―第壱拾弐章 銀色のミーティング―
コンコン。
「失礼します」
「はーい。いらっしゃーい♪」
生徒会室。
俺は迎えてくれた綺羅先輩の声が響いた。
見れば、会議用にコの字に並べられている机に設置された椅子には、綺羅先輩、鏡花、歩美、龍侍さん、あと青髪をアップテールに纏めた小柄な美少女の五人が座っていた。あの小柄の娘は誰だろう?
「さて、あとはあのひとが来れば、全員揃うわね」
鏡花が呟く。
「ほらほら、早く座りなよ、俊くん♪」
「あっはい、すみません」
座るように綺羅先輩に促され、残りの空席である鏡花の隣の席に座る。
コンコン。
「来たみたいね」
「はい」
「やっと来たよ♪」
「やれやれ……」
「……ふあ~ぁ」
鏡花、歩美、綺羅先輩、龍侍さん、の順でそれぞれ言う。青髪の娘に限っては欠伸していた。
「おう、待たせた。全員いるな」
入ってきたのは、俺のクラスの担任、雛形景先生だった。え? 先生。
「……おっ。報告通りだ。都合がいいな」
俺を見て言う先生。? どういう意味だか全然わからない。
しかし、先生はもう俺を見ておらず綺羅先輩に話しかける。
「さて、では……何回目だっけ? ここでの会議って?」
「記念すべき第一回目です」
「おおっ! そうか、一回目か! 俺、いろいろな司会者やってっからド忘れしてたぜ」
「あはっ♪ まったく先生ったら♪」
「ハハハハハ!」
朗らかに笑う先生。そして、それを半眼で見る綺羅先輩以外の俺たち全員。
先生がそれに気付いてコホンと咳き込み、真剣な顔になって告げた。
「ではこれより、第一回向島学園生徒会室による機密会議を開催する」
他のメンバーはその言葉に反応して真剣な表情にガラリと変わる。俺もつられて真剣な顔にさせていた。……なんかこの響き、懐かしいような気がする。
「まずメンバーの確認だ。名前を呼ばれたら返事をしろ。そして、管轄部署と合い言葉を言え。……あ。そこのバカは合い言葉、言わんでいいぞ」
「誰がバカですか……」
小さな声で先生に反発する。そして、それを聞いた他のメンバーは苦笑した。
「まず俺からだ。雛形景。一番隊隊長だ。これの司会を務めさせていただく。部署は教務科で合い言葉は『黒』だ。間違っていないか?」
『はい。間違っておりません』
先生の問い掛けに俺を除いた全員が頷く。みんなが言うんだから、そうなんだろう。
「よし。では、次。五番隊隊長、中目無綺羅」
「はい。部署は特殊戦闘科。合い言葉は『鴉』だよん♪」
いつも通りの笑顔で答える綺羅先輩。
「よし、オーケーだ。次、三番隊隊長、京竹龍侍」
「はいよ。部署は暴力団関係専門のA部隊隊長ね。合い言葉は『酒』だよ」
「……あ? もう一回、合い言葉、言ってみろ」
……え? 空気が一瞬止まり、みんなが警戒態勢に入る。唯一、平然としているのは綺羅先輩と当の龍侍さんだけだった。
「……あー、なるほど。俺は本物だって。疑うなよ、京竹隊長? おまえの合い言葉の最初の文字は『お』だろ? しかも漢字一文字だ」
「うん、そうさ。ボクの合い言葉は『女』だよ。これであんたは本物っていう可能性が高まったわけだ」
……なるほどね。あのひと、本当に先生が本物かどうかを確認してたのか。
「ったく、俺どんだけ信頼が薄いんだよ」
溜息をつきながら愚痴をこぼす先生。
「すみませんねぇ。いやなに、あんただけちょっと遅かったからさ。ちょっとイタズラしてみたんだよ」
「まったく、タチの悪い悪戯だぜ。おまえが誰より思慮深いのは知ってるけどよ……まあいい。次。九番隊隊長補佐官、瀬良琴美」
「はい」
ここで、あの青髪の娘が手を挙げた。
「スナイパー……狙撃専門部隊隊長補佐官です。合い言葉は『⑨』です」
『ぶっ!』
先生だけでなく、俺まで反応してしまう。鏡花や歩美、綺羅先輩まで笑いをこらえている。龍侍さんに限っては苦笑していた。なんで全員わかるんだ?
「……コホン、オーケーだ。次。十番隊隊長、十七夜鏡花。あ、おまえは部署言わんでいいぞ」
「はい、わかりました。合い言葉は『氷』です」
「よし。……思ったんだが、おまえらふたり。狙ってるだろう?」
半眼で鏡花と青髪の娘に訊く先生。
「いいえ、とんでもない」
「アタシは九番隊なんですから別にいいじゃないですか」
否定する鏡花と屁理屈を言う青髪少女。
「……ふん。まあいい。次。同じく十番隊新隊員、杉並俊輝。おまえは部署の名前を言えよ」
おっと。俺か。
「はい。隠密機動隊です」
そのことは昨日、鏡花に無理矢理勉強させられて覚えている。
「よし、オーケーだ。次。十二番隊隊長、杉並歩美」
「はい。コンピュータ情報および、ハッキング・クラッキング技術専門のPC部隊です。合い言葉は『影』です」
「オーケーだ。これで以上だな。よし! まずは先日の十番隊隊長十七夜鏡花の過失により、この場にいる杉並俊輝をここに入らせることになった。よろしくな、杉並」
「は、はい。よろしくお願いします」
「うむ。十七夜隊長は謝って、昨日ぐらいに事情を説明したな?」
問い掛けに鏡花は立ち上がり頭を下げる。
「はい。お騒がせしてすみませんでした」
「よし。あ、そうだ。これ持っとけ、杉並。おまえのもんだ」
「ん?」
先生が渡したもの。それはなにかの手帳と――。
「!」
見た瞬間、俺はもうひとつのモノをしまった。なんてもんを手渡すんだこのひとは!
しかし、なんでもないように話し始める先生。
「その手帳はSICの捜査官の証だ。あと、それらは常に携帯していることだ。いいな? じゃあこの件は終わりだ。もうひとつだけ、重要な件がある。ぶっちゃけ、そっちがメインだ」
ひでぇ。俺のことはおまけっていうか、前菜かよ。
「ずっと前から京竹と中目無の報告は受けていたのだが、この学園には夜な夜な誰かが徘徊しているらしいな」
! なんだって……?
「まぁ、でも一向に捕まらなくてなぁ。だから、ついに十七夜を派遣して徘徊させたんだが、捕まえたのは人違い。しかし、そのあとで瀬良と偶然そこにいた別任務の杉並が、相次いでこっから出て行く人影を目撃した。そこでだ……」
一拍置いて、先生が俺たちに告げた。
「今日の夜から、おまえたちにはここの監視をしてもらう。相手は俺たちを全員欺いた凶悪犯だ。一筋縄ではいかないかもしれないが、そこはよろしく頼む。俺はこれから本部に戻って今の状況を全ての隊員たちに告げる。だから一週間ぐらいここには来れない。だから、俺は協力できないがおまえたちだけで協力してくれ」
『はい!』
………………へ?
「よし。よろしく頼んだぞ。以上! 解散だ!」
ひとりでとっとと済ませた先生が生徒会室から出て行った。
俺だけは状況を飲み込めずにポカンと口を開けていた。
「……あー。ちょっと待って、みんな。ひとりだけ状況がわかっていなさそうなやつがいるから」
鏡花! ナイスだ! うん。俺まったくわかんない!
みんな最初は不思議そうな顔をしたが、気付いたように全員俺の方を向いた。
「あー、うん。そうかもね。俊くん、まだこの世界に来て日が浅いし……」
「うん。そうだねぇ。ちゃんと説明しないとダメじゃないか、雛形隊長」
「に、兄さんの目の形が『?』になってる……」
「いや、しょうがないでしょう。まだここに入ったばっかりなんですから」
綺羅先輩、龍侍さん、歩美、瀬良さんの順で頷く。ほんっと、素人でゴメンなさい!
「説明するわ。めちゃめちゃ簡単に」
鏡花が俺にそう言う。マジか! ありがたい。
「わたしたちはね、今日から夜にここで徘徊をしなくちゃいけないのよ」
「めちゃめちゃ簡単に要約した!?」
鏡花の要約に俺は仰天する。そんなに簡単に要約しちゃっていいの!? おかげで理解できたけど。
「なによ。間違ったことなんにも言ってないじゃない」
「そ、そうだが……」
「さ、そんなわけだから行きましょうよ。授業始まっちゃうわ」
そういえば、もうそんな時間だった。
「さ、行きましょうか。琴美さん」
歩美が青髪の娘……瀬良さんに話しかける。
「はい――あっ! ちょっといいですか?」
瀬良さんは俺を見るとタタタッと俺の方に来た。……ん?
「アタシのこと、覚えてる?」
え?……あ。あぁ、はいはい。そうだ思い出した。この娘はたしか……。
「一昨日のスナイパー?」
「あはっ、覚えていてくれた。ありがと!」
ニコッと可愛らしい笑顔を見せてくれる瀬良さん。
俺が鏡花に追いかけられているときに鏡花をサポートしていたスナイパーだ。思えばこの娘がいなかったら俺、撃たれてたよね。鏡花に。絶対。
「どこにいたんだい?」
「向こうに見えるビルがあるでしょ?」
瀬良さんが指さす方向には、たしかに大きなビルがある。でも、こっから七〇〇メートルぐらいあるぞ?
「あそこの屋上から狙撃銃のスコープでね。これでもアタシの視力は四・三あるんだ。だからね、あれぐらいの距離ならなんでも見えると思うよ」
…………えー。
「でも、隊長はね、アタシよりももっと上、視力は六・二もあるんだ。だから、アタシのおよそ一・四倍遠くの距離のモノが見えるんだよ。って言っても、あんまりうちの隊長は動かないんだけどね」
……バケモノ揃いだったんだね。SICって。
「それでさぁ、シュンくん。あのあとね、鏡花隊長から連絡あってですね。さんざん怒鳴り散らされましたよ。アハハハ……」
フランクに話しながら苦笑する瀬良さん。すげぇ複雑なんですけど、俺。てか「シュンくん」って。もう俺のあだ名決めちゃいましたか。鏡花と似てフランクだね。
「でさ。そのとき聞いたんだけど、シュンくん、鏡花隊長に追い掛けっこで勝ったんだってね?」
「……は?」
なんの話だ、それは。
「あれ? おかしいな。鏡花隊長直々電話で言ってたから本当だと思ったんだけど……。いやね、鏡花隊長がさ、追い付けなくて恥かいたって」
「え? そうなのか?」
全然気付かなかったぞ。鏡花がそんなこと言っていたなんて。ってか、鏡花が俺に追い付けなかった? なんかの間違いだろ。あのときちょっと体調不良だったとか。
「フフッ。自分の力量がはっきりしない……か。そういうのも、面白いのかもね」
「ん?」
「フフフッ」
瀬良さんは面白そうに笑うだけでさっぱり意味がわからない俺だった。
「シュンくんシュンくん。これからさ、出来ればアタシをコキ使ってね」
自分に指を向けて俺に言う瀬良さん。俺はどうやら優秀で可愛らしいスナイパーをコキ使えるようになったらしいぞ。やったね。恐ろしながらも頼もしい限りだ。
「もともと、鏡花隊長にしかそれを許さないつもりだったんだけど、シュンくんならいいや。なんか面白そうだし。じゃあね、シュンくん」
軽くウィンクをした瀬良さんは、待っていた歩美のところに戻って教室に向かって行った。
なにか期待の眼差しを俺に向けていた瀬良さん。俺はそんな大した人間じゃないぞ? でも期待にはこたえたいよなぁ。そういえば鏡花言ってたっけ。訓練次第だって。頑張る必要があるな。あと、歩美にも出来るだけ心配させないようにしないとダメだし。
「ほら、行きましょうよ。俊輝」
今までどこに行ってたのか、鏡花が隣にいた。
「うおっ!? いつからいた、そこに」
「? 今来たのよ。あんたと琴美が話をしていたから、わたしも綺羅さんたちとね」
ああ。あのふたりとお話してたのね。
「なに話していたんだ?」
「いやね、今日から徘徊しなくちゃいけないじゃない? どういうようにするかを決めていたのよ」
「ふーん。それで、決まったのか?」
「ううん。まだ。だから、あとでみんなに放課後またここに来るように伝えておくわ」
またここに集まるのかよ。まぁ、どうせ夜にまた集まるからどうでもいいか。
そうして俺たちはこの場をあとにし、放課後まで普段通りに過ごした。
To be continued




