した杉並歩美の兄だ。



「――っ!」



 ――以上だ。じゃあ、頼んだぞ。



「…………」



 優稀の、頭が、ホワイトアウトした。

 ……そして、一回は覚悟を決め、俊ちゃんと鏡ちゃんに盗聴器を仕掛けたんだけど、やっぱり挫折。

 依頼を断るため、優稀は依頼主にメールを送った。



『依頼は私に解決することができるようではございませんので、お断りいたします。本当にすみません』



 送信っと。

 ふう、これでオッケーだよね?



「ん?」



 メール? しつこいなぁ。無理だっつうの。

 でも一応見ておく。見ないで面倒な目とかに遭いたくないし。



 ――なんだ? 怖気づいたか? 加賀美優稀菜。



「!?」



 なん……だって……?



『誰ですか、それ?』



 なんでもないように返す優稀。……大丈夫。こういうのは大体ハッタリだ。

 メールが返ってくる。



 ――おまえの名前だろう? もっと言ってやろうか? 二年B組出席番号四番、もと一年D組だっけか? そのときの番号も同じ四番だ。まぁ、おまえのことだから、この「加賀美優稀菜」って名前は偽名の可能性もあるがな。



「!?」



 こ、こいつ……。なんでそんなことを……。ま、偽名じゃなくて、本名なのはバレてないみたいだけど。

 また、メールが来る。



 ――ネタ晴らししてやろう。俺はおまえと同じ学園に通ってんだ。教職員か生徒か、考えは自由だが、おまえを見ているんだぜぇ? 気付いているか知らねぇけどな。だから、おまえは俺の思うがままだ。



 ……そっか……。



『だったらなおさら拒否する。同じ学園の生徒を襲うようなやつに雇われるほど、私は堕ちていない』

 そういうやつは大嫌いだ。吐き気がする。



 メールが返ってくる。



 ――ふ~ん。そんなこと言っちゃっていいのかい? だったら、俺は芹沢樹里を殺すぜぇ?



「!」



 こ、こいつ……。



 ――言っただろう? おまえは俺の思うがままなんだよ。なんでも知っている。おまえの中学時代とかもなぁ。――依頼を断れば芹沢樹里は死ぬ。おまえに殺し方を選択させてやるよ。安楽死、以外でなぁ。



 ……な、なんてことを。……ジュリちゃんはまったく関係ない一般人のはず……。なんでそんな、優稀のためにジュリちゃんが……。で、でも、引き受ければ俊ちゃんが……。

 迷う優稀にまた、メールが来る。



 ――迷っているか? おまえの友達っていう理由だけで関係のない一般人が殺されるのを知っていながらみすみすと拒否するか、それとも、おまえの好きな男かつ、初めての友人である杉並俊輝を敵に回すか。



 優稀の好きなひととそんなことまで……。本当になんでも知っているんだ……。

 メールは続く。



 ――チャンスをやろう。依頼を受ける期間は三日だけにしてやる。そして、捜査官は杉並俊輝だけは殺さなくていい。そして俺を裏切らないのなら芹沢樹里は殺さない。終わったら、俺は向島学園から出て行ってやるよ。そのかわり、依頼料は無しだ。



 ……もう、従うしかない。

 こいつには優稀が見えている。弱点も知っている。これじゃあ、優稀の命も危ない。



『……わかった。引き受ける』



 ――ふん。じゃあ、明日から三日間だ。頼むぜ。



 そしていざ、行動開始したのは次の日の日曜日。この日には見回りはなく優稀はただの護衛というだけの仕事だった。

 ――でも今日は、見回りがあった。もちろん俊ちゃんも一緒に……だ。

 あのとき、途中で依頼者(?)に初めて会った。こんなことを訊かれたな。「この学園に入れない部屋はあるか?」だって。知らないよ。もう。ていうか、あんた教師かなんかでしょ? 誰かは知らないけど、優稀が知るわけないじゃん。

 そして、二階階段付近で物凄い殺気を感じたときには、優稀もその男も同時に二手に分かれて逃げた。

 不運なことに下に逃げた優稀を追っかけてきたのは俊ちゃんだった。

 新米とは思えないほどのスピードで優稀に追いかけてきた。逃げ切るのは難しいと踏んだ優稀は、仕方なく俊ちゃんと戦うことを選んだ。気絶させるだけのために。

 しかし、ワイヤーで俊ちゃんを締め上げた瞬間、優稀は涙が止まらなくなった。

 張り裂けるような胸の痛み。流れる涙。そして――。



「……声……」



 雄叫びのような……俊ちゃんの声。

「撃ち殺したら」とか言っているあたりから察するに、スナイパーがいたのかな?  だったら、スナイパーは優稀が俊ちゃんを縛っていたから俊ちゃんが殺されると思ったんだろうね。



「……あのときの俊ちゃんは……」



 いつもの俊ちゃんとは違っていた。まるで、猛獣が吠えたような恐ろしい形相だった。

 優稀は俊ちゃんに守られたっていう嬉しい気持ちよりも、俊ちゃんが、優稀の知っている俊ちゃんがどこかに行ってしまったようで……とっても、とっても……。



「……寂しいよ……。ぐすんっ……」



 そのあとに現れた鏡ちゃんを見た瞬間。優稀の感情は、爆発した。



『……あなたが……あなたがここを夜な夜なまわっていたからっ。優稀は……私はっ! 大切なひとを失った!』

『絶対に、絶っ対に許さないっ! 私はあんたを恨むよ、十七夜鏡花ッ!』



 ……バカだなぁ、優稀。あんなこと言ったら……鏡ちゃんに嫌われちゃうじゃん……。

 自分の友達のことになると必死になる優稀が……嫌われたくないと思っている優稀が、あんな、自分から友達に嫌なやつと思われるようなことを言うなんて……。しかも、鏡ちゃんは俊ちゃんの仲間なんだよ。それじゃあ……。



「優稀は……優稀の手で……失っちゃったんだ……」



 もう頭が真っ白な優稀に、メールが届く。



 ――今回はご苦労だった。残り明日、頑張ってくれたまえ。



 もう返す気力もなく、優稀にはそのメールの無機質な文字だけが頭に刻まれた。



                       To be continued

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