9・魔法検証
本日はニ話、投稿しています。
これからしばらくは、通常一日一話。毎週金曜日に二話投稿予定です。
わたしはずんずん進んでゲイルさんの正面に立った。
「すみませんゲイルさん、少しの時間、付き合ってもらえますか」
変なものを見るような目を続行中のゲイルさんに勢いのまま聞いてみた。
「だいぶ訛りがなくなったな。森で何かあったのか?」
あったといえばあったけど、状況としては多分珍しく無い。
「魔法の検証をしたいので」
「いやいやエリカ、答えになってないが」
あ、ゲイルさんの眉が八の字になってる。
「ええと、ボアと遭遇して、一応撤退できたんですけど、もうちょっとわたし魔法の練習が必要だなって思いまして」
あら、今度はびっくり眉になってる。
「……無事で良かった」
ため息と共に吐き出された声を聞いて申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい、油断しました」まっすぐゲイルさんの目を見て続けた。
「自分の未熟さが嫌になる程わかったので、練習したいんです」
今度は大きくて長いため息を出しながら、仕方がないなと了承してくれた。
「リラは魔石交換したら先に宿へ帰ってて。わたし少し練習してくる」リラに伝えた。
「うんわかった。頑張ってね」
ギルド裏の修練場。
まずもう少し詳しく魔法のことを聞きたい。外に出てすぐ、振り向いてゲイルさんに聞いてみた。
「魔力って使うと減ります?減ったらどうなるんですか。使う時ってどのくらい魔力消費するんでしょう」
体の前で両手を振ってゲイルさんがたじろいだ。
「おい、いっぺんに聞くな。そもそも今まで何も知らなかったのか?」
「育ったところが田舎すぎて神殿もないし魔力使う人もいませんでした」しれっと答えた。我ながら使いやすい言い訳だと思う。
「その割に古代語が読めたり?」
ぴゃっ。突っ込み入った。
「あれは……そう、あれは祖父が持ってた本に」
「ま、そういうことにしとこう。……魔力は最低限5くらいあればそれで体外の魔素を中和させて取り込むのに必要、と言われてる。使えば減るが、減る量は個人差が激しい」
「個人差?」
「たとえば同じ魔法を二人が使ったとして、個人の具体化能力に差が出る。その上、制御が高ければ必要魔力は少なくて済むが、大雑把な使い方なら使用量は増える」
なるほど。それは個人差が大きく出ますね。
「一般に多いのが魔力量5〜20ってのは資料で読んだかな?」
わたしは頷くことで肯定した。
「20くらいまでなら魔石を使った道具に日常的に魔力を少し流すのには不自由はない。が、現象として出力するには足りない。それは生きて活動するというだけでもある程度、常に消費するからだ」
無意識に利用しているということか。なんか体力とか、うーん……気力みたいなものの方が近いのかな。体力である熱エネルギーとは別な補助的な何か。
「魔力値が30越えれば魔法師としても登録可能だ。現に冒険者ではなく王城近くの魔法塔に勤める者もいる。もちろん冒険者としても活動可能だからそこは個人の適性や嗜好によるが」
向こうにある的を見ながら目を眇めてゲイルさんは続けた。
「制御が高く、また出力が最小限の場合、使用魔力1でこのくらい」
ゲイルさんが軽く手を振ると的の中心にボッと火がついた。もう一度手を振ると炎が消える。
「え、ゲイルさん杖無しで!それより魔法使えるんですか?」
「わたしの魔力は低くてね。冒険者に推奨されるのは魔力値25前後から。もちろんそれ以下でも何らかの形で体を鍛えていたり技術があれば可能ではあるが、わたしの場合は書類仕事が向いてたからギルドに勤めたわけだ。だが魔力量23程度でも研鑽すればこのくらいは出来る」
そう言いながら右手の袖を捲って、糸で魔石を編み込んだようなブレスレットを見せてくれた。ああ、これは昔見たことのあるマクラメ編みみたい。紺色の糸でくるりと魔石を包み込んである。つい、その手を取ってまじまじと見てしまう。
「熱・制御・出力・調整?でもこの文字、ちょっとここの線が違う」わたしは無意識に、見えたものを呟いた。「これに刻印されてるから杖無しでいけたんですね」
「エリカ」ゲイルさんの目が光った。ゆっくりとわたしの手から自分の腕を取り戻しつつ低い声で言う。
「これを読めることは人に言わない方がいい」
「え?」
「そもそもこの刻印はあまり解明されていない」
「えええ?でも魔道具?にあちこちで使われてますよね?」
「さっき言った魔法塔、そこで研究されているが、この刻印は遺物から復元されて一部を使用しているにすぎない」
遺物?古代語とか言ってたあれですか?
「魔法と刻印の研究に一生を捧げたいならば申請してやる。そうすれば生活の保証はできる」何かを考えるようにしながらゲイルさんが声を潜めて続けた。
「ただ、魔法塔からは出られなくなる。どうしたい?」
「え、嫌です」反射的に答えた。
生活の安定は魅力的だけど、確かに危険と隣り合わせの生活は不安だけれど。でもこの何もわからない状態のまま何かに縛られるのは嫌だし、わたしそもそも日本に、地球に、元の場所に戻ることをまだ諦めていない。たとえもう父母が居なくても。
「ならば黙っておくことだ」静かにそう締めくくると、ゲイルさんはまた少しわたしから離れて何でもないように話し出した。
「魔法は使えば減る。が、枯渇する前に身体が何らかの反応を示す。そして休息を取ることで回復する」
薄く微笑んでゲイルさんが付け加えた。
「何日も寝ないで動くことは出来ないし空腹のまま何日もは持たない、それと同じだ」
それは確かに。そして自分で気がつくのも当たり前か。
「だから制御力、つまり魔力制御が高ければ無駄を省くのと同時に威力も上げられる。せいぜいこの後自分で練習するんだな」
軽くわたしの肩を叩いて踵を返そうとするゲイルさんに尋ねた。
「技名というか魔法の名前?みたいなの口に出した方がいいんでしょうか?」
今度ははっきり微笑んでゲイルさんは答えてくれた。
「ああ、それは有益だと思うぞ。明確に現象を固定しやすいからな」
後ろ手を振りながら屋内に戻っていくゲイルさんに向かってお礼を言う。
「ありがとうございます!」
どこまでが良くてどこまでが危ないか、少しわかってきた。
きっと魔石の刻印って思ったより重要で、国を挙げて研究するほどなんだ。そしておそらく……刻印文字を読める人は殆ど居ない。ギルド職員の人は使用している魔力測定の魔道具は経験上想像がつく、程度なんだろう。これからは少し用心しなくては。
「まあ、それはそれとして」
改めてわたしは的に向かった。
「ウォータージェット」切り裂け!
的がパン!と斜めに割れた。
「おお!」
なんかちょっとかっこいい。そしてこっちの方が使い勝手がいいはず。このイメージで固定しよう。土木のジェットカッターを気持ち弱くした感じ。コンクリートや金属は切らないくらい、と考えて怖いことを思いついた。
これ、土の刻印魔石を杖に加えたらアブレイシブジェットにならない?研磨剤入りの水流カッター。金属も切断するアレ。
我ながらぞっとした。
もし。やっぱり必要、となったら考えよう。今の、動いているボアの足すら切り付けられないコントロール力だとただの危険物だ。万が一わたしがパニックになって乱発したら人体なんか……。いやいやそんなのは駄目。しばらくこの考えは封印。
ウォータージェットとライトの練習を何回か繰り返し、出力を一定のイメージで固定した後に、ライトの魔法は単に光らせる光源的な「ライト」と、相手を驚かせるための照明的な「スタジアム」で固定する練習。名称は適当。わたしが分かりやすければいいの。あとは生活魔法?的な、ただの水を出すだけの「ウォーター」。これである程度は安定するはず。
どうやら魔力制御自体、意識していなくてもそこそこ高いみたい。魔力使った実感があんまり無いんだよね。多分それはいいこと、だと思う。
ひと通り練習して、気がつくと空が赤くなっていた。
夕焼けかぁ。小学校の校庭でトンボが飛んでいた光景がふっと浮かんだ。
少しだけ痛む胸を抑えてギルドの屋内に戻ると、ギルドの職員が新たな依頼の紙を貼っているのが目についた。
『デルマ砦の村に魔窟発生確認、調査依頼銀貨20枚』




